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2009年に開設され、多くのアーティスト、クリエイターの資金調達の場となっている“Kickstarter”。Game*Sparkでもゲーム開発に対する支援はもちろん、ゲームハードや周辺機器、映像作品や出版物などゲームカルチャーにまつわる様々なキャンペーンを紹介してきました。今回の記事では、その中からゲーム開発以外で2013年に注目を浴びたキャンペーンのその後を追跡紹介したいと思います。
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ハード、周辺機器編
GameStick
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獲得資金:647,658ドル/目標金額:100,000ドル
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
昨年の“Ouya”の大成功を受け、100ドルを切る安価なAndroidベースの小型ゲームハードとしてキャンペーン開始初日で10万ドルのゴールを達成したGameStick。当初今年春頃の発売を予定していましたが、発売延期を繰り返し、ようやく11月に発売にこぎつけました。Ouya同様ユーザーからは厳しい評価を受けていますが、家庭用ゲーム機の第三極のいちハードとして今後の動向が気になるハードです。
Omni
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獲得資金:1,109,351ドル/目標金額:150,000ドル
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
全方向ルームランナー型VRデバイス“Omni”はキャンペーン開始前より話題となっており、キャンペーン開始数時間でゴールをあっさり達成。最終的には約7倍1,109,351ドルもの資金を獲得しました。開発は順調に進み、プロトタイプはすでに出荷済。8月からはプレオーダも受け付けており価格は499ドルとなっています。Oculus Riftと併用した際に起こるVR体験は、ゲームをさらなるステージに連れて行ってくれるとひしひと感じます。
DELTA SIX
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獲得資金:198,185ドル/目標金額:100,000ドル
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
美術教師のキャリアを捨て、好きなゲーム特にFPSに適したコントローラーを設計し販売しようと個人が立ち上げた“DELTA SIX”のプロジェクト。2度目のチャレンジとなった今回のプロジェクトでは無事ゴールを達成し、12月に出荷を予定していたものの2014年3月に延期すると先日発表しました。PS4、Xbox Oneに対応させるソフトウエアの開発などで遅れが生じている模様です。
ゲーム制作ツール
Pixel Press
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獲得資金:108,950ドル/目標金額:100,000ドル
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
専用の用紙にアナログ的に描いたゲームステージをiOS、Android対応の専用アプリでスキャンすると、実際のビデオゲームになる。そんな夢の様なゲーム制作ツール“Pixel Press”。キャンペーンは成功しアプリリリースに向け現在も開発を進めています。子供向けに“Pixel Press”のデモを行ったところ、大人と違い、フリーハンドで描く線を想定していたよりうまく認識しなかったりと、開発の苦労などをKickstarterのキャンペーンページで綴っています。現在の予定では2014年の1Qにリリース予定となっています。
映像
実写映画版『POSTAL 2』
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獲得資金:29,977ドル/目標金額:500,000ドル
プロジェクト作成者によるキャンセル|キャンペーンページ
2007年に公開した実写映画版『POSTAL』の実績!? をひっさげて、映画監督ウーヴェ・ボル氏がKickstarterキャンペーンにやってきた! 結果はキャンペーン作成者側のキャンセルで打ち切りとなりました。約1ヶ月の間に378の物好…もとい、熱心な『POSTAL』ファンのバッカーより22,977ドルを集めたこのキャンペーン。最後のアップデートで“他のクラウドファンディングサイトでこのプロジェクトを再起動する”とコメントを残し終了しています。
実写ファンメイド映画『メトロイド』
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獲得資金:20,666ドル/目標金額:90,000ドル
著作権侵害に当たるキャンペーンとしてキャンセル|キャンペーンページ
任天堂の人気シリーズ『メトロイド』がハリウッドクオリティのファンメイドムービーとして制作されると話題になったこのキャンペーン。ここまで本格的に資金を調達して制作されると、やはり権利者も黙って見過ごす訳にはいかないというパターンでした。キャンペーン開始より2週間で2万ドルの資金を集めただけに、海外での『メトロイド』人気が再認識された事例でした。
