今から15年も前の2005年。
まだガラケーの時代で、SNSはmixiが丁度全盛期手前位。当時の筆者は今とは全く違う仕事をしており、激務に明け暮れていました。今でこそライター業を抜きにしても色々なゲームをプレイしていますが、当時は重度の音ゲープレイヤーで少ない休みにはゲームセンターに入り浸っていました。
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そんな折「アーケードに挑戦的な音ゲーが出たよ。」と、これまた当時全盛だったテキストサイトで知ったのが『アイドルマスター』でした。初回プレイに500円、1プレイ200円/3プレイ500円という当時の大型ゲーム筐体の値段としてはやや剛毅な価格設定だった本作品。
あまりに高い育成難易度を誇る如月千早を初見で選んでしまった、当時一緒にプレイしていた友人が、烈火のごとくキレた(後に真Pになる)様子を見たのものも懐かしい思い出です。反面筆者は、オーディションパートの戦略的で変則的な音ゲーバトルに心を掴まれ、律子Pとして撤去までプレイしていました。
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その後2007年、Xbox 360の看板タイトルとしても発売された本作品。筐体ロスとアイマスをプレイしたかった筆者は本体とセットで購入することに。本体が一日遅れでソフトだけ先に届いたことやファンディスクでもあった『ライブフォーユー!』を買ったことなど、昔とはいえ今でも思い出せるくらいです。
ですが、仕事があまりにも激務だったことで自由にゲームなどができなくなった筆者のアイマスの思い出はDSの『ディアリースターズ』から一気に今回の『スターリットシーズン』へと飛んでいきます。各種コンテンツをある程度は知っているものの「今更Pとしてアイドルマスターをプレイできるのだろうか?」という不安と「PCゲームとして初めての『アイドルマスター』」という側面へのワクワク感をどうしても抑えられない筆者は恐る恐るスタマスを予約しました。
昔の話はここまでにして本記事では、今作品の詳細なレビューをお届けしていきましょう。
ゲームの流れやシステム面などは以前の爆速プレイレポでも紹介しておりますので、そちらを是非ご覧ください。
シリーズを超えて繋がる結束と絆
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本作品では過去シリーズのアイドルをピックアップしてプロデュースするのではなく、各シリーズから選ばれた複合アイドルグループ「プロジェクトルミナス」をプロデュースする形となっています。過去シリーズではプロデュースしているアイドルのみと向き合うシナリオだったものが、『ディアリースターズ』のメインシナリオのようなチームアイドルたち全員に焦点があたるようになりました。
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主人公でもあるプロデューサーが1年の海外研修から帰ってきたという設定のため、昔馴染みであるメンバーと違い、他事務所のメンバーとは初顔合わせということからも、DS以降の知識があまりない筆者であっても、各シリーズのアイドルがどういう人物か分かるようにプロデュース最後まで満遍なく人物像が分かるように導入があり、後述する歌唱制限の影響でシナリオ内でも彼女たちをシリーズが偏らないようにバラけて起用できるよう割り当てられていたため、全く知らない他シリーズへの導入もスムーズで他アイドルにも興味が湧きました。
これだけの人数ですっと入り込める導入や、シナリオの組み立てが上手い構成になっているのは流石というべきでしょう。
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コミュニティを通して担当アイドルのことを知るのもシリーズ共通ではあるのですが、事務所を超えたグループ全員のコミュニティは人数も多いうえに、テキスト量、選択肢別による結果、音声数も膨大なことになっています。本作品のコミュニティの真価はクリア後にあり、クリア後はプレイ済みの全てのコミュニティをリプレイ再生することができます。本編では選びにくかったバッドコミュニケーションの結果なども見られるためアイドルの色々な反応を改めて見ることができ、また違った側面が楽しめました。
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初見には厳しいが達成感が非常に強い音ゲーパート
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本作品には明確なゲームオーバー条件が存在します。とはいえゲームオーバー時には日数をさかのぼってやり直すことはできるのですが、月末のオーディションのクリア条件も相まって中々の鬼門になっています。特に後々解禁されるメドレースタイルではちゃんとレッスンや強化を行っていないと簡単に足元をすくわれるでしょう。
