バカゲーで描かれる「中年の危機」の可能性
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Haruma氏の作品にほぼ出演している、なんとも言えない中年男性は何者なのでしょうか。Unityアセットストアによれば、名前は「デヴィッド」、ヒップスターの男性とのことです。
ヒップスターとは簡単に言えば個性的で、流行に敏感な人間のことを差す言葉のようです。しかし中年男性にとって「個性」や「流行に敏感」であることがどれだけ自分を苦しめることでしょうか。他人と差をつけるための個性、自分はイケてるとアピールするために流行を追いかける体力がなくなり始めたとき、自分の存在意義を疑い始めます。次の画像を見てください。
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個性や流行のセンス競争に苦しんだ果てに何が起きるのでしょうか?やけくそになることがあります。『今だ!おなら忍法!雷避けの術ゥーー!』(iOSのみ)では人生にやけになってしまったヒップスターのシミュレーターとして優れています。雷が鳴り響くステージは人生の暗雲の象徴。でもどうしたらいいかわからない。とりあえず雷のタイミングにあわせてボタンを押し、放屁することでやり過ごすしかないという恐ろしい作品です。
そう、Haruma氏の作品は中年男性の孤独について描きなおしているのかもしれません。人間は中年に差し掛かるとそこまでの自分の人生や存在意義を振り返るミッドライフクライシスという問題が立ち上がるといいます。彼の作りだすバカゲーの一群を一作ずつ追っていくと、名もなき中年男性の存在意義の回復が描かれていると言えるのではないでしょうか。
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『今だ!おなら忍法!雷避けの術ゥーー!』では人生の凪の時期を体験でき、以降の作品ではTPSスタイルにて自身の男性性の回復を図ります。『激ムズ!キリンオブザデッド』(iOSのみ)では市街地で剣や拳銃を使い、ゾンビやチーターと戦いながら、膨大な体力を持つキリンと激闘を繰り広げます。まさに、どうしようもない社会で戦う姿の暗喩のようにさえ見えてくるでしょう。
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『鳥取砂丘シミュレーター』(iOS/Android)では一転、砂丘に取り残された中年男性がゴリラからスクーターを奪ったり、ゾンビと激闘を繰り広げるミッション性のアクションになります。主にオープンフィールドでのアクションに舵を切った意欲作ですが、それ以上に存在意義が揺らぐ中年男性が何もない砂漠に向かい、10個の試練を通過していく姿に人生の壁を乗り越えようとする意味合いを読み取ることは不可能ではないでしょう。
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Haruma氏の一連の作品は、孤独な中年男性が人生でぶつかった壁を乗り越える精神世界のような意味合いが見えなくもありません。そう思えば『ゴリラが背中に湿布を貼ってくれる』のゲームプレイもまったく違う味わいになることでしょう。ゴリラとは疲弊した中年男性の精神が見た幻影なのかもしれません。孤独な人間の腰は自分で守るしかない。筆者に言えることは、まず良いイスとマットレスを買っておくことが大事だということ、それだけです。