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全世界待望、ポストアポカリプス・オープンワールドRPG・シューター、Falloutシリーズ最新作。そして2015年のGOTY候補。率直に言って『Fallout 4(フォールアウト4)』は、レビューの評価を見て買う買わないを判断するような作品ではありません。これは、映画ファンにとっての『マッドマックス』や『スター・ウォーズ』最新作のように、自分の目で確かめるべき作品です。この記事は、購入の判断材料というよりは、過去作と比較して本作をどのように位置付けるか、という方針で書いてみたいと思います。なお、プレイしたのはPlayStation 4の日本語版。ひとつのエンディングを迎えた状況です。
■彩りある世界、広がる青空、壮大な音楽
核戦争後の荒廃した世界を舞台にした本シリーズ。広大なオープンワールドで進む物語は、その世界観もあいまってファンタジーRPGと比べても淡々とした、色味の薄いものでした。それが一転、本作でまず驚くのは、美しい青空と色彩豊かな街並みです。前作の”New Vegas”もそれなりに華やかでしたが、本作の街はいっそう色彩豊かで、賑わいも感じさせてくれます。
後述するプレイヤー・キャラクターの設定も影響して、本作は、RPGの主人公が一般的に持つ「ワンダラー(放浪者)」や「ストレンジャー(よそ者)」といった属性をそれほど有していません。成熟した大人が、明確な目的を持って行動する。かつて生活をしていた世界で、すぐに色んな仲間と出会い、信頼を獲得し、地位を得て、援助を受けながら目的を達成していく。見上げれば美しい青空。ときに流れ出す壮大なBGM。
そこには、冒険者としての寂寥感や不安感はありません。過去作と比較しても、良く言えばドラマチック、悪く言えば”普通になった”冒険だといえるでしょうか。もちろん、それが良い方に働く部分もたくさんあります。偶発的に発生する、シリーズでおなじみの組織であるB.O.S.とのファースト・コンタクトは、思わず声を漏らすほど感動したものです。
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B.O.S.の空飛ぶ船。美しい青空がその存在を際立たせる
こうした印象を持った理由のひとつには、プレイヤー側の慣れもあります。『Fallout 3』では、独特のゲームシステムもプレイヤーに不安感や緊張感を与えていました。どこに行けばいいのか。何をすればいいのか。アイテムが持ちきれない。何を捨てればいいのか。回復が足りない。お金がないーー。オープンワールドRPGに親しんでいる今、プレイヤーもある程度の見通しを持ってプレイすることができるはずです。
■子供から親へ
本作の主人公は、子供を持つ父親(もしくは母親)という設定。さらわれたわが子”ショーン”を探すため、各地を旅することになります。結婚し子供をもうけた「精神的にも肉体的にも成熟した男性」に、「シェルターから出てきたばかりの青年」以上の感情移入ができるプレイヤーはそれほど多くないはず。どちらかと言えば『Fallout: New Vegas』の主人公に近いといえますが、記憶を探る旅をする『New Vegas』と比べても、完成された人格を持っています。
青年が冒険を通じて成長していくという、悪く言えばありきたりなビルドゥングスロマンからの脱却を図った本作。ベタの回避、新鮮なストーリーラインといった効果をもたらした一方で、弊害もありました。ゲームを通じてプレイヤーのレベルアップと主人公の成長を同時に体感することでプレイヤーとキャラクターが一体化していく、という喜びを感じにくく、ときにゲーム内の主人公との距離を感じることもありました。
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主人公のCVに引っ張られた結果、こうしたイケメン風に
■私から、彼/彼女の物語へ
本作で個人的に最も”新しい”と感じたのが「会話カメラ」の導入です。インプレッションでも書きましたが、本作はNPCとの会話中、まるでカットシーンのようにカメラが動き、キャラクターは豊かな表情で感情を表します。さらに、主人公が音声つきでしゃべります。主人公のCV導入は、感情表現が豊かになった一方で、キャラクターの固定化にもつながるため、一長一短というところかもしれません。ゲーム開始時のキャラクターメイクにおいても、ついCVにひっぱられがちで、声と大きくかけ離れた老人や変人はつくりにくいかもしれません。
これはRPGにおいて『ドラクエ』の主人公に声がついたこととほぼ同義であり、シリーズの大きな転換点ともいえます。
本作も過去作と同様に、プレイ中の視点を一人称、三人称で選択できます。FPSとしてもTPSとしても楽しめるということですが、本作で三人称プレイがよくなじむ、と感じるのは、この会話カメラの導入によるところが大きいです。会話中に常に姿をさらすプレイヤー・キャラクターは、NPCとのコミュニケーションにおいて「プレイヤー側」よりも「ゲーム側」に位置する、という言い方ができるでしょうか。
かつて生活していた世界へ「戻ってきた」主人公。プレイヤーが知らないことを「知っている」ことや、頻繁に「皮肉を言う」選択肢をポップアップしてくる性格、そして前述のような「親」という設定。本作の物語は、「私」の物語ではなく「彼/彼女」の物語なのだ、という感覚を持ち、だからこそ一人称視点よりも、三人称視点の方がしっくりくるのだ。私はそう考えました。
