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スクウェア・エニックス・グループに属してる「Tokyo RPG Factory」は、その社名からも伝わる通り、RPGに注力したゲーム開発を行っており、これまで『いけにえと雪のセツナ』や『LOST SPHEAR』を制作してきました。
この2作品はそれぞれ別の世界で、物語や登場人物なども異なる、独立した作品です。しかし、『いけにえと雪のセツナ』の世界には、十年に一度「いけにえ」を捧げる風習があり、『LOST SPHEAR』では、記憶の喪失が存在の抹消に至る「ロストと呼ばれる現象が発生します。
世界を一新しつつも、“人の死”にまつわる作品を生み出してきたTokyo RPG Factoryですが、同社の最新作となる『鬼ノ哭ク邦』も、また別の形で“人の死”に触れる物語を紡ぎます。かと思えば、過去作のジャンルはRPGでしたが、本作ではアクションRPGとなっており、大きく変じたポイントも見受けられます。
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共通するもの、新たに踏み出したもの、その両者を備えた『鬼ノ哭ク邦』は、発表当時から注目を集めていました。そのため、一日でも早く本作をプレイしたいと願うユーザーも少なくないことでしょう。そんな期待作の体験版を一足早く遊ぶ機会に恵まれたので、今回触れた範囲の『鬼ノ哭ク邦』プレイレポートをお届けしたいと思います。本作が持つ物語面とゲーム性、それぞれの魅力について、じっくりとご覧ください。
◆輪廻転生を理とする邦で、人々は如何に生きて、そして死んでいくのか──独特の死生観を描く『鬼ノ哭ク邦』のストーリー
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本作の世界には「輪廻転生」があり、人々はその“命のサイクル”に寄り添うようにして生きています。死は来世への一歩であり、死を悲しむことは、死者を迷わせ、来世への歩みを止める行いとなってしまいます。そのため生者が死者にできることは、ただ祈ることだけ。
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この世界独特の死生観は、公式サイトなどでも紹介されていますが、体験版を開始した直後にいち早く突きつけられることに。主人公であるカガチが、亡くなった両親を見送るというシーンから、この体験版は幕を開けます。当時のカガチはまだ幼い少年ですが、「悲しみは死者をためらわせる。ためらえば迷い、迷えば生まれ変わることができない」との言葉に頷き、少なくとも表面上は大きな悲しみを見せません。幼くとも世界の理を飲み込む姿が、立派でもあり、少し哀しくもあります。
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そして少年だったカガチは成長し、迷ってしまった死者の魂「迷イ人」を救い導く「逝ク人守リ」となり、あの世とこの世の調停を行う日々を過ごしています。時に「迷イ人」の未練を断ち切り、時に生者の想いと向き合い、輪廻転生を促していく「逝ク人守リ」の行いが、ゲームとしてのいわゆる本編に当たります。
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「逝ク人守リ」であるカガチの立場は、ストーリー展開にも深く関わっており、体験版の中でも何人かの「迷イ人」と接点を持ちます。最初に出会う少年は、両親に会いたいとの願いを抱えており、「もう一度だけ会わせて欲しい」とカガチに懇願します。
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カガチのパートナーであるマユラが「ちゃんとお別れするのよ? できる?」と問いかけると、少年は「うん!」と返答。こうしてカガチたちは、「迷イ人」の少年と共に、両親がいる家を目指して進みます。
「死別」が悲しいのは、輪廻転生があるこの世界でも変わりません。しかし、私たちが生きる現実世界では、別れや感謝の言葉を述べることもできずに死別することも多々あります。「逝ク人守リ」が橋渡しをすることで、伝えられなかった言葉や想いを伝えられる機会があるこの世界は、私たちのものより少しだけ優しいのかもしれない。プレイしていた時、筆者はそんな風に感じていました──この瞬間は。
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その後、両親と無事に出会うことができ、少年の言葉を届けるカガチとマユラ。しかし、両親の姿を見てしまったことで、少年の心に寂しさや別れの辛さなどが沸き上がってしまいます。愛する者を見て感情に押し流されてしまうのは、人ならば無理のないことでしょう。
