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アクションゲーム『LA-MULANA』を開発したNIGORO(株式会社アスタリズムのコンピューター製作事業部)の楢村匠氏にお話を伺いました。
――真っ先にインタビューしたかったのですが、大盛況でまったくブースに近づけませんでした。
僕らも出られませんでした(笑)
――多くのメディアのお目当てデベロッパーになりました。
丁度私達がGreenlightを通過し、それで日本で宣伝するよりは海外で宣伝するしかない、でも費用がない。そんなときにビットサミットであったり、GDCに講演に呼ばれてPLAYISMさんと一緒に渡米したりとか、機会を得られたので非常にラッキーでした。
――では、今回ビットサミットに参加された経緯というのは?
以前Q-GamesさんにSteamで出すにはどうしたらいいのだろうと聞きに行ったことがあったというのもあります。また、Greenlightに通ってから声をかけてくれる方も増えました。
――Greenlightの中でも、勝算があるように思えましたが?
でも8月にGreenlightが始まった時から、ランキングの上位にはいませんでした。いつ通るか分からないや、といた状況だったのにあるときふっと上位に上がりました。いまいち基準がわかりませんでした。Greenlightが始まる前からSteamで出すにはどうしたらいいかメールで問い合わせたりしていたのですが、なかなか対応してもらえず、Greenlightでやってくれと言われてしまいました。
――最近Greenlightを通過した作品で、多くのトレイラーを発表するなどユーザーへのアピールをしていたものがありました。『ラ・ムラーナ』の場合、そういったことはしませんでしたか?
今まで『ラ・ムラーナ』やNIGOROを応援していてくれたファンが自主的にSteamのコミュニティを応援してくれました。私達はコミュニティをリードするほど英語力がないのでそこはPLAYISMさんのサポートが大きかったです。あと、PLAYISMアメリカのほうでもFacebookやTwitterでどんどん推してくれたのも多大な効果がありました。
――『ラ・ムラーナ』が出たのは自然な流れだと個人的な印象がありましたが、意外に草の根的な活動で爆発した?
やはり3Dではないことや、私達が思うゲームを説明するのは難しいことなどが不利です。古いゲームだ、難しいゲームだとも認識され敬遠されかねません。キャッチーで一気に広まるという感じではありませんでした。
――今回の基調講演などの印象はいかがでしたか?
2Dゲームといっても、3Dで作っているのがほとんどです。だからUnreal EngineにしてもUnityにしても上手く使えば私たちの開発の足しになると思います。拘ったものを長く作るにあたり、ミドルウェアを使っての開発効率化を実感する部分はあります。しかし、その資金がない。元手がありません。たとえば画像圧縮のCRIさんとか、フォントとかも同様です。その辺で手を抜けば手を抜けますが、こだわるとどうしてもお金がかかります。Steamで売ると何万本売れたとか数字を聞きますが、ほかでは万を超えることはありません。そしてSteamで売れないと初期資金が獲得できない。さらに、日本国内からはKickstarterを利用できない、と厳しい状況です。
――日本でもクラウドファウンディングはあるにはありますが、それを利用するというのは?
Greenlight通過したのもそうですが、日本よりも海外での注目度の方が高いです。ですから、日本でメジャーになりたいという気持ちもありますが、クラウドファウンディングでは海外の方に芽があると思います。だから例えばPLAYISMアメリカ法人に乗っかってKickstarterを使えるかもしれないし、模索もしています。ですが、まだまだ壁はあります。
――ところで個人的な嗜好で失礼しますが、『薔薇と椿』が大好きです。あれはどういう発想で生まれたのですか?
元々アマチュアで古いスタイルのゲームを創っていました。趣味でこれだけ情熱を出せるなら仕事にしたほうがいいのではないか、とフラッシュゲームに着手しました。NIGOROの名前を海外に広げる意味もありました。一作目のDeath Villageはレトロゲームの感覚で創っていました。私はゲームは説明書を読んで準備してからプレイするタイプなのですが、フラッシュゲームのプレイヤーはそうではありません。さっと遊んでわからないと終わりです。それが一作目の時の反省点でした。そこで、本当に「見せて動かしたら分かる」というものを創る必要性が出てきました。当時、DSやWiiが出てきていたころ。この動き(タッチパネルのスワイプやリモコンのモーションなど)を単純なゲームにできないかと考えたのです。
――それで出てきたのがアレと。
※未プレイの方はともかく『薔薇と椿』をプレイしてみてください
私自身子供の頃から変なところに注目して頭から消えないタイプでした。アニメでもドラマでも漫画でも、女同士が喧嘩する時一発ずつビンタしあうじゃないですか。なんで胸ぐら掴んで取っ組み合わないのかと。一発しばいて、一発待って、と。何かルールがあるのか?というあの不思議な感覚、どこから出てきたのか知りませんが様式美のようなものからインスピレーションを得ました。あれなら一対一で、変な世界が創れるだろうなと結びつけました。
――あの方向性で『3』を創る予定は?
ネタだけはあるのですが創る機会がありません。
――やはり他にリソースを割かれている?
WiiやiOSでリリースしてくれという話は来ますし、やってみたいとも思うのですが、それをやるにも、プログラマーが全員Windowsユーザーなのです。だからまずMacやiOS準備しなければなりません。新しい言語を覚える必要もあります。その期間、どうしても開発が止まってしまします。ですので、知り合いにiOS得意でお願いできるような方がいれば、移植を考えてみてもいいかもしれません。もしそういう展開があれば、『3』とかキャラを増やすとかもやってみたいと思います。
――ところで開発は何人体勢ですか?