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画像では見づらいが皮肉を言っているところ。セリフ回しがユーモアに溢れている
こうした変化へのとまどいを、かつても感じたことがありました。それが『Bioshock』と『Bioshock Infinite』でした。様々な変化があった中でも、CVの導入や明確なキャラクター付けの行われた主人公の変更が個人的なとまどいの要因でした。
■MOBからキャラクターへ、魅力的な仲間たち
過去作と同様に、本作にも冒険に仲間を連れて行けるコンパニオン機能があります。本作のキャラクターたちと比べると、過去の仲間たちは「”MOB”に毛が生えたような存在に過ぎない」。はっきりとそう言いたくなるほど、本作のキャラクターは”立っている”と感じます。
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人造人間探偵はストーリー序盤で仲間に
よりリアルな犬っぽくなったドッグミート。『スター・ウォーズ』のC-3POの声がよくなじむロボット。トレンチコートが似合うダンディな人造人間探偵。果敢で美しい女性ジャーナリスト。カリスマ溢れる海賊風のグール市長。パワーアーマーをまとった剛健な姿の裏に隠されたナイーブさを見せるB.O.S.兵士などなど。
たとえて言うなら、過去作との違いは「フィギュア化したときに欲しいかどうか」。それほどキャラ単体としても魅力的であり、またこの点において、シリーズは大きな変革を迎えた、という言い方もできます。
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仲間の大半は自由に着せ替えできる
好感度を上げるとアイテムをくれたり、深い身の上話や仲間の絆についての話を聞かせてくれたり、ダンジョン内で解錠するとほめてくれたり、アイテムを漁っていると水を差すようなセリフを言ったり。連れて行く仲間を代える際には、仲間同志で冷やかしや皮肉を込めた会話のやりとりがあったり。そこであだ名で呼びあっていたり。行く街ごとにその仲間への住民の反応が変わるのもおもしろいです。
■「失礼ですが…」
会話カメラの導入が、キャラの感情表現を豊かなものにし、よくなじむ日本語吹き替えを引き立たせてくれます。声優に詳しくなくても、どこかで聞いたことのある耳馴染みの良い声。日本語版でなければ、グール市長にここまで惹かれることはありませんでした。ただ、話しかけるときのよそよそしさは仲良くなっても解消されることはなく、親交を深めた仲間に「失礼ですが…」と話しかけることがあるのは、どうなんでしょうか。
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自分の”城”に仲間たちが集う喜び
その仲間を「愛しい」と思える。ひとりじゃない。さみしくない。そうした感情は過去作にはなかったものです。日本のRPGの多くが持つ、仲間との絆という要素を感じられることは、シリーズ初体験のプレイヤーにとっては大きな助けになるかもしれません。
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一見乱雑に置かれている家具は、全てプレイヤーが配置したもの
■ワークショップとリアリティ
冒険中に見つけたジャンク品などを元に、家や家具、電気や食料といった設備を作り出していく「ワークショップ」という機能。やりごたえや自由度のあるこの新しい機能につきまとっているのが、シリーズ特有のリアリティでした。
ひとつの目標である拠点の復興においても、それが立ちはだかります。シリーズでおなじみの重量という要素によって、収集できるアイテムに制限ができるのはよく分かります。ひとつの箇所にアイテムをまとめておく分にはいいんですが、始めた際にはそれぞれの拠点でアイテムの共有ができず、別の箇所へとりかかるのに時間がかかります。一般的なRPGなら、各所の「アイテム倉庫」は共有にしそうなものですが、本作はそうした”ゲーム的な”利便性を排除した結果、そうはなっていません。アイテムをまとめて移動したくても、重量制限によってファストトラベルができません。シリーズ経験者にはこうした制限はむしろ歓迎かもしれませんが、未経験者には不便さが先に立つこともありそうです。
やることが多い拠点の復興を早々に投げ出し、私は、自宅と仲間用の拠点のみに力を入れることにしました。そうすると、ワークショップの魅力がシンプルに感じられてきます。自宅では、マガジンラックに集めた雑誌を飾り、スタンドにボブルヘッドを収納し、ヌカ・コーラ・クアンタムをクーラーボックスに。倒したクリーチャーの肉を使った剥製を壁に飾り、上等なソファーとテレビを置く。こうしたミニマムな楽しみ方をしています。
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わんこやロボット、農作業中のグールなどの仲間たち
また、湖畔の空き家を接収して、そこを仲間たちの集合場所にしました。家の前には犬小屋をつくり、そこには番犬さながらにドッグミートが。常に庭いじりをしているグール市長には、マーケットで買ったウィンタージャケットを着せ、戦闘にほとんど出ることのない女性ジャーナリストには、ダンジョンで拾ったスパンコールの服を着せる。仲間たちが、自分が設置したベッドで寝ている姿や、ソファでくつろぐ姿を見るのも悪くありません。ビリヤード台もつくりましたが、誰かが遊んでくれることはあるのでしょうか。
