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「大手メーカーから独立したクリエイターがインディーゲームデベロッパーとして活動を開始」――よく目にする海外ニュースですが、日本には縁遠い話だと思っていませんか。しかし、決してそんなことはありません。
今回はそうしたクリエイターの一人、アリスソフトのディレクターからインディーゲームデベロッパーに転身したIMAYUI氏に話を訊きました。開発中の新作に秘められた哲学から、インディーゲームデベロッパーのリアルな忙しさ、有志翻訳者と連携するための仕組みまで、興味深い話が目白押しです。
クリエイターとしての原点
――自己紹介をお願いします。
IMAYUI氏(以下、敬称略)IMYUIC・ディレクターのIMAYUIです。現在、新作RPG『Terminus Historia | 境界戦役』を開発しています。これまでに個人で『ユトレピアの伝説』、『12亜神伝』を制作。アリスソフト在職中にはディレクターとして『ヘンタイ・ラビリンス』の開発に携わりました。いずれもRPGです。
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――インディーゲームデベロッパーになった経緯を教えてください。
IMAYUI本作の開発が始まった当時、私はアダルトゲームメーカー・アリスソフトでディレクターをしていました。事情によりアリスソフトを離れることになりましたが、ご厚意によって個人で本作の開発を続けることを許可していただき、インディーゲームデベロッパーとしての活動をスタートしました。しかし、企業規模の開発費を個人で用意することは難しく、クラウドファンディングを実施している次第です。
――クラウドファンディングは順調ですか?
IMAYUI現時点で目標額を達成しています。一度着手した作品は必ず完成させるのが私のスタンスなので、開発資金が目標に達しない場合でも計画を実行する前提でクラウドファンディングを実施しました。とはいえ、関わっているクリエイターの方々には、当初想定していた内容で引き続き制作に注力していただける状態を作りたかったので、目標を達成できて良かったと思っています。
――本作に参加しているクリエイターをご紹介ください。
IMAYUIキャラクターデザイン・原画に、ぶくろてさん、ドット絵にivyoomoriさん、サウンドにkururukuさんです。これらのクリエイターは外注での参加となるため、開発者としては私一人です。とはいえ、ありがたいことに、ある程度チーム制作的な感じで進められています。
――クラウドファンディングに成功した理由はなんだと思いますか?
IMAYUI初動から大きなご支援をいただけたのは、アリスソフト時代のファンのお陰だと思います。独立を発表する際に数々の便宜を図ってくださったアリスソフト様、アリスソフト時代からのファンの皆様、そして数は少ないかもしれませんが、私が個人開発に戻ることを応援してくださったフリーゲーム時代のファンの方々には本当に感謝しています。
――他にも成功の理由はありますか?
IMAYUI作品説明やリターン内容にも最大限の工夫を凝らしました。また、意図していませんでしたが、クラウドファンディングの中だるみ期にメディアへプレスリリースを送ったことで、一気に支援額が伸びた点も大きかったです。
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――新作『Terminus Historia | 境界戦役』とはどんな作品ですか?
IMAYUI本作は2023年6月リリースを目指して開発中のRPGで、ダークメルヘン、フリーシナリオRPG、全ドット絵の世界観がコンセプトです。全年齢版の後でR18版(さらに、状況的に可能であれば全年齢版向けR18パッチ)もリリースしますが、全年齢版にR18要素は一切出しませんので、全年齢版をプレイされる方はご安心ください。
――R18要素がなくても成立する作品として開発しているのですね。
IMAYUI本作は元々アダルトゲームメーカーの企画として制作していた作品ですから、R18要素は必須でした。しかし、私はその土台として、しっかりした舞台とゲームシステムがあることが前提だと考え、当初からR18要素抜きでもRPGとして十分遊べるゲームを想定して開発していました。世界の中にエロは必然的に含まれるものであり、それを描けばR18になり、描かなければ全年齢になると考えています。
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――コンセプトの一つであるダークメルヘンは、ダークファンタジーとどう違うのですか?
