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- 「大人数でRPGが遊べる」革新的なMMORPGというジャンルが誕生して十数年たった現在。日本に上陸後、名作と呼ばれつつもその殆どが撤退していった欧米産MMORPGが、なぜ日本で成功を見ることがなかったのか。本連載では日本上陸の経緯を振り返りつつ、その理由を考えます。
- 『EverQuest』
- 『スター・ウォーズ・ギャラクシーズ』
- 『ダーク・エイジ・オブ・キャメロット』
- 『D&D Online』と『LotR Online』
【特集】日本上陸、そして撤退した欧米MMOの軌跡バックナンバー
これまで日本に上陸した欧米産のメジャーMMORPGをテーマにお送りしてきた本連載。今回は番外編として、日本に上陸した欧米MMORPGに限らず過去を振り返り、そして現在の本ジャンルを取り巻く状況を考えていきます。
■日本で起爆剤となったMMORPG
当時、日本におけるMMORPGで爆発的な人気を誇ったタイトルの1つが『ファイナルファンタジーXI』です。MMORPGとしては史上初のコンソール版リリースを迎えたタイトルであり、日本における同ジャンルの知名度を格段に向上させたのは疑いようは無いでしょう。PCと比べ安価に遊べるプラットフォームであるコンソール機では、接続環境を整えるという多少の障壁はあったにせよ、PCと比べて低い敷居でした。そこに『ファイナルファンタジー』という国内で抜群の知名度を誇るシリーズ名を冠し、当時あまりメジャーではなかった「ネットにつないで大人数で遊べる」という魅力は相当大きかったと考えられます。
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また、MMORPG黎明期を生き抜いてきたタイトルも捨て置けません。そのゲーム性とオンラインという要素で衝撃を与えた『Ultima Online』、韓国からやってきた黒船『リネージュ』『ラグナロクオンライン』。特に『RO』では可愛いグラフィックが話題となり、規模こそ違いますが、今で言う『艦隊これくしょん』と似たような盛り上がり方を見せ、二次創作文化にも大きな影響を与えました。
そうした状況を踏まえて、国内上陸を果たした欧米産MMORPGを見ると最初期に登場して熱狂的なファンを生んだ『Ultima Online』も含む、これらのタイトルは「日本向けのグラフィック」と「知名度」の両方が欠けていたのではないでしょうか。それらの要素はゲーム自体の面白さとは直接的に関係はないものの、プレイを始める上での第一印象、プレイし続ける上でのキャラクターへの感情移入といった面に大きな影響を与えるもの。先の連載で挙げた5作品は特に「プレイヤーに想像の余地を与えづらい」3Dグラフィックが主体となっていることもあり、2D作品と比べて洋風のグラフィックには抵抗が大きかったことが考えられます。
■現在のMMORPGはどうなっているのか
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新生となって復活した『ファイナルファンタジーXIV』
MMORPGの大生産地である韓国では、未だに多くのタイトルが開発されており、その人気が急激に衰える様子も見せません。戦闘に加えて生産といった生活要素も重視した『黒い砂漠』などのビックタイトルは日本や欧米でも展開しており、一定の人気を得ています。一方、国内におけるMMORPG開発は一時と比べて大分落ち着きを見せました。ここ数年では『ドラゴンクエストX』や『ファイナルファンタジーXIV』などPC/コンソール向けの大作が登場していますが、現在のトレンドはスマートフォンなどのモバイル端末へと移行しつつあります。
MMORPGの進化というよりはソーシャルゲームの延長線上と言えますが、モバイル端末向けに『ファイナルファンタジーグランドマスター』といったMMO的なタイトルも登場しています。こうしたゲームがモバイルゲームで大幅に増えたライトゲーマー層の開拓に成功すれば、『ファイナルファンタジーXI』で起きた革命的な事象を引き起こすかもしれません。
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開発中止となった『EverQuest Next』
それでは欧米地域はどうなっているのでしょうか。今なお有料会員数でトップを誇る『World of Warcraft』も、毎年拡張パックを開発/リリースし続けているものの、時代の主流はほぼ完全にF2Pへと傾いており、最盛期と比べると減少傾向にあります。また、2014年にはBlizzardの次期MMORPGといわれていた『Titan』、CCP Gamesの『World of Darkness』、2016年にはDGC(旧SOE)の『EverQuest Next』といった有名デベロッパーの大作タイトルが開発中止となり、大きな陰りが見えています。
一方でインディーデベロッパーによる野心的な開発プロジェクトは複数発表され、リチャード・ギャリオット氏の『Shroud of the Avatar』、『DAoC』のマーク・ジェイコブ氏の『Camelot Unchained』、クリス・ロバーツ氏の『Star Citizen』などが注目を集めている状況です。正式リリースを迎えるまでその評価は未知数ですが、大手デベロッパーが挑戦しずらいニッチな層をターゲットとしており、新たな道を開拓する可能性を秘めています。
また、趣向こそ違えど『H1Z1』や『Rust』『ARK: Survival Evolved』などのサバイバルジャンルはマルチプレイヤーオンライン(MO)タイトルですが、そのゲーム性はMMORPGに準ずるものとも言えます。大手デベロッパーでも『Destiny』や『The Division』といったAAAのMO作品を開発してヒットを飛ばしており、マルチプレイヤーオンライン(MO)からMMOに進化を遂げた上で更にMOへと回帰しているという興味深い現象が起こっている見方もあります。
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ロード・ブリティッシュ再び『Shroud of the Avatar』
これらの現状をまとめると、欧米では大手デベロッパーによる新作MMORPG開発は終息し、インディーデベロッパーによる新規的な、あるいは革新的な開発にシフトしていると考えられます。また、韓国では独自のゲーム性とノウハウを発展させたタイトルが開発される傾向にあり、MMORPG業界における一定の影響力を維持し続けていくのではないでしょうか。国内におけるモバイル市場の動向にも注目が寄せられます。
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MMORPGは、数年スパンで楽しまれるゲームジャンルだけに良くも悪くも大きな変化は起こり難くなっていますが、プラットフォームやサービスモデルを時代のトレンドに合わせながら、今もユーザーに遊ばれ続けています。しかし、本連載で取り上げてきたようなサブスクリプション型の伝統的なPC用MMORPGは、徐々に勢力を弱め、決して明るい未来が待っているとは言い難い状況。筆者個人の見解としては、衰退というよりは成熟しつつあるジャンルになったと考えています。咲き誇った花が枯れ種を落とし、再び花となるように、今の状態はさらなる進化を遂げる過程なのかもしれません。