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今から3年前の東京ゲームショウ2019にて、『風ノ旅ビト』を代表作とするthatgamecompanyのJenova Chen氏に、当時配信が始まったばかりの『Sky星を紡ぐ子どもたち』(以下、『Sky』)についてお話を伺うことがありました。Chen氏の「登場人物とストーリーがなくとも、感情を揺さぶり、興奮させることができるのです」という言葉が印象的でした。
それから3年。『Sky』は人気を博し、多くのファンを集めていきました。そのファンのなかには、あの人気声優である梶裕貴氏もいました。梶氏は先日のAnimeJapan2022にて本作のスペシャルサポーターに就任しており、今年の東京ゲームショウ2022にてthatgamecompanyのブースにて、イベントに出演しています。
今回、そんな梶氏に『Sky』についてお話をうかがえる機会がありました。梶氏からは、thatgamecompany作品を通して言葉をめぐる表現について、興味深いお話が語られました。
言葉を使わないビデオゲームに、言葉を使う声優が感じたシンパシーとは
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ーー今回『Sky』のブースにイベントとして関わってみていかがでしたか。
梶:スペシャルサポーターとしてイベントに参加させていただくのは、AnimeJapan2022から続いて2回目です。まさか今年中に再び機会があるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。AnimeJapan2022のときにも感じましたが、『Sky』のブースには、ゲームの世界がリアルにそこにあるような感覚があって。そんな素敵な場所にお邪魔できるのは、幸せでした。
『Sky』には、常に新しいアイディアが溢れているんですが、なかでも特に"コミュニケーション"という分野が、このゲームの最大の魅力なのかなと思っています。実際にブースにも、そういった遊びを取り入れたメッセージボードや試遊スペースが用意されていましたしね。「来場者にあらゆる面で楽しんでもらおう!」というthatgamecompanyさんのエンタメ精神が感じられて、実に『Sky』らしい空間だなと感じました。
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ーー梶さんはthatgamecompanyの過去作もプレイされているとうかがっています。彼らの作るゲームの魅力はなんでしょうか。
梶:僕は過去に『Flowery』と『風ノ旅ビト』をプレイしたことがあるのですが、そこには共通して、"自由"──と表現すべきなのか、言語化が難しいのですがーーそういった感覚があって。
『Flowery』は、自分が一枚の花びらとして世界を巡り旅する内容で、どこか『Sky』と世界観が近いような印象がありますね。この作品にも、言葉という概念は存在しません。テキストという手段を用いらずとも、ゲームの世界と一体になれるんです。そう考えると「thatgamecompanyさんが大切にしているテーマというのは、最初から一貫されているんだな」と、あらためて感じ入るところがありましたね。
『風ノ旅ビト』では、表現の形がまた少し変わりましたけど、この作品も、言葉を使わずにコミュニケーションを取る面白さがありました。人間の心や思考の根底にある"哲学"みたいな部分を、物語やシステムを通して感覚的に味合わせてくれる。そういったところが、thatgamecompanyさんの作品に共通している魅力なんでしょう。
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ーーお話をうかがっていて興味深いのは、梶さんは声優として、言葉でコミュニケーションをするプロフェッショナルでもあることですよね。だけどthatgamecompanyは言葉を使わないコミュニケーションのゲームである。そんな彼らの表現に憧れるところもありますか。
梶:憧れますし、心から尊敬しています。もしかすると僕ら声優は仕事柄、普段から"言葉"について考える機会や時間が多いので余計にそう感じるのかもしれませんね。このインタビューもそうですし、アフレコやイベントもそう。基本的に"言葉"を中心に回っている日常があるので。
けれどthatgamecompanyさんのゲームでは、そんな"言葉"を使わずともコミュニケーションが取れてしまう。しかも、文化や国籍すら越えて。本当に素敵なゲームであり、見事なツールですよね。
ーーなるほど。
梶:逆に僕ら声優は、動きがなくても、言葉や声だけを使って表現することができる職業なんです。thatgamecompanyさんのゲームで得た刺激を、今度は僕が、声優としての表現に反映させていけたら面白いなと考えています。
ーー自分に無いものがあるのではないかと。
梶:そうですね。でも、もしかしたら根源は一緒なのかなとも思います。アウトプットの仕方が違うだけで。だからこそ惹かれる部分もあるんでしょう。どう伝えたらいいのか難しいですけど……いつか僕も、声と言葉を使って、thatgamecompanyさんが表現されているようなものを形にできたらという思いはあります。
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ーー梶さんは自身で主導して1から作品を作っていきたい思いはありますか。声優という職業柄、他人のプロジェクトにかかわるかたちが多いと思うのですが。
梶:コロナ禍でのステイホーム期間にYouTubeチャンネルを設立し、動画作りにトライした経験が、まさにそれに当たりますかね。「自分でゼロから作る」ということの面白さと難しさを感じる機会になりました。
自分自身で作ってみることで、あらためて「様々なプロフェッショナルの努力や思いが積み重なって、はじめて番組や作品はできているんだな」と感じることができました。これは、役者やタレントとして参加しているだけでは、なかなか気付けなかったことかもしれません。
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ーー自分で何かものを作ってみることで、さまざまな制作側の難しさが分かったんですね。
梶:そうですね。声優というのは、選んでもらって、使ってもらうことによって、力を発揮することができる仕事だと思うんですよ、基本的には。「役がないと、演じることはできない」というか。監督が求める完成形を具現化していく職人。僕自身も、そこに責任感や誇りを持っています。
でも同時に、だからこそ「自分で作っていく大切さや面白みもあるんじゃないのかな」とも思いはじめていたんですよね。声優生活を20年弱続けてきた今だからこその発想、というか。本当にちょうど、数年前から提案してきた企画が実際に動き出したタイミングだったので……今、この質問をされて驚きました(笑)。
『Sky』が"言語を使わない表現の究極"だとしたら、僕は"言語で表現するものの究極"を追求したいです。たとえば朗読、などでしょうか。そういったプロジェクトを最初から最後まで自分で作って、いつか形にしたいなという思いがあります。
ーー言葉と表現をめぐる、すごく熱いお話を伺えた気がします。
梶:ありがとうございます(笑)。『Sky』とも、いつかそれこそ何らかの形でコラボレーションができたら素敵だな、とは思いますが……大前提として、僕は純粋な『Sky』ファン。ひとりの星の子です。何よりも"好き"という気持ちを大切に、これからもワクワクドキドキしながらプレイしていきたいと思っています!