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「中華ゲーム見聞録」第77回目は、1987~88年のバブル期の日本を舞台にした、日中共同開発のビジュアルノベル『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』をお届けします。
本作はNekodayが開発し、Coconut Island Games, mirai worksによって2020年1月3日にSteamで配信されました。Nekodayは中国・四川省のインディーデベロッパーで、本作では、企画・ディレクター・プロデューサーをNekoday代表の古落氏が、ストーリー原案・シナリオをねこねこソフト代表の片岡とも氏が担当しており、日中共同で開発が行われました。2018 年、四川省・成都市で開催された同人イベント「Comiday21」に参加した両氏が、合同で新作アイディアを出し合ったのがきっかけだそうです。
また原画には『弱虫ペダル』や『寄生獣』『Steins;Gate 0』『とある魔術の禁書目録III』などのアニメーターを務めた中国のWerkbau氏、音楽は日本の作曲家であるbermei.inazawa氏と、声優を含めた他の分野でも日中両国のクリエイターが参加しています。
本作の内容ですが、舞台はバブル期である1987~88年の日本。この時期は「土地を買えば必ず高く売れる」という、今からでは考えられないような土地バブル・金融バブルが起こっていました。この財テクブームを受けて、ファミコンでも『松本亨の株式必勝学』というゲームがちょうど本作の舞台である1988年に発売され、普通に小・中学生も遊んでいました。
好景気に伴う急激な人手不足で、就職においては完全に売り手市場。1988年の大卒の有効求人倍率はおよそ2.5倍、1991年には3倍近くにまで達したと言われています。しかし一方で、政府の公定歩合引き下げや総量規制によって、90年代に入ってからは株価・不動産価格の急激な下落が起こり、やがてバブル景気は終わりを迎えます。
本作は、中国のモバイル版も含め、世界での販売本数が40万本を越えたとのことです。つい先日までは中国語(簡体字、繁体字)しかなかったので、プレイヤーのほとんどは中国語圏の方でしょう。日本語版の方は、今年8月にクラウドファンディングを行い、目標額の50万円を上回る237万円を達成したことでリリースが決定しました。現在、iOS/Androidでリリースされており、Steamで配信中の本作も10月23日より日本語サポートされています。いったいどんなゲームなのか、さっそくプレイしてみましょう。
2人の主人公の過去
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ゲームはヒロイン・櫻井栞奈(さくらいかんな)の子どもの頃の母親との思い出から始まり、それからクレジット入りのオープニングムービーが流れます。本作では、日本人キャラは日本の声優が、中国人キャラは中国の声優が担当する形になっていますね。
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ムービーが終わると、栞奈が松葉杖状態でストーリーが始まり、そこから回想シーンとなります。栞奈の家は両親とも共働きで、栞奈自身もバイトに明け暮れた生活をしていました。彼女には絵美という8歳下の妹がいて、心臓病を患っています。その治療費のために、家族総出で働かなくてはならないようです。
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近所に住む佐藤という5歳上のお兄さんが、栞奈に割の良いバイトを紹介してくれました。車で送ってくれるとのことです。何か知らないおっさんが後部座席に乗っています。「週1回3時間、月7万円」の仕事だそうで、もはや怪しさMAXです。
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割の良すぎるバイトの正体は、要するに「援助交際」というやつですね。1996年には流行語大賞に取り上げられるほど広まった言葉ですが、最近では死語になったのか、ほとんど聞かなくなりました。
ヒロインは仕事を断ろうとしますが、佐藤は自分にも仲介料が入ってくることから、必死で引き留めを始めます。ヒロインは「もう帰ります」と、走っている車から飛び出してしまいました。その結果が、現在の松葉杖です。
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場面は変わり、次は中国側の主人公である景蕭然。「景」は、本作では日本語でも中国語読みの「ジン」になっています。1987年において、景は大学受験に失敗してしまいました。
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大学で飲食店経営を学ぼうと思っていた景ですが、受験失敗後には役所の斡旋で飲食店に就職。店員として忙しい毎日を送っていました。好きな仕事ではないのですが、そのまま惰性で一年ほど働いてしまいます。
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また栞奈に話が戻ります。退院した栞奈は、母親と共に家に帰りました。あと半年は松葉杖のままで、治っても走ったりなどの激しい運動はできないそうです。そして帰り道、近所の人たちが栞奈を見てひそひそ話をしていました。
母親の話によれば、栞奈が足をケガした時、運転をしていた佐藤は事故って、後部座席に座っていたおっさん共々死んでしまったそうです。噂はあっと言う間に広がり、佐藤の母親にまで責められる栞奈。地元にいられなくなり、また妹のためのお金も必要なので、バブルで好景気とされる東京へ行くことになります。
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一方の景も、現在の暮らしに不満を持っていました。東京が好景気だと聞き、お金を稼ぐために日本へ旅立つことを決心。そして物語の舞台は、東京へと移ります。
