そこでインサイドでは、過去にも取材したゲオのバイヤーである武藤崇史氏と海津祐樹氏に、2017年のゲーム市場の振り返りと、2018年のゲーム業界の動向について訊きました。
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◆ニンテンドースイッチを振り返る
――ニンテンドースイッチが発売され、立て続けにソフトが発売されましたが、市場はどう変わりましたか?
武藤崇史氏(以下武藤):ニンテンドースイッチが全体を席巻した、という印象ですね。当初は「据え置きハードなのか、携帯ハードなのか」判断しかねるところがあり、どのような売り方をすればよいのか戸惑いましたが、市場の勢いは想像以上であったと感じます。
――ハードの供給が追いつかない状況は年間通して変わらずだったのでしょうか。
武藤:そうですね。中でも最も需要と供給のバランスが崩れたのは『スプラトゥーン2』の発売時です。発売の少し前から店舗ごとに抽選販売を行っていましたが、発売前後では抽選ですらものすごい倍率になってしまいました。秋口からアプリでの抽選という形を取らせていただいたのですが、その頃から市場自体もやや落ち着いたかなと。10月に『マリオオデッセイ』が出て、同梱版が出たタイミングでメーカーからの供給も増えました。12月現在は売り場でちらほら見かける状況にはなっています。
――どのソフトが盛り上がったのでしょうか。
武藤:ローンチで発売された『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』は予想をはるかに超える出来だったので、スタートの時点での伸びはここにあったと思います。ただ、ソフト単体の売り上げを見ると、やはり『スプラトゥーン2』が強かったですね。
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「こんなゲームを隠し持っていたのか!」と驚いたと武藤氏。
――中古市場はいかがでしたか。
海津祐樹氏(以下海津):ニンテンドースイッチ本体の戻りはほとんどなく、戻ったものがすぐになくなってしまう状況ですね。本来なら戻ってきた物がセールの目玉商品になっていくのですが、それができなかったなと。早くて2018年上旬に中古市場に回ってきたらいいなと思っています。ソフトに関しても発売からしばらくは集まらない状況でしたが、『マリオオデッセイ』を買うタイミングでそれまでに発売されたゲームをクリアして売る、という動きがあったようです。ですが『マリオオデッセイ』で本体を買ったお客様が中古で他のゲームも買うという逆の流れもあったので、入っては出てを繰り返していました。ここにきてようやく中古市場の準備ができ始めたかなというところです。
――Wii Uのローンチと比べてどうでしたか。
武藤:Wii Uは年末に発売されたのですが、正月明けのタイミングから早くも店頭に並び出しました。Wii Uとニンテンドースイッチで何が違ったかというと、タイトルのラインナップではないでしょうか。ニンテンドースイッチの動きはWiiに匹敵するところなので、一般のユーザーにも受け入れられていると思います。
海津:1年間の販売想定が200万台くらいだなと考えていたんです。今もう300万台目前(取材日時点)ですから、軽く超えていますね。我々も想定外の事ですし、当然需要と供給が合わなくなってしまったということです。
武藤:ニンテンドースイッチは全世界同時発売だったのですが、『ゼルダ』の効果もあり、海外では早々に需要と供給のバランスが崩れたようです。海外が落ち着いたタイミングで日本にもバランスよく供給されるようになってきたのかなと思います。
――他の任天堂ハードはいかがでしたか?最近ですとスマホ版『どうぶつの森 ポケットキャンプ』をプレイした方が3DSの『とびだせ どうぶつの森』を買い直しているという話も聞きますが。
武藤:ニンテンドースイッチと3DSはシーソーみたいなもので、ニンテンドースイッチの需要が高まるほど3DSの需要が落ちていくという傾向にありました。3DSは現状では想定より下回っていますね。ニンテンドースイッチに3DS需要を取られていることは正直否めません。ただ、7月に発売したNew 2DS LLは買い替え需要というところで予想以上に売れました。
海津:中古の方でもそうですね。3DS本体の需要は昨年の『ポケットモンスター サン・ムーン』の時に高まり、『モンスターハンターダブルクロス』の発売時には本体が行き渡った感じです。ソフト自体は『モンスターハンターダブルクロス』から始まり、『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、『ポケットモンスター ウルトラサン・ウルトラムーン』という流れで途切れなくタイトルの供給がありましたので、想定よりも新品よりは中古では市場を維持できたと思っています。
――ちなみにニンテンドースイッチのJoy-Conは単品で売れているのでしょうか。
武藤:7千円近くするので売れないかなと思っていたのですが、意外にも想定以上に売れています。例えば『ARMS』ではJoy-Conが2セットなければ対戦もままならないということで購入されているようです。ニンテンドースイッチは過去のハードに比べると据え置き機として考えれば本体自体の値段が安いので、周辺機器の売り上げに繋がっていると思います。
