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- テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。
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谷理央(以下 谷): 9月は東京ゲームショウが行われました。安田さん、4日間連続でステージイベントに登壇なさってましたね。おつかれさまでした。
安田善巳(以下 安田): はい。今年は角川ゲームスもブース出展しました。お陰様で大盛況でした。
平林久和(以下 平林): 「24時間ライブペイントマラソン 竹安佐和記・ヤマタノオロチ壁画制作」は圧巻でしたね。
安田: ブースでは、『GOD WARS』のアートディレクター・竹安佐和記氏によるパフォーマンスを行っていました。24時間でヤマタノオロチの壁画を完成させるまでを見ていただきました。
平林: 細かな筆致で、絵巻物や屏風絵のような。まさに大和絵の絵師の手さばきを見させていただきました。
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谷: 今年の東京ゲームショウ。来場者は27万人を超えて過去最高だったそうです。個別のブースレポートやタイトル紹介はひと通り行われたので、今日はバシッとした総括をおふたりに語っていただきたいです。
平林: バシッとですか(笑)。
安田: 東京ゲームショウの国際競争力という切り口で語ってみるのはどうですか?
平林: いいですね。世界のゲーム産業の中で東京ゲームショウはどういう位置づけなのか。今の時期、この視点は必要だと思います。確か、昨年からでしたか。出展企業の内訳を見ると、海外企業のほうが多くなったんですよね。
谷: はい。今年は出展企業・団体が614社でしたが、うち345社が海外からの出展でした。昨年の海外からの出展が246社で相当な数だと思ったのですが、それより約100社も増えています。私はプレスルームにいる時間が長かったのですが、海外からの報道陣も年々増加していますね。さて、そんな東京ゲームショウですが、出展内容についてはどんな印象をお持ちですか?
安田: 国際競争力という観点から見ると、日本らしく「多様性」がキーワードだな、と思いました。会場では「目玉タイトル不在」とシニカルな意見を言う方もいましたが、逆にいい意味で雑多、なんでもありの東京ゲームショウを見た感じがします。大規模な予算をかけたコンソールのAAA(トリプル・エー)タイトルと、ニッチなマーケットを狙ったインディーゲームやスマホゲームが共存していました。同じVRゲームでも正統派のホラーゲームがあるかと思えば、一発アイデアで勝負するゲームもありました。こういう企画って日本のゲーム会社しかつくらないよね、と思わせるようなゲーム。言ってみれば日本固有種のようなゲームも目立ってました。
平林: 「多様性」の東京ゲームショウ。まったく同感です。洗練されたものと俗なものが混ざる、まるで東京みたいですね。ところで、今年はVRが多かったからでしょうか。セクシー路線、まじめに言いますと人間の性的衝動に依拠したゲームが多かったように思います。メジャーな例で言えば『サマーレッスン』もそのうちのひとつですし、乙女ゲームのブースではゲームと同時にイケメンも出展されていました(笑)。
安田: そういえば、画面の二次元女性キャラクターと連動してマネキンを触るVRゲームが出展されていたんですか。
谷: はい。製品ではなく2Dアニメ技術のデモンストレーションとして出展されていました。編集部も取材に行ったのですが、着いた時には皆が触りすぎたのか、マネキンが壊れていました……。
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平林: 芸者東京エンターテインメントのブースには、バーチャルキャラクターと入浴するための浴槽が展示されていましたね。
安田: E3はセクシャルな要素については厳しくて、銃に対しては寛容です。その逆で、銃には厳しいがセクシャルな要素については寛容な日本=東京ゲームショウなんでしょうね。というわけで、ワールドワイドにAAAタイトルを発表する場がE3だとすると、東京ゲームショウは日本とアジアをメインターゲットにして、多様なゲームが発表できる場。そんな住み分けがはっきりとしてきたんじゃないでしょうか。
平林: このコーナー、オールゲームニッポン的な整理をすると、一神教的なE3と多神教的な東京ゲームショウということですね。
安田: で、こうした日本的な価値基準はアジアの国々と共通点が多いので、これからますますアジア市場への発信の場となるんでしょう。
谷: 東京ゲームショウでは数年前から「アジア・ビジネス・ゲートウェイ」というビジネスマッチングのサービスをやっています。事前登録制ですが、今年の登録者は1149社でこの数も過去最高だったそうです。
平林: アジアといえばマレーシアの開発会社のレベルが急上昇した印象を受けました。『ストリートファイターV』や『ファイナルファンタジーXV』の開発に参加していることが発表されたStreamline Studios社もマレーシアに開発拠点があるそうです。
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谷: そんな多様性が特徴の東京ゲームショウですが、国際競争力という点ではどうですか?
平林: ……競争力、あるでしょうね。
安田: なんですか、その間は?
平林: いや、これは個人的な問題ですが、東京ゲームショウのすべてを肯定する気持ちにはなかなかなれないんですよ。東京ゲームショウは発足の頃から見てきたので、つい理想が高くなってしまいます。たとえば、真の競争力を持つためには世界のゲーム産業の人から崇拝される力がまだ足りない、オーラが欠けている……と条件反射してしまうのですが、私的な理想論はさておき。客観的に見ると近年の東京ゲームショウは成功しています。20万人以上も来てくれた一般ユーザーと、海外から来るゲストに支えられています。ですから、国際競争力を十分に持っているイベントと言い切ることにしましょう。
安田: 日本のゲームが一同に集まるというのは、それだけで集客力はありますからね。
谷: 10月にはPS VRが発売されますが、VRゲームの感想は?
平林: 今回たまたま私がVRゲームを遊んでいるところを撮影されるという体験をしまして、それで気づいたことがあるんです。改めて撮影されるとなると、ヘッドマウントディスプレイをかぶっていても周囲を意識してしまうんです。つまり、ゲームに没頭できない。ひとりで、あるいは気心の知れた友人の開発会社でVRゲームを遊んでいるのとは違う感覚なんですね。というわけで、これから盛んに行われるVRゲームの体験会、周囲の人の目をうまく遮ることが大切だな、と。今さらながらに気づいた次第です。
谷: 来月はVRに注目が集まりますね。ありがとうございました。
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- ■安田善巳(やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスを設立。経営者でありながら、現役のゲームクリエイターとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『GOD WARS』の開発に取り組む。
■平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。