※本記事にはネタバレが含まれています。閲覧にあたってはご注意ください。
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7月19日にPS5/PS4/PC向けアクションアドベンチャー『Stray』が発売されました。「子猫大冒険!」なゲームということで、SNSを中心に一躍人気を博している本作。その世界観の作りこみもあってか好感の高い声が聞こえてきます。
しかしその評価の高さと同時に、一部のユーザーなどから「思ったより過酷だった」との声も届いていました。確かに「猫ちゃん可愛い!」「もっと可愛い姿を眺めていたい!」などと愛くるしさのみを求めていると、意外に過酷なアクションや猫ちゃんに襲い掛かるクリーチャーに悲鳴をあげることになります。
その結果、SNSでは純粋な猫好きへの注意喚起なども見え始め……「『Stray』にはゲームオーバーで猫ちゃんが死んでしまう悲しい描写があるから、苦手な人は注意するべし」とも言われる流れに。(中には悪質なデマも混じっていましたが)言ってることはおおむね間違っていません。
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ただ、残酷な描写への耐性がない猫好きユーザーに対してそういう言葉は重要と思う一方で、ある程度耐性がある筆者などは、少し奇妙なムーブメントだと感じてしまいます。
今回の流れは冷静に考えると、いわば「前情報でゲーム内容を偽ってもおらず、過剰でもないゲームオーバー画面に対し、SNS上で注意喚起が行われた」という事柄となります。理論的に考えれば全てのゲームにおいて死はショッキングなモノ。なぜ、『Stray』だけちょっと大事になったのでしょうか……。
もっとも、筆者は実家に愛犬がおり、『Fallout 4』ではドッグミートを戦闘に連れていかない過保護っぷり。猫ちゃんを飼っていれば絶対に耐えられなかったでしょう。ですので注意喚起は良いことだと思いますが、“『Stray』だからこそ起こった注意喚起”を分析。類似の「プレイミスがショッキングなゲーム」「思わず護りたくなるゲーム」をとりあげ、ざっくり考察していきます。
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あらかじめ注意しておきますと……本稿は結局「猫ちゃん可愛い!」 という結論に辿りつきますので、その点だけご了承ください。
心に迫る「別れ」が印象的なゲーム
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さて、『Stray』に限らず、愛着が湧く存在が生まれるゲームというのは数多くリリースされています。「絶対守らなきゃ」と思う作品から、切なくなる必然の別れまで。今回は“守護らねばならぬ……”と思うゲームを集めてみました。
『レッド・デッド・リデンプション 2(RDR2)』の“愛馬”
『RDR2』は西部劇とあって、やはり相棒となる動物は馬。プレイヤーの善悪問わず、進行を手伝ってくれる馬に愛着が湧いた方も多いでしょう。性能ではなく、情で愛馬を決めた方もいるのでは。かくいう筆者もそのひとりですが、ちょっと油断して傾斜を移動したところで滑落させてしまい……。蘇生薬を買いに走るも、永遠の別れとなりました。
乗り物としての側面も強く、馬が登場するゲームは非常に多いもの。筆者の記憶に残るのは『ワンダと巨像』の愛馬・アグロですね。そのほか『アサシン クリード』シリーズや『ウィッチャー3』など、特に海外アクションRPGでは“愛馬”が多数登場するので、印象に残りやすいところでしょう。
『Fallout 4』の“ドッグミート”
『Fallout』シリーズおなじみの動物と言えば、やはりドッグミートでしょう。『Fallout 4』でもコンパニオンとして心強い味方になってくれました。死ぬことはないので極端に気にする必要はありませんが、それでもドッグミートを「可愛い」という理由で戦闘に参加させたくない人もいたのではないでしょうか。筆者の場合、ドッグミートは拠点での癒し要因になってもらっていました。
しかし、ずっとガソリンスタンド(拠点)にいるドッグミートを見ていると「散歩に連れて行ってあげようか」という気持ちと「ダメだ! 外は危険だらけなんだ!」という葛藤が生まれてしまいます。
『ファイアーエムブレム 風花雪月』の“生徒たち”
『ファイアーエムブレム』シリーズの特徴となるシステムのひとつ、「死んだキャラクターは生き返らない」。王と部下のような間柄ではなく、『ファイアーエムブレム 風花雪月』では“先生と教え子”という密接な距離感で戦闘に挑みます。酷いことに、筆者は割と「戦争なら部下が死んでも……そういうものだし……」とか考えていたのですが、『FE 風花雪月』においては教え子であるという間柄なため「俺が守らねばならぬ……」と思わせられます。
