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スパイク・チュンソフトから、2月27日にPS4/PC『ファイヤープロレスリング ワールド』のストーリーDLCである「ファイティングロード:チャンピオンロード ビヨンド」が配信されました。
26年前に発売された『スーパーファイヤープロレスリング SPECIAL』のストーリーモード「チャンピオンロード」の続編として発表された本DLCのシナリオは、当時同様に、その後の様々な作品でも広く知られる須田剛一氏が執筆。本稿は過去作とこの新たな「チャンピオンロード」をプレイ、当時と今の比較をお送りしたいと思います。
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記事内には「チャンピオンロード」のエンディングを含むネタバレがあるため、ご注意ください。また、本稿中では当時の『ファイプロ』の空気が分かりやすいように、ビクトリー武蔵(アントニオ猪木)のようにカッコでモデルのレスラーや団体名を併記しています。
※ 本稿での『ファイプロ SPECIAL』の画像はキャプチャの都合上、レトロフリークにて撮影。ハード側のソフトへの対応不具合により、イベントシーンにグラフィックの乱れがあることをご了承ください。
『スーパーファイヤープロレスリング SPECIAL』とは!「チャンピオンロード」とは!
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『スーパーファイヤープロレスリング SPECIAL』は1994年12月にスーパーファミコン用ソフトとしてヒューマンから発売されたシリーズ作品。今までと大きく違う特徴として「チャンピオンロード」と呼ばれるストーリーモードが搭載されました。シナリオは本作のディレクターでもある須田剛一氏が務め、作品全体の監修にプロレスライターの斎藤文彦氏を迎えた意欲作でした。
「チャンピオンロード」は、純須杜夫(すみすもりお)という名前の主人公が当時のプロレス界・格闘技界を駆け抜けるストーリー。壮絶な戦いの末最終的に頂点にたどり着いた主人公が、前触れもなく自殺するという衝撃の結末を迎えており、今でも語りぐさになっています。
では『ファイプロ SPECIAL』が発売された当時のプロレス界はどんな時代だったのでしょうか。まずは現実の格闘界の動きを振り返ってみましょう。
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発売時期の格闘技界は超豪華!歴史を作った男たちの時代
1990年代前半のプロレス界は大きく揺れ動いていました。新日本プロレスと全日本プロレスの二大団体以外にもFMWが人気を獲得し、UWF(第二次)が解散して高田延彦が率いる「UWFインター」、前田日明が率いる「リングス」、藤原喜明が率いる「藤原組」に分裂。後に藤原組から船木誠勝が「パンクラス」を設立し、いわゆる「U系」と呼ばれる団体が生まれています。さらにメガネスーパーによる新団体「SWS」が設立されすぐに解散されるなど、混迷を極めた時代だったと言えます。
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また、1993年には総合格闘技大会である「UFC」の第1回大会が開かれ、日本でも活躍していた(ウェイン)ケン・シャムロックやジェネラル・ゴルドーを破って優勝したホイス・グレイシーにより「グレイシー柔術は最強ではないか」との印象を残すなど、総合格闘技が盛り上がる時代の産声をあげつつあった時代です。日本でも「かかと落とし」でおなじみのアンディ・フグ人気が加熱するなど、格闘家の人気が高まってきた時代です。
当時まだ小中学生くらいの筆者はプロレス雑誌を華々しく飾る高田選手や船木選手たちを見て「U系ってすごいんだな、強いんだな!」と思っていたのを覚えています。一方で新日本プロレスの「闘魂三銃士」、全日本プロレスの「四天王」が活躍していた時代でもあり、この後の平成プロレス中期までを彩るスーパースターたちが華々しく活躍していた時代です。
時代に巻き込まれた悲劇の男・純須杜夫!
