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――“ハードコア”。この単語は「中核」「核心部」「(集団などの)強硬派」、または「過激」「危険」、ときには「攻撃的」だったりするモノを指すときに使われます。
過去にGame*Sparkで実施した「普通のゲーマーとハードコアゲーマーの違い」という大喜利企画では「ゲームクリアまでの時間(m)で競うのが普通のゲーマー ゲームクリアまでの時間(ms)で競うのがハードコアゲーマー」といった回答が寄せられていました。「ハードコアゲーマー」にはいろいろな形がありますが、「常軌を逸するレベルのやり込みプレイヤー」というのもひとつの条件に当てはまるでしょう。
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この連載企画「ハードコアゲーマー・インタビューズ」では「ハードコアな趣味やバックボーンを持つゲーマー」に焦点を当てた独自インタビューを不定期で実施。『バイオハザード』に熱い愛情を注ぐ新宿のSM女王様に続く第2回では、『スーパードンキーコング』シリーズのRTA(リアルタイムアタック)で世界レベルの記録を持つプレイヤーとんこつさんにインタビューを行い、RTAの取り組み方やいちゲーマーとしての素顔、そしてRTAシーンを象徴する「グリッチ技」についても訊かせていただきました。
――まずは、簡単な自己紹介をお願いします。ご職業やご趣味、「最も好きなゲーム」について教えてください。
とんこつ:とんこつという名義で、Twitchをメインに配信活動を行ってます。仕事は研究職で、ゲーム以外の趣味でいうとゴルフを多少やってたり。野球観戦も好きですね。
――「最も好きなゲーム」はどんなタイトルでしょうか?
とんこつ:『ヨッシーアイランド』ですね。世界観とかBGMが全部好きで。
――そうなんですね!『スーパードンキーコング』シリーズのどれかかと思っていましたが……たしか『ヨッシーアイランド』のRTAはされていませんでしたよね。
とんこつ:そうですね。『ヨッシーアイランド』に関しては、カジュアルに遊ぶままでいいかなあと思っていまして。
――いつ頃から『スーパードンキーコング』シリーズのRTAを始めようと思い立ったのでしょうか。
とんこつ:時期で言うと、4年前の2018年ごろでした。友人に勧められて『スーパードンキーコング2』の「102%(完全クリアを目指すカテゴリー)」を始めることにしまして。そのとき、新人大会というイベントが開かれる前だったので、それに出るために始めようと思ったんです。
――なるほど。
とんこつ:とはいえ、それは自分にとっての「最後のひと押し」で、きっかけがなくても遅かれ早かれRTAには挑戦していたのでは……と思っています。私の出身の東京大学では、やり込み系ゲーマーの友人が周りにとても多くて。「RTA」という言葉を生んだ「極限攻略研究会」というサークルも東大との関わりが深かったりします。RTAだけでなく低レベルクリアやスコアアタックといった遊び方も含めて、そういう洗練されたゲームプレイに美しさを感じる人達に囲まれた環境で過ごしてきた影響は少なからずあると思います。
もっと小さい頃まで遡ると、小学生の頃に“夏休みの宿題”ってあったじゃないですか。ああいうのも、もらった途端にすぐ解き始めるタイプで。宿題RTAってやつですね。日記とかも、ちょっとズルいですが天気予報を見て未来の分まで先に埋めていたりしました(笑)。
――その頃から資質があったのですね!親御さんもニッコリできる効率的なプレイです。
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とんこつ:あとは職業柄としても、RTAが向いている性格だと思います。本業は研究職なのですが、RTAっていうのも「知的好奇心の対象」なんですよ。ひとつのゲームをどこまで早く解けるか……ということに理論的興味があります。
――初めてお会いしたところで言うのもなんですが、だいぶ人柄が分かりやすく表れていますね。
とんこつ:そうかもしれません。RTAって、練習の成果がそのまま数字に出ますし。数値目標を達成するための道筋を考えて、それを実現するための努力をするのは昔からずっと大好きですね。
――たしかに、研究肌の方にとってRTAという遊び方は非常に向いているような印象を感じてきました。しかし一方で、ゲームには「乱数要素」というものもありますよね。いわゆるランダムなギミックでタイムが左右されたりもしますけど、これについてはどう感じられていますか?
