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「中華ゲーム見聞録」第37回目は、後漢末の中国を舞台に、劉備や関羽、張飛、諸葛孔明など三国志の武将・知将たちが活躍する見下ろし型RPG『呑食孔明伝』をお届けします。
本作はSunny Show(晴天之秀)が開発し、FHYX(鳳凰遊戯)によって4月2日にSteamで配信されました。鳳凰遊戯は元は「游侠商城」と言い、中国で国産正規版のPCゲームを販売する会社として2010年に設立されました。以前「中華ゲーム見聞録」で紹介した『古剣奇譚』シリーズの中国内パブリッシャーも担当しています。
海賊版の多かった中国で正規版のシングルプレイPCゲームを販売するのは茨の道なのですが、「武侠物」にターゲットを絞ったゲームを販売することで人気を博し、『古剣奇譚』シリーズを含めたヒット作を数多く輩出ことに成功しました。現在ではPS4などコンソール向けの正規版ゲームの販売も行っています。
本作のタイトルやSteamのストアページを見てピンと来た方がいれば、高確率でファミコン世代のおっさんゲーマーかと思います。本作は、1989年にカプコンから発売されたファミコンの名作RPG『天地を喰らう』シリーズに影響を受け、元は同人ゲームとして開発されていた作品です。
ファミコン版『天地を喰らう』の原作は、週刊少年ジャンプに連載されていた本宮ひろ志の三国志漫画。中国では「呑食天地」と呼ばれ、ファミコン版は中国のおっさんゲーマーに今でも根強い人気があり、「呑迷(「迷」は熱烈なファンのこと)」という言葉も出てくるほどです。
本作は「晴」と「秀」の2人によって、2006年に無料の同人ゲーム『呑食天地2nd』として立案されました。そして5年後の2011年に1章のみのデモ版が完成。開発費が必要になってきたためオリジナル作品として商品化しようと考え、タイトルを『呑食孔明伝』に変更しました。開発期間は延びに延び、2017年になってクラウドファンディングを行ったところ、約3000人から目標金額の10倍である約29万元(約480万円)もの資金調達に成功。中国のインディーゲームでここまでの金額に達するのはすごいですね。
『大魔界村』好きの娘のために『Battle Princess Madelyn』を開発したという話題が以前ありましたが、本作は「呑迷」のために開発されたものと言えるでしょう(おっさん相手なのであまり美しいストーリーにはならないかもしれませんが)。
(※参考資料:中国ゲームサイト「游侠網」2019年1月4日記事、中国ゲームサイト「游民星空」2018年12月26日 記事)
しかし、「無料配信予定だった同人ゲームを変更して商品化した」ということで、BGMを無料提供していた方からクレームが入ったり、「イラストに剽窃の疑いがある」との指摘があったことから、著作権問題をクリアするためにBGMとイラストを一新。紆余曲折あって、結局配信されたのが2019年4月2日でした。立案から実に10年以上の時間がかかっています。三国志ものということで興味があったのですが、その出来はいったいどうなのか。さっそくプレイしていきましょう。
桃園の誓い
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ゲームをスタートすると、まずは難度選択です。初プレイ時は新将(イージー)と正統(ノーマル)が選べます。クリア後に伝説(ハード)がアンロックされる模様。やり込み要素や周回プレイもあり難しいゲームのようなので、最初は新将で行きましょう。
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オープニングムービーが流れ、後漢末の説明が入ります。この頃の中国は、朝廷の腐敗や圧政によって民が苦しめられていました。そこに張角という人物が登場し、「太平道」という宗教団体を設立。主に農民たちを取り込み、「蒼天(漢王朝)すでに死す 黄天(太平道の神)まさに立つべし」のスローガンの元、朝廷に対して大規模な反乱を起こします。
ただ、元より困窮した者たちの集まりのため各地で略奪が行われ、黄色い頭巾を付けていたことから「黄巾賊」と呼ばれ、恐れられていました。この事態に対して立ち上がったのが、劉備や曹操、孫堅などの、三国時代の基礎を築いた英雄たちです。本作では劉備が主人公になります。
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オープニングが終わり、劉備が登場。漢王室の血筋ながら家が落ちぶれてしまい、むしろを売って生計を立てているといった貧しい身分です。幽州の太守・劉焉(りゅうえん)が黄巾賊と戦う義勇兵を募集していると聞き、会いに行くことにしました。黄巾の乱から物語が始まるとなると、孔明の登場はまだまだ先ですね。
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劉焉のいる城内の大殿にたどり着いたとき、屈強そうな男がやってきます。男は張飛。彼も義勇軍に参加する予定です。2人は意気投合し、大殿に入るのは後回しにして一緒に酒を飲むことに。
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城の南東では長いひげの大男、関羽と遭遇。残虐非道な黄巾賊を退治するため、天下を放浪しているそうです。劉備たちは関羽も仲間に加え、桃園で義兄弟の契りを交わしました。
そして「我ら同年同月同日に生まれることはできずとも、願わくば同年同月同日に死せん」と誓いを立てます。いわゆる「桃園の誓い(桃園結義)」です。ちなみに史実にこの話はなく、「三国演義」の創作と言われています。
黄巾賊退治へ!
