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2016年8月31日に遂にサービスが終わってしまった『Dance Evolution』をはじめ、コナミの音楽ゲーム作品の少なくない数は家庭用作品からアーケードに転換した珍しいパターンだったのは知っているでしょうか。
なかでも、全身を使用するタイプの音楽ゲームは、コナミスポーツと共同で開発した『MARTIAL BEAT』(こちらも家庭用ベース)に、キムタクの影響で当時ブームにもなったパラパラをベースにした『PARAPARA PARADISE』、そしてKinectを利用したXbox360/アーケードでの『Dance Evolution』しか過去にはありませんでした。(注釈:体を使うだけなら『Dance ManiaX』や『Dance Dance Revolution』、『DANCERUSH STARDOM』もありますが、全身の判定がメインの作品ではないため含めていません)
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当時のプロデューサーはコナミ音ゲーをプレイしている人ならお馴染みの前田尚紀氏。『Dance Evolution』では氏の楽曲の他、『PARAPARA PARADISE』で収録されていた一部楽曲も振り付けそのままに踊ることが可能でした。Kinectの認識能力が高いこともあり、ある程度の広さがあれば家庭用作品とはいえ、かなりのカロリー消費ができるほどよくできた作品で、アーケード版ではスペックの向上と業務用Kinectになったことで更に認識能力が上がっています。
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そんな全身体感型のアーケードダンスゲームの流れを汲む新作がついにアーケードに帰還しました。本記事では、2022年3月9日より稼働したコナミの新しい音楽ゲームである『DANCE aROUND』(以降ダンアラ)の詳細なプレイレポートをお送りします。
ダンスが出来なくても簡単に踊れる!
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本作品はアーケードゲームであり、全国のゲームセンター兼遊戯施設の「ラウンドワン」でのみ執筆時段階では稼働しています。ゲームの基本的な進行は至って簡単です。画面上のキャラクターと同じ動きをすることでダンスを行い、両手両足がリズム通りに動いているか、場面場面では同じポーズを行っているかという判定を行っています。
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現状でのゲームモードは二種類、前述の判定を行ってハイスコアを目指す"ノーマルスタイル"と完全に無視してオリジナルのダンスを行える”パフォーマンススタイル"に分かれています。今回の記事はノーマルスタイルをメインとしてご紹介します。
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初めてプレイした際はチュートリアルから始まります。チュートリアルでは画面上部で流れてくるタイムラインの動きに合わせて動く事と、同じ動きを繰り返すリピートフレーズ、同じ動きを逆に行うミラーフレーズの説明が行われます。色々と説明はあるのですが、結論として、画面上のキャラクターと鏡あわせで同じ動きをすれば全く問題ありません。
稼働時の現段階では各楽曲の振り付けもそこまで難しくはないため、低い難易度を選べば文字通り単調な動きが多めになっています。ここは過去稼働していた『Dance Evolution』と大きく違う点で、楽曲毎の振り付けは難易度でも変化があり、低い難易度では難しいモーションが無くなったり、ステップが簡単になっているなど初心者に対しても段階的にプレイしやすい構造になっています。
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本ゲームの判定の仕組みですが、筐体の中央部に付属している2台のカメラで両手両足の位置を動体検知し読み取っているようです。そのためか、コイン投入時、楽曲選択時にそれぞれステージ上のカメラ中央に立ってキャリブレーションを行う必要があります。
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一曲を踊り切れば判定結果に応じてランクとスコアポイントの算出となります。AAA+が最高ランクです。PASELIを利用していれば、2曲プレイ時のスコア合計が200を越えるとボーナスステージとして3曲目へと進めます。
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記事執筆時点の収録曲は有名版権曲ではU.S.A.や星野源の恋など、ダンスで有名になった物からNiziUなど幅広く揃っています。幅広い層に訴求するための童謡のリミックスや、コナミオリジナル楽曲もあるにはあるのですが、若干まだ曲不足かな?という感じは否めません。