3人です。今、仲村が社長業と広報を担当しています。3人といっても明確に分かれているわけではなく、私以外の2人がプログラマーで、うち1人が音楽と効果音もやり、私はプランナー・グラフィック・音楽・スクリプターとか広報とかホームページとかPVとか、できることは何でもやっています。もともとがデザイナーですから使えるものはすべて使っています。プログラマーや広報もサーバー屋だったりしています。
――では、この『ラ・ムラーナ』はグラフィックもサウンドも外注せず、たった3人で創りあげられたと。なるほどGreenlightを通過するわけです。
(笑) 情熱が評価されるのならそれはそうかもしれません。
――海外こそ反応しそうです。
それは思います。「お前らすごいじゃないか!」と喜ぶ人が多いです。James Mielke氏もそうですし、PLAYISM代表のIbai Ameztoy氏もそう。TGSとか海外でも「日本のインディーズに注目してるんだよ!」と言ってくれるのは海外の方です。純粋に日本のゲームに憧れていたから今度は俺が広めたい、みたいな情熱を持った人がいます。
――次回ビットサミットが開催されたら参加されますか?
もっと積極的に参加します。前に映像を出せ!とか(笑) もっと食いつきます。楽しいですし。今回こんなに人が来るとは思っていませんでしたし、今後会場も広くなると思います。まだWiiで出していた時とかはなんとかTGSでブースを出せないかな、みたいなレベルだったんですが、それならここに出して聞いてくれる人に応えたほうがいいです。
――ブースの面積、これの4倍あっても足りなかったかも知れませんね。
そうですね。他の作家さんの作品も見たかったのですが、外に出られませんでした(笑) 日本だとインディーズゲームを名乗っている人と、フラッシュゲーム専門と、iOS、コミケ勢を分けて考えています。海外ではそれはまとめて考えます。それが不思議な感覚です。『TOKYO JUNGLE』の方とか飯田和敏氏の話を聞いたりしていると凄く刺激になります。いつも外に出ない生活なので、こういう機会がないと人に会わないのです(笑)
――次回作の構想は?
ここにあります(上掲写真のポップ)。いつになるかまだわからないのですが、弾幕ではない地形型の横スクロールシューティングです。ファンタジーゾーンであったりR-TYPEであったり、あのあたりです。
――何故このジャンルを選ばれたのですか?
『ラ・ムラーナ』を創って、PLAYISMの協力を仰ぎ海外でリリースできることで、今後安心してゲーム製作できるようになりました。しかしこれを出して次が1年後2年後だとPLAYISMさんに申し訳ありません。その点、シューティングはスピーディーに製作できます。本当では去年のうちにアルファ版を出すつもりだったのですが、『ラ・ムラーナ』がGreenlightを通ってしまったのでそちらに忙殺されてしまいました。プログラマーに時間を見つけて地味に進めてもらっているので、騒ぎが収まったころに本腰を入れます。
――横スクロールシューティングとして本作の特色は?
弾幕シューティング一辺倒でないことを目指している人がいたので危機感を持っているのですが、シューティングというのは謎解きゲームと比べて一面は短く、一回クリアしたらお腹いっぱい、みたいなゲームが多いです。そこで何回でも繰り返してプレイできるゲームを目指します。しかし、アイテム収集要素だとか成長要素だとかではなく、遊ぶたびにちょっと違う刺激や変化がステージごとにあったりとかです。詳細は創りながら詰めていきます。
――成長や収集、スコアアタックに依存しないリプレイ性と。
パターン構築という面白さもシューティングにはあると思いますが、慣れてくるとそこを裏切って欲しいというニーズもあると思います。繰り返しプレイすることで敵が強くなったりとか、ルートが変わったりなどというのを考えています。
――リリース予定に2013年とありますが、具体的には?
わからないです(笑) 以前失敗したことの1つとして、アナウンスからリリースまですごく時間がかかったことがあります。その間に冷めてしまったりとか、発表した時にメディアから取材を受けたりしたのに、出るまでに何年もかかってしまいました。だから、これはアルファバージョンの段階から遊べるよう出してみるなど、動き始めたらちょっとずつ情報を出していくと思います。だから、2013年度中にはアルファ版を出して、さらに皆の意見のフィードバックを受けて改善したりとかもしたいと思います。作り始めて公式サイトがだんまりになって2年間リリースもなく、「お前ら生きているのか」みたいになりがちです。ゲームが出ていなくても、製作過程をアナウンスしコンテンツとして発信すれば、2年間音沙汰なしという状況も避けられると思います。
――お話を伺うとGreenlightと非常に相性がよさそうです。
その通りです。ユーザーを飽きさせない。コミュニティに依存し、一緒になって遊んでいるという感覚です。4月1日に嘘PV映像を出すというのもよくやってます。待たせてるくせにウソだらけというひどい話です(笑)
――でも少しは本当なんですよね?
そう、半分本当です。だから、ユーザーの「クソ、騙された!」みたいな反応を見るとこちらもニヤニヤします。一緒になって楽しんでいる感じです。あと、アメリカで『ラ・ムラーナ』が元で結婚した人達がいます。実況プレイヤーと熱心なファンが出会って結婚、というものです。
――本日はありがとうございました。
NIGOROは最もホットな国内のインディーデベロッパーの1つ。『ラ・ムラーナ』の反省点を踏まえ、フットワークを改善しようとしている点など、将来を見据えたビジョンがはっきりしているのに意志を感じました。また、『薔薇と椿』についてインタビューできたのも、ニッチかもしれませんが有意義だったと確信しています。
※誤字を修正しました。ツイートでのご指摘ありがとうございます。