シネマカフェの6月の特集は「映画とゲーム」。「バイオハザード」はもちろん、「HALO」や「アンチャーテッド」「アサシン クリード」「マインクラフト」「The Last of Us」といった様々なゲームが映像化され、映画スタジオのゲーム事業参入も活発化。映画やドラマとゲームとの距離がますます近くなっていくなかで、それぞれの未来はどうなっていくのだろう?
その展望を語っていただくのに、これほどの適任者はいない。「メタルギアソリッド」の生みの親として知られ、「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」ではノーマン・リーダス、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥといったスターたちと組んだ小島秀夫だ。
大のシネフィルとして、映画ファンの間でも非常に人気が高い小島監督。映画との出会いから未来までをたどる濃密な特別インタビューをお届けする。
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――小島監督が映画好きになったのは、お父様の影響が大きいそうですね。
水を飲むように映画を観ていましたね。当時は毎日のようにテレビで「洋画劇場」があって、午前中から深夜まで映画を流していた。気づいたら日常になっていたというか、映画を観ようと意識していなかったくらいです。だから「この作品がきっかけで映画好きになった」というものもなかったです。映画を観ないと親に怒られるから、苦手な怖い映画は耳をふさいでまで観ていました(笑)。
ゾンビとかスプラッターは全然怖くないんですが、お化けが苦手で。『エクソシスト』は1回しか観ていない(笑)。それ以外だと、ジャンルや年代に偏らずなんでも観ていました。親の影響で日本映画も観ていましたし、アジア、イタリア、フランス、アメリカ……全方位です。最近だと配信作品も映画・ドラマ問わず観ています。
映画館だと、親に連れられて怪獣映画を観たり、お兄ちゃんと『タワーリング・インフェルノ』(74)を観たり、友だちと『ノストラダムスの大予言』(74)を観に行っていました。その当時はちょっと田舎に住んでいて、映画館のある大阪に出るのにバスに乗って電車を2回乗り換えないといけないから小学生には結構禁じ手だったのですが、小学6年生のときに初めて一人映画に挑戦しました。そのとき観たのが『ローラーボール』(75)です。
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親にお金をもらって、パンフレットを買ってきて何を観たかを説明すれば怒られないから(笑)、それからは頻繁に一人で映画館に通っていましたね。大阪近辺の映画館は全部知っているくらいでした。
――Twitterを拝見していると、小島監督は映画の情報の入手が非常に早い印象です。情報収集のコツなどあるのでしょうか。
流行ってから観ていなかったのは嫌なので、アンテナは常に伸ばしています。海外のメディアだったり、例えばトム・クルーズの作品だったら本人のSNSが一番早い。昔は「ロードショー」や「SCREEN」といった雑誌で情報収集をしていましたが、今はネットがあるから幸せな時代だと思います。A24の公式アカウントなんかも面白いですよね。
元々は本屋さんに行って色々な本を見たり、タワーレコードなどでレコードを探したり、実際に足を運んで偶然に出会うことが好きでした。ただコロナでなかなかそういう機会が減り、情報を得てから映画を観るようになったのはちょっと残念でもあります。偶然映画に出会うのが一番楽しいじゃないですか。
たとえば昔は2本立てや3本立ての映画上映があって、そこで思わぬ掘り出し物に出合えることも多かった。友だちと『13日の金曜日 PART3』(82。日本公開は83)を観に行ったときだったか、当時は予約システムがないから劇場に入ったら最後の30分くらいだったんです。それで全然楽しめなくて帰ろうとしていたら、カッコいい音楽(タンジェリン・ドリームの曲)が流れてきてなんだろうと思ってスクリーンを観たらマイケル・マン監督の『ザ・キープ』(83。日本公開は84)だった。
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そういった出会いがいまは減って来ているので、逆に情報源を利用しているところがあります。自分の感性に引っかかるやつだけでは広がりがないので、メディアや作品の公式もそうですが例えばSYOさんだったり自分とはまた別の方向を向いている方をフォローして、情報が偏らないように気を付けています。
――僕も小島監督のSNSで情報を得ることも多いので、非常にありがたいです。最近ご覧になった映画についても伺いたいのですが、いまTシャツを着用されている『ポゼッサー』や『ニューオーダー』をオススメされていましたね。
『ニューオーダー』はぜひ観てほしい作品ですね。本作でミシェル・フランコ監督を知って、過去作の『或る終焉』『母という名の女』のDVDを購入して観ました。感想ツイートを監督も観てくれていたそうで、今度ビデオチャットをすることになりました。
