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日本ではそれほど知られていませんが、海外インディー業界での知名度は高く、多くのデベロッパーからリスペクトされているキーマンです。日本在住経験があるエーデルマン氏。インディーシーンの現状、インディーとパブリッシャーの関係、日本のインディーゲームなど、日本語での濃い話をたくさん聞くことができました。
――まずはダンさんの自己紹介をお願いします。
ダン・エーデルマン氏(以下、ダン氏):そうですね、知らない方が多いと思います(笑)。名前はダン・エーデルマン、今はいくつかのインディーゲームのビジネスマンしています。既にリリースされたのは『Axiom Verge』という作品で日本語版もSteamからリリースされています。PS4とWii Uでも日本語版は検討していますが、まだ手続きは終わっていません。もし読者の方がやりたいというならば、もっと急ぎますよ(笑)。あと2つ『Chasm』と『Mages of Mystralia』というタイトルに関わっています。
今の仕事は1、2年前くらいからやっていましたが、その前はNintendo of Americaでインディーゲームの担当をしていました。Wiiウェアでのインディーゲームの販売の立ち上げに関わり、インディーゲームの成長に集中していました。その前はマイクロソフトの初代Xbox事業で働いていました。その前は日本で7年間くらい暮らして、大学院に通って、ゲーム業界と関係ない仕事を3年間ほどしていました。ゲーム業界はもう17年間くらい働いています。
――ありがとうございます。Wiiウェアは当時にしてはダウンロード販売という革新的なプラットフォームでした。当初からインディーゲームをリリースするという考えが任天堂にあったんですか?
ダン:その頃はまだインディーゲームという発想自体なかった。任天堂だけではなく、ゲーム業界全体でインディーゲームの存在自体も知られていなかった。またダウンロードゲームというとカジュアルゲームが中心でした。ただWiiは今までのコンソールとは違った機能が入っていたので、もうちょっと面白いゲームがないかなと思っていました。そのためより面白い変わったゲームを作っている人を探し、インディーの存在に気づいたのです。最初にヒットしたのは『ワールド・オブ・グー』、日本のタイトルは『グーの惑星』。日本のタイトルは私が考えました(笑)。それが任天堂、最初のインディーゲームのヒットです。その後、『洞窟物語』がNICALiSのパブリシングでWiiでリリースされました。
――なるほど。『グーの惑星』などのヒットで任天堂の中でのインディーゲームの扱いや認識は変わりましたか?
ダン:みんなインディーゲームの面白さに気づきました。最初は品質やユーザーサポートに心配していました。やはりプロじゃないといけないという雰囲気がありましたし。でも普通のパブリッシャーが出さないゲームをインディーゲームなら出せるとわかると、ゲームのポートフォリオ的に必要なラインナップとして見られるようになりました。今でもWii Uへのインディーゲームの移植があるんですが、任天堂のサードパーティラインナップでも非常に重要な要素です。
――任天堂を退職されて今もインディーゲームのお手伝いをしているということですが、その変化はなんでしょうか。何がきかっけでしょうか。
ダン:いろいろありましたが、10年くらい前から個人で仕事をやりたいと考えていました。でも自信がなく、会社を辞めるほどの決断は難しかったです。ですが、ある日、目が覚めて気づいたのです。Wii Uがその役割りを終え、次のプラットフォームが始まるこのタイミングで挑戦しなければ、自分は一生、この仕事はやらないだろうと。やるなら今だと思い、決断して任天堂を辞めました。もちろん、家族とも相談しました。以前からやりたいやりたいと言っていたせいか、妻はあっさり許してくれましたね(笑)。
――なるほど。その後、個人の仕事はどのように始まりましたか。
ダン:任天堂の社員としてインディーデベロッパーに声かけるわけにはいかなかったので、会社を辞めた後、いろんな人と話ました。ですが、やはり自分が好きなゲームでないと、つまらない。そんなとき偶然『Axiom Verge』のデベロッパーTom Happに声かけられ、このゲームならやりたいと思いました。『Axiom Verge』は本当に自分の好きなゲームだったんです。そして、デベロッパーはぜんぜんビジネスのセンスがなかった(笑)。
