
海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は有志日本語化が公式採用されたオンラインマルチプレイ型ダンジョンクロウルRPG『Nevergrind Online』の開発者と翻訳者の二人に話を訊きました。偶然飛び出した「政治色を強めるアメリカのゲーム業界」への批判にも注目です。
日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。
有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。
連載第21回は、オンラインマルチプレイ型ダンジョンクロウルRPG『Nevergrind Online』の開発者Joe Leonard氏と日本語翻訳者ばんちゃん氏の二人に話を訊きました。
恐るべき偶然の一致
――自己紹介をお願いします。
Joe Leonard氏(以下、敬称略)『Nevergrind Online』の開発者Joe Leonardです。Joeと呼んでください。これまでに、本作の前作にあたる『Nevergrind』と、『Firmament Wars』を開発してきました。
ばんちゃん氏(以下、敬称略)日本語翻訳者のばんちゃんです。「ばんちゃんのゲーム部屋」というYouTubeチャンネルで、自分が日本語化したゲームのプレイ動画を配信、投稿している変わり者です。本作以外に『Chronicon』と『Hellslave』を日本語化したことがあります。
――本作の魅力を教えてください。
ばんちゃん『Nevergrind Online』はMMORPGからフィールド移動の面倒を取り払い、気軽にダンジョンクロウルができるようにしたオンラインRPGです。最大5人でパーティを組み、各プレイヤーがタンク、ダメージディーラー、ヒーラー、バッファーの役割をこなします。俗に「大縄跳び」と呼ばれるような難しい操作は必要ありません。ダンジョンで多くの敵を打ち倒し、最強の装備を手に入れるワクワク感が楽しめますよ。
Joeひときわ重視しているのはバトル、トレジャーハンティング、パーティ内での交流です。本作のような体験ができるゲームは他にないでしょう。
――日本ではよく『ウィザードリィ』と比較されますね。
Joe皆さんそう言いますが、私は『ウィザードリィ』をまったく遊んだことがないんですよ。『Nevergrind Online』が影響を受けたのは『エバークエスト』、『ファンタシースターオンライン』、『Darkest Dungeon』、『World of Warcraft』などの作品です。
――それでは、なぜ一人称視点を採用したのですか?
Joe予算上の制約で、低コストのアバターを使用する必要があったからです。本当はプレイヤーもアニメーションさせたかったんですけどね。また、通路を進むだけというシンプルな移動方法は、ゲームをシンプルにするのにも役立っています。ゲームが複雑になりすぎると、問題が増えますから。
ばんちゃん日本では『ウィザードリィ』風のゲームが人気で、Twitterでは本作が『ウィザードリィ』に似ているという声を見かけます。一方、本作の日本語Discordでは『ファイナルファンタジーXIV』プレイヤーの姿を多く見かけます。いずれにしても、さまざまなゲームをプレイしている方から「こういうのでいいんだよ」という感想を聞くので、Joeは日本人ゲーマーの求めているものがわかっているのでしょう。

――有志日本語化に携わるようになったきっかけはなんですか?
ばんちゃん『Chronicon』の日本語化です。当初はPCOTという翻訳支援ツールの助けを借りてプレイしながら、自分でWikiサイトを立ち上げていました。ゲームをしていて初めて「皆が楽しめるように日本語化できないかな?」と考えたのはその時です。Twitterで日本語化に着手された方を偶然見かけ、日本語化できるなら自分も手伝いたいと声を掛けました。
――どんな手伝いをしたのですか?
ばんちゃん機械翻訳した文章を修正する作業の他に、動画を利用して日本語化手順や進捗の広報を行いました。日本語化手順の案内は5,500回再生されたので、それくらいの方の役に立てたのだと思います。スプレッドシートを活用した翻訳作業場の準備や、翻訳のルール作りなどはすべてもう一人の方がしてくれました。
――なぜボランティアで活動しているのですか?
ばんちゃん日本語化に携わった経験が少なく、自分の拙い日本語がお金になると考えたことがなかったからです。私がしているのは翻訳ではなく日本語化で、お金をもらうには翻訳家にならなければいけないと考えていました。
――ここでの「翻訳」と「日本語化」の違いはなんですか?
