
2019年12月25日にDLC「ディズニーリゾートライン」がリリースされた、東京メトロとJRによる『電車の窓を眺めながら忍者を走らせるやつ』はゲーマーの原体験とも言える要素を盛り込んだ意欲作として登場しました。
ゲームハードの進化とは、場所を選ばないエンターテインメントとしての進化を意味するものでもありました。最も象徴的と言えるVRコンテンツは2020年の令和新時代にあってさえ、いまだ手軽な市場とは言い難い状況ではあるものの、『VRChat』といった単なるゲーム体験を超えたコンテンツの広がりを見せています。
とはいえ、ゲームセンターをはじめとする大型の体験アトラクションがなりを潜めてしまったわけではありません。東京ディズニーシー「ソアリン」は2019年を代表する最大級の体験型コンテンツであることは間違いなく、もしも対象作品とされることがあるならば「Game of the Year」も視野に入ったことでしょう。
“体験”とは、どこまでいっても私達の身体に根ざした感情をどれだけ呼び起こしたかにほかなりません。技術の進化は、その解像度を鮮明にしてくれるひとつの道具であると言えるのではないでしょうか。
チュートリアルは東西線地上部分

本作はそんな”体験”にアクション要素を加えた、懐かしさを感じさせるタイトルです。ゲームを開始すると、プレイヤーは東京メトロ東西線始発駅である「西船橋駅ホーム」に出現します。画像では東葉高速鉄道の東葉勝田台行ですが、乗車するのは折り返しの各駅停車中野行です。

電車の発車合図と共に画面はアクションパートへ切り替わります。このチュートリアルで操作するキャラクターは「忍者」です。最もオーソドックスなキャラクターであり、特にスピードとジャンプ力を得意とする設定で、初心者でも扱いやすいものとなっています。
西船橋を出ると、しばらくは低めの集合住宅が続きます。屋根も平坦ですし大きな道路もそれほど出現しないので、基本的な操作を練習するのに適したレベルデザインです。屋根から屋根へ、落ち着いてジャンプしていけば問題なくクリアできるでしょう。

原木中山駅を過ぎると、ステージは三次元的なものとなっていきます。線路に対して道路が直角に敷設されていない部分があり、奥行きを考慮した「忍者」の操作が必要となってきます。必然的にタイミングを合わせたジャンプが増えてきますので、焦らずにスピードを抑えつつ確実に飛び越えていきましょう。
どうしても落下してしまう場合は「忍術」を発動しましょう。これは忍者の特殊スキルで、初期状態では「風遁の術」が使用可能となっています。これは空中で使用すると二段ジャンプとなり、窮地を脱するわけです。

また「風遁の術」は通常のジャンプよりも高さがあり、更に電車の進行方向へ強い慣性を得られ、しかも安全に着地できる位置をオートロックしてくれるので、まさに緊急回避にうってつけなのです。
とはいえ、ステージ上のスコアアイテムを取り損ねてしまいかねないので、あくまでも初心者救済用のスキルだと捉えるべきでしょう。忍術ゲージが不足した状態で「風遁の術」を使うと”ズル”となり、友達との喧嘩イベントが発生してしまいます。
シームレスに本編へ繋がる”体験”

妙典・行徳・そしてディズニーのある浦安と、車窓の向こうで忍者を走らせるやつを一通り体験すると、東西線はそのまま地下へ移行します。西葛西を出発した車両が高度を落としていき、忍者の操作範囲が狭まることでプレイヤーに焦りが生じたその時、そのままシームレスにカットシーンへと続いてきます。
その内容は実際に確認して頂くとして、こうしたチュートリアルから本編への繋がりは『HALO』を思い出しますね。チュートリアルというとてもメタな要素を、きちんとゲーム内の事象として描き切るという表現に「そうきたか~!」と感動したものです。
本編はオープンエンド式のスコアアタック

本作はメインコンテンツにJR「山手線」が採用されています。昨年の「RTA in Japan」では採用されませんでしたが、外回りモードと内回りモードで攻略も変わっていきますので、やりこめばかなりのプレイ時間になるでしょう。
どちらが外回りなのか分かりにくいという場合には「車両は左側を走る」と覚えるといいそうです。左側通行であれば、外側を走る方が時計回り……つまり田端から東京方面へ向かうと連想できます。内側は新宿から大崎方面の反時計回り、こちらも左側通行です。乗用車も左側通行ですから、これは覚えやすいですね。