とんこつ:ランダム要素はスパイスみたいなものだと思っています。全然ないと、それはそれで面白味に欠けるところがあります。特に『スーパードンキーコング2』はボス戦のランダム要素が序盤と中盤に2つあって、すごくちょうどいいんですよね。ランダム要素と実力要素のバランスが良いところも好きなゲームです。
――『スーパードンキーコング』シリーズのRTA走者としての記録についてお聞かせください。Speedrun.comを見ると、DKC2: Warplessで世界2位、DKC: Reverse Boss Orderで3位、そのほかGBA版では世界1位の記録を保持されているとのことでした。この「Warpless」「Reverse Boss Order」というのは、カテゴリー(RTAの際の特別ルール)のことですよね。
とんこつ:はい。「Reverse Boss Order(通称: RBO)」というのは、『スーパードンキーコング』に登場する6体の通常ボスを“6面→5面→4面→3面→2面→1面”という逆の順番に倒していくというカテゴリーです。一方で「Warpless」は、ワープバレルやグリッチによるワープを使わずにクリアするものですね。
――この「Reverse Boss Order」というカテゴリーは、どういった経緯で生まれたものなのでしょうか。普通に遊んでいたら有り得ない、ハチャメチャなルールに思えますが……。
とんこつ:『スーパードンキーコング』では「無の取得」というグリッチによって、あるステージから別のステージにワープすることができるんですね。2016年に「6面から1面に戻る」ワープが見つかったことで、それまで知られていたワープと組み合わせることで「逆順からクリアできるじゃん!」とプレイヤーの間で話題になり、そこから広まっていきました。
――なるほど。それをおもしろがりつつ、「このカテゴリーで記録を狙ってみよう」という流れができたのですね。
とんこつ:そのカテゴリーに私が参戦したのは、2019年のことでした。当時の世界記録は30分台だったんですけど、半年かけて国内外の有識者と協力して0からルートを再構築した結果、今は27分台になりました。6月下旬開催の「SGDQ 2022」でも、この「Reverse Boss Order」で出場する予定です。ちなみにですが、私は『スーパードンキーコング』シリーズRTAのメインカテゴリーの全種類を走っている唯一の走者だったりもします。
――全世界で唯一は凄まじいですね……!
とんこつ:『ドンキー1』だと9つ、『2』『3』だとそれぞれ4つずつの全17種類ですね。そういうのをコンプリートするのが好きなので。あとは「トリロジー」というのも好きです。「306%」カテゴリーでは、Speedrun.com上の世界記録を持っています。
――『ドンキー1』から『ドンキー3』を連続してRTAしていくというカテゴリーですね。かなり長時間のプレイになりそうです。
とんこつ:「306%」だと、だいたい4時間11分ですね。
――正直、肉体的にも精神的にも疲れませんか?
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とんこつ:なかなかの長丁場ではあります。でも、私はRTAやってて疲れることってないんですよ。
――本番はもちろん、練習でもかなりの時間をかけることになりそうですよね。
とんこつ:練習のときは、実行可能な目標を少しずつ立てています。トリロジーでいうと、最初に目標タイムを決めてから、『1』から『3』のどの作品にどれだけ練習時間を注いで、各作品の区間タイム目標をどのように達成していくか……と考えていきます。その積み重ねで、大きな目標を達成していくスタイルですね。
――これまた性格がハッキリと出たプレイングですね。
とんこつ:たしかに、そうかもしれません。こういうプレイスタイルを何年もやってると、だんだん先が分かってきちゃうんですよね。始める前から「このカテゴリーに何時間かけたら、自分ならこれくらいのタイム短縮を図れるだろうな」とか。
――(笑)。
とんこつ:それはそれでおもしろくなくなってしまうから、刺激を求めて新しいゲームや未知のカテゴリーを始めることもあります。
――毎週、何時間くらい『スーパードンキーコング』シリーズをプレイされていますか。
とんこつ:一番多いときでいうと、50時間以上でしょうか。累計でいうと5,000時間か6,000時間くらいです。練習していない時間でもルートのことを考えたりとか、寝ながら聞いてタイミングを身体に染み込ませたりして。
――睡眠学習もされるんですね……!