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――『Axiom Verge』のTom Happはワンマンデベロッパーですよね。彼とどこで知り合ったんですか。
ダン:彼が私に連絡してきました。私が任天堂を辞めたとき、ゲーム業界ではちょっとしたニュースになったんですよ。それで彼が連絡していきました。どうも任天堂で働いていたときに彼と会っていたそうですが、自分はよく覚えていませんでした(笑)。Tomはゲームをリリースする半年前くらいに相談してくれました。そこで急遽、一緒に働くことになった、彼は毎日サラリーマンとして働きながら、夜や週末に5年間かけてあの作品を作っていたそうです。
――他の『Chasm』と『Mages of Mystralia』はダンさんが声をかけたのですか。
ダン:基本的にデベロッパーの方が声をかけてきたり、誰かの紹介だったりします。あまり私の方からアピールしないようにしています。自分から声をかけて人を納得させるよりも、デベロッパーからマーケティングやビジネスデベロップメントをお願いしてもらう方が、私としても楽に働けるますので。幸いなことに、月に4、5回は声をかけられます。ですが、本当に集中的にマーケティングとビジネスデベロップメントをやるには、年に1、2本しか担当できない。いろんな人に誰か部下を採用して会社としてやるべきだと言われるんですが、私は自分でやりたいと思っています。
――あくまで個人で。会社ではない、インディーのパブリッシャーということですか。
ダン:いや、私はパブリッシャーにもなりたくないです。担当しているゲームはすべてセルフパブリッシングであり、私の担当はプロモーション、マーケティング、ビジネスデベロップメントです。ビジネスデベロップメントでは基本的にはビジネスの全体を見ていますが、具体的にはSonyや任天堂との交渉をして、契約を結んだりしています。例えば、『Axiom Verge』では、現在、パッケージ版を作るための調査をしています。
――収益はどうしていますか。
ダン:ケースバイケースですが、基本的にはゲームの売上をデベロッパーとシェアしています。デベロッパーは貧乏な方が多いので、事前にお金を払うっていうのは難しいので。当然ながら、売れないと収入がないのですが、自分があんまり貢献できてないならば、収入が少なくて当たり前。会社にいた頃に比べれば、リスクは高いですね。ヒットしたら大丈夫ですが。
――プロモーションに関してですが、以前、ダンさんは興味深いプロモーションを行いましたよね。「Indiependence Day」というディスカウントをしないキャンペーン。あれはダンさんの発案だったのですか?
ダン:そうです、そうです(笑)。10年、5年くらい前だとセールでディスカウントをすると、かなり儲かっていました。ところが現在はリリースして1ヶ月、2ヶ月で半額にする人がいる。そして、リリース直後に買う人が少なくなってきている。ユーザーはみんなセールを待っているんですよね。どんどんスピードが速くなり、ライフサイクルが短くなってきた。だからあのキャンペーンはどちらかといえば、ユーザーよりもデベロッパーにアピールしたかったのです。もうちょっと慎重に値段をつけて、値下げしようというメッセージです。もちろん、ディスカウント自体はやっぱり大事だと思います。ただしリリースして一ヶ月以内に70%OFFとなるのはおかしい。ゲームのライフサイクルがなるべく長くなるように考えるべきだと思うのです。
――少し話題を変えさせてもらいます。ここ数年、インディーゲームは非常に成長してきたと思いますが、現状をどうみていますか?
ダン:成長は以前と変わらないか、むしろ伸びているかもしれない。でも参入が増えたから、全体でいうと売れてないゲームの数のほうが多く、失敗するタイトルの方が多くなっている。むしろ今の状況の方が普通で、今までは参入者が少なかったんです。早い段階で利益を得られたデベロッパーもたくさんいました。でも今は参入者が多いから個々の売上は落ちている。その状況で業界をやめて違う仕事をやる人も出てくるでしょうし、新しい人も参入するでしょう。
――インディーゲームの中にはセルフパブリッシングでリリースする人もいれば、Devolverのようなパブリッシャーと組む方がいます。インディーゲーム専門のパブリッシャーの役割はどれほど重要でしょうか?
