1月21日に行われた「ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンス」。本記事では同カンファレンス内で行われた松田真氏の発表「国内ゲームアーカイブと、合法的に取れそうな手筋」(松田特許事務所)をピックアップしてお届けします。
該当の発表は孤児著作物、「著作権者不明等の場合の裁定制度」にまつわる内容を紹介したものです。簡単に言うなら、ゲーム会社が倒産などの憂き目にあい「復刻したいけど、誰に許可を取ったらいいかわからない」という状況を解決しやすくなる法整備について専門家である松田氏が述べたものです。
これら、ゲーマーにとっても過去作の復刻やリメイクなどで重要となる本裁定に関して、カンファレンス終了後に編集部から追加質問をしたところ、丁寧なご回答を頂けました。そこで「ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンス」レポ記事とは別個に「著作権者不明等の場合の裁定制度」、そして1月18日にパブリックコメントが終了した「新たな権利処理方策」など、直近で我々ゲーマーに影響を及ぼすかもしれないその内容を解説します。
改めまして、カンファレンス後の追加質問に快く答えてくださった「ゲームアーカイブ推進連絡協議会」の方々、および松田真さまへこの場を借りて御礼申し上げます。
孤児著作物を復刻するため「裁定制度 著67条」活用事例が増加中!
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まず、同発表では「裁定制度 著67条」についての解説・直近事例の紹介が行われました。
「裁定制度 著67条(裁定制度)」とは、「権利者が不明な著作物について、供託金を先に払って、使えるようにする制度」です。
裁定の判例としては、株式会社ショウエイシステムが著作権を持つ『北斗の拳』『北斗の拳3 新世紀創造 凄拳列伝』などで使用されました。また、レトロゲームの復刻を多く手掛けるエムツーなどでは『国内ファミリーコンピュータ版 究極タイガー』などで活用されています。
しかし本裁定は権利者を探すために“相当な努力”が必要。この相当な努力とは、権利者を探すために広告を掲載することなどを指し、弁護士などとのやりとりも必要となることがあります。
ですが本裁定を利用しての復刻・配信などは増えてきているようで、こちらでもかつての名作が復活するということは期待できるでしょう。裁定実績は、「裁定データベース」にて検索が可能です。
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1月18日にパブリックコメントが終了した新制度「新たな権利処理方策」
松田氏は続いて2023年1月18日にパブリックコメントが終了したばかりの新制度「新たな権利処理方策」を紹介しました。こちらは「裁定制度 著67条(裁定制度)」の手続きを楽にするものです。
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旧制度と並行して運用される可能性が高いこの新制度は、利用期間に上限が設けられますが、旧制度で必要だった文化審議会を通さず、機械的に使用料を算出します。さらに「分野横断権利情報データベース」の使用や窓口組織の存在で、孤児著作物を使用することが手続きとして容易となります。
しかし、新制度には同時にゲームならではの懸念点も存在します。
この制度を用いる条件は複数あり、たとえば「集中管理されている著作物であるか」「権利者と連絡がつかないか」などの条件をクリアして初めて使用可能となるのですが、松田氏はその中のひとつである“利用の可否や条件等が明示されている著作物か?”という条件にゲームが適合し難いと語ります。
その理由は、パッケージの裏に書かれている「無断複製禁止」という文字です。著作権者が不明で連絡がつかないとあっても、条件が明示されていることになります。
ただし、前述の通りにパブリックコメントは終了しているものの、「今後の検討課題」として注視する価値は十二分にある様子。ぜひ、ゲームにとって良い方向に展開してほしいものです。
新制度は「リメイク作品」にも影響がある?
