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『メタルギア』シリーズの生みの親として知られる、小島秀夫監督率いるコジマプロダクションのデビュー作『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』。2019年11月にソニー・インタラクティブエンタテインメントよりPS4向けにリリースされ、2020年7月には505 GamesよりPC向けにもリリースされた同作は、練りこまれた世界観やストーリー、野心的なゲーム性で多くのゲーマーの心を熱くさせました。
Game*Spark編集部では、505 Gamesより本作の豪華オリジナルグッズをご提供いただいたこともあり、読者参加型のプレゼント企画を実施。同作のレビューを募集してその中から優秀賞と最優秀賞を選び、執筆した方へグッズをお贈りすることにしました。結果、集まったレビューは合計で44件、延べ8万字超。国外からの応募もあったレビューは、どれもみな『DEATH STRANDING』への愛と情熱にあふれるものばかりでした。
編集部では当初、優秀・最優秀賞のみを選んで掲載するという方向で企画を進めていましたが、熱のこもった大量の応募作品を前に方針を変更し、全てのレビューを3つのパートに分けて掲載することに決定しました。このレビューを通じて、『DEATH STRANDING』ファンたちの情熱を共に感じていただきたいと思います。
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まずは、全世界で35個しかないという『DEATH STRANDING』VIPキットが贈られる最優秀賞と、各種オリジナルグッズが封入された『DEATH STRANDING』ファンアイテムパックが贈られる優秀賞を発表。2ページ目からは先着順に応募作品をご紹介していきます。なお、作品は編集部判断により、誤字脱字、表現の軽微な修正などを行ないましたが、文体や改行を含め極力投稿いただいた形を崩さず掲載しました。また、あらかじめご記入いただいたハンドルネーム/ペンネームも共に掲載しておりますのでご了承ください。
※受賞者には後日賞品を編集部より発送いたします。発表までに大変お時間いただきまして申し訳ございませんでした。本来であれば1記事でご紹介したいところでしたが、記事投稿のシステム上どうしても分割が必要になったため3つの記事に分割しています。
最優秀賞:安芸捷
私はこのゲームをプレイした時、ずっとコントローラーを抱きしめるように握っていた。買ったばかりのPS4のコントローラーがあっという間に汗まみれになった。
これには訳がある。コントローラーの側面、丁度両手の人差し指が届く位置に「ふんばる」ボタンがあるからだ。世紀末のように退廃した世界で、分断された人や街をつなぐために様々なものを運ぶ主人公サムは、背負子に沢山の荷物を載せている。サムは険しい岩場や急な坂、突風や川の中だと足をとられて転んでしまう。まるで現実の人間と同じように弱いサムを支えるために、私はふんばるボタンを押し続けて、サムが転ばないようにしていた。
実はふんばるボタンを押すと、歩行速度が下がる。もっと効率よく荷物を運ぶ方法は沢山あり、ゲームの中でも様々な手段を提示してくれる。配送ルートを自身で決められるのはもちろん、道路や橋を整備したりバイクやトラックを作ることもできる。
繋がった場所では、他のプレイヤーの建てた建設物が旅を助けてくれることもある。だが、繋がった場所を豊かにすることはできても、繋がっていない場所を好き勝手に整備することはできない。ゲームの進行によって無限にも近い自由を手に入れることができるが、新しい場所に行くときはいつも険しい壁がそびえたっている。
しかし、壁の向こうには荷物を待っている人がいる。画面の中のサムは孤独に荷物を運ぶ途中で、様々な人と出会う。「俺は誰ともつながれない」というサムの言葉とは裏腹に、サムは感謝を受け取りながら絆の在り方を見つめていく。
ドライな性格にもとれるサムを、私はいつしか画面の向こうから抱きしめたくなった。永遠に疲れない3Dモデルではなく、血の通ったサムを労わりたくなる。