ばんちゃん「翻訳」は翻訳家が行うことで、英語に精通している方の仕事というイメージです。私がしている「日本語化」は英語をDeepL翻訳のような機械翻訳にかけ、語尾を整えたり、機械が上手く翻訳できないところを修正したりして、日本語で最低限プレイできる環境を作る作業です。「日本語化」でもお金を払うという開発者がいれば喜んでいただきます。
――気のせいでしょうか。以前にも同じやり取りをした記憶があります。もしかして、前回のトマトジュース氏へのインタビューをご存知ですか?
ばんちゃんいいえ。トマトジュースさんのことは『City of Gangsters』の日本語化で知っていますが、インタビューは知りません。
――「翻訳」と「日本語化」を区別している点、機械翻訳を積極的に活用している点、日本語化への報酬を否定しない点が見事にトマトジュース氏と一致しています。
ばんちゃん気になったので今読みましたが、ほぼ同じことを言っていて鳥肌が立ちましたね。トマトジュースさんがこのような考えだったとは知りませんでした。
――私も鳥肌が立ちました。偶然とは思えない一致ですね。
ばんちゃん私の日本語化の原動力は「数人の友達にさえ楽しんでもらえればいい」というものです。彼らは翻訳の質にこだわらないので、機械翻訳で問題ありませんし、私の作業を理解して感謝してくれます。「せっかく日本語化したのなら、他の人にもプレイしてもらいたい」という気持ちから動画で広報しましたが、私が動画の配信や投稿をしていなければ、今でも身内だけの小さなコミュニティで作業していたでしょう。
――有志日本語化に一番必要な能力はなんだと思いますか?
ばんちゃんプレイするときに「どういう意味だ?」とならないように、機械翻訳をきちんと修正できる日本語力でしょうか。
――英語力は必要ないのですか?
ばんちゃん私はほぼ必要としていません。DeepL翻訳を使う場合は英語力5%、日本語力95%くらいだと考えています。少しは英文と訳文を見比べて確認していますが、それもじっくり確認するのではなく、さっと確認する感じです。ですから、中学英語まで学んでいれば誰でも日本語化に挑戦できますし、現に私にはその程度の英語力しかありません。

ゲームと政治の関係
――Twitterでのやり取りを見ると、ゲームを所持していない段階から日本語化に名乗りを上げていますね。
ばんちゃん本作のことは元々トレジャーハンティング要素のあるゲームとして気にかけていましたが、英語しか無かったので購入に踏み切れませんでした。しかし、Joeにゲームを所持していないことを伝えると、すぐにSteamキー(Steam上でゲームを有効化するための製品コード)が送られてきたので、「じゃあ、日本語化するか!」となりました。
――そういう意味では、報酬をもらったのですか?
ばんちゃんそうなります。その後も布教用にキーを20個もらい、Twitterの発信が多い方、動画の配信や投稿をしている方を中心に配布しました。
――デベロッパーと日本のインフルエンサーの橋渡しもしたのですね。
ばんちゃん他にも、日本の大手ゲームメディアのサイトや、YouTubeで万単位の登録者がいるチャンネルを探して、Joeに伝えました。
Joeばんちゃんのお力添えにはとても感謝しています。『Nevergrind Online』が日本で劇的な成功を収めたのは、彼が積極的に関わってくれたおかげです。
――ばんちゃん氏から初めてコンタクトを受けたときにどう思いましたか?
Joe翻訳を手伝ってくれる方を見つけて感激しました。Google翻訳を使う手もありますが、(ネイティブの人間が文章のチェックに関わっていないのであれば)翻訳の質は落ちますからね。ばんちゃんには翻訳以外の面でもお世話になりました。紹介動画を作成して広報に協力してくれましたし、日本語のDiscordコミュニティも作ってくれました。日本語コミュニティは英語コミュニティより大きいんですよ!
――ばんちゃん氏は日本における調整役も務めているのですね。
Joeばんちゃんは日本市場での舵取りを手助けしてくれました。今回の口コミによる成功は、AUTOMATON誌への働きかけが重要な役割を果たしましたが、これも彼のアイデアです。それまで私はAUTOMATONのことを知りませんでしたから。
――日本語をサポートした反響や売れ行きへの影響はどうでしたか?