最近ではカジュアルモードも登場して、避けようと思えば悲しい別れを避けられるようになった本シリーズ……と思いきや、『風花雪月』では選ばなかった生徒が敵に回っていくのが胸に来ます。
『俺の屍を越えてゆけ』の“一族”
なんで人は死んでしまうん……と思わせてくれる本作。呪いで寿命が極端に短くなった一族が、先祖の屍を越えて強くなるゲームなので当然ですが、段々と老化して弱くなっていく姿を見ると寂しい気持ちになります。遺言まで残すのはズルいって……。
守ろうと思っても守れないから、前に進んでいくことしかできない名作です。
『Portal』の“コンパニオンキューブちゃん”
本作のヒロインと言えば、コンパニオンキューブちゃんかGLaDOSちゃんでしょう。筆者は浮気性なのでGLaDOSちゃんも良いな、と思いつつ……やはりハート柄のコンパニオンキューブちゃん派です。スタイルだけを見ると皆同じに見えるのですが、“守らなきゃいけない”という気持ちにさせてくれるのは、ハート柄のコンパニオンキューブちゃんだけです。
そしてとうとう、ニンテンドースイッチで発売された『Portal:コンパニオンコレクション』ではタイトルロゴのイメージに登場するほどの推されっぷり。売れっ子ヒロインを前面に出すという判断でしょう。でもGLaDOSちゃんも良いですよね……。
人によって守らなければならないと思う対象は様々。心動かされたという時点で、主観として心に残るゲームになりえると感じています。
皆さんの「守りたいキャラ」「心に残る別れ」は何でしょうか?
なぜ「マリオ」が死んでも悲しいとは言わないのに『Stray』で猫が死ぬシーンは「要注意」なのか?
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さて、話を『Stray』に戻します。今まで上げたゲームは心に残る展開、あるいは別れ……。では、なぜ“マリオ”が倒れても悲しまないのに“猫ちゃん”だと悲しいのでしょうか。すでに、理論ではなく感情で答えが出ている気がしますが、今回の「注意喚起」について考えていきます。
マリオの可愛さが猫ちゃんの可愛さに劣るから……ということだけなら、少なくとも筆者の中では「マリオよりコンパニオンキューブちゃんの方が可愛い」ということになります。実際、最高に可愛いですが。しかし、事はそう単純ではありません。
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まず、考えなければいけないのは「ゲームオーバー」と「死」の違い。ゲームプレイや物語の中で起きる「死」は心を動かしうる展開ですが、必ずしも感動を呼び起こす演出として機能するとは限りません。もし確実にそうであるなら『Vampire Survivors』では30分ごとに涙してるはずですし、『マリオ』も感動大作シリーズと評されてしまうでしょう。要するに、ゲーム的な「ダウン」と「死」は別物なのです。
「ゲーム的ダウン」の演出がされている『Vampire Survivors』は、「主人公は30分くらいで死ぬ運命だから注意!」と注意喚起されたりしません。しかし、『Stray』ではそれとは真逆に「リアルな死」と捉える人間が多かったのです。
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続いて、そういった形で心に来る作品というのは大抵「取り返しがつかない要素」に紐づけされていることが多いのです。やり直せないからこそ悲しみと罪悪感を生むわけで、それが『FE 風花雪月』や『RDR2』の悲しみに繋がるのでしょう。『ラスアス2』や『ワンダと巨像』などでは動物はストーリー上の愛の対象となっています。だからこそ消失感を生み、ショッキングだと感じるのです。
愛着からの別れという点では『Portal』も印象的です。同作では包み隠さず、「愛着をわかせる実験」とゲーム内でわかるようにしています。その甲斐あってか(?)コンパニオンキューブちゃんは一躍アイドルです。この場合、「主人公以外の死」であることが多いでしょう。
とはいえ『Stray』での構造は今まで上げたような形ではなく……。猫はあくまで主人公であって、やり直しの効く「マリオ」と同じポジションなわけです。
さて、マリオは一応人間なので、そのアクションも人間が行う行為の延長線上であります。あんなジャンプとかファイアボール投げるだとか、テンション高く叫びながら走り回るというのはフィクション感が強めですが、それは「ファンタジーの想像を含めた人間の可能性」として認知されています。マリオが火の玉を出したからといって、「人間でない存在として扱う」という思考には至りません。
