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Blizzard Entertainmentのデジタルカードゲーム『ハースストーン』は、今年の3月で5周年を迎えます。その間、拡張版や調整が次々と配信される中で、『ハースストーン』の独特なスタイルと楽しさは相変わらず健在です。
そんな中、「ワタリガラスの年」と呼ばれた“年度”があと数週間で幕を下ろします。それと合わせて、新拡張版が発表。そして3つの拡張版分のカードがスタンダードから消えることで、ゲームが大きく変わります。果たして、2019年はいったいどんな形をとるのでしょうか。
Game*Sparkは2月25日、アメリカで行われた『ハースストーン』の次期拡張コンテンツに関する発表会に参加。次の年にはどんな変化があるのか、そして何が期待できるのか?その展開を伺わせる発表会の模様の一部と、チームを率いるクリエイティブディレクターとリードゲームデザイナーとのインタビューをお届けします!
「ドラゴンの年」が開幕!
前述の通り、終わりを告げた「ワタリガラス年」。それに代わり、2019年は「ドラゴンの年」が始まります。シーズン切り替えにつれ、お約束の殿堂入りが行われます。
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「大魔境ウンゴロ」「凍てつく玉座の騎士団」「コボルトと秘宝の迷宮」の3つの拡張版がスタンダードで使用不能になり、今後はワイルドでしか使えなくなります。しかし、今度の殿堂入りはそれだけではありません。「ドゥームガード」「自然への回帰」「神聖なる恩寵」といったクラシックのカードも殿堂入りとなります。
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これについて開発チームは、バランスとクラスのアイデンティティを考えた上での決断だと説明しました。また、「ドラゴンの年」でも扱える「妖の森ウィッチウッド」からは「月を食らうものバク」と「ゲン・グレイメイン」、同じく奇数と偶数関連のカードが使用不可となります。開発者インタビューでは、その理由についても詳しく説明していただきました。
新システムも調整も登場!
「ドラゴンの年」の幕開けを告げるパッチで、いくつかの新しいシステムや調整も配信されます。「カード裏面デザインのランダマイザー」は、マッチ開始時に所有しているカード裏から1つをランダムに選びます。たくさん持っていても1枚しか披露することができなかったプレイヤーからの要求に応じ、シーズン開始時に配信されることとなりました。
「デッキ自動完成ツール」は、ランクが高いプレイヤー同士のマッチから得たデータを使って、プレイヤーのデッキを自動的に完成してくれる新しいツールです。選んだカードをベースにできるだけベストなデッキになるように、手持ちのカードから作られます。0枚、1枚、10枚、29枚からでも使用可能との説明もありました。
その完全に新しいシステムと同時に、闘技場にも調整が入り、闘技場での勝利がゴールデンヒーロー獲得にカウントされるようになります。これは次のアップデートにて実装されるとのこと。そして闘技場のフォーマットも「ドラゴンの年」開始から変化し、その後2カ月ごとに闘技場に出てくるカードが変わります。第1回は、基本、クラシック、ナクスラーマス、旧神、ガジェッツァン、ウィッチウッド&新拡張版のセット。新鮮な気持ちで闘技場を更に楽しめるようにするためということです。
シングルプレイヤーのプレビュー
シングルプレイヤーのコンテンツは、「コボルトと秘宝の迷宮」の「ダンジョン攻略」をベースに、拡張版ごとに進化してきています。詳細は未だ明かされず、詳しくは話せませんが、筆者は「ドラゴンの年」の初めての拡張版とともに実装される最新コンテンツをテストプレイしました。
