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ステイホームからニューノーマルへの移り変わりを色濃く感じた2022年。今年もおうち時間を彩るゲームが多く生まれました。そんな中、個人的にベストだったのは『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』(以下、『FF ピクセルリマスター』)でした。
1987年に発売された1作目から35周年目を迎え、2023年6月22日には16作目の発売が決定した、世界的人気を誇る「ファイナルファンタジー」(以下、「FF」)シリーズ。『FF ピクセルリマスター』は、ファミコンとスーパーファミコンで発売された1作目から6作目をリマスターした、シリーズのルーツに触れるのに最適な作品です。
2021年7月29日にリリースされた『1~3』を皮切りに、2022年2月24日の『6』まで約半年掛けて発売されました。Steam版がリリースされているのも個人的にうれしいポイントです。筆者はシリーズの大ファンなのですが、特にシステム、グラフィック、音楽面のリマスター具合が、筆者にとって絶妙だったのです。
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システムは、当時はなかったバトル時の自動コマンド入力&早送りが採用されるなど、オートメーション化された現代のゲームに合わせて更新。ゲーム初心者でもサクサク遊べるストレスレスな親切設計に進化しています。
当時から美麗で話題になったグラフィックも、オリジナル版のピクセルアートを担当していた渋谷員子さん自らドットを打ち直しているこだわりよう。リメイク作品でありがちな、変わりすぎや、キャラクターの頭身が崩れてしまっているような残念な違和感はなく、あたかも「元からこうだった」かのような錯覚さえ覚えます。
筆者が特に感動したのはリマスター用に新たにアレンジされた音楽です。
オリジナル版の作曲者・植松伸夫さん監修のもと、全音符を完全に再現しても拭えない”コレジャナイ感”に対して愛を持って戦った制作陣の努力は涙ぐましく、その成果は新規ユーザーへのアプローチはもちろん、オールドファンをも唸らせるものでした。
往年の作品がリメイクされるとき、内蔵音源で鳴らされていたBGMを再現するのはとても難しく、再アレンジされた楽曲もどこか作業的だったり、悪い言い方をしてしまうと“やっつけ仕事感”を感じたゲーマーの皆様もいることでしょう。本作に関してはその要素はなく、だからといって派手にしすぎることもない、脳内で美化されたユーザーそれぞれの記憶を「これだよこれ!」とばかりに違和感なく体現した出来栄えはお見事でした。
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本リマスターのクオリティの素晴らしさが象徴されていると感じたのは『FF6』の見せ場のひとつでもあるオペラ座のシーンだと思います。渋谷さんが当時も楽しんで描かれていたというドレス姿のセリスが登場するのはなんと「HD-2D」で描かれた城!(もちろん当時のグラフィックは平面でした。)『オクトパストラベラー』で脚光を浴びた、ドット絵に3D映像を融合させたこの手法は、これからのリメイク&リマスター作品にも新たな可能性をもたらしてくれるだろうと感じます。(実際にその後本格的に「HD-2D」手法でリメイクされた『ライブアライブ』が登場し、今後は『ドラゴンクエスト3』の発売も予定されています。)
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オペラ座シーンをさらに印象深いものに仕立てたのはその音楽、セリスの歌う「アリア」だと思います。
作曲の植松さんからオペラを「多言語」で「歌わせたい」というリクエストがあり、なんと7カ国語に歌詞を翻訳。それぞれを母国語に持つ歌手とフルオーケストラで奏でられる、編曲・椎葉大翼さんによるきめ細やかで過不足のない“ちょうどいい”アレンジの「アリア」は必聴です。以前、筆者が他誌で行ったインタビューにおいて、作曲の植松さんとミュージックディレクターの宮永さんともに「オススメの3曲」の中に「アリア」を含めたのにも頷けます。
今回、「HD-2D」を使用したオペラシーンが作られた経緯においても生歌の採用が大きく影響しており、この「アリア」が今後のリメイク作品へも大きな影響を与えたと言えるのではないでしょうか。
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近年数多くのリメイク作品が登場しています。しかし、当時の雰囲気を色濃く残しつつ確実に進化させた、かゆいところに手が届く"残念じゃない"リメイクは貴重だと感じました。「これからのリメイク作品はこれを超えていかないといけないのだから大変だ」と思いながらプレイした記憶があります。
なお、本作は2023年にPlaystation 4とニンテンドースイッチ版の発売が決定。スクウェア・エニックス e-STORE限定で、アナログレコードやドット絵フィギュアも同梱された『ファイナルファンタジーI-VI ピクセルリマスター FF35周年限定特装版』も登場します。ぜひこの機会に新しく生まれ変わった名作に触れてみてください。
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