日本最大の同人ゲーム見本市となる「デジゲー博2020」(以下、デジゲー博)。しかし今年はいつものような開催とは様相が違っていました。
新型コロナウィルスの影響により、著名なゲームイベントの多くが実地開催を取りやめています。そんななか、デジゲー博はほぼ唯一イベントの実地開催を行っています。
多くのゲームイベントは、実地開催の代案としてオンライン開催や動画配信での開催などを模索していました。しかしいくつかのオンラインイベントを取材しても、やはり実地開催の情報量に及ばないのが実情です。
筆者はいくつかオンライン化したイベント取材を経て、デジゲー博で久しぶりに実地イベントに参加したかたちでした。そこで痛感させられたのは、ゲームイベントの価値そのものです。
いま、新型コロナウィルス流行下でのゲームイベントの運営について、各所で議論が見られます。そんな中開催された今回のデジゲー博は、ある意味でコロナと共生したゲームイベントとして興味深いものがありました。今回はデジゲー博のイベントレポートとともに、準備会へのインタビューをお届けします。
厳密な対策を行ったイベント開催
秋葉原UDXの2階、デジゲー博の会場の入り口前にて、準備会スタッフは来場者の体調を厳密に確かめてから、会場に送り出していました。入場のチェックで額に非接触型の体温計を向けられ、問題がなければ消毒用アルコールを手にまぶして会場へ進んでいくかたちです。
いつものデジゲー博と比べれば、いささか重々しい雰囲気がありました。しかし今この時期にイベントを開催するためには厳密にならざるを得ないため、準備会側は当然の処置を行っていたのは確かでした。
すでに全国的に新型コロナウィルスの感染者数は増加している傾向にあり、東京都内でも400人を越える感染者の発表が続いています。筆者も感染拡大の状況を踏まえ、今回のイベントを取材するまえに防疫を徹底しました。マスクの装着から除菌シートの準備はもちろん、一度家の外に出たら絶対に顔は触らない、爪は深爪にしていく(爪の間にウィルスが溜まりやすくなるため)など、細かく準備をしていたのです。
すこし重苦しい雰囲気にて、今回のイベントへと参加しましたが、会場に入れば例年どおりの活気が見られました。様々なサークルに来場者が集まり、ゲームを試遊していったり、グッズを購入していったりする。クリエイターが友達や顔見知りと話をしていたりする、いつもの風景です。
当たり前のような風景ですが、少なくとも筆者にとって、今年のゲームイベント全体でまったく見ることができなかった風景でした。現行のオンラインイベントの場合、来場者どうしが軽く交流することも、会場内を歩くうちに偶然おもしろそうなゲームを見つけ、試遊しながらクリエイターと話すというようなことが難しいからです。
今回デジゲー博の準備会を代表する江崎望氏にお話をうかがうと、まさしくオンラインイベント化によって個人や少数によるゲームクリエイターが被る問題について語っていただきました。
実際オンライン化したイベントを振り返ると、やはり動画配信を主にするゆえに “来場者がいろんなクリエイターの作品に直接参加する”ことがどうしても弱まってしまう問題がありました。
さらに今年オンライン開催された東京ゲームショウ2020を振り返ってみても、メジャーな企業の発表は見られたものの、インディークリエイターの作品をチェックすることが難しい体制となっていました。
とはいえ、イベントを開催するにしても新型コロナが流行る状況では難しいことは変わりありません。江崎氏に「今回のデジゲー博も、オンライン開催という考えはなかったか」をうかがうと、オンラインゆえの問題に自覚的な回答をいただきました。
ザッピングが薄いということで、目に飛び込んでくるものがないですから。見る側の面白味が薄くなることと、出す側としてはゲームの露出が非常に限られてしまう。そういう点の厳しさですね。
同人作家の皆さんは、リアルで人に会えないことによるモチベーションの低下を強いられていて、これはゲーム側も、11月開催ならある程度は……という希望も込みで、リアルイベントを規模縮小でもいいから一回立ち上げようと思いました。