とんこつ:BGMを頼りにしながら行うRTA技もあるので、寝ながら聞いて頭の中でプレイしたりして。そういう練習を一ヶ月くらい続けてた時期もありました。
――睡眠学習というか、普通に睡眠訓練ですね。
とんこつ:あとは、帰省したときに練習できるように実家にもブラウン管を置いたりとか。会社の昼休みに携帯機で『スーパードンキーコング』を練習することもありました。
――ご同僚に見られたときにどう説明したらいいか、想像がつかないです。「それ何してるの?」と言われたときになんて言うのか、なんて……。
とんこつ:今のところは聞かれたことはないですね(笑)。
――RTAのプレイ環境について教えてください。ただ『スーパードンキーコング』シリーズをプレイするだけであれば、ニンテンドースイッチ(スイッチオンライン版)も選択肢として挙げられると思いますが、とんこつさんはなぜ実機のスーパーファミコンを使うのでしょうか。
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とんこつ:まず第一に、多くの走者も実機を使用していることですかね。そうなると、比較もしやすいですし。特定のステージからステージの間の“区間タイム”も比べやすくなり、お手本が多いとも言えます。
――なるほど。スイッチ版では光の明滅表現がゆるやかになったりもしていましたが、RTA的なメリットはそういうところにもあるのですね。
とんこつ:スイッチ版はロードが短いから、比較しにくいってところもあります。あとは私が始めた当時はまだ「ニンテンドースイッチオンライン」がなかったことも理由ですし、コントローラーの入力遅延があることも懸念点でしたね。
――お手本が多いというのは、競技的なプレイには重要ですよね。やはり、他の配信者のRTAも具にチェックするのでしょうか。海外の走者の方も多数いらっしゃいますが……。
とんこつ:個人的には海外の方のプレイを観ることが多いです。日本のコアタイムでは自分が配信してるから、というのもありますが。
――海外の走者との横の繋がりもあるのでしょうか。
とんこつ:そこそこ多いとは思います。私の配信を見てくれている方でも、2割くらいは海外からの視聴者ですし、Discordでも繋がったりしていて。コミュニティのモデレーターとかもやっていますし、よく意見交換なんかもしてます。
――先日「DKC2 Any% Tournament 2022」に出場されていましたが、完走した感想を改めてお聞かせください。
とんこつ:結果としては準優勝でしたが、決勝でV0oidというトッププレイヤーと戦えたのがすごく嬉しかったです。私が一番尊敬している『スーパードンキーコング』走者ですからね。彼とは「Awesome Games Done Quick」でも戦ったことがあり、そのときは1秒差で勝ったんですよ。ただ、先日の「DKC2 Any% Tournament 2022」グランドファイナルでは世界記録+6秒という異常なタイムを出されてしまい……完敗でした。
――一発勝負でほぼ世界記録というのは強烈ですね!
とんこつ:でも、V0oidとの差も再認識できましたし、それに近づきたいというモチベーションも一層強くなりました。あとは、発売から27年経ったゲームの大会に60人ものプレイヤーが集まって盛り上がることができるというのがすごく嬉しく思いました。
――たしかに、『スーパードンキーコング』はまごうことなき「レトロゲーム」ですしね。
とんこつ:あとは……RTAって「メンタルゲー」なんですよ。レースとなると、相手との差がどれくらいなのか気になってしまって、普段のプレイができなくなることがあります。私もV0oidも、相手の画面を見ずに自分のプレイに100%集中して、結果はゴール後に分かるという。
――なるほど。オフラインイベントではモニターを横に並べて並走ということもあったかと思いますが、オンラインは各自がソロで走る形式なのですね。
とんこつ:そうですね。蓋を開けてようやく分かる、みたいな。
――「記録狙いのプレイ」と「イベント本番」では、どのようなところでプレイングに差が出ますか。
とんこつ:記録狙いのときは、先に目標タイムを設定するようにしています。そこから逆算して、目標タイムを達成するために必要な技を取捨選択しています。リスクとリターンの問題を考えて、「これは0.2秒の短縮だけど他の技より成功率が高いしな……」とかも考慮して。
――なるほど。
とんこつ:それに対して、一発通しとなる「イベント本番」ではハイリスクな技なんかは全部避けるようにしています。
――そこは、走者によって好みの差も出てくるのでしょうか。
とんこつ:そうですね。いつも「攻めルート」を選んで走る人は、不慣れな「安定ルート」に違和感を覚えてしまうから、本番でも攻めていったりして。敢えて記録狙いのときと同じように走る人もいます。私には真似できない走り方ですね。
ーー走者にはいろいろなタイプがあるかと思いますが、ご自身で「これは自分ならではの強みだ」と感じるポイントはありますか?
