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先日正式配信されたインドネシア製2Dアドベンチャー『A Space for the Unbound 心に咲く花』(以下、『A Space for the Unbound』)は、地元メディアも大きな関心を払っています。
デモ版の段階から好評を得ていた本作は、90年代後半のインドネシアの地方都市を舞台にしたストーリーテリングが魅力の作品です。1997年から始まったアジア通貨危機の只中、インドネシア国民はアチェや東ティモールでの紛争のニュースを新聞で読みつつも、それが自分には直接及んでこないだろうという心持ちで毎日を過ごしていました。
地元高校生のアトマとラヤは、普通の人にはない不思議な力を持っています。学校の先生や不良たちに目をつけられながらも男女として交際しているふたりは、やがて「世界の終わり」と対峙することに……。
ピクセルアートで表現された、インドネシア人にとっては懐かしい雰囲気のこのタイトル。地元メディアはどのように伝えているのでしょうか?
大手報道メディアも関連記事を発信
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まず最初は、地元テレビ局SCTVの報道番組Liputan 6の公式ニュースサイトから。
「なぜ報道番組のニュースサイト?」という声もあるでしょうが、国民の平均年齢が日本よりも遥かに若いインドネシアでは「新作ゲームの配信情報」も国民の関心事。この国のことを知るにはUMKM関連情報(中小零細事業者に向けた情報)とゲームを含めたテクノロジー関連情報のチェックが必須です。
Liputan 6には、何と「『A Space for the Unbound』のプレイ推奨環境」というタイトルの記事があります。Game*Sparkのようなゲームメディアにとっては珍しくありませんが、大手報道機関が『A Space for the Unbound』をプレイするのに必要なPCのスペックを解説していることは、日本目線では意外性を感じます。
また、ニュースサイトdetik.comのインターネット関連情報部門detikinetでも、『A Space for the Unbound』リリースの話題が報道されています。detik.comは地元財閥CTコープ傘下のTrans TVにつながる報道メディアで、国内外の事件や経済金融、スポーツ、そしてエンターテインメントやゲーム情報まで広く手掛けています。
これらの地元大手メディアの注目度は、同時にインドネシア国民の関心度を示します。
雑貨店の店内を観察してみよう!
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実際に『A Space for the Unbound』をプレイしてみましょう。
大抵の日本人にとってはこのゲームで繰り広げられる光景は「異国情緒溢れる場面」のはずですが、インドネシアで沈没していたことのある筆者にとっては「おおっ!」と声を張り上げてしまうものばかり。たとえば、物語の最中に登場する「カルニア・ジャヤ雑貨店」はまさにインドネシアらしい風景。どんな町にも、必ずこのような雑貨店は存在します。
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とにかく、再現度がハンパない! まぁ、地元クリエイターが作った作品ですから当然と言えば当然ですが……。
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現地の雑貨店について、上のスクリーンショットと照らし合わせながら解説したいと思います。
雑貨店だけあっていろいろな商品が並んでいますが、まずは白い丸にご注目。妙に大きなタンクが並んでいます。これは業務用の飲料水で、屋台やこの雑貨店より小規模のワルン(キヨスクと軽食店を足して2で割ったような小規模店舗。カルニア・ジャヤ雑貨店のすぐ近くにも存在します)に供給する商品。インドネシアはUMKM(中小零細事業者)が非常に多いため、このようなBtoB取引も活発というわけです。
雑貨店の少し奥には、テニスやバドミントンのラケットが置かれています。ここでスクショ内の青い丸にご注目ください。これもインドネシアらしい表現で、バドミントンはこの国の「国技」。オリンピックでもインドネシアに大量のメダルをもたらしているのは、バドミントンと重量挙げです。バドミントンができる野外コートのない高校や大学はインドネシアにはまず存在しない、と言っていいでしょう。そのため、雑貨店もバドミントンのラケットやシャトルを取り扱う必要があります。
最後に、赤い丸にご注目。なぜか鳥籠があります。無論、これも立派な商品。インドネシアでは鳥をペットとして飼う文化が昔からあり、ごく普通の民家でも軒先に鳥籠をぶら下げていたりします。良い声でなく鳥は高値で取引され(鳥の鳴き声コンテストもあります)、中には盗んだ鳥を故買品のように取り扱う犯罪シンジケートもあるほど。
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もちろん、それ以外にもカルニア・ジャヤ雑貨店は様々なものを取り扱っています。お菓子、ジュース、ペットフード、生活用品。漫画「あしたのジョー」に出てくる林食料品店、或いは昔の米ドラマ「大草原の小さな家」のオルソン商店のような“ここに来れば大抵のものは手に入る便利な店”と表現するべきでしょうか。
コーラが1,000ルピアで買えた時代
『A Space for the Unbound』について、筆者が驚愕した点がひとつあります。それは物価です。
物語の最中、アトマはこう話しています。
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「コアラコーラだ。通貨危機のあと、一気に1,000ルピアに値上がりしたっけ……」
ここに出てくる「コアラコーラ」はコカ・コーラをもじったもの……というのはどうでもいいこと。「コーラが1,000ルピア」で買えてしまうという点に注目です。
この記事を執筆している2023年1月25日現在の円ルピアレートは1円=115.40ルピア。そして現代、現地では標準的なサイズである390mlボトルのコカ・コーラは、概ね6,000ルピア程度ではないでしょうか。「ないでしょうか」というのは、筆者はパンデミック以来インドネシアに渡航できていない(現地の最新の物価をチェックできない)ことと、去年2月に勃発したウクライナ戦争の影響でインドネシアも急激な物価高に見舞われている事情があるためです。
いずれにせよ「コーラが1,000ルピアで買えた」というのはアジア通貨危機以前の昔話で、物語にノスタルジックなフレーバーを付け加えています。
アジア通貨危機の混乱期
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筆者は冒頭で「1997年から始まったアジア通貨危機の只中、インドネシア国民はアチェや東ティモールでの紛争のニュースを新聞で読みつつも、それが自分には直接及んでこないだろうという心持ちで毎日を過ごしていました」と述べました。
しかしこれは、1997年までの話であることも記しておく必要があります。
アジア通貨危機は、単に物価高を促す出来事ではありませんでした。1ドルでも外貨を保有しておきたい銀行は、支店の窓口を閉じてしまいます。それが取り付け騒ぎを発生させる原因となり、ついに「世界の終わり」のようなパニックとなってしまいました。また、30年超の独裁政権を維持し続けたスハルト大統領は、市民のデモに押し切られる形で1998年5月に辞任しました。
『A Space for the Unbound』の時系列は、アジア通貨危機発生からスハルト退陣の間という認識で概ね正しいと思います。
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なお、経済恐慌の最中にも個人向け窓口を閉鎖せず、同時に他の銀行に超高金利で融資したBank Megaという銀行があります。これは上述のTrans TVと同じ、地元財閥CTコープの子会社です。ビジュアルとストーリーテリングで巧みな時代感を描く『A Space for the Unbound 心に咲く花』は、PS5/PS4/Xbox One/ニンテンドースイッチ/PC(Steam)向けに配信中です。