そんな少年の反応に戸惑うマユラと、その想いをありのまま伝えるカガチ。少年の気持ちを昇華させないと、魂は来世に向かうことができないので、カガチの対応は決して間違っていません。そして彼の言葉は、両親がひとつの決断を下すきっかけとなりました。
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「私は・・・あの子をひとりにできません」と呟く母親。また父親も、「私も逝きます・・・」と告げ、共に輪廻転生に進む道を選びます。無論、この決断の意味するところは、両親の死に他なりません。そして、その命を絶つ役目も、他ならぬ「逝ク人守リ」が担います。
ここで命を落としたとて、少年と両親が来世で再会できるとは限りません。ですが、息子が死に怯えていれば、寄り添う可能性を選んでしまうのもまた、人だからなのでしょう。この世界の死は、少しだけ優しく、そして同じくらい厳しいものでした。
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背を向ける両親に、身構えるカガチ。その光景を見つめる少年の前で、音もなく刀が振り下ろされ──。
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そしてここで、『鬼ノ哭ク邦』のタイトルコール! 「そりゃ鬼も哭くよ!」と、ついリアルで叫んでしまいました。初っ端から色々激し過ぎます。先ほど書いた通り、このイベントは序盤も序盤。まっすぐプレイすれば30分もかからずにたどり着けるのに、なかなかのハードパンチを披露してくれます。
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もちろん、この世界独特の死生観は、このイベントだけでなく様々な箇所で顔を出します。いわゆる安楽死を制度化した「ミトリ」が邦に認められていたり、来世でも一緒になれるお守りが流行っている、などの話が住人の口から語られることも。また、来世での再会を約束する「希望の方舟」といった怪しい宗教も存在しており、「輪廻転生がある世界だと、こういう文化や風習になるんだな」と、異世界を覗き込むような興味深さも刺激されました。
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ちなみに体験版の範囲では、この「希望の方舟」に関わるイベントも展開。こちらでも、非常に“人間”らしさを感じさせる展開や結末を見ることができます。人とは、まこと業の深き生き物・・・。
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また、本作における死生観は、ストーリーだけでなく、「逝ク人守リ」に力を与える「鬼ビ人」を通して語られることもあります。強すぎる想いを抱えてしまい、転生もできず、また堕ちることもできなかった「鬼ビ人」。彼らとの絆を深めていく(成長過程のひとつ)ことで、過去に何があったのかを垣間見る機会が訪れます。
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「アイシャ」は、カガチが「逝ク人守リ」になった時から、ずっと傍に居続けた「鬼ビ人」。しかし、当然彼女にも、「鬼ビ人」になる前──歩んできた過去と、忘れられない想いがあります。王女として生まれ、両親の真意に苦しめられ、愛しい王子の存在に支えられてきたアイシャ。そんな彼女が、どのような道を歩み、想いを抱えて彷徨う「鬼ビ人」になったのか。絆を深めていくことで、その深淵へと踏み込んでいくことができるのです。
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残念ながら体験版では、「鬼ビ人」の過去に深く触れることはできなかったので、その本質に迫るのは製品版での楽しみとなりそうです。とはいえ、この世界の人々がどのように生き、そして死んでいったのか、「鬼ビ人」の過去からも分かるのは、この世界への理解を手助けしてくれる要素のひとつとなることでしょう。
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独特ながらも、共感できる部分も多い“近さ”も持つ『鬼ノ哭ク邦』の世界は、優しくもあり、また厳しくもあります。そんな世界への関心が、更なる展開や結末を見たいと、プレイ意欲を促進させてくれます。まだ体験版の範囲ですが、製品版への期待や高まる世界が広がっていたと、個人的に強く感じました。
◆『鬼ノ哭ク邦』のバトルは、“選択肢の多さ”と心地よい“手応え”がクセになる!
