10月後半に多数のコンテンツが追加された正式版をリリースし、12月頭に行われたTGAでモバイル版をサプライズ配信、そして初の大型DLCの販売開始と話題に事欠かない2Dローグライトアクション『Vampire Survivors』。そんな本作もリリース当初は最大同接が2ケタ台、レビュー件数も10件と大ヒットとは言えない立ち上がりでした。
本記事ではそんな本作がいかなる経緯で世界中でプレイされ、16万件越えの高評価を得るに至ったのかを振り返ります。なお今回は、主にPC版を主軸に紹介します。
今更聞けない!?『Vampire Survivors』ってどんなゲーム?
まずは簡単に『Vampire Survivors』そのものについておさらいしておきましょう。本作は原作者のルカ・ガランテ氏が「週末にコンテンツを楽しく作成するためのシンプルなゲームプレイベース」として開発を始めたゲームで、その内容はいたってシンプル。操作は移動のみ、攻撃は自動で行われるという自キャラクターで、押し寄せる敵を倒すことで得られるアップグレードを選択するだけでゲームシステムは完結し、目標も30分生き残るだけと明確です。
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プロトタイプ版は2021年10月末にitch.ioにてブラウザでプレイ可能な状態で公開され、現在でも体験版として遊ぶことができます。その後12月18日にPoncleからSteam版が早期アクセスとしてリリースされ、執筆時点でのレビュー数158,699件のうち98%が高評価、最大同時接続人数は77,061人という大ヒットを記録しています。
データが語る『Vampire Survivors』ヒットの経緯
まずはデータの観点から本作のヒットに迫ります。参考とするデータはSteamストアにおけるレビュー数の記録、Steam Chartsにおけるユーザー同接数の記録、そしてGoogleトレンドでの検索数に基づく人気度です。
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それぞれのデータで細かな違いはありますが、概ねリリース直後には伸び悩むものの1月に入って数値が伸び始め、1月末から2月初めにかけてピークを迎えていることがわかります。その後4月頃にもう一度伸びを見せており、その後は落ち着きを見せながらも、10月の正式リリース時に再度盛り上がっていたことが読み取れます。
考察の前にデータごとの特徴について触れておきましょう。レビュー数に関しては、1月のピークを超えるほどの件数が11月に寄せられていますが、これはSteamゲームアワードのノミネートに関連したレビューとなっています。本作が今年のタイトルの中で如何にPCゲーマーからの人気を博しているかを示す重要な指標ではありますが、人気の軌跡を振り返るこの後の考察ではイレギュラーな値として言及を控えます。
同時接続数の推移については12月当初は12人、1月には約50,000人、そして2月の最大同接である77,061人を経て4月にもう一度増加と、先ほどの総合分析とほぼ一致していると言っていいでしょう。但し、Steam Chartsは3か月を超える記録については月次のデータしか残しておらず、その期間に週単位での考察を行う場合にはある程度の推測を交えることとなります。
Googleでの人気度は、ピークを100とした相対的な評価形式となっています。こちらも概ね他のデータと同じ動きが見られますが、こちらは1月よりも4月の方が高い値を示しているという違いがあります。また国毎の推移も閲覧できるため、日本のみを対象としたデータも参考とします。
流行の裏には配信者の影響が!
これらデータを元に、SNSでの反応やその盛り上がりのきっかけとなった出来事を考察し、その経緯を追います。事の発端となる12月のSteamでのリリース当初は、前にも述べたようにレビュー件数は10件前後、月次最高同時接続者は12人、人気度は0近くと今の人気とはかけ離れたものでした。
転機となったのは1月7日前後。レビュー数は数百件単位で一気に増加し人気度も伸び始めるなど、この頃から海外で注目が集まり始めます。当時のSNSやレビューの内容から、きっかけは海外の配信者に紹介されたことと見られ、公式も当時のアップデート報告で言及しています。
その後も急激に人気を集めてプレイヤー数を伸ばし、1月末から2月初めにかけてその人気は最高潮に達します。この時期には、毎週のようにコンテンツが追加され、YouTubeにアップロードされた『Vampire Survivors』動画としても最も再生数の多い配信も行われていました。
その後、アップデートの配信ペースも緩やかになり、段々と落ち着きを見せていきますが、4月の始めごろから再度人気やレビュー、プレイヤー数が盛り上がりを見せます。この背景にはステージやキャラクターの追加を含む大きめのアップデートがあり、YouTubeの『Vampire Survivors』動画として2番目の再生数を持つ配信が実施されたのもこの時期でした。
13日にはアルカナシステムの追加という更なる大型アップデートも実装され、その前後でセールも実施中だったことも勢いを加速したのか、4月半ばに第二波のピークを迎えます。新システムや知名度を既に大きく上げた状態でのセールだったためか、検索で見た人気度は以前よりも高く、全期間を通してこのタイミングがトップとなっています。
日本と海外の相違点
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一方、この期間は日本のみの検索数ではそれほど盛り上がっていないことから確認できるように、国内における流行にはまた違った経緯があるようです。日本では1月中旬から下旬にかけて検索数が伸び始めています。これは1月18日にAUTOMATONが初めて本作の人気を取り上げた直後と見られ、同じ時期にはGame*Sparkでもプレイレポートを掲載するなどして、数々のメディアが本作を紹介し始めていました。
さらにVTuberの獅白ぼたんさんや、人気配信者2BRO.の配信がTwitterで100RTを越えるなど、インフルエンサー界隈もこの頃に反応を見せ始めました。23日には非公式の日本語化Modが登場する後押しもあり、以降、配信者が日本でも一気に増加しました。