そのモードは、「ダンジョン攻略」というテーマで5つの「章」を通し、冒険を体験していくというもの。開始時の少数枚デッキから次々とボスに挑んで強くなる……というパターンは相変わらずですが、今回からカスタマイズの要素が導入されます。新しい開始デッキと、いつもと違う複数のヒーローパワーから選ぶことができ、自分のスタイルに合った戦い方でプレイできるようになります。
第1章は無料で配信され、第2章から第5章までは700Gずつ、もしくはすべての章を2,400円で解放できます。最初はメイジのみでプレイできますが、ひとつの章ごとに2人のヒーローを解除可能。各章をクリアすると新規拡張版のカードパック3つ、全章をクリアするとカード裏面デザイン1つとゴールデンクラシックパック1つが与えられます。最後に新要素として、進行状況の自動保存と達成したヒーローや選択肢の記録も追加されることが明らかになりました。
シングルプレイヤーの設定や、使えるヒーローは誰か、といった質問についてはお話しできないようですが、これから発表される新拡張版との関係があるようです。
開発インタビュー
発表会の後、Game*Spark編集部は日本のメディアが集まった合同インタビューに参加。未だ解禁できないことも多数あるようですが、話せる範囲で様々なことをお話しいただきました。
――まずは自己紹介からお願いします。
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Thompson氏:クリエイティブディレクターのBen Thompson (以下、Thompson氏)です。『ハースストーン』開発チームで働き始めてから、もうすぐ10年になります。最初はリードアーティストとして、それからアートディレクター、そして今はクリエイティブディレクターとして働いています。
Donais氏:リードゲームデザイナーのMike Donais(以下、Donais氏)です。最初に雇われたデザイナーの一人です。当時は私とゲームディレクターとBen Brode氏しかいませんでした。今は20名を超えるデザインチームをリードしています。『ハースストーン』開発以前は、『World of Warcraft』のTCGと『Magic: The Gathering』などのリアルカードゲームの開発に携わっていました。
――今回発表されたものを含めてここ一年に多くのカードが殿堂入りしています。どのような判断のもとで、殿堂入りのカードを選んでいるのか教えてください。
Donais氏:クラシックから殿堂入りしたカードも、2年ずつで殿堂入りする拡張版も過去にありましたが、拡張版のカードを2年より早く殿堂入りしたのは今回が初めてです。理由としては、ゲームをより楽しくするため。「バク」と「ゲン」はメタに大きなインパクトを与え、その2枚を使った偶数と奇数のデッキをプレイヤーが楽しんでいました。しかし、ゲームを新鮮で楽しいまま進化させるように、殿堂入りすると決めました。これは、「前例」を作ったつもりではありません。また今後このような状況になってしまったら、そのときに独自に検討します。
――殿堂入りの発表時、欧米の記者たちが拍手していましたが、これはゲンとバクへのリアクションだったのでしょうか。
Donais氏:恐らくそうですね。「彼らが与えたバラエティは最初は楽しめたものの、もうたくさんだ」というプレイヤーが多く、次の拡張版と新しい変化がゲームに取り入れられることを期待されていました。セットロテーションと新拡張版。「ドラゴンの年」。これからは本当に楽しくなると思います。
――今回は特別に、と発表しました。しかし今回はなぜ「特別に」なのでしょう?また今後、同じような対応はされますか。
Thompson氏:状況次第だと思います。ゲンとバクに関しては、狙い通りに働いていたと思います。各クラスに3つのタイプのデッキ、「奇数」、「偶数」、「どちらでもない」をその2枚のカードが与え、メタが大きく変わりました。しかしその一方で、これからの一年で試したいデザインは奇数と偶数を意識しながらでは進行できないという点もあります。早めに殿堂入りすると、チームはもっと自由に今後のセットを制作することができます。今後の一年のストーリーやメカニクスを考えたうえでの正しい判断だと思います。