Joe日本からの反響には心底驚かされました。好意的な反応が圧倒的で本当にびっくりしましたよ!(笑)
それまでアメリカにおける売上はまずまずといったところでした。メディアも取り上げていませんでしたからね。百聞は一見にしかずと言いますから、まずは販売数の推移をお見せしましょう。

JoeAUTOMATONに記事(下記リンク)が掲載されたのが7月14日です。販売数の数字が早期アクセスの開始直後を超えたことに私は衝撃を受けました。7月19日にゲーム配信者の2BRO.が本作の配信を始めると、数字はさらに押し上げられました。こちらが先月分だけを切り出したグラフです。ご覧の通り、AUTOMATONと2BRO.が売上に絶大な影響を与えたことがわかります。さらに、過去2週間の販売数のうち87%は日本からのものでした。
ハクスラ・ダンジョン探索マルチRPG『Nevergrind Online』が、特に日本で売れているとの開発者報告。開発者も驚くユーザーの熱(AUTOMATON誌)
ばんちゃん2BRO.の配信では、弟者さんが「俺のやりたかったゲームシステムがここにある」と言っていました。私もプレイしてそう感じましたね。
Joe私が『Nevergrind Online』を作ったのもまさに同じ理由からです。まだ早期アクセス中で未完成な状態なのに、お褒めの言葉をいただき光栄です。
――ユーザーの急増はどのような影響を与えましたか?
Joeオンラインゲームの規模がここまで急激に拡大すると、一度に多くのプレイヤーをサポートするには、さまざまな技術的課題を克服しなければなりません。本作のサーバーはアマゾン ウェブ サービスを利用してデベロッパー側で管理しているのですが、アクセス数の急増に対処するため本来の仕事を1ヶ月間休む必要がありました。
――日本語のサポートは当初から予定していましたか?
Joeもちろん予定していました。前作にあたる『Nevergrind』は日本で成功していましたし、『ウィザードリィ』のようなダンジョンクロウルが日本で非常に人気があることも知っていましたから、日本語はサポート予定の言語の中で最上位にあったのです。本作は日本のプレイヤーにうってつけだと思っていました。
――前作も日本で人気があったのですか?
Joe初代『Nevergrind』は無料で遊べるブラウザRPGでした。ライブドアブログに600個以上のコメントがついたスレッドがあります。8年前のことですが、私もGoogle翻訳を利用してスレッドに参加していました。
――スレッドには批判的なコメントも多いようですが、読んでどう思いましたか?
Joeどんな形であれ、関わり合いを持ってもらえるのは良いことです。悪い批判などありません。メディアにできる最悪のことは存在そのものをなかったことにすることです。本作のDiscordでもいつも批判をいただきますが、ゲームに関心がない方はわざわざ時間を無駄にしてそんなコメントを打ち込まないでしょう。例えば、『ELDEN RING』は素晴らしい作品ですが、多くの批判も受けています。Steamのユーザーレビューで評価が90%だなんて信じられません。もっと高くても良いはずです!(笑)

――有志日本語化を公式日本語版として採用した理由はなんですか?
Joe我々はアメリカの小さなインディーデベロッパーですから、プロの翻訳サービスに巨大な予算を割くことはできません。実際、私はフルタイムで別の仕事をしていますし、開発予算は15,000ドル(約200万円)しかないのです。ですから、手助けはすべて受け入れます。中国語は隣人の中国人が「面白そうだから」という理由で無償で翻訳してくれました。ポルトガル語、フランス語、ロシア語、ポーランド語なども、さまざまな方に翻訳を手伝ってもらいました。彼らは金銭的な動機ではなく、「プロジェクトに貢献できたら楽しそうだ」という理由で翻訳してくれたのです。
――有志日本語化の品質には満足していますか?
Joe全体的には満足しています。実のところ、翻訳に関する問題の大半は私のせいなのです。英語の構文に基づいてプログラムしたのは間違いでした。今後は英語の構文に依存しないように努力しなければなりません。
――プログラムする際、他の言語をサポートすることは想定していましたか?
Joe念頭には置いていましたが、すべての問題を予見することはできませんでした。過去作『Firmament Wars』はさまざまな言語に翻訳されていて、本作の良いお手本となりました。それにしても、本作のようにわずか1ヶ月で8カ国語に翻訳されたゲームはあまり例がないのではないでしょうか。
――どうやってその速さを実現したのですか?
