日本を代表するゲーム『スーパーマリオブラザーズ』シリーズ生誕35周年のテーマソングとして制作された、星野源さんによる楽曲「創造」が2月17日にリリースされ、オフィシャルMVも公開されました。過去にも「ドラえもん」など、その作品愛を込めた楽曲を手掛けてきた人気アーティストの新曲は、任天堂とマリオに対する“敬意”がスゴイのです。
楽曲とMVともども「創造」には任天堂を彷彿とさせる音・歌詞・映像がてんこ盛り。ファンからは「エモい」と評判になっているこの楽曲は、具体的にどう皆を喜ばせているのでしょうか。オフィシャルMVをもとに時間指定で解説していきます。
音楽関連その1:ゲームボーイ起動音
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まずは音関連のオマージュから。導入部分の0:06では、星野源さんが「ゲームボーイ」の起動音を鳴らします。あの「ティローン」という音で掴みはバッチリ。2:37のサビ前にも、同様の効果音が入っています。
音楽関連その2:ゲームキューブ起動音
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0:34と4:00には、「ゲームキューブ」の起動時の効果音が使われています。同時に画面演出もゲームキューブ起動時の“正方形が画面上に展開されていく”形式に。
音楽関連その3:『ドンキーコング』ミス効果音
0:59には、アーケードゲーム『ドンキーコング』でミスをした時の効果音が入っています。『ドンキーコング』はマリオがはじめてゲームに登場した作品ですが、この頃はまだ名前がなく「ジャンプマン」と呼ばれていました。
なお、この効果音の後ろの歌詞が「僕は生まれ変わった」となっています。“ミスをした後に生まれ変わった”わけで、マリオがやられて復活するシチュエーションが込められているものと思われます。
音楽関連その4:マリオのパワーアップ効果音
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マリオがスーパーキノコなどを取ってパワーアップしたときの効果音が1:32で使われています。MVでは星野源さんも巨大化!
音楽関連その5:『スーパーマリオブラザーズ』&『スーパーマリオランド』楽曲
2:03からは『スーパーマリオブラザーズ』地上・地下BGM、『スーパーマリオランド』地上BGMなどが使われています。星野源さんは『スーパーマリオランド』の地上BGMが好きで、ゆえに本楽曲でも効果的に盛り込まれているようです。
また、2:05に『スーパーマリオランド』でミスをした時の効果音が聞こえます。この音の後に、歌詞では「死の淵から帰った」となっており、やはり「やられる → 復活する」といったゲームの流れを汲んでいるようです。
音楽関連その6:『スーパーマリオブラザーズ3』ステージクリア効果音
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2:36には『スーパーマリオブラザーズ3』でステージをクリアしたときの効果音が入っています。MVではコインが舞っており、これも確かにマリオを象徴する重要なアイテムですよね。
音楽関連その7:『マリオカートWii』レインボーロード
人気レースゲーム『マリオカートWii』のレインボーロードのメロディが2:58から使われています。
音楽関連その8:あの効果音が勢揃い!
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3:28からは『スーパーマリオブラザーズ』の有名な効果音がたくさんサンプリングされています。敵を踏みつける音、ファイアボールを投げる音、甲羅のぶつかる音、クッパが炎を吐く音、クッパを倒したときの音、そしてブロックを壊す音が盛り込まれています。
MVではバランスボールを踏みつけるシーンがあり、これもマリオをイメージしているのかも。
歌詞関連その1:「非常識の提案」
続いては歌詞に関するオマージュを紹介します。0:43ごろ「非常識の提案」という歌詞が出てきますが、これは任天堂の社長を務めていた故・岩田聡氏の言葉を意識したものと考えられます。岩田聡氏は2008年10月の決算説明会でこのような発言をしていました。
「DSは限界普及台数に達したのではないか」、「任天堂のDSやWiiのビジネスは今年でピークアウトするんじゃないか」というようなご指摘も受け続けております。確かに、従来と同じお客様に、従来と同じ方法でアプローチすれば、確かに過去の事例が参考になるでしょう。しかし、私たちは常に新しいお客様への提案を続けながら、ゲームの定義を拡大し、お客様の定義も拡大し続けています。お客様の定義もゲームの定義も広がっているのに、本当に過去の常識が通用するのでしょうか? 私たちは、これからもきっと、非常識と言われるような提案をするでしょう。それが任天堂という会社のありようだと、私は思っております。
世間から非常識と思われるような提案をする。それが現在に至るまで、多くのユーザーに驚きを与えてきた任天堂で受け継がれてきた血脈なのです。
歌詞関連その2:「直接に」
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0:48には「直接に」という言葉が使われていますが、これは任天堂がユーザーに直接、ゲーム情報を届ける配信番組「Nintendo Direct」でよく言われる言葉です。MVでは番組内で岩田聡氏がよく取っていた「直接!」のポーズも再現していますね。
歌詞関連その3:「独(いち)を創り出そうぜ」
0:49頃に出てくる「独(いち)を創り出そうぜ」は、ゲームの力で任天堂を世界的有名企業にした故・山内溥氏の考えからきていると推測できます。
山内溥氏は、“独創性を持つおもしろい商品を創り、それがようやく世間に認められて娯楽の市場が成り立つ”といった考えを持っていました。そしてその考えが岩田氏にも引き継がれていきます。
歌詞関連その4:「そうさYELLOW MAGIC」