――2018年のニンテンドースイッチの動きについてどのように考えているのでしょうか。
武藤:年末・お正月商戦が終わった2018年1月末頃から店頭に並び始めると考えています。我々としてもここからは売り方を考えていかなければなりません。ニンテンドースイッチもWiiのように長く遊べる状況になれば嬉しいですね。『スプラトゥーン』のような新規でヒットするタイトルが出るのが理想ではないでしょうか。また、『マリオカート8 デラックス』の売り上げを見ていると、Wii Uの人気タイトルをそのままニンテンドースイッチに移植しても需要はあるのかなと思います。我々もこのようなタイミングを見逃さずにお客様にアピールしていければと考えています。
海津:中古市場にも本体が回ってくれば供給しやすいかなと。ソフトはこれ以上にないくらいのラインナップだったので、来年以降もこの勢いを維持していただければ助かります。
――ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン(以下ミニスーファミ)について、ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ(以下ミニファミコン)と比べていかがでしたか。
武藤:予約はミニファミコンという前例があったため、初回入荷分は1日で完売しました。10月と11月の2ヵ月でゲオにおけるミニファミコンの累計販売に匹敵する数量を供給することができました。既に売り場には供給されている状況なので、チラシのお正月アイテムとして、ご提案させていただいております。
海津:ミニスーファミの中古市場はまだ数があるわけではなく、来たものは売れていく、という状況です。ミニファミコンよりは探しやすいかなと。ただ、元々の商品の特性として記念に持っておくものなので、そもそも戻りの少ない商品ではあります。
◆予想外だったPS4版『ドラクエ11』の売り上げ
――『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて(以下『ドラクエ11』)』の発売前にインタビューをさせていただいたと思うのですが、実際の売れ行きなどはどうでしたか。
武藤:『ドラクエ11』はPS4と3DSで同時発売という、はじめての試みだったので初回の発注の比率には悩みました。結果的にその比率予測は大きく外れました。メーカーさんも弊社も、3DSの方が6:4の割合で多くなると思っていたのですが、開けてみたら弊社ではほぼ5:5の比率だったんです。PS4版が予想以上に売れたということですね。これは先ほど言った3DSが落ち込んでいるということ、PS4のハイクオリティでやりたいという2つの理由があると思います。
今回、集英社さんに頼み込んで攻略本も入荷したのですが、こちらもPS4の方が思った以上に出ていたという結果です。30代以上の方がメインターゲットに想定されていたので、3DSの方が伸びるのではないかと言われていたのですが、若い人がPS4でプレイしたため、数字が伸びたのだと思います。さすがドラクエですね。
海津:中古の方はPS4と3DSで2:1といったところです。明確にPS4の方が出回っています。新品の売り上げ的には5:5ではありますが、3DSの方はすれちがい通信があるため、売らない方が多いのかなと思います。
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――『ドラクエ11』の発売に合わせて、ハードの売り上げはどうでしたか。
武藤:New 2DS LLは『ドラクエ11』に合わせて発売したというところもあり好評でした。「はぐれメタルエディション」もありましたし、予想以上に売れましたね。PS4に関しては6月のボーナス商戦のタイミングから本体の牽引があったと思います。
――発売日の店舗の様子はどうでしたか。
武藤:ゲオでは7時にオープンして対応したのですが、30代から上の世代が並んでいましたね。『ドラクエ』は「並んで買うもの」というイメージがありますから。そういった懐かしさを感じていただきたくて攻略本も販売したんです。
◆モンスター級ソフト『モンスターハンター:ワールド』に大きく期待
――『モンスターハンター:ワールド(以下『モンハン:ワールド』)』が2018年1月26日に発売になりますが予約状況はいかがでしょうか。
武藤:ものすごいことになっています。過去作も含めて『モンスターハンター』というタイトルは本体の牽引率が非常に高いソフトです。12月10日からβテストがあるということで、ここに合わせて本体を購入する方もいて、冬のボーナスが出るタイミングでPS4本体の売り上げも上がっています。そういった意味ではニンテンドースイッチに限らず、PS4も1年を通して順調に売り上げを伸ばしていますね。ゲオにおける、2017年PS4で最も売れたソフトは『ドラクエ11』なのですが、『モンハン:ワールド』はこれを超えてくると思います。まさにモンスター級のソフトですね。そういった期待も込めて、ゲオでは限定グッズ付き商品としてバックインバックを作らせていただきました。
海津:予約自体はまだやっていますので、気になる方はお早めにご予約していただければと思います。
――「PS4 Pro MONSTER HUNTER: WORLD LIOLAEUS EDITION」の売り上げはいかがでしたか?