増えていく仲間たち、充実していく自分の”城”。『Fallout』をプレイして、まさか『幻想水滸伝』のような楽しみがあるとは思いもよらなかったのです。そしてこれは、キャラクターの魅力があってのこと。
■シューターへの接近
本作では、複数の敵が同時に出てくる場面が非常に多いです。自動で敵の部位を攻撃してくれる「V.A.T.S」というゲームシステムでは対応しきれないほどの敵が出てくることもあります。高速接近してくる十何体ものグールに次から次へと襲い掛かってこられたときは「これは『Left 4 Dead』か」と思ったものです。「V.A.T.S.」中でも時間は完全には止まらないので、それがさらにプレッシャーに。投擲武器の恐怖もあります。敵もひんぱんに火炎瓶やグレネードを投げてくるのですが、一発くらえば大ピンチ、ときには瀕死の状態に。
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戦闘は単調でなくイベントと絡んだ偶発的なものも
全体的に見て、シューターとしてのやりごたえは向上した、と言えます。
こう言う書き方をすると、良い点ばかりのように感じますが、プレイフィールとしてはそうもいきません。RPGでもある本作は、一般的なシューターとは回復周りのシステムがまるで異なるからです。もちろん自動回復なし、シールドなし。戦闘状態では睡眠による回復も当然できません。回復アイテムの貴重さを考えても、回復しながらゴリ押しというのもNGです。倒されるとすぐチェックポイントからスタート、ということもなく、けっこうな長さのローディングを挟んで、セーブした地点から再開。
HP管理に苦慮しつつ、クイックセーブをしながらおそるおそる進み、倒されると長いローディング。「V.A.T.S.」抜きでは、カバーアクションもないシンプルな射撃システム。シューターという部分だけを抜き出してみると、まるで旧世代のFPSのようにも感じられてきます。もちろん本作はRPGであり、キャラクターを成長させるPerksや装備・弾薬、回復アイテム等しっかりと準備することが大事なので、こうした不満はとくに序盤に、またはFPSが苦手な私のようなプレイヤーに感じられるものなのですが。
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思わず画像保存したくなるシーンが満載
■記憶にも記録にも残るシーン
私は、LV28で一回目のエンディング到達。過去作と同様に、そこには大きな選択がありプレイヤーの葛藤がありました。メインストーリーを中心にかなり駆け足でプレイしましたが、そこまで50時間ほどかかりました。まだまだやっていないことはたくさんあります。
人間とそれに近しい存在の違いは何か? SFに通底するテーマを抱えながら、親子という関係性を揺さぶり、その定義を問うストーリー展開。会話カメラを含む演出の向上、光源処理や質感の再現などグラフィックの向上によって、あらゆる場面が印象的に映ります。過去作では、ヴィジュアルとして印象的なシーンはそれほど多くありませんでした。
本作で私は、一回目のエンディングまでにPS4のSHARE機能によるスクリーンショットが140枚を超えました。今回掲載した画像はどれもゲーム序盤のものですが、フォルダの大半は中盤から後半のもので占められています。それほど記録したいシーンがあるということであり、表現力の向上はシリーズに新たな魅力をもたらしたのは確かです。
自由度や荒廃した世界といった、「ゲームシステム」や「世界観」の印象が大きかったFalloutシリーズ。本作は過去作と比べて、「キャラクター」や「物語」が前面に出てきた作品だと感じています。それは、つい”ドラマチック”という月並みな表現をしてしまいたくなるほどのもの。一方で、不安感や寂寥感は薄れ、シリーズの特色が失われてしまったとも。これはプレイヤーの慣れも影響しています。
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本作の癒しナットちゃん。セリフを深読みしないこと
エリア切り替え時の長いローディング、けっして最先端とは言えないグラフィックの他にも、日本語版には、字幕が音声に追いつかない箇所や、多少の翻訳ミスなど、プレイ環境においてやや気になる部分もあります。また、シリーズ過去作と同様に、字幕では性別による言葉遣いの違いがないため、違和感を覚えることも。ただそれでも、完成度の高い吹き替えによる魅力的なキャラクターや、専門用語も頻繁に出てくる新鮮で複雑なストーリーを十分に堪能するためには、日本語音声であることが必要だと感じます。
よくしゃべる、完成された人格を持つ主人公をすえた本作は、「私」ではなく「彼/彼女」の物語であり、一人称から三人称への転換が図られたと考えます。いずれにせよ、ポストアポカリプスとしてもSFとしても十分なドラマを見せてくれる本作は、やはりゲーム界における『マッドマックス』であり『スター・ウォーズ』なのでした。コアなゲームファンならマストプレイ、ライトなゲームファンにとっても、気軽に楽しめる作品になっているといえます。
※本文の内容を一部訂正しました。