0:52では「そうさYELLOW MAGIC」という歌詞が出てきます。日本の伝説的なテクノバンド「イエロー・マジック・オーケストラ」の由来に倣い、“YELLOW”が黄色人種を指しているのはほぼ間違いないでしょう。
現在こそゲーム市場は北米などの方が規模を拡げていますが、もともとは日本で大きく成長したものです。現在も任天堂を含め、世界に名だたるゲーム会社がたくさんあり、そのリスペクトを込めて「YELLOW MAGIC」という表現を使われているのではないでしょうか。
歌詞関連その5:「配られた花 手札を握り 変える運命を」
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1:13からの歌詞を通して書き起こすと「配られた花手札を握り」となり、“花札”という言葉が浮かび上がります。任天堂は創業初期に花札やトランプの製造・販売をしており、そこから時代の変化を通じてゲームの会社になりました。そのオリジンを表現しているのでしょう。
歌詞関連その6:「枯枝咲いた場所から 手を振る普通と バタつく未来を 水平に見た考案」
2:44から始まる歌詞「枯枝咲いた場所から 手を振る普通と バタつく未来を 水平に見た考案」は、故・横井軍平氏の格言「枯れた技術の水平思考」を表しているものと思われます。横井軍平氏は「ゲーム&ウオッチ」や「ゲームボーイ」を手掛け、『スーパーマリオランド』や『ファイアーエムブレム』シリーズではプロデューサーを務めた、任天堂の玩具や初期ゲーム開発を支えた重要人物です。
「枯れた技術の水平思考」は、“すでに広まっている技術を使いつつも既存の概念に捉われずに新しい発想をする”という哲学。この考え方により“コストを抑えて新たな体験を提供できる商品”として「ゲームボーイ」などが産まれました。この哲学はその後も引き継がれ、ニンテンドーDSやWii誕生のヒントになったと言われています。
映像関連その1:ゴール前の階段
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続いては映像で登場するオマージュを解説。0:44には『スーパーマリオブラザーズ』をはじめとする、2Dマリオシリーズでおなじみの「ゴール前の階段」が出てきます。
映像関連その2:指のスナップ
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0:49では指を鳴らす映像が出てきます。これは「ニンテンドースイッチ」の「カチッ」という音を表現するために「Nintendo Direct」などで使われている動きで、それをオマージュしたものと思われます。
映像関連その3:マリオのジャンプポーズ
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0:50には星野源さんがマリオのジャンプを再現しています。
映像関連その4:バーチャルボーイを意識した赤い画面
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0:59では星野源さんが赤く表現されていますが、こちらは1995年に発売された「バーチャルボーイ」を意識したものと思われます。バーチャルボーイは真っ赤な画面で立体視を楽しめるのが特徴のゲーム機で、時代を先取りしすぎたゲームと評されることも。ちなみにバーチャルボーイを発案したのは横井軍平氏です。
映像関連その5:『パンチアウト』?
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星野源さんが1:22あたりでボクシングパンチをしています。これはもしかすると、任天堂が1983年から展開しているボクシングゲーム『パンチアウト!!』のオマージュかもしれません。
この作品ではマリオがレフェリーとして出演しているので、全くの無関係ではないはず……!
映像関連その6:「13.09.1985」
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2:02から、MV映像の左下に「13.09.1985」と表示されます。こちらは『スーパーマリオブラザーズ』の発売日である1985年9月13日を示しています。
右上には“SOURCE IPHONE”と書かれており、実際にiPhoneで撮影された映像が使用されているようです。なお、岩田聡氏は無類のApple好きとしても有名で、生前はMacBookを愛用していました。それを意識しているのかもしれませんね。
映像関連その7:「2001 09 14」
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2:32からは画面右側に「2001 09 14」と表記されています。2001年9月14日は「ゲームキューブ」の発売日ですね。
MVの中盤あたりからインクで壁などを汚す演出が入り、水でそれを洗い流すのが2:34頃。マリオがポンプに入った水で、世界を綺麗にしていく『スーパーマリオサンシャイン』のオマージュなのでしょう。
映像関連その8:『スーパーマリオ オデッセイ』のダンス
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3:39で画面上部に映っている、赤いズボンを履いている人物は『スーパーマリオ オデッセイ』のテーマソング「Jump Up, Super Star!」のダンスを模しているようです。マリオもノリノリで踊っていた振り付けにそっくり。
以上となりますが、本稿でご紹介できたのは、あくまで筆者が確認できた範囲のみ。まだまだ「任天堂とマリオへのリスペクト」が隠されているかもしれませんので、ぜひ楽曲とMVをウォッチして、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズをはじめ任天堂が生み出したクリエイティブの歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。