最初は険しい道に悪態をつき、どうしてゲームの中で苦行をしなきゃいけないんだと思っていた。だが、ゲームを進めるうちに優しくなっていく。この旅路の果てにサムを待っている人がいるから、できるだけ荷物が壊れないようにしよう。少し前に通った道に戻って川に橋を架ければ、ネットワークを通じてこれからゲームを進める人が使うかもしれない。そんなちょっとしたおせっかいが誰かに届くということが、この上なく私を優しくした。
ずっと押し続けているふんばるボタンが画面の向こうのサムの力になっていることに、嬉しく感じるようになった。ゲームなのだからキャラクターを操作できることは当たり前なのに、その当たり前ですら誰かにとっての応援になる。そのことに気づいた瞬間、物語への没入感は一気に増していく。
『デススト』はストーリーもプレイ体験も含めて、まるで人生のようだと思う。
新しいことに挑戦するときは、いつも己の力を試されているような気分になる。理不尽に唾を吐きたくなるときもある。だが、決して孤独ではなく、周りに支えてくれる人がいる。今の自分は誰のおかげなのだろうと深く深く考えると、今まで生きてきて出会った人たち全てといえるだろう。隣で励ましてくれる友人から顔も見たことのない人も、その一端を担っている。カフェで気まぐれにもコーヒーをこぼしてしまった客が、隣のボックス席で話していた人たちの商談を成立させるきっかけになるかもしれない。つながりは必ずしも、私たちの想像している姿をしているわけではないのだ。
楽しいことも辛いこともあって、それでも人生は素晴らしいのだと教えてくれる人生シミュレーター『DEATH STRANDING』は、プレイし終えたとき、きっと誰かのためにふんばれる力をくれるだろう。是非、コントローラーを両手で抱きしめながらプレイしてほしい。
優秀賞:ATUSI
昔、揶揄を帯びた都市伝説として語られていた「大御所漫画家は目しか描かない」という言葉があった。
私はそれを聞いてむしろ寒気を覚えるほど感動した。目しか描かない作品に自分の名前を載せて全責任を背負えるのか、と。
やがてそれは週刊連載においてほぼ当然の仕組みであることが広まり、今ではほとんど語られなくなった。
大作を四畳半で作れた時代も今は昔。ゲーム製作は3桁の人間と10桁の金が動く大事業となることも珍しくなくなった。十人十色と言うように、100人いれば100通りの感性と思考が交わる。主人公の言葉から路傍の石に至るまで、誰か一人の思想と技術のみで作り上げられるなど、もう誰も思っていない。
しかしそれでも、彼はそのゲームに自らの名を強く刻むことをやめない。企画、ゲームデザイン、脚本、演出、監督を全て自分でこなし 、責任を持って創ったと、世界に宣言するのである。
A HIDEO KOJIMA GAME
その銘に恥じぬ作品だった。精緻に組まれた極上のSFとして、音楽との融和を成した映像作品として、新しい体験を保証するゲームとして、どこを切っても小島秀夫の味が出る。
何より設計が面白い。オンラインに繋がりながら、他のプレイヤーは終始現れない。しかし道なき荒野に現れる橋や屋根。昨日まで何もなかった荒地に、獣道のように筋ができる様は、確かにそこに誰かがいることを感じさせる。
もしかしたら、これは彼がみた風景なのかもしれない、と思った。
かつで繁栄を誇った世界は一瞬で崩れ去り、ひた隠すことも逃げることもできない荒野が残された。
自分という存在だけがそこに放り出された時、寂寥感さえ呑み込むほどの恐怖に襲われる。それまで成したことは無意味だったのか?と。
しかしある時、そこに看板を見つける。言葉ではなく、親指を立てる記号があるだけ。
見た者はなぜかそこに、無限の言葉を感じてしまう。大丈夫、俺もいる、お前はやれる、この世界は消えていない、今までしたことは無駄じゃない。そしてこれからも……。
だとしたら、これは芽だ。
一度荒野となった小島秀夫の世界に芽吹いた、世界を包む小さな芽だ。
かつて見せてくれたような大樹になるのか、見たこともない花が咲くのかわからない。
あるいは還暦間近の男にこれ以上の傑作を強請るのは酷だろうか?否、こうも見事な復活劇を目の当たりにしてしまっては、それもできない相談である。
デスストランディングの評を書いていたら小島秀夫の評になってしまった。ご容赦願いたい。だがすべてのファンが持つ期待の、目くらいは書けたつもりでいる。