「チャンピオンロード」はそんな時代をモデルとして描かれた物語。純須杜夫はプロレス界に飛び込むため、若元一徹が経営する「若元道場」に飛び込みます。道場生と修行を積みますが、道場生がなぜか全員外国人でしかもディック・ロード(リック・ルード)/スパイク(スティング)/ジ・アンダーグラウンド(ジ・アンダーテイカー)の3人なのがすでにちょっと面白いですね。ちなみにスパーリングパートナーに選んだ相手は後のストーリーでタッグパートナーになります。今回は個人的に好きなアンダーグラウンドを選択しました。
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道場を卒業した杜夫はVJP(新日本プロレス)/OJP(全日本プロレス)/UWH(UWF)の三団体のどれかに所属することになります。今回は「ビヨンド」に登場する冴羽(前田日明)がいるUWHを選択していますが、作品としてはこのルートが一番気合が入っているように思えます。UWHルートでは史実通りの分裂劇が起こり、Uインテル(UWFインター)/ゴングス(リングス)/梶原組(藤原組)/ハイクラス(パンクラス)のどれかに所属することを再び選択することになります。ただ、戦いに明け暮れる杜夫は、いつしかその名誉の代償として少しずつ迷い始めてしまいます。
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その後も異種格闘技戦や海外遠征などさまざまな経験を積むのですが、彼の人生は常に悩みを抱えている印象です。ヨーロッパで出会った冴羽明の妹「麗子」に一目惚れするなどのエピソードもあるのですが、彼の心が晴れることはほとんどありませんでした。さらに師匠である若本一徹の裏プロレスでの死亡事故の報せなども届き、彼の精神はどんどん追い詰められてしまうのです。
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そんな中で杜夫はUFCをモチーフにした「グルーサムファイティング」に参加しています。ここで彼はステイシー柔術の使い手であるヴォイス・ステイシー(ホイス・グレイシー)に勝利するという偉業を成し遂げています。現実での日本人によるグレイシー打倒は本作から5年後の桜庭和志さんまで待たなければいけなかったため、今あらためてプレイすると当時から須田氏がプロレスラーへの一種の「夢」を持っていたのがよくわかるエピソードだと感じられました。
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ちなみにここでセコンドにアンダーグラウンドが付いてくれるのですが、彼の片言の無口キャラがなんかすごく萌えキャラみたいに感じられたので一応報告しておきます。
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その後タッグ選手権で優勝した杜夫とアンダーグラウンドはそれぞれ世界選手権に出場し、決勝での再会を約束します。そして予選、本戦と勝ち抜いてきた杜夫ですが目の前で悲劇が。アンダーグラウンドがリング上で殺されてしまうのです。殺したディック・スレンダー(リック・フレアー)は、師匠の若本も殺した男。怒りに震える杜夫は、ディックとの決勝戦を迎えます。ちなみに「リック・フレアーってこんな極悪だっけ!?」などと当時から思っていました。
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壮絶な戦いとなったディックとの試合。杜夫の脳裏には今までのことや仲間たち、麗子のことが浮かんできて、やがて彼はひとつの境地にたどり着きます。得た境地のおかげなのかディックを倒したものの、その代償なのかその場で「燃え尽きてしまった」杜夫。この後に冒頭に述べた衝撃的なエンディングです。
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純須杜夫の家で響く乾いた音。彼は、自宅でピストル自殺をしてしまいました。プロレス界に迷い続け、それでも頂点を極めた男の、孤独な最期です。このエンディングは当時非常に衝撃的でした。「どこかにグッドエンディングの分岐があるんじゃないか」と、私の兄とともにほとんどの試合で勝ち負けドローのパターンを試したのもいい思い出です。
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あれから26年……杜夫の息子は強く、そして「プロレスラー」だ!