IMAYUI「リアルなファンタジー」に対して「抽象的なメルヘン」というニュアンスで、本作をダークメルヘンと呼んでいます。私の物語制作の原点は海外児童文学ファンタジーですが、これは抽象的な表現で物事の本質を描くものです。本作もドット絵表現を用いることで、リアルなファンタジーとは異なる抽象的な描写を生み出しています。そういう表現で戦争や人間ドラマを描くところが、ダークメルヘンとダークファンタジーの違いです。
――ダークファンタジーとして意識している作品はありますか?
IMAYUIゲームではありませんが、「チェンソーマン」、「呪術廻戦」といった作品の表現には驚いています。昨今のダークファンタジーの動向は注視していて、自身もその潮流の中にありたいと思っています。
――もう一つのコンセプトである全ドット絵の世界観は、抽象的な表現の手段なのですね。
IMAYUI私は抽象度の高い表現で物語や世界観を描くのが得意で、あえてリアルでない表現を用いるところがあります。また、ドット絵にしかできない物事の描き方があるとも考えています。例えば、本作とは方向性が異なりますが、『Undertale』はまさにドット絵でしか表現できない、ドット絵である必然性のある作品だと思います。
――ドット絵で特にこだわっている表現はありますか?
IMAYUI私は魔法などのエフェクトも含めて、すべてをドット絵で表現していた頃のゲームが好きで、本作においても表現としてその辺りにはこだわっています。
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――最後のコンセプトはフリーシナリオRPGですが、影響を受けた作品はありますか?
IMAYUIフリーシナリオや自由度の高さに関しては『ロマンシング サ・ガ』の影響が最も大きく、その系譜にあることを強く意識しています。また、『ロマンシング サ・ガ』の原点には『ファイナルファンタジーII』があると捉えていて、この作品は私のバイブルと言えます。
――本作には武器熟練度や必殺技習得の概念もありますね。同じ作品から影響を受けたものですか?
IMAYUIはい。『ファイナルファンタジーII』と『ロマンシング サ・ガ』は私にとっての教科書であり、教師と言って良い存在です。
――往年の名作のファンからも期待が高まりそうです。期待に応える自信はありますか?
IMAYUI私が磨いてきた技術をもってお応えしたいと思います。本作は、初めてRPGを作った時からゲーム制作人生を賭けて追及しているものの延長線上にあり、その過程でもあります。もちろんハードルの高さは感じていて、非常に難しいことは認識しています。
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インディーゲームデベロッパーのお仕事
――前職で務めていたディレクターとはどのような仕事ですか?
IMAYUI監督としてのディレクターの仕事は、グラフィック・サウンド・システムの指定と仕様書作成、素材のチェックとエディット、データベースの数値入力とバランス調整などです。その他に、企画立案や現場の一戦力としても多岐にわたる仕事をしていました。シナリオやテキスト周りはすべて自分で書きましたし、モンスターや世界観のパーツのラフも描いています。音声収録の立ち合いやTwitterの広報も担当しました。
――ここまでがディレクターの仕事という区切りはなかったのですね。
IMAYUI企業やゲームの規模によってディレクターの役割は様々だと思いますが、少人数チームだったこともあり、インディー開発に近い経験をさせていただきました。
――その経験はインディーゲームデベロッパーの仕事にどう役立っていますか?
IMAYUI私は元々一人でフリーゲームを制作していた人間ですが、企業のディレクターを経験したことで、自分が担当する部分と他人に任せる部分の区別がはっきり意識できるようになりました。開発の最初から最後まで携わり、すべての部分を細かく見ることができた経験は大きかったです。そういう意味では、大手ゲーム会社に入って開発の一部しか担当しないより、小規模開発でも全工程を把握したり、フリーゲームを一人で全部作ったりする方がインディーゲーム開発に生かせると思います。
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――インディーゲームデベロッパーになって良かったことを教えてください。
IMAYUI最初に「自分の思い通りに作れること」という答えが浮かびましたが、それは少し違いますね。インディーゲームデベロッパーになり、クラウドファンディングでのやり取りを通じて考えが変わったことがあります。ファンやユーザーの声を身近に感じることで、「この作品が好き」という想いをファンやユーザーと共有し合いたいと思うようになったのです。
――大規模デベロッパーではファンやユーザーの声を感じにくかったのですか?