とんこつ:「RTA in Japan」のような大きいイベントの場でも、全く緊張しないのが強みかなと思っています。まず、何万人もの視聴者が見てくれると、それだけで興奮状態になってモチベーションが上がるんですよね。それに、イベント前は人一倍入念に準備するので「いつも通りやればいけるだろう」という自信と誇りを持って本番に臨んでいます。
――それまでの努力が裏付けしてくれる、ということですね。
とんこつ:その上で「本番は失敗してもいい」という気持ちも持っています。イベントで成功することがゴールではなく、イベントを通して自分自身が成長することがゴールなので。もし失敗しても、それを糧に成長できればOKというメンタルで臨んでいるので、本番でもいつも通りのパフォーマンスを発揮できるのかなと。
――イベントで『スーパードンキーコング』を走る際、他になにか意識していることはありますか?
とんこつ:ローリスクなプレイングを貫いていく一方で、“魅せプレイ”みたいなこともやったりしますね。『スーパードンキーコング2』のステージ7-1、「スクリーチレース」という場所の開幕では、「The Juuump」という大技がありまして。記録狙いだったらやらないんですけど、視聴者も盛り上がってくれますし、そういうテクも見せていきます。
――他の走者のRTAを観るとき、どのようなところに注目していますか。
とんこつ:ひとつひとつのランではなく、長いスパンでの取り組み方に注目しています。抜きん出た成果を出し続けているプレイヤーがいれば、その考え方をもとに自分が上達するための方法論をアップデートしたいので、それが海外の走者であっても直接DMで聞いたりします。以前、個人的に尊敬しているプレイヤーを集めて「RTA Superstars」というイベントを開催したことがあるんですよね。
――とんこつさん主催のオンラインRTAイベントですね。
とんこつ:そのイベントを通して、『スーパーマリオワールド』『ヨッシーアイランド』『スーパードンキーコング2』のトッププレイヤーにインタビューを行ったこともありました。それも自身のRTAのモチベーションに繋げていました。
――6月下旬より開催される「SGDQ 2022」にも参加されるとのことで今から楽しみにしています。とんこつさんが走る「Reverse Boss Order」の見どころについてお聞かせください。
とんこつ:「Reverse Boss Order」は、グリッチエキシビジョンとも呼べるカテゴリーなんです。知られているグリッチをほぼ全種類活用するような、おもしろいカテゴリーで。そういったプレイを見たことがない人は、度肝を抜かれるような場面を目撃できると思いますよ。予定タイムは35分です。
――それはとても期待したいですね!私は「自分が子どもの頃に親しんだゲームが、グリッチでメチャクチャにされてしまっている」という感覚がたまらなく好きで、それを理由にRTAシーンに興味を持ち始めました。ある意味ミーハーかなとも思っていますが……。
とんこつ:グリッチなしの硬派なRTAが好きという方も、とにかくグリッチが大好き!という方もいますよね。私は視聴者としてはグリッチが好きで、本来想定されていない挙動を見るとわくわくしちゃいますね。走者としてはグリッチなしのRTAで純粋にテクニックを磨くのも楽しいです。
――少し話題を変えさせていただきます。以前、Twitch配信時に「RTAのやり過ぎで腱鞘炎になりかけた」「だけど全くドンキーができないとストレスが溜まるので、息抜きに右手一本でドンキーをプレイした」とおっしゃられていましたね。やはり、RTA走者もフィジカルの鍛錬が求められるのでしょうか。
とんこつ:そうですね。最近は『リングフィットアドベンチャー』のRTAをされているえぬわたさんにメニューを組んでもらって、ボタン連打に必要な筋力をつけるために鍛錬しています。
――またまた、とんでもないスタープレイヤーですね。具体的にどのような部位を鍛えているのでしょうか……?