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また、Pretenderや白日などはカバーですが、ダンスミュージック向けリミックスではなかったり。ファミリー層に向けた童謡のリミックスも、曲を聞けばわかる物の、邦名やひらがな表記でなく直感的にピンとこないのも、やや気にかかるところです。
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曲ラインナップはともかくとして、ゲームの判定自体は結構ファジーで、ある程度画面と動きが違っていてもPERFECT評価を取ること自体は難しくありません。難易度が高くなればなるほど判定箇所も増えるため、ある程度は正確に動く必要はありますが、低い難易度であれば判定に合わせて都度動きを付けるだけでも、評価は得られ、踊っている雰囲気も味わえることでしょう。
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この点に関しては『Dance Evolution』よりはダンス初心者向けにも勧めやすく、日頃運動不足なゲーマーにもオススメしやすいです(筆者は久しぶりに動きすぎて、その後全身筋肉痛になりました)。
『Dance Evolution』をプレイしていたから気になる荒い部分
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筆者は音ゲーにおけるUI/UXを挙げる際に、一番完成されている作品は『Dance Evolution』だとよく話しています。その理由ですが、コイン投入時のみのパネル操作を除いてプレイ中は選曲からゲーム終了までKinectを使った手だけの操作で完結していることに加え、チュートリアルから始まった後に、初めてプレイするにはどの曲からプレイすればいいのかという自然な流れが形成されていたからです。
反面『ダンアラ』では、そこはまだまだというところです。大きなものとしては、コイン投入→センサー→選曲→センサー→選曲と、何かをするたびにパネルとの操作の往復を余儀なくされ没入感が削がれてしまうことはいただけません。この仕様はカメラの性能の影響なのかも知れませんが、そもそもスタンドマットが筐体と結構距離があるので、物理的にパネルとの往復がやや面倒なのも気がかりです。本作の中では、大きく改善できるなら改善して欲しい点です。
また、チュートリアル後にも、選曲画面にいきなり放り込まれて「さぁ好きな曲を選びなさい!」とレストランのオススメメニューではなく、グランドメニューの中盤位を広げられてしまうのも難しいところです。
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プレイ自体で気になった点としては、プレイ結果と最終ノーツがかなり被り気味に表示されるのは改善して欲しいポイントです。踊りきった後のキメと言えるラストポーズにリザルトへの遷移が被ってくるため、曲によっては判定ポーズが分かりづらい場面もありました。
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プレイで最も気になったのが画面上部に流れている「タイムライン」と画面上の動きがうまく連動していなかったことです。結果として、タイムラインだけを見ているとかなりプレイしづらい作品となってしまっていました。
「タイムライン」自体は音ゲーらしい表示で、本来は円滑なプレイにはここを見てほしいという場所なのだとは思います。しかし、動きが分かりづらいだけでなく、ミラーフレーズの動きが逆になっていなかったのが決定打でした。画面中央のアバターの動きが真のため頭がパニックになります。
そのため、筆者は2曲目以降はアバターしかみないプレイとなってしまいました……チュートリアルでも「画面通りに動けば最終的には良い」というような説明で終わってしまっているので、タイムラインのデザインと立ち位置が開発の最終段階でも不明瞭なままだったのかなと筆者的には思っています。
なお、アバターには人間だけでなく、見た目が可愛くつい選んでしまいそうになる動物型もあるのですが、前者では足の動きが分かりづらく、後者では手の動きが分かり辛いという欠点を抱えているため、選ぶと難易度が意図せず上がってしまう上級者向けなのはちょっとした罠でしょう。
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参考として、Xbox360に『Dance Central』と言うKinectを利用した同タイプのダンスゲーム作品があるのですが、こちらはタイムラインが画面の動きと完全にシンクロしていて混乱しづらいデザインになっていました。
ここまでご紹介した本作、プレイング面でいくつかの不満点こそ目立ってはいますが、ゲームデザインの根本にある「誰でも簡単にダンスを踊る」というゲーム設計は達成できているのではないでしょうか。コロナ禍のせいで運動不足になりがちな今、ゲーマーとしての安直な「ゲームで運動する」という選択肢を解消するのにも本作は必要十分な作りです。
羞恥心?そんなものはとっくに20年以上も前『Dance Dance Revolution』をお立ち台でプレイしていた時代に捨てていますので……
※ UPDATE(2022/3/22):本文中、『MARTIAL BEAT』に関しての記述を修正しました。