武藤:βテストのタイミングでの販売だったので、店によっては多少残っているという状況ですね。数に限りがあり、継続して売れてますのでそんなに推してもいない、というのが現状ですね。『モンハン:ワールド』のタイミングでPS4 PROの需要も高まっています。最も高いクオリティでやりたいというユーザーがPROに買い替えているのだと思います。
――発売日当日は大変なことになりそうですね。
武藤:金曜日発売なので有休を取って3連休にしてガッツリプレイする方が多いのではないでしょうか。
海津:中古市場は発売されてからでないとわかりませんが、モンハンは長く遊ぶものですし、戻りづらいと思います。どのくらい返ってくるのかは興味津々ですね。次回のインタビューがあればご回答できたらと思います。
◆ゲームコンテンツの拡充が課題のPSVR市場
――11月にPSVRの新型が出ましたが市場ではいかがでしたか。
武藤:ゲオでは65店舗から現在301店舗に取り扱い店舗を拡大し、供給に関しても落ち着きつつあります。その理由はゲームソフトの不足が挙げられます。既存タイトルのVR対応が今後のカギになるのではないでしょうか。12月14日に発売された『The Elder Scrolls V: Skyrim VR』が予想以上に売れており、やはりソフトが足りなかったんだなと感じます。
また、PSVRは実際に体験しないと良さを伝えづらい媒体になりますので、ゲオでは体験会を開いて魅力を伝えています。これは我々のような売り場を持っている店舗の強みであると感じています。
海津:新型が出たタイミングで買い替え需要ができ、中古も増え始めたと思います。もともとVRを買われるお客様はイノベーターの方が多いと思うので、新型がでたから買い替える、という流れが起きたのだと思います。中古は取り扱い店舗は全体の半分くらいの店舗数となっています。全店で扱えないのは動作チェック用の機材の関係によるところが大きいです。少しずつ取り扱いを広げている段階ですね。
◆バイヤーが期待する2018年注目のタイトルは!?
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――東京ゲームショウなどのイベントで発売された新規タイトルの中で、バイヤーとして期待しているタイトルはありますか?
武藤:発売日が延期になってしまいましたが『二ノ国II レヴァナントキングダム』ですね。海外で圧倒的な人気を誇っており、個人的にもおススメする一本です。また、来期以降で期待しているのは『レッド・デッド・リデンプション2』です。『グランド・セフト・オートV』で世界的な記録を作ったメーカーが作る最新作ということでクオリティの高さに期待をしています。個人的にはスクウェア・エニックスのゲームで育ったので、『キングダムハーツIII』を2018年中に出してほしいなと。
ニンテンドースイッチに関しては『ヨッシー for Nintendo Switch (仮称)』や『星のカービィ スターアライズ』の告知がされているものの、発売日が未定なので今後の情報次第かなと思っております。また、繰り返しになりますが『スプラトゥーン』のような任天堂ならではの新規タイトルに期待したいですね。我々が思いもしなかったタイトルが生まれるのが任天堂ハードの強みであると思いますし、ニンテンドースイッチならそれができると思いますので。
海津:発売日がわかっているタイトルが強そうだなと思います。なので2018年発売が確定している『二ノ国II レヴァナントキングダム』と『レッド・デッド・リデンプション2』は期待できますね。特に『レッド・デッド・リデンプション2』は1が発売された頃よりも海外ゲームを受け入れる土壌が整っているので伸びるのではないかと思います。
ニンテンドースイッチでは『ベヨネッタ3』の発表と、1、2の発売が決まりました。3の発売日がまだ未定なので、こちらも期待が高まるところです。また、『メトロイド4』や『真・女神転生V』といったタイトルも控えています。こちらがいつ発売になるのかにも注目ですね。
――最後となりましたが2018年のゲーム市場の展望についてお願いします。
武藤:まずはPS4 の『モンハン:ワールド』を最大パワーで販売します。多くの方の手に取っていただけるよう、バイヤー側として頑張っていきたいと思っています。また、3DSやPS Vitaなどの携帯ハードが数値を落としているということもあり、2018年はPS4とニンテンドースイッチの二枚看板で売り場を築き、いかにしてタイトルの拡充ができるかがカギになってくると思います。
海津:2017年はニンテンドースイッチやドラクエの新作と、お祭りみたいな1年であったと思います。市場もこのままいけば10年ぶりに売り上げの下落が止まる予測が立っています。この勢いが来年まで持続できたら嬉しいですね。2018年は海外タイトルを含め、まだまだ期待できるソフトが控えていますし、ニンテンドースイッチもまだまだ多くのIPを任天堂さんは持っているという状況なので、今年に負けないくらいのものが出てくると期待しています。
――本日はありがとうございました。