ブランドン・クローネンバーグ監督の『ポゼッサー』も、センスが非常に高くて面白かったです。お父さんのデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『Crimes of the Future(原題)』ももうすぐカンヌ国際映画祭でお披露目ですよね(取材は5月中旬に実施)。ご本人曰く「5分で出ていくだろう」とおっしゃっていましたが(笑)。(※事実、カンヌ国際映画祭での上映時、退席者が続出したという)
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僕はクローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』(83)世代なので、ちょっとシリコンというか作り物っぽい感じも含めて、期待しています。出演者のレア・セドゥさんも「現場がすごかった」と褒めていらっしゃいましたし。次回作の『The Shrouds(原題)』含めて、そっちの方向(SFスリラー)に戻るのかもしれませんね。
――『トップガン マーヴェリック』もオススメされていましたね。
はい。実は、前作はあまりハマらなかったんです。ただ本作を観たあと、つい観直してしまいました(笑)。クラシックのまま突き進んでいて、こういう作り方があるのかと面白かったです。僕はトム・クルーズの一歳下なのですが、絶対しんどいはずなのにエンターテインメントを作り続けていて、観ながら泣いてしまいました。ちなみに『ミッション:インポッシブル/ フォールアウト』を観たときも泣きました(笑)。
――小島監督は読書家でもありますし、どういうスケジュールで映画や本を摂取しているのか非常に気になります。
毎日1本は映画を観るようにしているのですが、仕事をする以外はなるべくその時間にあてています。音楽は仕事中に聴いて、ご飯はなるべく短く済ませて、あとは映画観賞と読書。それ以外は土日に子どもと遊ぶくらいで過ごしています。
本も映画も、神様ではなく人が作ったものだから9割は傑作とは限らないわけです。でも、残り1割がすごい。日頃の映画観賞や読書は、運と経験を駆使していかにそこに当たるかの訓練でもあると思っています。映画や本、皆さんとの出会いも含めて人との出会いだと思っていますし、どれだけそれを経験できるかが自分の生活を豊かにするかだと感じます。
20年くらい前、手塚治虫さんの博物館に行ったら「毎日1本映画を観ていた」と書かれていて衝撃でした。連載を何本も抱えていたあんなに忙しい人なのに。なんでも、編集者さんが原稿を待っているから窓から逃げて、映画を観て帰ってきてから続きを描いていたらしい。やっぱり刺激がないと、ものづくりができないんでしょうね。
僕自身も、「ものづくりのために映画を観る」ということはないのですが、映画を通してすごく楽になることが多いです。ものを作っていると家族にも言えない色々な悩みを抱えますが、そんなときに映画を観ると「過去にも、世界中にも、ものづくりをしている人がこんなにいる」と知ることができますし、「よくこんな作品を作ってくれた!」とか「よくぞ配給して日本公開してくれた!」と思える。映画を通して、同じようにものづくりをしている人たちと巡り会いたい想いはあります。
日本公開といえば、ミシェル・ヨー主演のマルチバース映画『Everything Everywhere All at Once(原題)』も楽しみです。
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――日本公開が待ち遠しいですよね。A24作品だと、アレックス・ガーランド監督の『MEN(原題)』もありますね。
アレックス・ガーランド監督、好きですね。『アナイアレイション -全滅領域-』(2018)の最後の15分もスゴかったですし、観たいです。
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――「デス・ストランディング」にはギレルモ・デル・トロ監督やニコラス・ウィンディング・レフン監督が出演しており、小島監督ご自身も世界中の映画監督と交流されていますね。
監督たちとは、自分がやっていることを見せ合ってばかりです。基本的にプロデュース・企画・脚本・編集も自分でやる、とんがったものを作る人たちばかりなので、話が合いますね。彼らも、家族や仲間がいても立場が違うから弱音を吐けなかったり、不安を抱えていて共感できる。
あとは情報交換です。俳優やデザイナー、ミュージシャン、原作……誰がイケてるかを共有しています。大体1人が注目していると他の人も狙っているから、取り合いになってしまうんですよ。いかに早く情報を仕入れられるかが大事なので、ものづくりにおいて非常に大事ですね。
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パフォーマンス・キャプチャーについて聞かれることも多いです。映画でもゲームでも、撮影自体は今やそこまで変わらなくなってきているので、実際にやった人に話を聞きたいということで。