とんこつ:前腕の全般的なトレーニングをやってます。それに加えて、上腕や大胸筋なんかも鍛える必要がありまして。
――そうなんですね!いわゆる握力トレーニングみたいなものを想像していました。
とんこつ:ちなみに、身体を動かして温めるためにイベントでの出走前に筋トレをしたりもしますよ。テストステロンが分泌されてやる気が上がったり、頭の回転も速くなったりしますから。
――心身ともにパンプアップしていくイメージですね。
とんこつ:あとは体調管理的なところでいうと、長時間のRTAにはトイレの問題もあります。最近走っている『マリルイ』では、始める前に水分量を控えたりカフェインを取らないようにしたりしてます。4時間くらいのRTAだと、休憩タイムもありませんから。
――なるほど!それは盲点でした。
とんこつ:あとはいわゆるハードウェア的な話なのですが、スーパーファミコンのコントローラーを50個セットで買ったんですよ。今使ってるのは13台目で。
――ものすごい数ですね……!
とんこつ:そこで個人的なルーティンとして、「新しいコントローラーを使い始める前に、一度一緒に寝る」というのをやっています。手に馴染ませるため、抱えて寝るんですよ。気持ちを通わせると言いますか(笑)。
――やっぱり、コントローラーが壊れることは多いのでしょうか?古いゲーム機ですし、代替品もなさそうな印象です。
とんこつ:そうですね。やっぱり、ゴムの部分がヘタったりして。でも、個人的には新品より適度に傷んだコントローラーのほうが好きなんですよね。ボタンの押し返しが、自分にとってちょうど良い塩梅なんです。
――つまり、とんこつさんにとっての「コントローラーの賞味期限」というのは、おそらく他の方と比べて短めなわけですね。すでに経年劣化でボロボロに近付いているほうがいいという。
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とんこつ:そうなんですよね。それも実機でプレイしている理由のひとつかもしれません。ちなみに、ソフトのほうは4本くらいしか持っていません。
――また、少しトーンを変えた質問をさせていただきます。とんこつさんが人生で初めてプレイしたゲームは、どんな作品でしょうか。
とんこつ:『スーパードンキーコング3』ですね。当時はまだ子どもだったので、めちゃくちゃ難しくて大変でしたね……。
――たしかに、子どもにはだいぶハードなアクションゲームでしたね。
とんこつ:家族で一緒に遊んでたんですけど、両親が苦戦していた「コインドーザーのもり」という難しいステージを私がクリアしたら、すごく褒めてもらえて。そのときの嬉しさはよく覚えています。
――心温まるエピソードです!そんな『ドンキー3』もRTAの対象としてプレイされていますよね。いろいろなテクニックを駆使してハードコアに遊びつつも、幼少期の思い出を振り返ったりすることはあるのでしょうか。「すごい次元に来ちゃったな……」なんて。
とんこつ:配信でよく振り返ったりしますけど、長時間やり過ぎてそのへんは麻痺しちゃってますね(笑)。
――『スーパードンキーコング』以外にも『マリオ&ルイージRPG4 ドリームアドベンチャー』などの記録も保持されているとのことですが、どのようなジャンルのゲームがお好きなのでしょうか。
とんこつ:任天堂系の作品が大好きです。ジャンルで言うとアクションやRPGをたくさん遊んできました。
――なるほど。
とんこつ:あと……私はとにかく、ゲームに強くのめり込むタイプなんですよ。『Jump King』というアクションゲームで、キャラが落下したときに自分も椅子から落ちたりとか。『ゼルダの伝説 風のタクト』のボスが気持ち悪くてじんましんが出てしまったり、『スーパーマリオサンシャイン』でも高いところから落ちて、過呼吸になって泣いちゃったりして。
――RTAとして遊ぶゲームにおいては、そういった「のめり込み」は起きないのでしょうか?
とんこつ:RTAをしている分には、そういったことはないですね。やり込んでいると、何が起こるかは予測できますし。落ちるときは落ちるよなあ、と分かっているので。
――これから新たにRTAに挑戦しようと思っているゲームはありますか?