例年と異なる風景
しかし会場を簡単に回ると、やはりいつものデジゲー博とは違っています。全てのサークルにはアルコール消毒液や除菌シートが完備され、感染症の対策がされていることはもちろんなのですが、なによりもサークルの数がずいぶんと少なくなっていることに気づきます。
今回は感染症対策として、サークルの密集を避けるためにあらかじめ机スペースでの参加を参加要項にまとめています。他のサークルと距離を空けるように配置をお願いしていたため、例年よりも参加できたサークルが限られていたからです。江崎氏によれば、今回の参加者は「ほぼ半減」したとのことです。
いつもよりも、サークルの数が減ったことが、今回のイベントの雰囲気について影響があったように思うか? を江崎氏にうかがうと「いまの状況下を考えると、ちょうどいい密度かと思う」と答えてくれました。
たぶん、今より増えると入場制限があって、コントロールが必要になるため、来場者の集まり方がちょうどぴったりぎりぎりぐらいかと思います」
会場では冷たい軽く風を感じるときも。ふと会場のドアを見れば、換気のために開け放たれているのです。これも空気感染を避けるための配慮のためでした。
江崎氏も、いまの状況下でイベントを開催することについて非常に注意したことを説明します。
いくつかのサークルを取材しながら、会場をよく見るとちらほらと「サークルが当日に不参加になっている」という状況も見られました。スペースの机に、パイプ椅子が置きっぱなしに、準備会側からのアナウンスが書かれた紙が貼られたサークルがいくつも見られたためです。
例年でもこうした不参加はしばしばみられましたが、今回は感染拡大のニュースも目立ったこともあり、直前になってイベントの参加を見送るサークルがいくつもあったためです。江崎氏も、いまの状況下においてサークルが参加を見送る判断についても理解を示しています。
(当日、デジゲー博参加を見送ったサークルについて)非常に重要な決断をされたと思います。特に英断なされたと思ったのは、「自分自身は問題なかったけれど、ほかのスタッフに体調不良があり、念のため欠席します」という方がいたことでした。ほかの参加者の皆さんのことも考えた、重要な決断をしてくださったと思います」
“ウィズコロナ”以降のゲームイベントとは
筆者は今回のデジゲー博が久しぶりの実地イベントの取材だったのですが、やはり直接クリエイターに取材することや、現地を歩くことでわかる情報量の差は圧倒的でした。イベントに直接参加しなければ、試遊ゲーム、または見過ごされがちなゲームとの出会いの数も違ってくるからです。
これまで当たり前のことでもあったのですが、オンラインイベント化では、まだフォローしきれていない部分でもあります。ゲームイベントの目的として、参加したクリエイターが自作のお披露目をすることはもちろんなのですが、試遊をしながら制作意図を聞いたりするような、莫大な情報量を交換していく大きさをあらためて感じました。
またコロナウィルス以前より、ゲームイベントが実地開催とオンラインを織り交ぜる傾向も出てきてました。逆を言えばコロナウィルスに対応するためのオンラインイベント化は、ゲームイベントのオンライン化を進めた側面もあるといえます。
一方、デジゲー博での、動画配信やDiscordなどを利用したオンライン面の導入についての可能性を江崎氏にうかがうと、慎重な回答をいただきました。
そういったところとの兼ね合いもあって、うちらしいやり方の模索しようかと、しばらく時間をおいて考えたいです」
今回のデジゲー博にはいろんな論点があるように思えました。感染症対策をいかに徹底して、開催するか、オンラインイベントに舵を切る中で、あらためてリアルイベントの価値とは何か、そして、リアルイベントでなければ取りこぼされてしまうクリエイターたちといった問題です。
新型コロナウィルスが沈静化する状況や政策が取られることがもちろんですが、それ以降のゲームイベントのあり方についてを考えさせられるイベントとなっていました。