Thompson氏:これは間違いなく「例外」です。プレイヤーがいつもカードを信用できるような、そして今後のデザインに可能性を与えるような開発を目指しています。過去にあったものと、将来的に出てくるものを意識しながら開発します。今後もたくさん起こるようになる、ということはありません。状況次第で、何がゲームやプレイヤーたちに最良の選択になるのかを判断します。
――次のアップデートで実装されるのでしょうか。
Thompson氏:拡張版が発売される、セットローテーションの時点で実装になります。
――バクとゲンの効果はゲーム開始時に発動し、相手は反応できませんでした。これらのカードから、何か学んだことはありますか。また、今後も同じようなカードは導入されるでしょうか。
Donais氏:そういうカードをいかにしてバランスをとっていくのかが大事であると思います。他とは違う、ユニークなカードをどうしても残したい。それが『ハースストーン』の、カードゲームというジャンルの魅力です。しかし、マッチに最初から最後まで影響を与える、手出しができないエフェクトを相手にすると張り合いがないと思うときもあります。デスナイトのカードにもありました。9人のヒーローパワーの中で、全く問題のないのもありました。なので、やはりバランスの話です。同じようなカードはまた出てくるでしょう。珍しいし、出すときはいつも勉強になってるし、メタに新鮮さを与えるのも大事です。でも多くは出ないと思います。
――奇数と偶数のデッキを理由に弱体化されたカードがありましたが、ゲンとバクがスタンダードからなくなるのであれば、元に戻すことも有り得るでしょうか。
Donais氏:最近のバランスチェンジは、ゲンとバクが殿堂入りすることを踏まえた上でのものでした。2マナでも、「平等」は非常に強い。「熱狂する火霊術師」や「聖別」とのコンボが特に強い。今後のバランスを意識しながら決めたチェンジでした。「平等」や「炎の舌のトーテム」を戻すつもりはありません。
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――「ドラゴンの年」の開始と共にゲンとバクがいなくなり、多くのデッキがスタンダードから姿を消します。これはどういったゲームプレイをもたらすでしょうか。
Donais氏:本当に大きく変わると思います。3つの拡張版がなくなる。デスナイトも、「コボルドと秘宝の迷宮」も、ゲンとバクと一緒にゲームの最も強いカードが何枚もなくなります。「ドゥームガード」と「自然への回帰」も……メタは予想できないですね。今までの拡張版のカードの中で使われていなかったものが、敢えて使われるようになるんじゃないかと思います。新拡張版のカードもスポットライトを浴びると思いますよ。最新拡張版が出るといつも楽しいですね。
――「デッキ自動完成ツール」についてですが、メタは毎日のように変化します。発表会では、「最新技術を使って更新し続ける」と説明されていましたが、具体的にどうやって流動的なメタを掴むのでしょうか。
Donais氏:内部では以前から使っていましたが、結構強いです。ランク5位以上の強いプレイヤー同士の安定したメタをベースにして、毎日更新します。一番困る時期は、新拡張版がリリースされてからの2~3日ですね。基盤になるデータを集める必要がありますし、個性的なデッキがたくさん使われる時期ですから。リリースより1カ月前に実装するつもりです。その1カ月の間でたくさんのデータを取りますが、リリースからの2日間は集まった少ないデータでなんとかしようとします。少し時が経てば、もっと効果的になるでしょう。内部ではテストはたくさん行っていて、なかなかの成果を見せています。一番の出番は、強いデッキの5枚か10枚ほど欠けているときです。そのときは力になってくれると思います。
――実装は1カ月前?