とんこつ:当面は『マリオ&ルイージRPG』シリーズでまだやったことのない作品ですね。あとは『スーパードンキーコング』のGBC/GBA向けリメイク作品とかもやっていきたいと思っています。
――「このゲームでRTAをやってみよう」と決める際、どのようなところに注目していますか。
とんこつ:一番は「好きなゲーム」であることです。好きじゃないと続きませんからね。ふたつめはBGMで、ずっと聴いていたくなるような曲が流れることも重要です。あとは“RTA技”が気持ちいいかどうかも、判断基準のひとつにあります。技が決まると、なんだかイケない脳内物質がいっぱい出てくるのか、つい気持ち良くなれるんですよね。
――ヤバい方向に楽しくなっちゃうやつですね!『スーパードンキーコング2』でいうと、「無の取得」というテクニックは視聴者の気持ちを強く盛り上げている印象です。自分も盛り上がる視聴者側のひとりですが、プレイヤー側はどのような気持ちで「無の取得」をしているのでしょうか。
とんこつ:それはもう、まさに「無」ですね。「無の取得」は見慣れちゃいましたし、もう何万回もやっていますから。でも、視聴者の皆さんが盛り上がってくれるのはすごくありがたいです。自分が好きなゲームについて熱くなってくれるのは、とてもうれしいことですから。
――RTAのやり過ぎで、RTAではないときのゲームプレイや日常生活に支障をきたすことはありますか?
とんこつ:RPGを遊ぶとき、重要な会話シーンをつい連打して飛ばしちゃうクセが出てしまいます。そのせいで次の目的が分からなくなって詰む……なんてこともあったりしますね。あとは仕事中の事務作業でも、RTAみたいにタイムを計測することがあります。RTAで使う「LiveSprit」というタイマーがあるんですが、それを会社のPCにも入れたくなりますね(笑)。
――そこだけ切り取ってみると、ものすごくモチベーションの高い会社員に見えますね。タイムを計りながら働いてくれるなんて……と感激されそう。
とんこつ:そうかもしれません(笑)。あとは、初めて遊ぶゲームをカジュアルにプレイするときにも、ついグリッチを見つけちゃうことがあります。GBA版『スーパードンキーコング3』では偶然グリッチを見つけてしまって、ほとんど全ての水中ステージのルートがガラッと変わってしまったこともありました。
――いわゆる「壁にぶつかりまくる」「スキマに埋まろうとする」というような、“デバッグしぐさ”とも違うのでしょうか。
とんこつ:そういうわけでもないんですよ。普通に遊んでいても見つけちゃうんです。なぜか他の人よりグリッチを見つけやすい……というか。
――RTA走者らしい、そういう星のもとに産まれた……ということですかね。少し羨ましい気もします。
とんこつ:あと、これはRTAというか配信者としてのクセなのですが、会社で仕事中にミスをしたときについ「あっ!!」と大声を出しそうになったりもしますね。ゲーム配信のときのミスと同じくらいのリアクションを取ってしまう、という。
――それでは、RTAシーン全般の質問に移らせていただきます。ここ数年でRTA文化は大きく盛り上がっており、「RTA in Japan」や「Japanese Restream」をはじめとしたイベント/グループも規模を拡大化しています。とんこつさんから見た“近年のRTA文化の印象”を教えてください。
とんこつ:まず、コロナ禍の影響で走者も視聴者も増えた実感があります。コミュニティはどんどん活発になっていくし、すごい新人のプレイヤーもたくさんいらっしゃいます。そういった方々が、ここ2年開催の少なかった「オフライン」のRTAシーンも盛り上げてくれることに期待しています。
また、走者でなくてもボランティアという形でイベント運営に貢献している方が多いのもありがたいですね。いち走者としていつも感謝していますし、尊敬します。
――なるほど。私はまだオフラインイベントに参加したことはないので、たしかにこれからが楽しみです。
とんこつ:一方で「RTA in Japan」などの知名度が上がったことで、はじめから「特定のイベントに出場すること」を最終目標に掲げるプレイヤーも増えてきたように感じます。大きな目標を持つのは良いことなんですけど、個人的には少しもったいないなと思ってしまいますね。
――どういった意味での“もったいなさ”でしょうか。
とんこつ:大きなRTAイベントでは当選倍率が年々高くなっているのですが、落選したときに必要以上に落ち込んで、やる気を失ってしまう方を見てきました。あるいはその狭き門を突破できても、イベントに出場したことで燃え尽きて辞めてしまうケースですね。
