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小清水史氏(左) Baiyon氏(右)
京都インディーゲーム祭典BitSummit 2015にあわせて、ピグミースタジオより発表されたPS4/PS Vita向け新作『MUSE: Together Is the New Alone』。Q-Gamesの『PixelJunk Eden』などでアート/サウンドディレクターをつとめた日本人クリエイターBaiyon氏が、はじめてゲームディレクションに挑戦するユニークな作品として、国内外のゲームファンから関心が寄せられています。
Game*Sparkとインサイドでは、Baiyon氏ならびにピグミースタジオのプロデューサーである小清水史氏にインタビューを行い、本作にかける想いやコンセプトを語ってもらいました。
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――それではまず簡単に、お二人の自己紹介をお願いできますか。
Baiyon: 日本人ですが、Baiyonという名前でやらせてもらっています。もともとはDJや音楽をずってやっていて、並行してビジュアル、ファッション、漫画なども手がけていました。その中で、次第に作品がマルチメディア化していき、音楽を作るときもビジュアルを作るときも常にインスピレーションとしてゲームがあったので、自然とゲーム開発にたどりついた感じです。
最初に手がけたのは、7年前の『PixelJunk Eden』で、アートとサウンドディレクションを担当しました。それが良い具合に皆さんに気に入ってもらえたので、そこから色々なゲームに関わるようになり、特に北米のインディーゲーム仲間とコラボレーションしながら仕事をしています。
他に関わったタイトルとしては、PlayStation Move専用の『PixelJunk 4am』アート/サウンドディレクション、『LittleBigPlanet 2』のいくつかの音楽やゲーム内の楽器も私が手がけました。『LBP2』の仕事は、Media Molecule共同創設者のAlex Evansと知り合いだったので、たまたま意気投合して、スタジオがあるギルフォードに2週間ほど滞在しツールを覚え、日本に帰ってやりとりを行い完成しました。
小清水: 私は、10年以上前にソニー・コンピュータエンタテインメントが実施していた、ユニークで新しい感覚のゲームソフトを生み出すことを目指したクリエイターオーディション、ゲームやろうぜの構想に共感し、1stチームよりゲーム制作に携わるようになりました。今でいうインディーの走りみたいなものですね。その後ピグミースタジオという会社を立ち上げて、『ユーフロリア』、『僕は森世界の神になる』、『野犬のロデム』といった作品をプロデュースしています。今回のBitSummitでも『ボコスカウォーズ2』と『MUSE: Together Is the New Alone』を発表しました。
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――では今回発表した『MUSE: Together Is the New Alone』について。開発体制は、Baiyonさんおひとりなのでしょうか?
Baiyon: ディレクションに関してはそうです。アートやサウンドディレクションのみだった過去の作品と違って、ゲームディレクションまですべて担当しています。ただし、ひとりでは全部できないので、プログラマーやデザイナー部分はピグミーさんと協力して開発を進めています。
――BitSummitにあわせてゲームが発表されて、SNSなどでユーザーの反響を見ていると、『MOTHER』や『ゆめにっき』に似ているといった声もありますが、あらためてBaiyonさんからゲーム内容やコンセプトを教えていただけますか。
Baiyon: 自分が30歳を越えたあたりから、恋愛や愛をテーマにしたものを作りたいと考えていました。今までは『PixelJunk Eden』のように要素を削ったミニマルな作品が多かったのですが、今回はわりと素直にそのままを出していくというイメージです。
――『MUSE』では“片想い”や“心象風景”をテーマにされているということですが。
Baiyon: 女の子がベッドに寝ている本作のキービジュアルがありますよね。あの子は寝たきりで目を覚まさないという設定で、ある日、主人公の少年が彼女が残したノートと絵を見つけるんです。その中に、彼女が見たかった風景がたくさん残されていて、少年は女の子がいつか目を覚ますと信じて、自分が代わりにそこへ行くというのがストーリー設定です。
