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日本国内の自主製作ゲーム最大のイベント「デジゲー博2021」(以下、デジゲー博)が、11月14日に開催されました。
ライターとしてこうしたイベントを長年取材していると、けっして点で終わるのではなく、これまでの様々なイベントと線で繋がる面白さがあります。そんな点が線になる感覚の最たるものに、個人ゲームクリエイターがゲームを完成させる過程をリアルタイムで追うことで、その作家性も見えてくることがあるのです。
というのも、個人ゲームクリエイターはデジゲー博だけではなく、様々なイベントに開発中のゲームを出展し、来場者に披露することでフィードバックを受け、またゲーム開発を掘り下げていくプロセスを踏んでいくことが多いわけです。まさしくゲームが完成していく過程を観ることも、またゲームプレイとなるのがこうしたイベントの醍醐味だと言えます。
さて、そんな国内の個人ゲームクリエイターで、作家性の強さをゲームに落とし込んでいるひとりがHZ3 Softwareのyuta氏。電話番号によって異空間が生成されるADV『Strange Telephone』を代表作としています。
今回のデジゲー博では彼の最新作『Memory Of Psycho』が出展。本作は多重人格ADVという、またしても一筋縄では行かないゲームデザインを特徴としているものです。
多重人格者の精神と現実を行き来しながら謎を解く
さて出展された段階の『Memory Of Psycho』は、まだ開発の初期段階であり、基本的には映像の出展のみに留まっています。しかし今回、yuta氏のご厚意により、ほんの少し開発中のビルドをゲームプレイさせていただきました。
本稿ではまだ開発中なのもあり、掲載されている画面写真には以降の紹介では描かれていない要素がいくつかあります。完成系の画面を想像しながら、テキストをお読みいただければ幸いです。
本作のおおまかな内容はこうです。多重人格の主人公が、妹の失踪をきっかけに様々な事件に巻き込まれていくサイコホラーとのこと。主人公は自身の他人格と脳内で対話することができる能力を使い、妹がどこへ消えたのか探しに行くゲームプレイを予定しています。
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今回のビルドでは、主人公の現実世界と精神世界の風景をチェックできました。本作の特徴は2.5Dで構成されたマップです。基本的にはピクセルアートで描かれたビジュアルに見えますが、キャラクターがピクセルアートで描かれており、マップは3Dで構成されております。
マップを90度ずつ回転させることで空間を把握でき、ちょっと古いゲームのファンならば『ゼノギアス』や『グランディア』あたりのフィーリングに似ている、といえば伝わるでしょうか。
まず現実世界はモノクロで象徴的に描かれています。この薄暗さは、妹が消えた衝撃か、または多重人格で分裂した精神ゆえなのか。ぞっとするようなムードの家の中の他、ツタが絡まる階段といったロケーションが描かれていました。
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一方、精神世界ではモノクロから一転して真っ赤な空間が広がっています。ここでは主人公の他の人格と対話していくことが主になるとのことで、ワンボタンで現実世界と切り替えながら先へ進んでいくかたちを想定しているそうです。
『Strange Telephone』の精神を受け継ぐADVへ
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「これは実質『Strange Telephone』のリメイクですね」そうyuta氏は『Memory Of Psycho』について語ります。
「まあこれは全然違うんですけど(笑)、僕の作るタイトルは大きいタイトルも小さいタイトルも、基本的には世界観が同一線上にある感じなんです」yuta氏に本作についてのお話や、これまでの作品についてうかがうと、彼自身の作家性が見えてくるような言葉を紡いでくれました。
「いま『Strange Telephone』を作るならどう作るか? という考えが奥底にはあります」yuta氏に『Memory Of Psycho』の開発についてうかがうと、今回のかたちに入るまでにいくつか変遷があったとのことです。
これまでのピクセルアートではなく3Dでの表現も試されたとのことですが、「パッと見の見た目がどうしても納得できなくて、いろいろ研究した結果、いまの2.5Dの表現に行きつきました」といいます。
いずれにせよ『Strange Telephone』で見せた、一見かわいらしいピクセルアートに見えながら、不条理かつ陰鬱な空気感をプレイヤーに突きさす気配は『Memory Of Psycho』に強く引き継がれているのは確かです。
そこへADVというフォーマットにいくつかの実験的なゲームデザインを施すスタンスも加わることで、yuta氏の作家性は形作られているのではないでしょうか。今回のデジゲー博にて、そんな彼の作家性がどのように続いていくかを観ることができたと思います。今後の『Memory Of Psycho』の開発状況については、現在のところyuta氏のTwitterをフォローすることで追いかけていけるでしょう。