そんな日本での人気度のピークは3月2日で、そこにもやはり配信者の影響が色濃く感じられます。特にVTuberの人気は凄まじく、同日中の兎田ぺこらさんや星街すいせいさんといった面々の配信を告知するツイートは、1,000RTを越える拡散ぶりを見せました。奇しくもこの日、本作の公式アカウントでもプレイヤー数と配信の多さに驚くつぶやきが投稿されています。
作者が影響されたと語る本作のオリジンとは
このように評価10件から、16万件越えのヒット作へと駆け上がった『Vampire Survivors』。そんな本作も、影響を受けた作品がいくつかあることが開発ロードマップで明かされています。それによると主要な影響作品は『Magic Survival』と『CvRL: Serenade of Chaos』の2作品だといいます。
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『Magic Survival』は2019年10月発売のモバイル向けの基本無料タイトル。500万以上のダウンロード数を誇るヒット作で、評価もかなり高くなっています。『Vampire Survivors』とはゲームシステムが似通っており、作者自身も「これほど優れたタイトルをプレイしていなければ、VSの開発は始めていなかったでしょう」と語っています。
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『CvRL: Serenade of Chaos』は、2005年に7日間でのゲーム開発チャレンジへ向けて制作されたターンベースのローグライクゲームです。“CvRL”は“CastlevaniaRL”の略称で、タイトルが示すように『悪魔城ドラキュラ』にインスパイアされた作品。2013年版が配信されているUptodownでは現在2,400ダウンロード、最新の『Serenade of Chaos』はitch.ioで2018年より配布を開始し、レビュー数は6件のみ。開発者自身も、作品としての人気はあまり出なかったと述べています。『Vampire Survivors』では、後にデザイナーが販売したこの作品のグラフィックタイルセットを利用したそうです。
その他にも初プレイ時にメニューが表示されない演出等、細々と影響を受けたタイトルはいくつも存在するそうで、「VSのために頭に浮かんだことをそのまま取り入れることが多く、ゲームを遊ぶことも私の趣味であるために、それが意識的かどうかに関わらず、私が愛する他のゲームが影響することもよくあります」と語っています。
差別化しっかりの良作から伝説の奇怪ゲーまで!?フォロワー作品も再チェック
目新しいヒット作が生まれると、そのフォロワータイトルが登場するものです。それは『Vampire Survivors』も例外ではなく、その後もさらに増え続けている様です。本記事でも、この機会にいくつか取り上げてみようと思います。
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まず紹介したいのは『Brotato』です。9月の終わりにリリースされた本作は、フォロワーゲームとしては大成功と言える2万件近くの評価を集め、圧倒的好評となっています。一度に6つの武器、ローグライトな強化要素とフォロワーゲーとしての要素は備えつつも、これほどの評価を叩き出した秘密はその独自性にあるようです。
レビューを見ると、ステージは現状ひとつしかない代わりに、キャラのカスタマイズ、アイテムの組み合わせによるビルド体験が非常に充実しており、それぞれのシナジーを考えるのがとても面白いという意見が多く見られます。中には本質的には『Vampire Survivors』よりも『Slay the Spire』に近いのではというレビューも寄せられており、その戦略性を引き立てる難易度調整も評価されています。
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まだリリース前の作品ですが、日本で開発されているタイトルとして『いっき団結』も注目です。伝説のクソゲーと名高いレトロゲーム『いっき』が令和にPCゲームとして蘇った本作は、オンライン協力要素を加えた『Vampire Survivors』フォロワーとも言える仕上がりとなっています。筆者もベータテストに参加しましたが、団結の名が示す通りプレイにおいても「協力」がキーワード。団結を前提とした難易度で、プレイヤー間の意思の疎通が重要に感じられました。
流行から読み取る『Vampire Survivors』の魅力とは
ここまで『Vampire Survivors』について考察する中で、レビューやSNS上の意見、感想の数々をチェックしましたが、本作への評価は、圧倒的にその価格の安さとコンテンツ量の多さに向けられています。同様の表現は流行前のレビューにも見られていたほか、日本での紹介直後にも安さを理由に購入した等の声がSNSでいくつも見られました。また本作の人気に火をつけたと考えられるストリーマー達への反応も当然多く、日本でのピークとなった3月頭には特に顕著で、そこから自分でもやってみたいとツイートするユーザーも現れました。
コストパフォーマンスとシンプルな操作、そして豪快なゲーム性。配信でも取り上げやすく、新しいプレイヤーも取っつきやすいのが本作の魅力で、これほどまでに流行した秘訣と言えそうです。フォロワーゲームも増え、最早ひとつのジャンルとして確立されつつある本作ですが、『Vampire Survivors』自体にもオリジンがあることから、いつまでも「ヴァンパイアサバイバーライク」と表現するのも違和感があります。価格面でも、ゲーム性でもお手軽という本ジャンルの特徴を前面に押し出し、カジュアルローグライトアクションなどと呼んでもよさそうです。
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数あるカジュアルローグライトアクションの中でも、とてつもないボリュームとやり込みを楽しめるのが『Vampire Survivors』の独自性。正式リリースに伴い499円へと値上がりしてもなお、本作のコストパフォーマンスは他タイトルの追随を許しません。ウィンターセールでDLCとセットでも462円で、隙間時間でのプレイから長時間のやりこみまで楽しめる本作は、年末年始のお供にピッタリのタイトルと言えそうです。