ピクサーのようなアニメ質感のものやデフォルメしたものはゼロから作ることもできるのですが、フォトリアルなものはあのレゾリューション(解像度)だとなかなか作れない。となると生きている人間を素材にして、アクターさんに実際に動いてもらうパフォーマンス・キャプチャーになってきます。動きや顔のしわなど、その人が生きてきた年輪を使って作る意味では、ゲームも映画も一緒。これからますます両者の境がなくなってくるように思います。
例えば『THE BATMAN』や「マンダロリアン」で使われた背景技術は、モニターでぐるりと囲んで背景に映像を投影し、一緒に撮影するというもの。従来はグリーンバックが主流でしたが、こういった手法は映画もゲームも同じになってきている。最終出力が映画なのかゲームなのか、つまり傍観するか遊ぶのかで大きく違いますが、そのプロセスはほぼ同じです。
マッツ・ミケルセンさんなど、マーベル作品に出演している方は基本的にパフォーマンス・キャプチャーを経験している印象ですね。
――ゲームと映画の距離が、どんどん近くなってきているのですね。
どれかがなくなったり一つになるわけではなく、間がどんどん埋まっていくと思います。
同じコンテンツであっても、視聴デバイスによって変えられるようにもなるかもしれません。たとえばいまは映画館でもスマートフォンでも同じ映像を観ていますが、スマートフォンだったら寄りの画が多くなったり、視聴者の環境に合わせたライティングにしたり、よりインタラクティブなものが出てくるような気がします。
また、作り手たちの意識も映画とゲームを別個のものとして考えていないようにも感じます。僕は今58歳ですが、50歳以下の映画監督はほぼ確実にゲームを通ってきているんですよね。僕は映画や本でしたが、一つ下の世代は幼少期の映像体験の中にゲームが入り込んでいる。だから「最終的にはゲームを作りたい」という映画監督がたくさんいるんです。ゲームの作り方がわからないから、映画を作っている。
そうなってくると、もっと下の世代では映画監督/ゲーム監督といった区分けではなく、どちらも作ることのできる「デジタルで何かを作る人」がどんどん出てくるはず。解説する人も、映画・テレビ・ゲーム全部できますといった風に変わってくるように感じます。
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――Netflixやアンナプルナなどもゲーム事業に参入してきていますね。
俳優さんもゲームのスタジオを購入していますしね。まだまだうまくいっていない部分も多いですが、今後ますます活発化していくのではないでしょうか。
デジタルテクノロジーをクリエイターがどう使うかだと思います。今までの映画やゲームがこうだったからというのはなしにして、自分の表現として何を伝えたいのか、あるいはプレイヤーなのか観客なのかといったアプローチによって、出力の選択肢が変わっていく。
――宮部みゆきさんの『小暮写眞館』について「映画化権を買おうかと思ったくらい、感涙した」とTwitterで書かれていましたが、小島監督ご自身は映画製作についてご興味はございますか?
映画はずっと作りたいと思っていますが、ゲームを作っているとなかなか時間が取れず、年齢も上がってきたのでどうしようかなというところです。
僕にとっては、映画のほうが作るのが楽です(笑)。まず、タイムラインを制御できる。映画だと、極端なことを言うとこの角度でこう撮る、と決めたら映らない部分は無視できる。マグカップを正面から撮るとして、死角は張りぼてでも成立しますよね。ところがゲームだと、「持つことができる」「攻撃にも使えるかもしれない」みたいな形で、その空間含めて360度作りこまないといけない。
ただ、もともとコジマプロダクションは「ゲームを作ってほしい」と言われて立ち上げたスタジオではありますが、ゲームは当然ながらゲームでも映画でもないようなものも作りたいし、映画を作ったっていい。映画関係の人の付き合いも深いですし、いろいろと進行中のものもあります。
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――非常に楽しみです。形態としての可能性がどんどん広がっていく中で、小島監督の理想とするクリエイティブはどういったものでしょう?
体内にとどまるものを作りたいですね。新しいものって味わった経験がないから賛否があって当然だと思うし、消化に悪いわけです。いまはエンタメが消化される時代でそのスピードがどんどん加速していますが、本来新しいものは食べたことがないから違和感があって、拒絶反応を示す人もいて賛否が出てくる。
体内に異物として入っているからすぐ消化できないし、10年・20年してなんとなくわかってくる。そういうものを作りたいと思っています。この間も『サンゲリア』(79)の日本語吹替音声完全収録4Kレストア版が発売されたのですが、映像特典にデル・トロ監督がファン代表で登場して解説していて(笑)。40年たっても愛されている映画って、すごくいいですよね。それは観た人の体内に残っているから。体内の遺伝子には残っていないけど、ミーム(文化的な遺伝子)として残っている。そんな作品を作りたいです。
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