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今回『ファイプロ ワールド』で配信されたDLC「チャンピオンロード ビヨンド」は、この「チャンピオンロード」の正式な続編。今作の主人公は純須杜夫の息子である「純須純夫」。母は冴羽明(今作ではグレイトフル冴羽)の妹である麗子であることが序盤で語られます。「いつの間に麗子さんと子作りしたんだろう」と思うことはあれど、前作で杜夫が優勝し自殺するまでの3日間があるため、そこですべてが行われていたのだろうと解釈しています。
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『ファイプロ』過去作同様の「ゴングス」の名前が出て感動しました。
新たな主人公となる純夫はグレイトフル冴羽の教えのもと、のびのびと育ったプロレスラー。彼は常に心が強く、相手への敬意を忘れず、そして何より「燃える男」です。ストーリーの所々で偉大なる父である杜夫の話が出ますが、彼はとても繊細で真面目で、遊びがない男だったと評されています。実際、「チャンピオンロード」で杜夫が微笑むことはあれど、大きく笑顔になる場面はほとんどありません。お互い好きあった麗子の存在ですらも、その救いにはなりきれませんでした。
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そして右の人は若元さんに似た別の人。
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対する息子の純夫ですが、登場直後から歯を見せて笑っているのがとても印象的。育ての親とも言えるグレイトフル冴羽が裏表のない関西弁のおっちゃんということもあるのかも知れませんが、彼は感情が非常に素直で、怒り、笑い、友と本音で会話もできる男なのです。そういう男だからこそ危うい場面もあるのですが、基本的に純夫はとても強い、今のプロレス界にアジャストした男であると思いました。
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純夫は対戦後の相手への敬意を忘れず、それが相手からの敬意を生み出しています。これは杜夫の時代ではほとんど見られなかったシーンでです。「チャンピオンロード」では試合後に杜夫からの相手へのコメントはほとんどありませんでした。もちろん、冴羽やダイナミックキッド(ダイナマイト・キッド)などの精神的な支えになったレスラー戦のあとには会話シーンがあるのですが。
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今回のストーリーが進むたびに人間としても大きくなる純須純夫は、いつのまにか孤高で偉大なチャンピオンだった父を越えようとしていたのではないかと思います。
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明日へと続く格闘界の明るさを感じさせられます。
「チャンピオンロードビヨンド」をクリアすると見られるようになる須田氏の特別映像には、『ファイプロ』への思い、「チャンピオンロード」への思いなど盛りだくさんの内容が込められています。これを見ることで、個人的には26年分の想いは消化できたかな、と思います。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、1ファンとしては須田氏が映像で最後に伝えてくれたメッセージを心から楽しみにしていきたいですね。
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26年の時を超え、ついに紡がれた新たなストーリー。今回、新旧両方を続けてプレイすることで、時代の渦に飲み込まれる男たちの意味と、新たな時代への変遷を強く感じさせられました。しかしながらも、その中で、須田氏の持っているプロレス観、そこに対するメッセージ自体は時を経ても不変のものであるという理解を得られました。
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確実な時代の変化を感じます。
時代は変わる、戦いも変わる、そうなれば戦士たちだって変わっていく。ですが、男たちが胸に秘めている熱い思い、闘う戦士の魂は変わることはありません。
今、現実のプロレス界はとても華々しく明るい時代です。そこには『ファイプロ ワールド』にも登場する、新日本プロレスの棚橋弘至選手など、プロレス界を変えようとしてきた男たちの努力があります。平成後半から令和のプロレスはかつてよりオープンな明るい世界が近づいてきている印象です。
先日、新日本プロレスの番組「ワールドプロレスリング」が、4月からゴールデンタイムの放送を復活させるニュースも話題になりました。今作は、その明るい時代にふさわしい新たな「チャンピオンロード」であると思います。
26年ぶりの続編が描かれた「チャンピオンロード ビヨンド」DLCおよび、ゲーム本体『ファイヤープロレスリング ワールド』はPC(Steam)/PS4向けに配信中です。
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チャプターごとの技表があるので役に立ちました。
オマケ:シリーズ過去作冴羽コレクション
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『サンダープロレスリング列伝(バスター龍牙名義)』(1992年/メガドライブ)