東京でのアルバイト探し
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ジャージ姿で原宿に到着した栞奈。東京観光をする暇もなく、さっそく公衆電話からアルバイト先へ電話を掛け、面接の申し込みをします。しかしジャージ姿が悪かったのか、どの面接でも断られてしまいます。
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不動産屋でアルバイトを申し込んでみましたが、パソコンが使えないとダメだそうです。しかし不動産屋のお姉さんが親切な人で、いろいろアルバイトを紹介してくれました。ただ「コンパニオン」や「ディスコ」の仕事などで(時代を感じますね)、栞奈にはどれも無理。
最後に紹介されたのが、「解体前の建物に住むこと。期間は1年間、時給は400円」という仕事。時給400円は安いと思いましたが、住むなら24時間ずっと時給が入るわけで、日給で考えると9,600円になりますね。しかも1年なら年収350万円ぐらい。住むだけでこの金額なら、かなり割のいい仕事と言えます。
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少し時間は戻り、景はコンテナ船に揺られ、中国から東京にやってきました。「変な格好」で歩いている日本人を見て、戸惑っている様子。公衆電話を見るのも初めてのようですが、仕事先に電話を掛けなければなりません。
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テレフォンカードを入れ、教えられた通りの番号を回すと、江小墨という人物に掛かりました。「金になる非合法な仕事か、そうでない仕事のどちらをするか」を聞かれ、「そうでない仕事」を選びました。江は、金になる仕事以外は紹介する気はないようですが、「奇妙な仕事」があるので、それを景に紹介します。
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話は栞奈の方に戻り、1年間住まなければならない家にやってきました。家と言うか、古い駅舎みたいですね。電気や水道は通っているそうなので、思ったより楽なアルバイトかもしれません。
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建物に入ろうとした時、栞奈は景と出会ってしまいました。景の方も、江からこのアルバイトを紹介されたのでしょう。景は中国語で「出ていくよう」栞奈に言いましたが、栞奈は景が何を言っているのか分かりません。ここから出ていくよう言われているみたいなので、「あなたが出ていきなさいよ」と日本語で言い返します。
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不動産屋のお姉さんの登場。どうやら「社長」が景を雇ってしまったようで、ダブルブッキング状態になってしまっていました。定員は1名、どちらかがクビになります。割のいい仕事なので、栞奈も景も引きません。
そこでお姉さんは、「給料を半額にして、2人とも雇う」と提案してきました。一気に半額になってしまいましたが、他に仕事もないので、了承するしかない2人。こうして栞奈と景の共同生活が始まることになります。
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ここでAnnabelの歌うオープニングテーマソング「都市之歌~街の歌~」が流れます。Annabelはアルゼンチン生まれ・日本育ちの女性歌手で、「ローゼンメイデン」「ナルキッソス~もしも明日があるなら~」といった多数のアニメ・ゲーム主題歌などのボーカルを担当しています。本作のテーマソングは、日本語と中国語が混ざった歌詞になっているのが特色ですね。
東京でのアルバイト探し
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言葉も通じない男の人と同居することになった栞奈。とりあえず駅舎の中を探索してみます。風呂やトイレ、ガスコンロの置かれた給湯室もあり、生活するためのものは一通り揃っているようです。
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景はタイムシフト表を作っていました。細かい文字で日付と時間がびっしりと書かれています(しかも10分単位で)。結構几帳面な性格なのかもしれません。
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駅舎の中で人が住めそうな場所は、待合室と宿直室の2部屋だけです。部屋割りですが、言葉が通じないのでジェスチャーなどで意思疎通を図る2人。「待合室に住みたい」という栞奈の意思が通じたようで、景は宿直室へ行きました。
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部屋の鍵を買いに原宿へと出掛ける栞奈。ついでにアルバイトが決まったことを、公衆電話で母親に報告します。その帰り、どうやら栞奈の服装はダサいようで、バブリーな服装をした女性たちに絡まれ、「田舎者はここへ来るな」と言われました。東京は怖い所ですね。
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駅舎に戻ると、10分単位のタイムシフト表に、栞奈が不在だった時間を書き込む景。アルバイト代は単純に折半かと思いきや、いない場合は欠勤扱いになるようですね。
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さらに駅舎の電灯が点かないことが判明しました。どうやら電気が来ていないようです。店が閉まる前に必要な物を買わなければならないのですが、景も外出したい様子。話が通じず、景は自分の買い物をするために外へ出ていってしまいました。
