2022年1月5日、SIEはラスベガスで開催されたハイテクノロジーの見本市『CES 2022』にて、PS5用VRシステムの使用詳細や、PlayStationVR2という正式名称を発表しました。
初代PSVRはゲームの世界に入れてしまうという未来的体験に大きな驚きこそあったものの、性能上の制約等、不満が全くなかったとは言えませんでした。PSVR2では、基本的なスペックの大幅上昇とともに、PSVRの不満点が大きく改善されるようです。もちろん、まったく新しい機能だって搭載されます。
性能や機能のどこか良くなったのか、それはゲーム体験ににどんな影響を与えるのか、ご紹介していきたいと思います。
■より高精細に PSVRから大きく進化した基本スペック
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まずは、基本的なスペックを確認していきましょう。映像パネルですが、有機ELディスプレイで、解像度が片目2,000×2040。VRヘッドセットは片目に1つずつの映像パネルを用意するため、この解像度のものが2枚という形になります。ちなみにPSVRでは片目960×1080だったので、一気に2倍近くに跳ね上がりました。
視野角は110度で、PSVRの100度よりもさらに広がりました。VRヘッドセットを使うと、基本目の前すべてがゲームの世界になりますが、実際には見える範囲が決まっていて、頭を動かさずに視線を上下左右にもっていくと、映像が途切れる境目があります。その視界の広さが大きくなるため、ゲームに没入しやすくなります。
リフレッシュレートは90Hz/120Hzとなっています。90と120ということで差がありますが、詳細は発表されていません。おそらく条件によって変動するものと予想されます。リフレッシュレートはモニターが1秒間に描き換わる回数を意味します。この数値が高いと画面にちらつきが出にくく滑らかな映像が表示されます。VR映像を視聴すると気分が悪くなる“VR酔い”という現象が人によって起こる場合がありますが、画面が滑らかになることでVR酔いは軽減されると言われ、美しさだけでなく快適なプレイに重要な数字となります
ちなみにこの90Hz/120Hzという数字は、PSVRと変わりません。ただし、リフレッシュレートが120Hzでも、PS4ではゲーム機側が、120fpsで映像を出力するのが困難であるため、足りない分をPSVR側でコンバートして疑似的に120Hzにしているような場合がほとんどでした。ゲーム機がPS5になることで、ネイティブに90Hz、120Hzで出力できるようになるとすれば、体験としては向上する可能性があります。
色々難しい用語もありましたが、大雑把に言ってしまえば、PSVRよりも精彩で美しい映像が快適に楽しめそうだ、ということですね。また、非常に高価な機器でより高性能なものはあるものの、現在発売されているハイエンドVRハードウェアと比較しても、基本的には遜色ないスペックと言えそうです。
■アイトラッキングとフォービエイテッドレンダリング
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さて、解像度などのスペックとならんで重要となりそうな機能に、アイトラッキングがあります。これは人間の目の動きを感知する機能です。これによって、例えば、シューティングゲームで視線を使って照準をあわせるようなことや、アドベンチャーゲームでは注目するだけで情報が出るだとか、オンラインでほかの人と遊ぶときに自分のアバターの視線を動かしたりまばたきやウィンクを表現したりするなど、様々な可能性があります。
アイトラッキングのもうひとつ重要なポイントとして、フォービエイテッドレンダリングとの関わりがあります。フォービエイテッドレンダリングとは、VRで人間の視界を表現するときに、画面上のすべてを高解像度で描くのではなく、本物の人間の視界がそうであるように、視線の中心部分を高解像度にし、周りをぼかして表現する方法のことです。
自然な視野を表現しつつ、周りの解像度を下げることでハードウェアへの負担を軽減し、例えばフレームレートを向上させるといった、ほかの処理に性能を回すことができます。アイトラッキングが搭載されていないVR機器では、映像パネルの中心部の解像度を高く設定することになりますが、プレイヤーの視線がそれると中心部分がそれてしまうことになります。アイトラッキングを使うことで、常に注目している先を高解像度にしてより自然な視界を実現できます。
■実は重要!? 狭い部屋でも快適に遊べそうな接続関連
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PSVRを持っていた人の不満の1つにPS4との接続が非常に複雑である、という点があったと思います。PSVRではプロセッサーユニットというものをPS4とPSVRの間に挟んで何本ものケーブルを使って接続していました。接続が複雑なので、解説動画などが公式にあげられてもいました。一度接続を外してしばらく経つと、繋ぎ直すのが面倒に感じられることもあります。PSVR2ではこれがUSB Type-Cのケーブル1本になるということで大きく簡略化されました。このことはPSVRを使っていた人には本当に嬉しい進化だと思います。