Joeそれについては、ばんちゃんの方が詳しいでしょう。
ばんちゃん初めて話したとき、Joeは日本語の実装を急いでいました。そこで、1400行の日本語化なら1週間で可能だと伝えたのです。私は最低限日本語でプレイできる「日本語化」だけを優先して、とにかく速度第一で作業しました。原文は1400行で15万文字、翻訳後は9万文字になる作業を8時間かけて行いました。結果として本作の売上に貢献できたので、良い速度だったのだと思います。
――速度を重視して「翻訳」ではなく「日本語化」を優先したのですね。
ばんちゃんもちろん、日本語の綺麗さは翻訳家に頼むものより数段落ちています。品質については、他のプレイヤーの意見を聞きながらテストプレイで確認し、その都度修正を行っている段階です。今後追加されるテキストと併せて、正式リリースまでには日本語化も完成させたいですね。
――日本語をサポートする上でどんな技術的課題がありましたか?
Joe課題は二つありました。一つは文章を簡単にすること、もう一つは英語の構文に依存しないようにすることです。以前は一部に凝った英語を使っていましたが、これが翻訳を難しくしていました。別にシェークスピアを書きたいわけではないので、簡単な文章に書き換えて解決しました。
――先ほども話に出た「英語の構文に依存しない」とは、どのような意味ですか?
Joe例えば、“Bob left the party”(ボブはパーティを抜けました)と書く代わりに、“Left the party: Bob”(パーティを離脱:ボブ)と書くのです。英語の構文に基づいて文を構成しようとするのは大きな間違いです。私は必要がない限り文章を書くのを避け、あらゆる文を「ラベル:効果」という形式の構文に置き換えました。この形式はどんな言語でも上手く翻訳できます。
――他にはどんな例がありますか?
Joeポーションの効果を表す“Restore Health”という文があります。当初は“Restore”と“Health”の二つの単語を別々に組み合わせて表現していましたが、日本語では上手く翻訳できなかったため、“Restore Health”をひとまとめにすることで解決しました。
ばんちゃん以前の日本語訳では「戻す ヘルス」となっていたのです。ネット上の知り合いのアドバイスで構文を変え、現在は自然な訳になりました。他にも、スペースの位置で改行されてしまう問題がありましたが、Joeに症状を伝えて改善してもらっています。



――お互いのやり取りで苦労したことはありますか?
ばんちゃんお互いGoogle翻訳とDeepL翻訳で話をしていましたが、日本語化作業では特に苦労はありませんでした。一方、日本語のサポート後にプレイヤーが急増し、サーバーが不安定になった時期には苦労しましたね。Joeが寝ている時間帯に日本のピークタイムが来るので、「問題があったときにどうやってJoeに伝えようか?」と、日本語化の担当者が気にしなくてもいいことまで気にしていました。2BRO.の配信中に致命的なバグが見つかり、Joeに直通SMSを送ったのですが、翌朝まで気づいてもらえなかったのは笑い話です。
Joeやり取りはとてもスムーズでしたよ。私はQTranslateというツールを使って、Discord、YouTube、Twitchのテキストをシームレスに翻訳しています。言葉の壁は大した問題にはなりません。日本語のスラングを覚える必要はありましたけどね。なぜか、サーバーが「鯖」と翻訳されるんですよ……鯖は魚の一種ですよね? それから「草」の意味も覚えなければなりませんでした。それはさておき、日本人プレイヤーと一緒に作業するのは楽しいですね。彼らは楽観的で積極的で、たくさんの建設的なフィードバックを送ってくれます。
――日本のゲーマーが楽観的で積極的で建設的に映ったのですね。どうしてそう感じたのですか?
Joe日本人は純粋に高品質なゲームに注目します。一方、アメリカの業界は非常に政治的です。どんなゲームが開発され、推奨されているかにも、その傾向が現れているのではないでしょうか。実は、本作への否定的なフィードバックの大半はアメリカ人によるものなんですよ。
――どうして、アメリカのゲーマーは『Nevergrind Online』に否定的なのですか?
Joeアメリカのメディアが私に恨みを抱いていて、本作を取り上げようとしないからでしょう。それが端的にわかるのがこの記事の追記です(下記引用部分)。私が反ワクチン陰謀論の宣伝に関わったという理由で、本作を取り上げるのをやめると書いてあります。実は私、新型コロナワクチンがあまり好きじゃないんですよ。キリスト教的な世界観を持っていることも叩かれる原因ですね。元ゲーム開発者のScott Cawthonも似たような理由で迫害されています。欧米のゲーム業界は私達のようなキリスト教徒を公然と敵視しているんです。
Update: An MOP reader pointed us to the history of this particular solo developer, which appears to involve publicly promoting anti-vax conspiracies (among other things). We do not support and will not be covering this game further. -Eds.