ゲーマーとしては、今後、新制度によって復刻/リメイク作品にどのような影響が想定されるのでしょうか。そこで冒頭に書きました通り、松田氏に追加質問を送付。
「著作権者不明者の著作物をより容易に使えるようになることで、単純な復刻やアーカイブだけでなく、リメイクなどの形態の利用にも影響は発生するのでしょうか?」との質問に対する答えを以下に掲載します。
リメイクで「裁定」を利用する場合の「手続の速さ」に影響があり得るのではないか、と考えます。
まず最初に、復刻とリメイクの境はだいたいどのあたりにあるか、というのがあります。
一般的なリメイクのイメージとしては、「FINAL FANTASY VII REMAKE」などのように、全く新しいグラフィックで、誰が見ても別物と認識するような態様のものではないかと推測します。
ここで、「個人的には」ではありますが、原作を忠実に再現しようとするリメイク、というのもあり得るのではないか、と思っています。
先日、ダライアスコズミックコレクションをSteamで購入し、学生時代にゲームセンターでプレイしていた「ダライアス外伝」を自宅でプレイしています。
Steam版は、昔の「ダライアス外伝」の挙動を忠実再現しつつ、追加されている機能もたくさんありまして、自機のパワーアップ状態、NEXT ZONEの予告、ZONEごとのボスの残りHPなども表示されるようになっていました。
つまり、Steam版のダライアス外伝は、「愛のある復刻」であるというだけでなく、実行環境が昔とは異なるので新しい実行環境に対応して作り込みつつ、令和のプレイヤーに寄り添って機能を追加した「リメイク版」である、とも解釈できる可能性があります。
ここまでですと単なるゲーム好きになってしまいますので、著作権の観点からですと、複製の他に翻案という概念があります。「複製」は著作物をそのままの形で利用することですが、「翻案」は、すこし丸めて表現しますと、もとの著作物を用いて新たな著作物を「創作」することです。この翻案の際の創意工夫に翻案者の愛が滲みまして、伝わる方には伝わったりします(ありがたいことです)。
そして、新たな創意工夫を載せて「リメイク」する際に、原作で用いられていたアセットを素材として利用するということがあると思います。
以上を踏まえまして。
まず新制度である「簡素で一元的な権利処理方策」については、利用期間の上限を設ける方向で進んでいますので、利用期間が終了したらゲームを回収するのか?
クラウド形式での提供ならばサーバから落とすのか?
という疑問が出てきます。そのため、新制度では「上限のある利用期間」を具体的にどの程度の長さに設定するのか、という論点もまだ残っています。
実際には、利用期間に上限があるのであれば、新制度を活用した復刻・リメイクはちょっと行いづらいのではないかと思います。そして、ゲームの復刻・リメイクでは、新制度ではなく、従前からの「裁定制度」の方を活用することになるのではないかと思います。
この点、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第8回)の資料2である報告書(案)には『時限的でない利用を可能とする仕組みについては、新制度とは別に、著作権者不明等の場合の裁定制度(以下「裁定制度」という。)を活用した方策とする』と記載されております。
そして、今回の新制度は、実は裁定にも影響を及ぼす可能性があります。
それは、(i)「窓口組織」が関与すること、(ii)分野横断権利情報データベースを活用することによります。
報告書案には「併せて、裁定制度については窓口組織を活用した手続の迅速化・簡素化を図る」とありますので、裁定についても手続が速くなる可能性があります。
また、分野横断権利情報データベースを用いて権利者情報を横断的に検索できるようになれば、(裁定でも分野横断権利情報データベースを活用するのであれば)裁定においても権利者の特定作業がスムーズになるわけですから、こちらも手続が速くなる可能性があります。
新制度を利用しての復刻・リメイクの販売には難点として「利用期間の上限」があるとされます。利用期間の上限については今後決定される形ですが、利用期間終了後の処理がネックとなるようです。また、『時限的でない利用を可能とする仕組みについては、新制度とは別に、著作権者不明等の場合の裁定制度(以下「裁定制度」という。)を活用した方策とする』という記載からも、ゲームの復刻やリメイクなどには従来の裁定制度が利用され続けることが読み取れます。
ただ、松田氏はそれでも新制度の誕生は、良い影響を及ぼすと続けています。それは報告書に記載されている「併せて、裁定制度については窓口組織を活用した手続の迅速化・簡素化を図る」という文言。そして新制度で活用されるデータベースの存在が、手続きの迅速化を促すであろうということ。
復刻/リメイク作品などにおいて新制度そのものを利用することは難しいですが、その恩恵にあやかり復刻/リメイク作品の販売が加速する可能性が示唆されたのは、ゲームカルチャーにとって朗報でしょう。
また、松田氏は図書館における保存資料は書籍のみではないという点に注視して、図書館法も分析し、ゲームを図書館資料とできないかと模索しています。これが叶うなら「アーカイブのための複製」として文化資源の保存が進む可能性があるようです。
これからのゲームの未来に関わる新制度。これからも1ゲーマーとして注視していく必要がありそうです。