“片想い”というのは確かにキーワードですが、少年が女の子を好きかというのは僕にとってはそこまで重要ではありません。人それぞれ物でも何でもいいので漠然と何かに片想いしていると思うんです。それが人生全体という人もいるでしょうし、あきらめがつかないとか、今よりもっと何かいいことがあるかもしれないとか、誰でも日々悩むじゃないですか。それが僕にとってはすべて“片想い”なんです。そういう自分の経験を、サイケデリックな世界観で面白いゾーンにユーザーを持って行けないかなという狙いがあります。
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――『MUSE: Together Is the New Alone』というタイトル名にはどんな意味がこめられていますか。
Baiyon: “Muse(ミューズ)”は、智を与えてくれる女神という意味で、“Together Is the New Alone”は直訳すると、「一緒にいることは新しい孤独の始まり」です。これはゲーム中の寝たきりの少女との関係に捉えることもできますが、実は誰にでも現実に起こりえることなんです。人と一緒にいるからこそ孤独を感じたり、恋愛でも一緒にいるほうが辛くなることもありますよね。そういう繊細な部分を、ファニーな形で表現したいという思いがあります。
――『MUSE: Together Is the New Alone』のゲームジャンルは、RPGではなく、アドベンチャーゲームという認識で良いでしょうか。
Baiyon: はい、テキストベースで進行するアドベンチャーゲームです。僕は脚本を担当するのは初めてですので、色々考えながらやっているところです。ゲームビジュアルを見て日本のユーザーさんが「こんなのかな」と想像するものを、僕がそのまま出せるかはちょっとわかりません。人それぞれ理想はあると思うので。基本的には、恋愛や片想いが描かれる一方で、一歩外にでるとサイケデリックなぶっ飛んだ世界が広がっているという、二面性を楽しんでほしいです。キャラクターの会話もシリアスに聞こえるけど、やっぱり変なことを言ってるというイメージです。
小清水: まだこれから作るところなので詳しくは話せませんが、本作には変なキャラクターがたくさん出てきて、Baiyonさんには怒られるかもしれませんけど、フェチズムなんですよ。彼自身が見たものや面白かったものが詰め込まれていて、言葉や話の中にも出てくると思うんです。『PixelJunk 4am』のように、既存の型に当てはまらない、サウンドクリエイターならではのインスピレーションをゲームにどう持ち込んでくれるのか楽しみですね。Baiyonさんならではの不思議なアドベンチャーゲームになるんじゃないでしょうか。
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――なるほど。だんだんイメージが沸いてきました。ところで、ゲームの価格やボリュームはどれくらいになるのでしょうか。
Baiyon: 長時間遊べるようなゲームではなく、わりとコンパクトにまとまると思います。私の知人もいるthatgamecompanyの『風ノ旅ビト』は、数時間でゲームをクリアできても、「あの砂漠の夕焼けをまた見たいな」って素直に感じてもう一度遊べるんです。リプレイバリューという言葉がありますが、例えばお使いクエストを詰め込んだりして単にボリュームを増やすのではなく、内容はきゅっと絞って、純粋に「いいな」と感じてもらえるのが理想だと思っています。良い映画を観たあとって、映画館を出たあともしばらく余韻が残るじゃないですか。それと同じです。
――最後に、本作に期待しているユーザーや、インディーゲームのファンにメッセージをお願いします。
Baiyon: すべてのユーザーさんの期待に応えられるかわかりませんが、音楽制作と同じで、とにかく自分がプレイしたいゲームを自分で作りたいので、あたたかく見守ってほしいなと思います。ゲーム業界の市場が欧米メインになりつつある中、日本人として原点に立ち戻って海外のマーケットにもぶつけていくというのは勇気がいります。そういう意味でもあたたかく見守って、楽しみにしていてほしいです。
小清水: ピグミースタジオとしては、『ユーフロリア』からはじまって、『僕は森世界の神になる』くらいまで、だんだんゲーム内容もヤバめの世界になってきています(笑)。『野犬のロデム』や『ボコスカウォーズ2』もそうですが、「トンガリ度」は増していっています。今回は、Baiyonという新たなトンガリを抽出できたなと。彼は日本人としてGDCではじめてアワードにノミネートされるなど世界で戦っているクリエイターです。今のゲーム業界は既存ものの使い回しが多い中で、音楽クリエイターの世界から持ち込んだ、目線の違うものを期待しています。
――わかりました。本日はありがとうございました。
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『MUSE: Together Is the New Alone』は、PS4/PS Vitaをプラットフォームに、ダウンロード専売で2016年配信予定です。