グッズ
アクリル製『スペースインベーダー』型チェスセット
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獲得資金:11,892ドル/目標金額:5,000ドル
著作権侵害に当たるとしてキャンペーン削除|キャンペーンページ
アクリル板をレーザーカットの切削工具で『スペースインベーダー』に登場するインベーダーの形に成形し、チェスのセットを作るキャンペーン。イベンダーとアクリル板の相性もよく好評を博したキャンペーンとなりましたが、著作権者より著作権の侵害を言い渡されキャンペーン削除となりました。このキャンペーンを制作したNMI Laserは、アクリル製のチェスセット制作のキャンペーンを立ち上げますが資金調達には失敗しています。
出版関連
英国人ライターが制作する、日本のゲーム開発関係者のインタビュー本
“The Untold History of Japanese Game Developers”
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獲得資金:70,092ポンド/目標金額:50,000ポンド
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
日本のゲーム開発者のインタビューで構成された書籍を作るため、米英のゲーム雑誌やWEBメディアに寄稿するイギリス人ライターのJohn Szczepaniak氏が立ち上げたキャンペーン。キャンペーンは成功し、9月には来日、開発者へのインタビューなどを精力的にこなす報告がなされています。来日して手配していた通訳・現地コーディネイターとトラブルを抱えるなど、一筋縄では行かない苦労もある模様ですが、インタビュー記事やDVD映像の制作は順調に進んでいる模様です。
レトロアーケードゲームのアートワークをまとめた書籍
“ARTCADE - The Book of Classic Arcade Game Art”
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獲得資金:22,055ポンド/目標金額:10,000ポンド
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
80~90年代にリリースされたアーケードゲームの筐体をデコレーションしていたアートワークを1冊の本にまとめる“ARTCADE - The Book of Classic Arcade Game Art”のキャンペーン。今年のクリスマスまでには発行する予定でしたが、権利者と名乗る人との交渉などに時間を要し、発行が遅れている模様です。明確な発売日については明言していませんが、バッカーからは「我々は30年間待ってきたから、今さら数週間待たされても大丈夫」など制作者を気づかうコメントが寄せられています。
“SEGA Mega Drive/Genesis: Collected Works [ セガ メガド ライブ/ジェネシス:作品集成 ] ”
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獲得資金:98,725ポンド/目標金額:30,000ポンド
資金調達成功|キャンペーンページ/公式サイト
セガのライセンス許諾を受け、制作される“SEGA Mega Drive/Genesis: Collected Works [ セガ メガド ライブ/ジェネシス:作品集成 ] ”のキャンペーンは想定した約3倍の資金98,725ポンドを獲得してゴール。20名以上のセガ関係者のインタビューや、当時の開発資料が掲載されるという内容の濃さに世界中のセガファンが共鳴したかたちとなりました。編集作業は順調に進んでおり、2014年6月に発売、公式サイトではプレオーダーも受け付けています。
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以上、2013年に開始されたゲームカルチャー関連のキャンペーンその後を紹介しました。この手のジャンルで、記憶にあたらしいのは『ロックマン』のボードゲーム化キャンペーンがあります。こちらも鳴り物入りで登場し、すでに24万ドルの資金を獲得、来年1月19日の資金提供終了日まで最大ストレッチゴールの335,000ドルまで届くかが注目されます。
今回紹介したキャンペーンで成功しなかったキャンペーンは、権利関係が不透明なまま進んでしまったパターンも多く見られ、キャンペーン製作者には、権利関係をクリアにしてキャンペーンをスタートさせるという基本的な手順を踏んで欲しいとユーザー目線で感じました。資金獲得に成功したキャンペーンのその後は、多くのキャンペーンで成果物が当初の予定より延期されており、資金を潤沢に得た後もスケジュール管理や制作の苦労は尽きないという問題も抱えています。
Kickstarterでは、ゲーム開発への支援額も年々増加し、2009年からの累計で2億ドルを超え、そのうちの1億ドルは今年に集められた金額となっています。ゲーム作りやその周辺のカルチャーに対してユーザーより資金を調達する行為がより日常化した2013年。2012年の“Ouya”、2013年の“Omni”とゲーム関連でも今までになかった創造物を世に出すきっかけとなっているKickstarter。2014年はどんなゲーム関連のキャンペーンが生まれるのか、ゲーム好きにとって今後も楽しみなWEBサービスのひとつです。