ダン:そうですね、パブリッシャーの役割りはいろんな面がある。もしお金がなくて最期までゲームが作れないという人がいれば、やっぱりパブリッシャーを使って開発した方がリスクは減る。でもその代わり売上はシェアしなきゃいけない。マーケティングやビジネスデベロップメントのような仕事はパブリッシャーが全部やってくれるから楽ではあります。ただし、良くないパブリッシャーもいるわけで、マーケティングやプロモーションをまったくやらない場合もある。
個人的にはセルフパブリッシングが増えていくと思います。結局、デベロッパーができないことは、マーケティングとビジネスデベロップメントくらいなのです。それらの仕事さえ誰かに頼めば、なるべく多くを自分でコントロールできるようになる。またPRエージェンシーやマーケティングだけの会社はたくさんあります。それらを利用することで、セルフパブリッシングでもプロモーションを成功させることはできます。資本金が必要ならばパブリッシャーではなく、投資家を探すという手もあります。とはいえ、それらを見つけるのは時間がかかるから、ビジネスのすべてを一度に引き受けて欲しいならば、パブリッシャーと契約結んだほうがいい。やっぱりケースバイケースですね。
――では最期に日本のインディーについて聞かせてください。日本のインディーはダンさんにとってどう見えていますか?
ダン:むしろ日本ではインディーゲームはどれくらい人気があるのでしょうか?
――そうですね、2、3年ほど前から話題になってきました。いくつかイベントが始まったのです。例えば、BitSummitや東京ゲームショウのインディーコーナーなど。これで皆さんがインディーゲームというのがあるのだなと気づいてきました。DevolverのゲームはSteamなどで販売してて、日本人にも人気があります。ただ日本のインディーゲームが世界的にヒットしたのは、それこそDevolverからリリースされた『Downwell』くらいではないでしょうか。
ダン:確かに面白いインディーゲームを作っている日本の会社はまだまだ少ないと思います。これから増えると良いと思いますが、日本の文化的には会社で働くのを目指していて、脱サラして自分の作りたいゲームを作るという自信をもっている人はまだまだ少ない。いわゆるアントレプレナーシップみたいなのが、少ないように感じます。起業家の心をもって、もう少しリスクを背負ってくれるといいと思います。
――そうですね。日本はまだ会社規模でインディーゲームを作っているところは非常に少ない。ホビイストというか、同人ゲームやフリーゲームを作っている人が多いと思います。最近はそういった中から、Steamでリリースできる人は増えてきましたが、さすがに会社を辞める決心する人は少ないですね。
ダン:そうですね。あと日本は夜にゲームを作る時間はないですよね。みんな夜遅くまで働いたり、飲みに行かないといけないとか。日本のサラリーマン時代でそれをよく覚えているんです(笑)。あと通勤時間も長いじゃないですか。1時間、2時間は当たり前。週末はみんな疲れている。Tom Happは5時に仕事終わって、5時半に家に帰って、食事して7時から12時までずっとゲーム作っていたんです。日本ではそんなことは真似できない。それはもったいなと、アメリカに帰ってから思いました。
――やはり労働環境や会社の仕組みも違うから日本ではなかなかやりづらいですね。また会社でやっているところは、どうしてもリスクを恐れるので保守的になっているところは多いですね。
ダン:不景気なときはリスクを避けたいと思っている人がいますが、かえって不景気のときこそリスクを背負った方がいい。普通のゲームしか出てこないよりも、ここが面白いというゲームの方が結局売れます。だからインディーゲームは面白い。言うのは簡単だけど、本当に良いゲームを作るのが大事です(笑)。みんなわかっていると思うけど、でも誰かに正直に判断してもらう必要があります。そして何回か挑戦して、面白いゲームを作れないならば、違うことをやる。例えば、私も簡単なゲームなら作れますが、Thom Happほどの才能がないのは十分わかっている。だからビジネスマンなのです(笑)。