キャラクターは「忍者」以外にも様々に用意されていますが、スキルセットの考察も悩ましい所です。筆者はスピードとジャンプ力の安定性を評価して、やはり「忍者」を推します。しかしながら「風遁の術」はあくまでも”守り”スキルであるため、スコアを狙う場合は適切ではありません。
筆者は「かぎ爪」を使用しています。空中から爪を地面に当てた場合にすぐさま着地できるという地味な能力ですが、忍術ゲージの消費量が少なく多用できる上に、スコアアイテムの回収を確実にこなせますし、ジャンプを爪でキャンセルさせることでより効率的なルート構築を研究できるのです。
2019年末におけるe-SportsシーンのTier 1キャラクターは「Baba」と「狼(『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』)」で二分しています。Steamオータムセールのトップ画像にも登場していますし、人気の高さが伺えますね。特に「Baba」はルール変更スキルが強力すぎて危うく禁止カード扱いになりかけるなど、まだまだシーンを賑わせてくれそうです。
DLC「ディズニーリゾートライン」

2019年12月25日にリリースされたDLC「ディズニーリゾートライン」は、プレイヤーキャラクターの追加も行われました。一体どんなキャラクターなのでしょうか?不思議なことに全く思い出せません。

こちらのDLCは、JR舞浜駅から徒歩1分以内にある「リゾートゲートウェイステーション」切符売り場で購入可能です。ここ最近はゲームタイトルの販売制限といった議論が加熱した年でもありました。切符の購入についてはそれらしい問題もなく、クリスマスの平和なひとときをたくさんの家族が通過し、ひとり胸をなでおろした瞬間となりました。

1周260円(子供割引価格130円)で、DLCとしてはお得な値段設定となっています。山手線と比較すると、1プレイあたりの時間は決して長くはありませんが、ステージデザインだけをとっても視覚的に楽しく、どの年齢層にもおススメできる内容となっています。

本DLCはマルチプレイ推奨となっているようです。多くの家族・カップルに囲まれ、筆者がひとりシングルモードでプレイする姿は極めて高い警戒度を発生させてしまいます。乗車の際には考えられる限り最も清潔感のある一張羅を装備し、時々待ち合わせの電話をしているかのような素振りを見せるなど、危険な人物だと思われない配慮が求められます。

イクスピアリを抜けたあとに見えてくるのはパーク内の特徴的なアトラクション建築群です。個人的には夕方の手前、青と赤の織り交ざる空の時間帯に乗車されるのをオススメします。ステージ構成としては広い道路や空間が多くを占めているので、空中維持能力の強いキャラクターであれば遊びやすくなるでしょう。

特にディズニーシーは、日本でほとんど見かけることのない地中海周辺の文化を表現した街並みを楽しめますし、とてもエモいです。エモい……だんだん感情がでっかくなってきました。独りで来るんじゃなかった。子供たちが夕日に感動し歓声をあげる。カップルが肩を抱き合い車窓の遠くを見つめている。僕の周りには不思議な空間ができている。iPhoneを車両のドア窓にくっつけていたらそうなるよね。なんなんだこの取材。なぜこの日を選んだんだ。
総評(かえりみち)
独り身が後ろめたい訳じゃない。とある平日の、祝福すべき日に、多くの平和なひとときを過ごす人たちを見て「彼らの幸せを守れる男でありたい」と思えた。
でもどうしてだろう、涙が出そうになる。誰に見せる訳でもないのに、一番かっこいい(と思ってる)コートを来て、髪型もキチンとして臨んだ車窓の撮影。オレンジ色の空に溶け込んだビッグ・サンダー・マウンテンのシルエットは、浦安で育った数十年もの思い出を刹那に掬い上げるには十分すぎるほど美しかった。

泣きそうになりながら立ち寄ったイクスピアリで見つけたゴディバの「ホットショコリキサー(550円)」はメッチャうまかったです。インスタ映えする~!と思ってもひとり。あまくておいしー!!と喜んでもひとり。読者の皆様、今年もよろしくお願いします。
総合評価: ★☆☆
良い点
・なつかしさを感じるゲームプレイ
・最高峰のグラフィック
悪い点
・「走らせるやつ」の話は通じないことがある
・子供のころのワクワクは取り戻せなかった
・公共交通機関ではマナーを守りましょう
・ソロでクリスマスは自虐にしても難易度設定が間違っている
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