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桃園結義の後、劉焉に会いに行く劉備たち三兄弟。劉焉が言うには、何日か前、北の山洞に黄巾賊がいたそうです。劉備たちは劉焉から装備を授かり、さっそく黄巾賊退治に出掛けます。
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本作のステータスについてですが、武将には「攻・防・武・技・智・速」の6つのパラメータがあります。「攻・防」は攻撃力と防御力で、装備によって変化します。「武・技・智・速」はそのキャラ特有の能力で、基本的には変化はしません。「武・智」は武力と知力、「技」は攻撃の命中率、「速」は行動速度です。パラメータの最大値は255で、関羽は「武」が240、張飛は250。戦闘時の攻撃力の変化については後で説明します。
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城内の施設ですが、武器屋、防具屋、宿屋などがあります。またセーブはどこでもできるわけではなく、城内にある「役」と書かれた店の中か、フィールド上にあるセーブポイントで行えます。敵が強いので、こまめにセーブしておいた方がいいでしょう。
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城の外に出ると、フィールドマップに変わります。このあたりは伝統的な見下ろし型RPGと同じですね。敵との遭遇はランダムエンカウントです。
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敵と遭遇し、戦闘が始まりました。戦闘では「戦う、オート、逃げる」をまず選びます。その後、各武将ごとにコマンドを入力するといったオーソドックスなスタイルです。
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各キャラの「兵力」はRPGで言うところのHPに当たります。兵力が少ないと攻撃力が落ちてしまいますので、できるだけ兵力が高い状態で戦うのがいいでしょう。また攻撃がヒットすると軍全体の士気が上がり、逆に攻撃されると下がります(デフォルトは100)。士気が高ければ攻撃力も上昇します(士気最大の255で攻撃力150%、逆に0になれば攻撃力50%)。また各キャラの「攻」「武」のパラメータも攻撃力に関わってきます。「有利であればあるほど、さらに有利になる」というシステムですね。
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劉備には策略「柴火計」を使わせました。RPGで言うところの魔法で、「智」が高いほど成功率が高く大きなダメージを出せます。ファミコン版『天地を喰らう』では劉備は知力が200以上と高く評価されていたのですが、本作では175と微妙な感じです(ちなみに関羽は180、張飛は105)。また策略は対象を「単体」「全体」のどちらも選ぶこともできますが、「全体」にすると効果は弱まります。
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戦闘に勝利!経験値やお金、練兵値が手に入りました。練兵値は軍全体で保有する値で、好きなキャラに経験値として割り振ることができます。本作は仲間にできるキャラが50人以上もいるため、このシステムがないと育成が難しいかと。
黄巾賊の拠点を叩け!