Joe欧米のゲーム業界は、あまりに政治的なせいで苦しんでいます。良いゲームを作ることに注力せず、思想によって人を選別し続けている。欧米ほど文化が細分化されていない日本では、このような問題はないと思います。だから、日本人と一緒に仕事ができるのは幸せです。日本人と一緒にいて、政治的にネガティブなことを感じたことはありません。ゲームと政治は関係ありませんからね。
現場からのメッセージ
――日本語化する上で、ゲームの雰囲気を維持するためにどんな工夫をしましたか?
ばんちゃん本作は中世ファンタジーの世界観なので、少し固い、古い感じの日本語になるように工夫しました。また、ネット上の知り合いから「です・ます」、「だ・である」といった基本的な語尾の統一についてのアドバイスをもらいました。そのおかげで、ストーリーがスムーズに読めるようになったと思います。
――日本語化がゲームに正しく反映されているかの検証はどのように行いましたか?
ばんちゃんこれはオンラインゲーム特有の問題だと思いますが、テキストファイルをJoeに渡して、Joeがアップデートを行うことで初めて修正が適用されます。そのため、アップデート前に検証することはできませんでした。本作の日本語化で一番難しかったところですね。ゲームを実行して、おかしな場所があれば修正したテキストを提出して、アップデート後に確認するという作業を現在も続けています。
――公式日本語化を手掛けて見方が変わったことはありますか?
ばんちゃんプレイする方にとっては、日本語化が有償であろうと無償であろうと、公式に採用された時点で開発側の人間と見られることがわかりました。普段の行動で少し襟を正すと言いますか、ちょっと背筋が伸びた感覚があります。日本語化については、語尾が整っていて世界観を崩さない出来であれば多くの方に満足してもらえるんだなと、公式日本語化に対する自分の中での難易度が少し下がりました。
――本作の日本語化を通じて嬉しかったことを教えてください。
ばんちゃん一番嬉しかったのは『Nevergrind Online』の売上に貢献できたことです。日本で5,000本以上を売り上げることができたのは、日本語化したからだとの自負があります。二番目は、配信者として尊敬してやまない2BRO.のお二人に本作を配信してもらえたことです。例えるなら、自分が書いた詩を、大好きな歌手が歌ってくれた感じでしょうか。初めてお二人が配信しているところにお邪魔しましたが、感無量でしたね。

――これから有志日本語化を志す方へアドバイスをお願いします。
ばんちゃん私は自分がプレイしたいゲームや、友達に薦めたいゲームの日本語化から有志日本語化の世界に飛び込みました。その思いだけで今も活動しているので、とにかく行動を起こすことをお勧めします。わからないことがあったらTwitterでつぶやけば誰かが助けてくれるかもしれません。「日本語でプレイできて嬉しい!」という声を聞いて、この世界から抜け出せなくなりました。
Joe小規模なゲームプロジェクトに参加すると、ゲーム開発業務全般に協力する道がひらけます。つまり、翻訳作業だけでなく、コミュニティとの連携を経験したり、内部情報を手に入れたりできるのです。YouTubeなどで独自のコンテンツを作るチャンスも広がります。実際に、ばんちゃんは私が提供した内部情報やアイデアのおかげで多くの動画を成功させました。この協力関係はお互いにWin-Winです。この構図は同様の協力関係を模索している方にも成り立つでしょう。
――ゲーム開発者やゲーム業界に伝えたいことはありますか?
ばんちゃんトマトジュース氏のインタビューを読んで、インディー開発者と有志日本語化を繋ぐ場所があればいいなと考えるようになりました。私には「有志だから無償でしなければならない」という考えはないので、開発側が「翻訳」を求めているなら翻訳会社に、「日本語で最低限プレイできる環境」を求めているなら有志に依頼できるよう、橋渡しする場所が欲しいですね。その場所が整ったら、開発側には翻訳しやすいようテキストファイルの準備をお願いしたいと思います。
――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。