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2008年に『Half-Life 2』のModとして発表され、12年間の開発期間を経て2020年3月7日に正式リリースされたCrowbar Collective開発のPC(Steam)向け初代『Half-Life』ファンメイドリメイクFPS『Black Mesa』。
本稿では、初代『Half-Life』のリアリティを高めグラフィックを現代風にアップグレードした同作を、オリジナルと比べてどんな特徴を持っているかに注目しつつレビューします。ゲームプレイ時に有志による『Black Mesa』日本語化を導入して挑みました。
12年に及ぶ『Black Mesa』の長い開発期間―それを裏付ける高品質なビジュアルと演出の数々
『Black Mesa』は、2008年に発表された初代『Half-Life』のファンメイドリメイクタイトルです。2008年に発表された本作は、4年間の開発期間を経て2012年9月にブラックメサ研究所パートのみを収録して配信。『Half-Life 2』のMod『Black Mesa: Source』としてリリースされていました。
その後、残りのパートの開発が続けられるとともにValveの公認のもと商業化。2015年にはSteamにて早期アクセス版が配信されたものの、敵本拠地へ突入する「Xen」パートの実装は長引き、2017年末にようやく進捗が公開されました。2018年にはオリジナルとは見違えるほど美麗となった「Xen」が披露され、2020年3月7日に全てのパートを含んだ完全版が配信リリース。12年の旅路を経てリリースされました。
グラフィック面は2012年のMod版リリース後にも積極的にブラッシュアップされ、まさに別物の域に到達しています。
『Black Mesa』のストーリーはオリジナルの『Half-Life』と変わっていません。「ブラックメサ研究所」にて行われた特殊な鉱物を使った実験の事故により、異次元に存在する「Xen」の侵攻軍がポータルを通じて地球に侵略。同研究所に勤めていた物理学者のゴードン・フリーマン博士が、バールを筆頭とした様々な武器を手にし、この緊急事態を生き残り事態の収拾を図るためXenに存在するボスの“ニヒランス”を倒しに向かう……という物語を描きます。
グラフィックだけでなくリアリティも引き上げられた
『Black Mesa』は初代『Half-Life』のファンメイドリメイク作であるために、マップの基本的なレイアウトはオリジナルを踏襲しています。一方で、オリジナルにてリアリティに欠けていた部分を改修し、90年代というオリジナル版『Half-Life』の発売された時代を考慮しつつも、リアリティに溢れた解釈でディテールを洗練しています。
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このオブジェクト追加やマップレイアウトの改良配置具合は絶妙で、本作の没入感に作用しているところに嬉しさを感じます。『Black Mesa』で新たに追加された女性研究者も、優秀な頭脳が集まる研究所としての側面を演出しています。
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ラジオや無線機、スピーカーの音声によって、ブラックメサ研究所の内外の事態まで説明されていることも、新たに導入された要素のひとつです。もちろん登場武器も新たにモデリング。性能や動作はオリジナルと同様ですが、武器の発射音やアニメーションが強化され、より派手で気持ち良い発射感覚を受け取れます。
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音楽はJoel Nielsen氏によって新たに書き起こされていて、時にはドラマチックに、またある時はアンビエント風に奏でられ、プレイヤーが置かれている状況を更に深く体験できます。
新たな解釈で描かれる「Xen」―オリジナルのレイアウトを踏襲しつつも全くの別物に
ブラックメサ研究所パートの後に制作されたXenパートは、オリジナルのステージ進行こそ踏襲していますが、地形や見た目も含めオリジナルから大きく変化。なおかつ、高いクオリティを維持しています。
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その変化のひとつとして捉えられるのが、ブラックメサ研究所調査隊の施設跡がいたるところに存在する点です。調査隊の痕跡から、彼らが数多くの物質や生物をXenにて採取したことがわかるため、ゴードン博士がゲーム冒頭の実験で使った物質が「ある日突然現れたものではない」ということが読み取れるようになっています。