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レベル上げをしながらフィールドをさまよい、黄巾賊退治をしていく劉備たち。南皮城では噛ませ犬で有名な程遠志(「三国演義」で最初に関羽に斬り殺された賊将)が襲ってきます。名前のある敵はなかなか強く、しかも回復もしてくるので戦いが長引きます。
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何とか程遠志たちに勝利。程遠志は南皮城を捨て、仲間と共に平原城へ敗走しました。実はこの戦いの前にも程遠志との戦闘があったので、次登場するとしたら3度目になります。「三国演義」では瞬殺されているのに、本作ではやたらとしぶとい。
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程遠志を追って洞窟を抜け、平原城へ向かおうとする劉備たち。しかしそこへ黄巾賊の頭目・管亥(かんがい)が立ち塞がります。劉備たち3人に対して、相手は名前付きの4人。「ちょっと不利かな」と思ったところに、大物感を出して登場したのは簡雍(かんよう)。劉備軍を初期から支えていた文官です。柴火計の全体攻撃で結構いいダメージを叩き出してくれるので、苦戦することなく勝利しました。
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平原城では敵の大将・張角と、その弟の張宝、張梁の三兄弟が待ち構えていました。ここで新システムの登場。武将は「戦気」というパラメータを持っていて、相手を攻撃すると溜まっていきます。最大になったときに、武将の固有スキルを発動可能。さっそく関羽の固有スキル「青龍」を使い、敵に大ダメージを与えました。しかし張角も固有スキル「太平」で全体攻撃を仕掛け、こちらの兵力を削ってきます。
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何とか張角たちを敗走させ、平原城に入ることができました。大殿では、のちの呉の基礎を作った孫堅・孫策の親子と遭遇。黄巾賊討伐に力を貸してくれると言い、まさかのパーティ入り!なかなか熱い展開になってきました。しかし黄巾の乱が184年で、孫策の生まれが175年だとすると、まだ10歳ぐらいのような……。まあ、漫画版「天地を喰らう」も劉備と孔明が同じぐらいの年齢だったので(実際は20歳離れている)、オリジナル設定ということで。
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しかし戦闘に参加できるのは5人まで。孫堅、孫策を入れようとすれば、誰かを外さなければなりません。となると……すみません、簡雍さん。しばらく休んでいてください。
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関羽、張飛に加え、孫堅、孫策という豪華メンバーを従え、張角のいる山に迫る劉備。すると、そこに曹操が登場。これで魏・呉・蜀の、三国の基礎を作った顔ぶれが出揃いましたね。曹操は黄巾賊の軍勢と戦っていますが、敵は「石陣」を敷き、妖術で足止めをしてきます(残念ながら曹操は仲間になりませんでした)。
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張角の妖術をどうにかしてもらおうと、劉備たちは仙人の左慈に会いに行きます。「三国演義」では曹操を不思議な術で惑わせ、怒りを買った人物です。石陣を破るための符咒を劉備たちに授けてくれました。果たして劉備たちは張角に勝てるのか。そして乱世の行方は。この続きはあなた自身の目で確かめてみてください。
ファミコン時代を思い起こさせるRPG
本作は、ゲーム自体は極めてオーソドックスな見下ろし型RPGです。プレイしていると、確かにファミコンを楽しんでいたころの記憶が蘇ってきますね。それもなぜか『天地を喰らう』だけではなく、『ヘラクレスの栄光』や『貝獣物語』『真田十勇士』など関係ないゲームまで思い出しました。おっさんをターゲットにしているだけあって、懐かしさを感じながらプレイすることのできる作品でした。ストーリー自体はオリジナル設定が多々あるので、そういうものだとしてプレイするのがいいかと思います。
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それと本作は隠しイベントや武将集め、武器・防具の鍛造など、やり込み要素や周回要素も多く用意されています。またストーリーが進むと陣法も使えるようになり、戦闘メンバーの能力を上げることができます。仲間にできる武将は50人以上いますが、『天地を喰らう』と同じで連れていけるのは7人までです(戦闘に参加できるのは5人まで)。本作は特段尖った部分はないのですが、そのぶん見下ろし型RPGの基礎をしっかり踏まえているため、安心して遊べる作品と言えそうです(特におっさんには)。
製品情報
『呑食孔明伝』
開発・販売:Sunny Show、FHYX(鳳凰遊戯)
対象OS:Windows
通常価格:999円
サポート言語:中国語(簡体字)
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/929200/
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字を日本の漢字に置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国ものを書いている作家。母は台湾人。人生の大半を中国と台湾で過ごしています。シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を細々と運営中。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら。