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Blizzard Entertainmentが2018年4月13日から国内配信を開始した『ハースストーン』の新拡張コンテンツ「妖の森ウィッチウッド」。編集部では、『ハースストーン』のアソシエイツ・ファイナル・デザイナーであるステファン・チャン氏とアートディレクターであるベン・トンプソン氏にインタビューを実施し、「妖の森ウィッチウッド」のデザインや開発、ゲームの変化などを詳しく語っていただきました。
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――まずはお2人のプロフィールを教えてください。
ベン・トンプソン氏:『ハースストーン』のアートディレクターを務めるベン・トンプソンです。
ステファン・チャン氏:『ハースストーン』のアソシエイツ・ファイナル・デザイナーを務めるステファン・チャンです。
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――今回、新拡張版として「妖の森ウィッチウッド」の配信が開始されましたが、これによって『ハースストーン』のゲーム環境のどのように変化していくのでしょうか。
ステファン・チャン氏:「妖の森ウィッチウッド」では135枚ものカードが新たに追加されるわけですから、カードの研究がより面白くなると思います。そして、過去のカードセット3種がローテーションによってスタンダードフォーマットから外れ、メタゲームを最大限に活用することが出来るようになるため、『ハースストーン』を楽しむことにおいて最高の時期になるのではないでしょうか。また、このメタゲームも今まで以上に大きく変化するため、ユーザーの皆さんには新しく色々な体験をしてみて欲しいと考えています。
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――今回追加されるドルイドの新ヒーロー「ルナーラ」について、彼女の特徴やゲーム環境への影響を教えてください。
ベン・トンプソン氏:新しいヒーローとして既存のクラスに追加される「ルナーラ」は女性のヒーローです。彼女は今までのシリアスなキャラクターと異なったコミカルなヒーローであるため、『ハースストーン』における多様性を実現し、より多彩なストーリー展開を可能にしています。また、彼女は既存のクラスの追加ヒーローであるため、ゲームプレイに対して新しい影響を及ぼすことはあまりないものの、ビジュアルやエモートのユニークさを以て楽しいコンテンツを提供しています。
――少々話題が変わりますが、同作における新年度を「ワタリガラス年」にした理由を教えてください。
ベン・トンプソン氏:我々は毎年どのローテーションにおいても、その年の最初にリリースした拡張コンテンツから動物を選ぶという傾向があります。そのために「妖の森ウィッチウッド」の持つ不運や不吉な印象を伝えるためにぴったりな動物としてワタリガラスが選ばれました。
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――ズバリ今回の目玉となるカードはどのカードでしょうか。
ベン・トンプソン氏:目玉というよりはそれぞれの個人的な理由での好みになりますが、自分は「血の魔女」の大ファンです。彼女はアートもさることながら、その存在が「妖の森ウィッチウッド」の設定や雰囲気にとてもよく似合っていると思います。また、「妖の森ウィッチウッド」で追加される「魔女ハガサ」に対し、彼女は小さな魔女が一生懸命悪くなろうとしているのになかなかうまくいかない、というキャラクターであるため、そのような点も面白いと思います。
ステファン・チャン氏:私は「時の匠トキ」をデザインするにあたり、彼女の”時間を操る"という設定をカードとして設計するのが楽しかったです。彼女はタイムポータルを使用して過去のレジェンドミニオンをランダムに呼び出すという設計で、少々ゲーム的にはルール違反かもしれないのですが、非常に楽しいデザインになったと思っています。また、彼女は可愛らしいながらも決意を持って時間を操作し、悪さを働くという謎めいたキャラクターであるため、そのような点もデザインしていて楽しかったですね。
――今回の新キーワードとなる「木霊」と「急襲」のコンセプトを教えてください
ステファン・チャン氏:「木霊」を持つカードはマナのある限り何度でも使えるカードです。これにより、プレイヤーはゲームの中でより有利なマナの使い方を判断する必要が出てきます。また、我々は「木霊」のテーマとして森の霊を表現するように心がけました。一方、「急襲」はギルニーアスの街に住む人々が森の霊から自衛するために急いで戦うことを表現したため、敵ミニオンに対して攻撃は可能であるものの、敵ヒーローに対して攻撃できないという設計になりました。
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――「妖の森ウィッチウッド」で新しく実装されるシングルプレイモード「怪物狩り」は今までのシングルプレイモードとどのような点が異なるのでしょうか。
ベン・トンプソン氏:それぞれの拡張版が出るたびに、シングルプレイモードには新たなコンセプトが取り入れられています。今回の「怪物狩り」は前回のエキスパンション「コボルトと秘宝の迷宮」のシングルプレイモード「ダンジョン攻略」と似ているものの、「怪物狩り」は9つのヒーロークラスではなく4種類の専用ヒーローから選んでプレイするという特徴があります。4人の専用ヒーローはそれぞれ強力な固有能力があり、敵を倒した際にはコレクト可能なカードを回収してデッキを強化することが可能です。
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――「妖の森ウィッチウッド」は「森」を舞台とした拡張版ですが、どうして新たな拡張を「森」にしようと考えたのでしょうか。
ベン・トンプソン氏:初期の段階では「オリエント急行殺人事件」のような、舞台の中を動き回って移動するミステリーものとして考えられていましたが、拡張版に登場するキャラクターを適用していく段階の中で、1人のコンセプトアーティストがオークとシャーマンのハイブリッドというコンセプトを作り出したのです。また、後に我々はストーリーを明快にするためには舞台を移動せず、1つのエリアに留まったほうが良いという判断を下したため、ギルニーアスの都市やその住民にフォーカスを当てることになりました。そこからオークのようなシャーマンである「魔女ハガサ」が森を捻じ曲げ、人々に対して敵対するように仕向けている、という形に落ち着いたのです。
――今回追加された新しいカードの特徴として、デッキにあるカードのコストが奇数か偶数かを問うものがありますが、これはどのような意図で設計されたものなのでしょうか。
ステファン・チャン氏:我々が森のクリーチャーとギルニーアスの住民との対立について考えていく中で、彼らの対立の在り方を表す手段として「奇数」「偶数」というコンセプトを考え出しました。また、この仕組みをデザインするにあたり、プレイヤーによるデッキ編成の取り組みをより難しくすることを意図しているため、彼らの能力を活用するには「奇数」か「偶数」のカードのうちどちらかを選ばねばならず、自分の手持ちのカードのうち半分しか使用できないようになっています。しかし、その分条件を達成すれば、ゲーム開始時に大きなパワーを得ることが可能になっています。我々はこのシステムを非常に気に入っており、プレイヤーが新たなデッキを作り出す可能性をもたらすと考えています。
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――今回追加された新カードの中で、特徴的なカードとしてもう1つ「魔女ハガサ」の存在が挙げられますが、彼女はパッシブでミニオン召喚時にランダムなシャーマンのスペルカードをドローできるという面白い能力を有しています。どうして彼女にこのような能力を持たせたのでしょうか。
ベン・トンプソン氏:フィーリングとしては、「魔女ハガサ」は陰険で陰に潜み、自分以外の者を操って戦わせるような存在として描いています。結果として、正体を隠している謎めいた存在として「妖の森ウィッチウッド」に合った存在になっているのではないでしょうか。
ステファン・チャン氏:「魔女ハガサ」の能力をデザインする際には、彼女が森を操る魔女としてのパワーを発揮して、クリーチャーもスペルを使用できるようにするというアイデアがありました。そのため、彼女をプレイする際には大きな価値が生まれることになり、結果としてヒーローカードとして面白い能力を得ることになりました。彼女は「妖の森ウィッチウッド」やそのストーリーにとって重要な存在なので、今回の拡張版における特徴的な要素として扱うことが出来て良かったと思っています。
YouTube:https://youtu.be/FYcf6zNoJBo
――以前公開されたトレイラーの中に、映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のようなモキュメンタリー風映像がありましたが、何故あのようなユニークなアプローチを行ったのでしょうか。
ベン・トンプソン氏:アレは意図的にやりました(笑)制作チームとしては、トレイラーからノスタルジアや恐ろしげで不気味な雰囲気を表現したかったのですが、あまりにも当たり前で凡庸な恐怖を演出することは避けたかったため、あの映像のような方法が適当だったと考えています。実際にその考えは実現できたと思っていますし、何よりもあのような映像を作るのは楽しかったです(笑)
――大変面白い映像だったと思います(笑)少し気が早いかもしれないのですが、次の拡張版に関する計画などは既に行われているのでしょうか。
ベン・トンプソン氏:次の拡張については、非常にワクワクしています。現在では、拡張版はリリースの1年前から開発を開始するという方法を取っているので、セットを構築するにあたってリリース以前と以後の環境やメタゲームを考えることが可能です。そのため、今のところではテーマなどの詳細を明かすことは出来ませんが、制作チームは既にテストプレイを行っており、楽しみながら作業を行っている最中です。
――最後に、読者や日本のプレイヤーに向けたメッセージをお願いします。
ベン・トンプソン氏:我々としては、『ハースストーン』の日本プレイヤーや彼らに関わっている人々に出会える今回のような機会を大いに歓迎しています。『ハースストーン』というのはとてもグローバルに展開されているゲームですから、ユーザーと対面して話す機会は稀です。しかし、このようなチャンスを通してプレイヤーが何にワクワクしているか、何を懸念しているかを学ぶことできます。そして、このような情報をチームに持ち帰って、ゲームの今後におけるインスピレーションの源として活用したいと考えています。
ステファン・チャン氏:これからリリースしようとしているカードに関しても、プレイヤーがどのように使っていくのか大変楽しみにしています。プレイヤーがいる国を訪れ、実際に対面して彼らのリアクションを見たり会話を交わしたりすることは我々にとって大きな喜びです。
――本日はありがとうございました!
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