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買い物に出た景は、夕食をどうするか考えていました。しかし弁当屋はすでに閉まっていますし、レストランでは簡単な食事で1,500円とかなりの高額です。このころの中国は、都市部の役人で月給100元ほど。日本円にすると3,400円ですので、1食で半月分の給料に相当します。景にとっては、アルバイト代が半分になっても十分な金額だと感じているようです。
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結局夕食を取らず、蝋燭だけを買って戻ってきた景。自分の部屋である宿直室で休むことにしました。2人のアルバイトですが、これはいわゆる「占有屋」の仕事です。人が住んでいると建物を壊すことができないので、立ち退き料を吊り上げることができます。バブル期は特に占有屋や地上げ屋など、暴力団の活動が活発化していた時期でもあります。景は日本で働いてお金を貯め、もう一度大学を受験しようと考えていました。
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翌朝、栞奈は不動産屋のお姉さんに会いに行き、電気が通っていないことを伝えました。業者を手配してくれるとのことですが、1週間ほど掛かるそうです。電気無しで1週間の生活は厳しいですね。
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そして外を歩いていると、またもやジャージ姿をバブリーな女性たちから馬鹿にされる栞奈。東京の人でもジャージぐらい着るとは思いますが、このバブル期の世界においてはやたらとステータスの低い服装のようです。
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一方、日本の物価の高さに躊躇して、いまだに食事をしていない景。300円のノリ弁にも手が出せない様子です。ちなみに筆者が以前教えていた河南省の大学内では、一食10元(約160円)もあれば十分でした。ただ上海などの都市部は物価が上がっていて、場所によっては日本より高いです。
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弁当を買うべきか買わざるべきかで悩んでいると、景の雇い主である江の登場。2人の会話はすべて中国語で行われています。江は景に「ヤバい仕事」をさせたがっているようですね。しかし将来大学を受け直そうと考えている景は、給料が良かろうと、リスクを取るわけにはいきません。
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景は帰宅し、栞奈に買うよう頼まれていた箸とスプーンを渡しました。しかし栞奈は「弁当」を買うよう頼んでいたので、怒ってタイムシフト表に自分の欠勤を書き込み、買い物に出掛けていってしまいます。翌日も機嫌の悪い様子。言葉が通じない状況というのは厳しいですね。果たして2人の共同生活は上手くいくのか、続きはぜひ自身の手でプレイしてみてください。
テンポの良い展開のビジュアルノベル
本作は「日中共同開発」という点を抜きにしても、ビジュアルノベルとして面白く、テンポの良い作品に仕上がっています。特にモバイルでの配信を意識した作りで、1チャプターが10~20分ほどの短さになっています。
本作は中国から来た青年の景が、日本の様々な文化や裏社会に触れていくという展開で、中国のユーザーからすると興味のある内容と言えるでしょう。物価の高い日本でどうやって暮らしていくのか、実際のところ日本はどんな国かなど、景と一緒に体験していくことができます。本作が中国でヒットした理由もそこにあるのかもしれません。
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本作は日本語サポートもされており、本編の方は問題無く日本語でプレイできるようになっています。栞奈と景の子ども時代を描いたDLC「櫻色零落&景色蕭然」も10月10日に配信されましたが、残念ながらこちらはまだ日本語サポートされていません。現時点でDLCをプレイしたい場合ですが、Steamライブラリからゲームのプロパティで「言語」を「中国語(簡体字)」に切り替えてください。中国語版と日本語版はセーブデータが共通していないので、一回中国語版をクリアする必要があります(DLCはクリア後でないとプレイ不可)。その後、タイトル画面で「Extra」を選択し、「Sidestory」を選べばプレイできます。DLCの日本語サポートの時期については、以後また報告があるとのことなので、まず本編をクリアしてから期待して待ちましょう。
製品情報
『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』
開発・販売:Nekoday、Coconut Island Games、mirai works
対象OS:Windows
通常価格:3,080円
サポート言語:日本語、中国語(簡体字、繁体字)
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/1049100/_/
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字を日本の漢字に置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国ものを書いている作家。人生の理念は「知られていない面白いもの」を発掘・提供すること。歴史・シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、「マイナーゲーム.com」「マイナーゲームTV」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「西遊記」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」「天邪鬼な皇子と唐の黒猫」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。著者Twitter、「マイナーゲーム.com」Twitter。