IMAYUIもちろん、デベロッパーのスタンスやゲームの形態にもよります。しかし、企業時代の私は「どう企画を通すか」、「どう自分の表現を盛り込むか」でいっぱいでした。ディレクターとして、プロとして未熟だったのでしょう。企業で経験を重ねる道もありましたが、インディーゲームデベロッパーとしてユーザーの声を聴きつつ作っていくのが自分には合っていると思います。
――インディーゲームデベロッパーになって困ったことはありますか?
IMAYUIとにかく、しなければならないことが多いことです。開発者としては私一人なので、一人で素材以外の開発や広報、開発費の経理なども行わなければなりません。そのため、本当はゲームの開発に注力したいのですが、なかなかそうもできないのが悩みです。
――インディーゲームデベロッパーに一番必要なことはなんですか?
IMAYUIゲームを作り続けることと、ゲームを完成させることです。
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海外と同じローカライズ事情
――ローカライズ(外国語のサポート)についてどう考えていますか?
IMAYUIローカライズも、しなければならないことが多い中で苦労することの一つです。基本的にデベロッパーは開発が専門なので、開発に専念したいと考えています。広報やローカライズはしなければならないことですが専門ではありません。
――英語以外の言語をサポートするのは難しいですか?
IMAYUIできることなら、できる限り多くの国のユーザーへ作品を届けたいです。しかし、1言語ごとにローカライズ費用、手間ともにかかるので、現実問題としては難しいというのがインディーゲームデベロッパーの現状だと思います。
――開発時にローカライズのしやすさを考慮していますか?
IMAYUI率直なところ、そこまでは手が回っていません。ゲーム部分のシステム開発で手一杯です。
――海外のインディーゲームデベロッパーがなかなか日本語をサポートできない事情と似ていますね。それでは、海外のファンがボランティアで翻訳(有志翻訳)に名乗りを上げたらどうしますか?
IMAYUIもちろんありがたく感じると思います。それと同時に、経験のないことなので、実情がわからない面での不安はあります。インディーゲームの海に乗り出す上で未知の領域ですね。ですが、上手くおつきあいできれば素晴らしいと思います。
――海外では、有志翻訳を推奨するインディーゲームデベロッパーも少なくありません。中には報酬まで提供した例もあります。
IMAYUIインディーゲームデベロッパーと有志翻訳者をつなぐシステムやサイトがあると、デベロッパー側も動きやすいと思います。DLsiteさんに漫画の作者と翻訳者をつなぐ「みんなで翻訳」というサービスがありますが、このサービスのゲーム版があれば良いですね。デベロッパー側からすると、報酬を自分で決めなくて良いこのシステムは使いやすいです。
――先日行った有志翻訳者へのインタビューでも、同様のシステムが話題に上りました。翻訳者側が必要としていたのは「複数の翻訳者間で報酬を分配できる仕組み」です。
IMAYUIそもそも複数の翻訳者が関わること自体をイメージできていませんでした。私は企業やフリーゲーム出身なので余計にそう感じるのかもしれませんが、それくらい有志翻訳はまだインディーゲーム全般に浸透していません。しかし、報酬分配の仕組み自体は必要だと思います。
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――最後に、本作のリリースを待ちわびているファンに一言お願いします。
IMAYUI皆様の応援に感謝しております。時間はかかることになりますが、ご期待に応えられるよう必ず完成させますので、楽しみにお待ちください。
――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
※画面写真はすべて開発中のものです。
『Terminus Historia | 境界戦役』クラウドファンディング(CAMPFIRE)¥6,100
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)