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見た目やマップギミックも大きく変化。爆発する原生植物を巧みに使い障害を突破するパズルパートも追加されています。またエイリアングラントの生産工場や奴隷にされたボーディガント達の小さな村、ガルガンチュアの追跡、そしてボスとなるニヒランス戦も大きく変化した要素のひとつです。他にも敵キャラのひとりであるエイリアンコントローラーにも、「スレイブ化されたボーディガントを実際に操る」という役割が追加され、その名の通りの能力を備えるようになりました。
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生産工場パートはどことなく『Half-Life 2』のシタデル内部を思い起こさせる。
特に最終ボス「ニヒランス」は、オリジナルに比べ巨大で強力な力を持ち、多彩なエネルギー攻撃を繰り出すボスとして演出されています。オリジナルではニヒランスとは縦長の空間で戦いましたが、『Black Mesa』では水平方面に広いマップでの戦闘となり、更に時折支援物資が投入されるように変化しています。『Black Mesa』のXenパートは、抜本的に表現を強化したことで「異次元に存在するXen」という特異な環境のアピールに成功しています。
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リメイクの質は高いが気になる部分は残る……後半では冗長さを感じるマップも
『Black Mesa』はファンメイドリメイクという形式ながらも、ゲームプレイ/グラフィック共に品質が高く、実際にプレイしても素晴らしい満足感を得られました。しかしながら、マップ展開やシークエンスそのものが冗長な印象を受ける場所や、戦闘に古さを感じるところなど、「もう一歩」の足りなさが浮き彫りになる部分もあります。
そのひとつが「遠距離戦」です。武器は、集弾率をコントロール出来ないがゆえに、遠距離戦においてハンドガンやSMGなどのクロスヘアが変動しない武器を用いる場合、弾が敵に当たるまで何度も撃ち続けるしか方法がありません。本作ではマップが再構成されたことで遠距離戦が発生しやすくなっているため、ADSの導入などなんらかの対策を施して欲しかったと感じます。
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更に、一部マップには冗長さを感じやすいパートが存在します。基本的にオリジナルを踏襲したままのブラックメサ研究所パートの後半は、Xen侵攻軍vs海兵隊vsプレイヤーの三つ巴の連続した戦闘によって絶妙なシビアさを体験できるものの、代わり映えしない地形や風景が続きます。
後半に追加されたXenパートも同様です。ビジュアルの美麗さや異世界を描くにあたっての説得力はあるものの、オリジナルよりも各シーンが長くなっているため、「いくらプレイしても終わる気配がない」と思ってしまうほど。Xen序盤やゴナーチ戦はともかく、特にエイリアングラント工場は丁寧に描写し過ぎて“長すぎる”シーンという印象に……。
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この縦穴のエレベーターでも30分以上戦ったように思える
この工場パートは、エイリアングラントの生産出荷工程を示す各区画での戦いだけでなく、円形エレベーターでのエイリアンコントローラーとの死闘、各パズルパート攻略と、とにかく高密度。ブラックメサ研究所パートと比べても、ゲームプレイのテンポが崩れているようにも感じてしまいます。細かなところですが、次へ進むべき目的地をよりわかりやすく示して欲しくもありました。
美麗に蘇った『Half-Life』を遊べるマストな一本
本作『Black Mesa』はファンメイドリメイクということで、Valveによる公式なリメイク作品ではありませんが「初代『Half-Life』をより良いものにしたい」という気迫が伝わってくるタイトルでした。
追加シーンを中心に、一部マップでの戦闘やシーン展開こそクドさを感じるほど長いものの、全体的なクオリティは高く維持されています。戦闘そのものの面白さや、Xenパートにおけるブラックメサ研究所との繋がり・設定の補完部分は、かつて初代『Half-Life』を遊んだプレイヤーも楽しめることでしょう。
発表から12年という長い歳月は、確実に『Black Mesa』のクオリティを押し上げることに繋がっています。今から初代『Half-Life』を遊ぶには気が引けるというユーザーにとってはうってつけのリメイク作ではないでしょうか。
総合評価: ★★★
良い点
・12年という歳月を経て最初から最後まで完成している
・『Half-Life』そのものの世界観を補完/強化する描写の追加
・難しさを感じさせるものの絶妙な難易度の銃撃戦
・Source Engineとは思えないほどの美麗なグラフィック
悪い点
・クドさを感じさせる一部のマップ構成
・遠距離戦の大味さ