オーディションでは音ゲーに変動するのですが、アイマスは元来特殊なスタイルの音楽ゲームでクリア目標に対するアプローチの多さが魅力のゲームでした。本作品でもフルチェイン(フルコンボ)してもクリアできないという場面も存在しており、そのために組み合わせやユニゾンアピールのタイミングなども考える必要があります。
ただそのせいかオーディションパートはかなり忙しなくなり操作も多いため、音ゲーに慣れてないユーザーや、多操作が前提の音ゲーが苦手なユーザーは非常に苦労するでしょう。特にスターリットシーズンのようなタイプの音ゲーの場合は、BPM(曲の速さ)が上がれば上がるほど更に難しくなるのですが、一曲あまりにも速い曲がありストーリー上プレイ必須のため詰まるユーザーもいるのではないかと若干危惧しています。
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だからこその苦労を乗り越えた際の達成感は強烈でライブパートをしんみりとプロデューサー目線で眺められるというのもあるのですが、これも思い返してみればアーケードの勝利時ライブの感覚なのだろうなぁと、今このレビューを書きながら15年前を思い出してしまいました。
過去から抱える問題点とスタマス自身の問題点
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Xbox 360でアイマスが発売された際に大きく取りざたされたのはDLCの数と値段でした。本作品でもアイドル個別の作品中メール機能が有料であることや、アイドルを自由に組み合わせてライブを行える「STAGE FOR YOU!」モードの演出の別売りなどがSteamコミュニティなどでも国内外含めて議論の的になっています。
とはいえ、DLCの値段に対しては筆者は妥当だと思っています。その根拠としてはアーケード版からさしてその値段は変わっていないという点にあります。メール機能に関してはアーケード版から存在しており、こちらに関しては月額でのキャリアサブスクリプションだったためサービスの終了まで値段は青天井でした。実際に携帯にメールが届き、そのタイミングでプレイするとボーナスが付くという仕様で、開発者のインタビューからキャバクラメールとも言われていたりしました。
解散時やエンディング後にも特定のメールが届くなどちょっとしたおまけもありましたが、アケマスプレイ時にはタイミング次第ではワクテカメールともいわれる有用な機能でした。流石に当時のメールはガラケーだったことで既に見る手段も失われてしまったので悲しいところです。
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それを踏まえ、本作品で提示される作品世界に合わせた大量の文章や、それぞれのイベントと連動して届くメッセージの数を考えてみれば、メール機能に関しては当時より若干割高とはいえアリかなと十分に言えるものではないでしょうか。
一方で、DLC戦略の不備を感じてしまったのは事実。具体的にはデラックスエディションの付属DLCに関してとなります。同エディションでは特典としてエンディング後のDLCシナリオが付属していますが、この代わりに、よりゲームプレイに直結するメール機能が付属すべきだったのではないかと感じました。もし、この付属DLCが逆になっていれば、ここまでメール機能DLCについてあれこれ言われることはなかったのでは?とも思ってしまいます。
たとえ値段自体が妥当であっても、シリーズ伝統のメール機能販売を伝統のまま販売してしまったことが、各アイドルそれぞれの個性が楽しめるコンテンツの良い部分がシリーズ経験の浅いユーザーに全く伝わらないままに値段だけで忌避され、SNSでの揶揄ネタとなったのは、非常に売り方としても悪手だったのではないでしょうか。
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各種演出の別売りに関しても筆者は妥当だと感じています。これについては元々自由演出が目玉だった『ステージフォーユー』が別売であったことが大きい点でしょう。むしろ別売りの演出機能がなくとも色々設定して楽しめるのは過去作品から考えればかなりユーザーフレンドリーになっており、逆に「衣裳とかDLCを色々買わなくていいのか!」と驚いた位です。
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ですが、スペシャルアイテムのDLCに関しては同じバンダイナムコの『TALES OF ARISE』と比較しても難易度の緩和という点でも、半必須でもないという点では不要でしょう。マニーもシードもあれば楽にはなりますが、筆者はDLC未適用かつシードも未使用でクリアまでプレイしており、ゲーム内で稼げるマニーだけでも十分な余裕を持ってクリアは可能です。
難易度が高い部分は確かにある本作。それでも、テンション/スケジュールコントロールとオーディション必勝が必須だったアーケード版(Xbox 360版は更に簡易になっている)のことを思えば圧倒的に簡単にはなっています。当時アーケードをプレイしていた筆者だからこそ思うことなのかも知れませんが……。