もうひとつ、プレイヤーの動きを感知するトラッキングの方式が、PSVRのアウトサイドイン方式から、インサイドアウト方式に変わりました。アウトサイドイン方式というのは、外部のカメラなどを使ってトラッキングする方法で、PS4にPlayStation Cameraを接続し、ヘッドセットや、PlayStation Move モーションコントローラーの光を検知していました。
これがPSVR2ではインサイドアウト方式に変わります。インサイドアウトは、VRヘッドセットなど、プレイヤー側の装着物にカメラを仕込んでおく方式で、PS5にカメラをセットする必要がなくなります。しかもそれだけではないんですね。PS5側にカメラを設置する必要がないということは、カメラとプレイヤーの間の適切な空間というものも必要なくなります。カメラと自分の間に、顔はもちろん手元などを隠すようなものが置いていない状態で、一定の距離をとってというようなセッティングが必要なくなり、多少狭い部屋でも、周りにぶつからない程度の空間さえあればVRが楽しめるようになりそうです。
簡単に接続できて、広い部屋がなくても遊べそうというのは、ゲーム体験そのものとは関係ありませんが、PSVR2がより広く普及していくためには、最重要ポイントの1つかもしれません。
■ヘッドセットフィードバックとフィンガータッチ機能
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VR体験を向上させる映像以外の機能について。PSVR2のコントローラーは“PlayStation VR2 Senseコントローラー”といいます。手を包み込むような不思議な形をしています。PS5の“DualSense ワイヤレスコントローラー”と同様に、押し込んだ時にゲームと連動して抵抗を感じられる“アダプティブトリガー”や、微細で複雑な振動によって触覚に訴えかける“ハプティックフィードバック”を搭載しています。
注目の新機能としては、“フィンガータッチ機能”があります。親指、人差し指、中指が触れる3か所に、ボタンを押すのではなく触れるだけで指を検知する機能がついていて、これによって、例えばゲームの中のドアノブを握るような動作がそのまま自然にできるようになります。
VRではコントローラーはただのコントローラーではなく、プレイヤーキャラクターの手そのものにもなります。ゲームのコントローラーとしての機能性を確保しつつ、VR世界の手としても臨場感が感じられる作りになっているようです。
振動機能に関しては、ヘッドセットにも内蔵されています。これはおそらくほとんどのVR機器に搭載されていない機能ではないかと思います。ヘッドセットが振動することで、例えばキャラクターの脈拍、近くを何かが移動した気配のようなもの、乗り物に乗った時の加速などが表現できるようになるとのことです。VRで遊んでいると、本当にゲームの世界にいると錯覚するので、現実世界の誰かが肩を叩いたりすると、ゲームの世界の自分に何かが起きたと勘違いしてものすごく驚く時があります。触覚に働きかける機能が増えると、体験が大きく増幅する可能性がありますね。
■値段と価格は? 2022年内に発売する?
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さて、あと気になるのは値段と価格ですよね。残念ながらどちらも発表されていません。1つの可能性として、2022年の秋から年末商戦にかけて、あるいは2023年初頭には発売されると予想する人は少なくないでしょう。懸念点としては、世界的な半導体不足の中、ハードウェアの台数がどれだけ揃えられるか、という問題がありそうです。一方で、あまりに発売に時間がかかると、競合製品のスペックが上がっていくことで折角の新製品のインパクトが失われていくリスクもあります。
価格に関しては、おそらく比較されるのが、現状VR機器市場で最も大きなシェアを獲得している“Oculus Quest 2”でしょう。Oculus Quest 2は独立型で、PCなどと接続しなくても単独でVRを楽しむことができます。
このOculus Quest 2のヘッドセットやコントローラーの基本セットが4万円から5万円弱です。PSVRと“Oculus Quest 2”を比較すると、解像度やアイトラッキングの有無などでPSVRに軍配が上がる点がいくつもあります。しかし、PS5が必要だという点を考えると、Oculus Quest 2よりもずっと高い価格では、競争するのが難しくなるかもしれません。というわけで、ここら辺が、PSVRの時期と価格を考えるヒントになりそうです。
PS5本体もなかなか手に入りにくい現状がありますが、2022年のうちにより多くのユーザーの手にわたり、新しいVRの世界を体験する人が増えると嬉しいですね。