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サイバネティクスが普及したナイトシティで、非合法な稼業で生きているならず者、
「サイバーパンク」、またの名を「ランナー」と呼ぶ。
そのランナー達が集う酒場「アフターライフ」に、あるカクテルのレシピが残されている。
「デイビッド・マルティネス」――ウォッカのロックに二コーラを少々、
添えられた言葉は「高みを目指して派手にくたばれ」。
店が出す条件を知っていれば、それが何を意味をするかは語るまでもない。
彼がいかにして「高みを目指し」、いかにして「派手にくたばった」のか、
その物語を知りたくはないか…?
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13日よりNetflix限定で配信が開始された「サイバーパンク2077 エッジランナーズ」、その主人公の名前に、「V」としてナイトシティを駆け抜けた皆さんなら心当たりがあるでしょう。彼はアフターライフの「レジェンド」になった、つまり、その結末は既に決まっています。
物語は彼が「ランナー」になる前、まだ一介の少年でしかなかったときから始まります。母子家庭だったデイビッドはある事故によって母親が死亡、貧困によって切羽詰まった状況で「無茶」をしたために、あるサイバーウェアを巡る大きな事件に巻き込まれていきます。
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劇中でまず目を引くのが、一般市民として生活する人々の描写です。ゲームではジョブを通して人々と関わるので、大抵サイコ野郎共しか寄ってこないものですが、アカデミーに通う生徒のデイビッドは犯罪と関わらない暮らしがあり、低所得のために周囲からいじめられています。そして母親の収入では到底立ちゆかない貧困によって、資本主義の残酷さ=「搾取」の現実を思い知らされるのです。「V」だったら何らかのジョブを得られるつてがあっても、デイビッドの場合はそうもいきません。馴染みのリパードク以外頼れる人はいない。自力ではどうしようもない支払いに苛まれる焦燥をたっぷり時間をかけて描いています。
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そんな中、彼は母親の遺品の中からあるサイバーウェアを発見します。やけくそになった彼は、それを自分にインストールしていじめへの仕返しに乗り出します。ここからが「エッジランナーズ」の本領発揮で、強力なサイバーウェアの能力の表現、そして文字にするのも憚られるようなバイオレンス描写が次々と繰り出されます。
いじめっ子を殴り飛ばしてアカデミーを飛び出したデイビッド、それに目を付けたのが、謎めいた女性のランナー、「ルーシー」。モノレールの中でチップ泥棒をしていた彼女は、デイビッドに協力を持ちかけます。
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デイビッドが手にした力はアドレナリン注入によって知覚と肉体を極限まで加速する、いわば「バレットタイム」のような行動力です。周囲からは瞬間移動のように見えるとんでもないものですが、その代わりに負荷が大きく、繰り返すと失神してしまいます。
ゲームだと撃ったり切ったり避けたりで忙しくても、アニメーションになると人体の中でどんな反応が起きているのか客観的に観察でき、単なる武力強化だけではないサイバーウェアの「ヤバさ」を感じられます。
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デイビッドが装着した「サンデヴィスタン」には何か秘密があるらしく、様々なギャングや組織が彼を狙ってきます。かかる火の粉は払わねばならない、ルーシー達は体内に仕込んだ武器を使って敵を葬るのですが、これがまた強烈。アニメーションだからできるド派手なゴア表現で、やりあったあとには「破片」しか残らない、なんてこともざらです。特にルーシーが使うナノワイヤーは切れ味が…と、これ以上はやめておきましょう。
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ゲームプレイヤーにとってうれしいのは、「エッジランナーズ」に登場する数多くのロケーションが、実際のゲーム内でロケハンされたものだからです。「エッジランナーズアップデート」のトレイラーではアニメクリップとゲーム内の比較があり、高速道路の入り口など、私たちが歩いた「あのナイトシティ」の中に、デイビッド・マルティネスの伝説が存在していると感じられます。「エッジランナーズ」を見終わったら、あなた自身もナイトシティで「聖地巡礼」をしてみてはいかがでしょうか。
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もう一つ驚いたのは、電脳の通信と言えば普通は音声だけで表眼されるところを、わざわざゲーム内のUIを使って文字も同時に表示する演出です。これによって、ゲームで見ていたものは電脳内のUIそのままだったという解釈が生まれ、これまであまり気にしていなかったUIの見る目が変わりそうです。このアニメは『サイバーパンク2077』を原作にしたアニメ、という次元に止まらず、もはや『サイバーパンク 2077』と直接繋がった拡張である、そう言っても過言ではありません。
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最後にいい大人のお約束。このアニメを見るときは周囲を明るくして、画面から離れるよう強くお願いします。特に第1話、非常に強いストロボ効果があるため、敏感な方はいわゆる「ポ(配慮)ンショック」を起こす可能性があります。年齢制限ありですから、もちろん「そっち」の強い刺激も。くれぐれも周囲の視線には気を付けて、脳がブッ飛ぶほどの「ヤバい代物」をご堪能ください。