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一方でDLCの話を離れて本作の問題点を上げるならば、やはり際立ってしまうのは楽曲の歌唱制限でしょう。鶏が先か卵が先かというのは置いておいてシナリオ中では設定上それで良かったところでも、「STAGE FOR YOU!」モードで全員を制限なく組み込めるようになると楽曲に対しての歌唱スタイルの変化が感じられないのはやはり気になります。それがシリーズにおける一つの楽しみでもあったこともあり、全歌唱には対応してほしかったというのが隠さない筆者の本音です。口パクで踊る彼女たちを見るのは流石に違和感があります。また、新規楽曲自体も少々少ない気がします。
ただし、これらについては今作のアイドル数の増加とそれに伴う声優の人数などを鑑みれば、今回ばかりはコロナウイルスの情勢もあり、涙をのんで我慢するところではあるのかも知れませんが。
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そしてスタマスが抱える一番の問題点、それは「モーションの使いまわし」ではないでしょうか。
特に菜々の多用する特徴的なモーションの使い回しがわかりやすく、見ている側としては他キャラの同モーションに対して「菜々のモーションの流用」の印象をどうしても抱いてしまいます。こちらも楽曲関連同様に、人数が多いという点では仕方ない部分も多少はあるのですが、結構な頻度で目にしてしまうためかなり気になりました。
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最後に
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15年前アーケードで100円を積みながらプレイしていた時には、Xbox 360からソーシャルゲームと、まさかここまでの長期ゲームかつゲーム業界の看板タイトルの一角となるなんて思ってもいませんでした。
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モーションの使いまわしの件はおいておいてもUnreal Engineで新たに練り直されたグラフィックは良くできており、レイトレーシングの対応などで更に綺麗に、かわいくなったアイドルと触れ合えるのも新鮮でした。モデルクオリティは流石というところです。
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個別プロデュースの過去作品も悪かったわけではないのですが、今の、3桁を超えるアイドルがいる規模となったシリーズ全体を考えると本作品のようなピックアップされたアイドルの群像劇というスタイルの方が、何周もプレイしなければならない個別プロデュースと違って、時間に追われる昨今のゲーム環境としては機能していると思います。
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あげつらえばUI/UXに関しては、筆者自身の本業がデザイナーであるということもあり、その視点で見れば不満点がないわけではありません。ですが、あげつらうとまでわざわざ書くくらいにはその程度の不満でしかないのです。
総体で見れば本作は『アイドルマスター』というシリーズの入門作品、もしくはプレイヤーが触れていなかった他作品の入り口として万人に間違いなくお勧めできる作品でしょう。音ゲーパートの難しさこそありますが、『アイマス』シリーズにある、「誰も置いていかない優しさ」と「仲間との結束」を全面に押し出したシナリオは決して悪くありません。
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『アイマス』という作品に一度でも興味が持ったのであれば本作品をプレイしない理由はありません。15周年の記念碑作品ともいえる本作品は、『アイマス』という長いシリーズ世界への飛び込み、他作品の足掛かりとして自分の推しや担当アイドルを探すための第一歩には最適です。
DSからかれこれ10数年ぶりの家庭用『アイマス』でしたが、筆者はこれまで馴染みのなかったアイドルに興味が非常に湧いたので改めてシリーズを追いかけようと思います。
総評:★★★
良い点
・復帰組にも新規にもスッと入りやすかった導入とキャラクターピックアップ
・Unreal Engineにより作り直された綺麗なモデルとレイトレースによる表現のクオリティアップ
・アーケード版にも近い戦略的なオーディションパート(音ゲーパート)
・他シリーズへと興味が自然に沸くキャラクターの魅力悪い点
・反面人を選ぶ難易度を生んだオーディションパート
・Steamのバンドル販売などを上手く使っていないため、高額に見えすぎてDLCの価値を落としてしまったこと
・頻繁に目につく特異なモーションの使い回し