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『Stray』の猫ちゃんは、猫ちゃんです。人間が操作してるとは言え、その身体機能は猫のもの。あくまで「猫を操作している人間がいる」という距離の没入感です。“ファイアー”とは言え“ボール”を投げることは人間的行動ですが、カーペットで爪を研ぐことは、どうしても「人間的」とは言えません。身も蓋もないことを言うと、「猫的な行動がとれるだけ」ですね。
視点を変えて『Stray』で猫ちゃんが二足歩行などの人間っぽい動作をしたらどうなるでしょうか。その瞬間“カートゥーン的な存在”に変わるでしょう。ソニックのような雰囲気すら持つかもしれません。
操作キャラが「ダウン」してそこに「死」を感じてしまうというのは、結局のところ「子猫」に自分を投影できないということに起因するはず。『Stray』では、猫がリアルに再現されすぎているのです。プレイヤーが「自分は野良猫として生きていくんだ」という野心を持ってロールプレイに挑むわけではなく、「野良猫ってこんな感じなんだ~!可愛い~!」と思わせておいてからの残酷な現実に、「注意」が喚起されているわけです。
この感覚は、多くの場合プレイを重ねていくことで緩和されます。『Stray』に限らずですが、プレイ中、ゲームにどっぷりとはまり込むことで「猫=自分」という認識に近づくということですね。
ただ、今回の問題は「ゲームオーバー画面」がキツいということ。筆者的にはクリーチャーが取り付いてくる段階が心に来ますが、それはさておき……。猫の死体が映るということで拒否反応が起こるケースもあります。
視覚的に及ぼされる衝撃は、物語的な衝撃とは異なります。慣れてしまっても「猫=自分」と同調しているのはコントローラーを触って動かしている「プレイ中」まで。ムービーや死亡後のカットは猫を操作していない瞬間……つまり、「ただプレイヤーが猫の死を見るだけの時間」となっているのです。
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検証のないことですが、たとえば医師が良くされる質問に「手術中に尿意を催さないのか?」というモノがあります。筆者の知り合いの医師いわく、「大量の血を見ている状況では本能が刺激されるから尿意がひっこむ」とのことを言いました。
本能的な反応は侮れません。猫の死んでいる姿を見るということは、頭では「復活する」「ゲーム内の演出」とわかっていても、本能が忌避することなのでしょう。
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結論:猫ちゃんは、可愛い
さて、本能だとか没入感のバランスだとか、なんか色々と言ってまいりましたが、結局のところ猫ちゃん可愛いからそりゃ辛いよね、という結論に達しようと思います。
だってどんなに没入感やら視覚的なショックやらを取り上げていても、猫ちゃんが可愛くなければショックを受けないわけです。猫ちゃんが可愛いからペットとして飼うきっかけになるし、猫ちゃんが可愛いから死んでほしくないわけです。ついでに言うと猫ちゃんが可愛いから『Stray』も猫好きゲーマーから好評価を受けているわけです。
たとえばそれを裏付ける(主観的)論拠として、筆者は『Stray』プレイ中、鉄骨の上に猫ちゃんが乗った時、「大丈夫!? 猫ちゃん落ちたら危ないよ!」と思ってしまいました。これと類似したシーンに、某ギャンブル漫画での有名な鉄骨渡りシーンがあります。奥で富豪たちが人間が鉄骨を渡る姿を見て楽しんでいるわけですが……もしこれが猫だったら、富豪たちは阿鼻叫喚になったことでしょう。
つまり「人間より猫の方が可愛いから辛い」わけですね。
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では、そんな可愛い猫ちゃんの可哀想なシーンなんてゲームに必要なのだろうか、とも思ってしまいますが……本作においては必要だと考えます。
もちろん、本ゲームは大いなる猫愛に基づいて作られていますが、「サイバーパンク×猫」の世界でリアリティを出すなら避けて通れない表現です。「ディストピアな世界で生きる猫」を描くにはどうしても必要な要素なのでしょう。
その点を含めて、『Stray』は完成度の高い作品だと感じます。「サイバーパンク×猫ちゃん」という両立しがたい2つを、様々な工夫を凝らして成立させているわけですから。ですので「猫ちゃんの可哀想なシーンがある」というだけでこの作品を敬遠しないで欲しいと筆者は考えています。
しかし、感情論でいうと違います。猫ちゃんには幸せでいて欲しい。もう、どんな世界でも猫ちゃんには幸せでいて欲しいと願うことは、尊いことなのです。猫ちゃんに重荷を背負わせて絶滅した『Stray』の人類は重々反省した方が良いでしょう。
◆本稿執筆における参考資料群
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