『サイバーパンク2077』の舞台であるナイトシティを歩くと様々なものを見かけます。
例えば、健康に悪そうな料理や、ヤバいファッションをした人々、街中で流れる意味不明な電波ソング、己の肉体を魔改造して武装するギャング達……。どれもサイバーパンクの世界観に沿ったものばかりで興味がそそられます。
そして、今回注目したいのがテレビです。

テレビは、主人公であるVの自宅だけではなく、ナイトシティの様々な場所にあります。
現実世界では、テレビはYouTubeやNetflixなどに人気を奪われつつありますが、2077年のナイトシティではまだまだ娯楽として現役。ただ、この時代のテレビ番組は表現規制がなくなっているようで、セクシーなお姉さんがほぼ生まれたままの姿でテレビ画面に登場していました。
こういった過激な表現が過剰なまでに演出されているのは、そのコンテンツや商品をつくる企業が「過激だ」「悪趣味だ」「子供の教育に悪い」と批判する人々を金と暴力で徹底的に黙らせてきたからでしょう。ナイトシティでは、アラサカ社をはじめとした企業が、国家にも勝る権力を有しています。こういった権力にひれ伏したのが2077年のテレビ業界であり、企業が作り出した商品を人々に買わせるため、直接的に人間の欲望に訴える表現で描いているのかもしれません。
一方でプレイヤーにとってテレビは重要な情報源です。現実世界で暮らす我々にとって2077年のナイトシティがどのような情勢になっているのかわからないのですから。

特に面白かったのがトークショー番組。その内容は、コルバー牧師とリー氏のふたりが、物語の要として登場し、不老不死を約束するインプラントである「レリック」について、2077年の価値観をもとにその是非を議論するというものです。
最終的に、司会がコルバー牧師に対して「教会も死後の世界を約束し、家族を失った人から葬儀代を取るでしょう?あなたたちは競争相手が出てきて焦っているだけじゃ?」と偏った意見を出して議論は泥沼状態に。ここからもナイトシティの人々の考え方がわかり、街を探索したり仕事を請け負ったりする上で参考になることは間違いないでしょう。

ほかにも注目してほしいのがニュースです。メインストーリーを進めると、様々な事件が報道されるようになります。そこには当然主人公が関わったものもあるので、自分の行動がナイトシティの情勢を変えているという実感が湧きました。さらに、自分の行動には直接関係ない事件も同様に報道されると、この世界は生きているのだと改めて感じます。

また、他の番組では、サイボーグのパーツであるサイバーウェアが新型家電のように紹介されていました。ここからナイトシティの大半の人々は、自分の体を機械にすることに抵抗感を抱いていないことがわかります。

ツッコミどころ満載のコマーシャルも魅力的。SNSが発達している現実世界なら大炎上するであろうものが多数登場し、思わず筆者は「これはヤバいぞ……」口を漏らしてしまいました。この世界では、クレームに対応する窓口も存在しなさそうです。もし企業にクレームを送っても対応するのは冷酷な殺し屋なのかもしれません。
筆者は、本作の寄り道要素を満喫してからメインストーリーを進めるプレイスタイルで楽しんでいます。その理由は、ナイトシティに降り立つからには異世界からの来訪者になりたくないからです。
プレイヤーの分身であるはずのVは、我々と違って様々な情報を得ていますし、色々な経験をしています。一方で本作を始めたばかりのプレイヤーは、ナイトシティの情勢や2077年の科学技術、新ソ連の動向といった世界情勢について全くわかりません。そのため、筆者は、なるべくVに近づくための情報収集を行い、本作の理解を深めようとしているのです。
そのプレイスタイルを貫く上で、テレビは本当に重要な情報源でしたし、娯楽としても悪趣味ながら面白いところがありました。フィクサーからの任務に夢中になっている人も、たまには死体漁りを辞めてテレビ画面にかじりついてはいかがでしょうか。