もちろん楽しみ方は人それぞれですが、それはもったいないなと。イベントに参加することはRTAの楽しみ方のほんの一側面であって、もっと色んな角度から末長く楽しめるのがRTAという遊び方なのにな、という気持ちがあります。
――とんこつさんはよく『スーパードンキーコング』RTAの解説もされていますが、いわゆる“キャスター”や“実況・解説”にも興味があるのでしょうか。eスポーツ文化では、そういったポジションにも大きな注目が集まっていますよね。
とんこつ:自分はあくまでプレイヤーだと思ってますし、解説などがメインになることはなさそうです。でも、『スーパードンキーコング』は特にグリッチヘビーで、簡単に言えば「ワケの分からないバグが多いゲーム」なので、しっかりした解説があれば視聴者の理解、ひいては新規プレイヤーの参入を含むコミュニティの活性化に繋がると思っています。それが巡り巡って自分の楽しみに繋がれば最高ですね。
――プレイヤーでありつつ、広報的なところでもコミュニティを盛り上げていくと。
とんこつ:解説記事や動画、チュートリアルの制作などもやっています。あとは、解説のクオリティを上げるためにボイストレーニングにも最近通い始めました。
――えぬわたさんの連打トレーニングのお話もそうですが、フィジカル面でのトレーニングもかなり重要視されているんですね。RTAプレイヤーと言えばゲームの反復練習を重ねまくっている印象があったので、少し意外でした。
とんこつ:そういう取り組み方を考えるのが、すごく好きなタイプなので。同じことの繰り返しだと、どうしても成長の限界もあるじゃないですか。私は成長を止めたくなくて。それに……RTAって、究極のゲーム愛のかたちだと思ってるんです。
――「究極の愛」ですか!
とんこつ:「ゲームへの愛」っていろいろな形があると思いますけど、RTA走者は注目したゲームにかなり精通していますよね。原動力に「愛」があるからこそ、何千時間も取り組めるわけで。私も「好きなゲームを少しでも上手くプレイできるようになりたい」という気持ちがあるから、RTAをやっているんです。
――なるほど。
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とんこつ:そこで「ゲームが上手くなる」という成長を止めないためにも、新しいカテゴリーやタイトルに手を出したり、他のプレイヤーの良いところを取り入れたりしてます。私ももう走者歴5年目ですし、これまでの成功体験に囚われて視野を狭めてしまわないよう、日頃から意識しています。
またRTA走者に限らず、他の分野のトップランナーの考え方に学ぶための読書も欠かせません。最近読んだ本だと羽生善治さんの「決断力」(KADOKAWA)という本がとても参考になりました。
――私はRTA走者として活動したことはないのですが、Game*Sparkのいち編集者としても参考にしたいお言葉です!これで最後の質問となりますが、日本のRTAシーンを更に拡げていくためにやってみたいこと、RTA走者や解説者としての今後の展望などがあれば教えてください。
とんこつ:これからの活動で言うと……まだ詳細をお話することはできないのですが、ひとつやってみたいことがあるので、今後のとんこつの活動に注目していただけるとうれしいです。
あと、6月下旬開催の「SGDQ 2022」は、自分にとって3回目のオンライン出場となるんですよね。やはり、いつかは「Games Done Quick」へのオフライン出場も実現してみたいです。RTAのおかげで、海外の友達も増えましたからね。
――海外イベントのオフライン出場は楽しそうですね!ぜひGame*Sparkでも取材させてほしいです。
とんこつ:また、私はTwitchパートナーとしても活動していますので、自分のゲーム配信を通して「RTAを知ってもらう入り口になりたい」という気持ちもあります。
――本日は貴重なお話を訊かせていただき、ありがとうございました!最後に、追加でひとつお願いがあるのですが……。
とんこつ:なんでしょうか。
――これまでお話してきたように、私は『ドンキー』RTAのいちファンです。しかしながら実際にはプレイをしないので、ある意味“ミーハー”なファンでもありました。ですが……今回のインタビューをきっかけに“動画勢”から卒業しようと思います。その一歩目として、とんこつさんに『スーパードンキーコング』のRTAテクニックをいくつか教えていただけないでしょうか?