Donais氏:新拡張版を発表する1カ月前のパッチで実装されます。
――新拡張版が発売する頃には、安定した状態になるのですね。
Thompson氏:そのときのメタの中で、ですね。拡張版が発売されてからの2~3日間、どうすればいいのか判断できない時期はあります。
Donais氏:カード裏ランダマイザーも、「デッキ自動完成ツール」と同じタイミングで配信されます。
――ワタリガラス年を振り返った感想は聞かせてください。
Thompson氏:ストーリーがたくさんあった一年でした。「ウィッチウッド」の怪談や薄気味の悪さもあって、個人的に好きなメカやドクターブームを戻した「メカメカ大作戦」もすごかったです。トロールの拡張版を「天下一ヴドゥ祭」でできたのも非常に印象的です。この拡張版や新要素たちを通して学んだことは多かったです。おかげで今回の最新シングルプレイヤーのキャンペ―ンをお届けすることができます。新ヒーローパワーやデッキのバリエーションを取り入れたことで、新鮮さもいっぱいです。
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――クラシックカードの弱体化や、殿堂入りについての質問です。今回の3枚を含めて、今年弱体化されたカードや殿堂入りされたカードを振り返ると、クラシックのセットがどんどん弱くなっているように感じます。その繰り返しが続くと、長いブランクから復帰したプレイヤーがクラシックカードに頼れずに不利な状況になることと、クラスのアイデンティティの基盤であるクラシックカードがなくなっている、という危惧もプレイヤーの間ではあるようです。
Donais氏:問題点は2つありますね。ひとつはアイデンティティ。もうひとつは復帰プレイヤーとクラシックセットのパワー。そういったプレイヤーのために、クラシックカードがずっと存在するという保証が大事だと思います。現時点では、デッキの40~45%がクラシックカードでできています。おかげで、新拡張版が与えるスリルや変化が薄いのです。我々は、それを少し変えたいと思っています。20%台あたりで、強いカードがたくさんあるという状況を維持したい。その割合が低すぎるようになったら直します。
もうひとつはクラスのアイデンティティ。これについては、ドルイドで起きた変更で表しています。「野生の繁茂」にマナを付けたままクラシックに残したのは、ドルイドらしさを教えるカードだと思ったからです。メイジの「マナ・ワーム」も同じです。メイジは呪文を使う、と教えるカードです。そして、ドルイドはマナを作るのが好き。「自然への回帰」はドルイドのアイデンティティとは食い違っています。ドルイドは直接ミニオンを除去するクラスではありません。「自然への回帰」を殿堂入りにすることで、ドルイドのアイデンティティをよりクリアにしたかったのです。メイジのアイデンティティはいつもと変わらず。でも、パワーレベルが少し違う。最終的には、数年前とは全く同じ24枚のドルイドカードをずっと使っている、といったような状況にならないことが大事です。
――過去にクラシックカードが殿堂入りした時、新しいクラシックカードがその代わりとして登場しました。この三枚がなくなることで大きな穴が空いてしまいますが、今回も同じように新しいカードを制作しますか。
Donais氏:2つのやり方でカバーしています。「ドゥームガード」は「捨てる」テーマを持つ「悪魔」なので、新しい悪魔と「捨てる」メカニクスを導入してきました。今後の拡張版にも出てきます。しかしクラシックカードの数は各クラスが同じであるように埋め戻します。ローテーションの日に変化がありすぎて、その後にしましたが。
――では必ず、今後その3クラスに1枚ずつの新しいクラシックカードが?
Thompson氏:アイデンティティが変わらないと信用できることと同じように、クラシックセットに各クラスの枚数が同じであることも信用できます。同じ基盤を持たせたいと思っています。
――トーナメントモード開発の動きはありましたか。
Thompson氏:今はそういった企画はありません。無期限の延期です。開発チームとしては今も大変興味を持っていますが、プレイヤーの求めているものも、開発チームの考えも、昔とは大きく変わりましたので、チームもプレイヤーも納得できるようなモードにならない限りは実装しません。
――「『Heroes of the Storm』の公式大会は昨年度で最後」という突然の発表と、Activision本社とBlizzard Entertainmentでのレイオフというニュースから、不安を抱いているファンが何人もいます。来年は『ハースストーン』にも同じようなことがあるのでしょうか……といった風に。もちろんお二方がそれを決めていく立場ではないと思いますが、今後の『ハースストーン』についてファンを安心させるようなメッセージがあれば、最後にお願いしたいです。
Thompson氏:『HotS』と『ハースストーン』は、ゲームもチームも全く違います。しかし不安がどこからきたか、コミュニティの視点から確かにわかります。今年で『ハースストーン』の競技シーンに完全に新しい構成を導入していることは、『ハースストーン』の未来は明るいものであると信じていい証になるかと思います。
それについての情報も、チャンピオンシップが近づくにつれて、続々と発表されます。『ハースストーン』のe-Sportsシーンのことは強く信じています。そして今回導入しているフォーマットは、見るにもプレイするにもベストであると思っています。私たちの判断はすべてゲームと競技シーンをより楽しくするためだけのものであると、自信を持っています。
――ありがとうございました。