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『鬼ノ哭ク邦』のゲーム部分は、フィールド上でバトルを行う、見下ろし型のアクションRPGです。左スティックで移動し、各ボタンで攻撃や特有のアクションを行うなど、操作方法は一般的なアクションAPGと大きな違いはありません。
ですが、それはあくまで基本操作の話であり、「鬼ビ人」と共に戦う『鬼ノ哭ク邦』の個性は、ゲーム面にも表れています。まず、戦闘におけるアクションの数々は、その時憑依している「鬼ビ人」により異なり、攻撃方法や技の数々などが変化します。
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例えば「アイシャ」ならば、ダッシュしながら攻撃を行う「疾風刻」、ため時間があるものの強力な一撃を繰り出す「明鏡無想」、後ろに退きつつ衝撃波を放つ「鳳凰落月」などの技を持っています。この技の数々は、魔物が落とす鬼魂(おにだま)を消費することで修得でき、○、△、R1、R2のいずれかのボタンに割り振ることができます。
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「鬼ビ人」ひとりにつき最大4つの技をセットし、ボタンひとつで発動可能。手軽に使えるので、手強いボスに技を一気に叩き込んだり、ひとつひとつの技で雑魚を撃破したりと、プレイヤーの発想次第で立ち回りの幅が広がりそうです。
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実際にプレイした感覚としては、通常攻撃だけだとやや物足りなさがありますが、使える技が増えてくると、アクション面の楽しさが段階的にアップ。技はクールタイムがあるので、ひとつの技を絶え間なく使うことはできませんが、だからこそ別の技を織り交ぜていく楽しさがあります。4つの技をセットし、クールタイム中を別の技で補う立ち回りを考えるのも、本作の醍醐味のひとつ。
しかも憑依させる「鬼ビ人」は最大4人まで登録できるので、メニュー画面を挟むことなく、4つの技×4人の「鬼ビ人」=16の技を繰り出すことも不可能ではありません。「鬼ビ人」の切り替えは若干の時間差があるので(ラグなどではなく、ゲームバランス上の間として)、ゼロタイムでとはいきませんが、戦闘状況に応じて「鬼ビ人」を切り替えて戦うのも、戦略的に有効です。戦闘中における選択肢の多さは、『鬼ノ哭ク邦』が持つ大きな特徴と言えるでしょう。
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ちなみにストーリーモードでは、2人目の「鬼ビ人」を仲間にするまでしか遊べませんが、「ストーリーモード」をクリアすると解放される、体験版専用のモード、「バトルモード」では、4人の「鬼ビ人」を登録した状態でバトルに挑むことができました。
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ダッシュと攻撃速度の軽快さで、多数の敵を一度に相手取りやすい「刀」、ジャンプによる立体的な攻撃と、リーチの長さで敵を圧倒する「槍」、通常攻撃が移動しないため、定点への攻撃がしやすい「鎌」、振りは遅いものの一撃が強力で、ガードも可能な「斧」と、「鬼ビ人」それぞれで長所がハッキリしているので、使い分けることでより有利に戦闘が進められます。
またアクションRPGと言えば、手応えも大事なところ。「攻撃の気持ち良さ」はキャラの動きだけでなく、演出と効果音も重要だと個人的に考えていますが、この点についても『鬼ノ哭ク邦』は非常に良い手触りだと感じました。
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武器が軽すぎず一撃の重さがしっかりと伝わってくるのですが、その重さは戦闘のテンポを阻害しないような範囲に留まっており、爽快感も両立しています。また、攻撃がヒットした時のエフェクトや効果音も心地よく、視覚と聴覚からも“攻撃の手応え”が支えられていました。
このほかにも、戦闘を通じて攻撃力が高まる「同調率」や、同調率が100を超えると発動可能となる「鬼哭化」、生者の世界「現シ世」と死者の世界「幽リ世」を渡り歩くフィールド攻略など、『鬼ノ哭ク邦』のバトルを多彩な要素が彩っています。
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4人の「鬼ビ人」と登録した4つの技、更にそれぞれの「鬼ビ人」が持つ固有アクションを使いこなす“選択肢の多い戦闘”を、敵に攻撃を加えた時の直感的な“手応え”が支える『鬼ノ哭ク邦』のバトルは、ついつい遊び続けてしまう魅力に溢れていました。実際のところ、体験版のストーリーモードをクリアした後も、そのデータをロードして更に1時間ほど遊んでしまったほど。運がいいと敵が武器をドロップすることもあるので、武器収集の楽しさも味わえそうです。
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生と死を繋ぐ輪廻転生が、物語とバトルの双方に深く関わる『鬼ノ哭ク邦』。その手触りは上質で、ひとつひとつの要素を丁寧に積み上げたゲームシステムと、しっかりと踏み込んでくるシナリオが非常に印象的な体験版プレイとなりました。製品版が気になっている方は、まずは体験版に触れてみることをお勧めします。優しくも厳しいこの世界で、生と死の狭間にある人々の想いと、手応えが楽しいバトルをぜひ味わってみてください。
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