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このゲームの開発者、本当は地球人じゃねぇんじゃね? と思ってしまう時がたまにあります。
3月14日に早期アクセスを開始したばかりの『ポーション・タイクーン Potion Tycoon』をプレイした際にも同じような印象をうけました。本作を端的に説明するならば、異世界の魔法ショップでポーションを売り、巨大ビジネスを確立していくというゲームです。ポーションの開発、調合、瓶詰め、原材料の仕入れと管理、従業員の雇用やスケジュール管理、店舗の拡大と内装の充実など、やることがとにかく多い!
魔法ショップ運営シム結論から言えば、このゲーム開発した人は絶対異世界出身だぞ!?
ポーションとワインはよく似ている……?
近年ポーションを題材にしたタイトルが複数リリースされており、人気を博しています。
しかし、本作を紹介するにあたり、敢えて別のタイトルをあげるとするならば、ワインを生産して販売する『Hundred Days - Winemaking Simulator』(Broken Arms Games開発)というゲームが最適でしょう。
こちらのタイトルは様々な種類のブドウを育てるところから、ワインに加工してそれを瓶詰めし、市場に流通させるところまで自分の手で実行するといったゲームです。本物のワインづくりをよく再現しているタイトルですが、今回プレイした『ポーション・タイクーン』はそれと方向性が似ています(開発はまったく別です)。
つまり、ワインの要領でポーションを製造するゲームと言えばいいでしょうか。
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ポーションというものは、ワインと同じく原材料を必要とします。それを加工して大釜に入れて調理するわけですが、その前段階として様々な下ごしらえを実施し、原材料が本来持っている効能を抽出します。ただし、この段階で切り捨てられてしまう効能もあるため、そのあたりは「どんなポーションを作るか」によって変えていく必要があります。「不純物をどのように取り除くか」をじっくり考えて加工することが、より付加価値の高いポーションを作るコツです。
本作では、一度作成したポーションは、以後製造がオートメーション化されます。ただし、製造器具には従業員を配置しないといけません。無論、従業員は無尽蔵にバリバリ働く超人というわけではなく、地球上の人間と同じく休みを取らないと仕事効率が低下します。そのあたりのマネジメントも、経営者の仕事です。
「店長殿……我々には休養が必要です」
「死んでから休めばいい」
などというやり取りが許されるのは、地球上でも異世界でも軍隊のみ。ですが、余剰になった人員をクリックひとつで解雇するのは問題ありません。彼らは派遣社員なんですかねぇ……?てか、異世界にも人材派遣会社ってあるの!?
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作ったポーションは、当然瓶に詰めます。瓶の種類や色、何と栓の種類まで選択可能。なお、この瓶と栓に対しても当然コストが発生します。
てか、何から何まで細かい設定……このゲームの開発者やっぱり異世界出身だろ!?と思わず言いたくなるようなこだわりを細部にまで感じます。
苦心のポーションが売れるとは限らない!
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製造したポーションは、もちろん売りに出されます。
店内に棚を置き、そこに販売特化の従業員を配置してお客さんを待ちます。いろいろな効能のポーションを置けるようになると、もちろんお客さんも増えていきます。ただし、そうなるにはポーションの増産が必要です。するとスタッフも原材料も足りなくなり、費用をかけてそれらを充実させたら、たちまち破産の危機に……という経営者の苦労に突き当たってしまいます。
徹底したファンタジーの世界設定ながら、厳しい経営管理も求められる……ここまでリアルなファンタジーゲーム、そうそうお目にかかれません。
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何をもって「リアル」と定義するのかという議論はあるはずですが、ポーションというのはただ適切な材料を集めて鍋で煮るわけではなく、下ごしらえの仕方であらゆる効能を引き出していくという点(この効能を求めたらあの効能が切り捨てられてしまった、ということもあります)がとんでもなくリアル! そして、ここまで苦心して作ったポーションが必ずしも顧客に広く受け入れられるわけではないというのは心にズシンときます。
異世界も資本主義経済で動いてるんだなぁ……。
しかしローカライズには問題が……
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もっとも、この記事を公開する3月21日の時点での評価は「賛否両論」。107件のレビューのうち、好評は65%です。
どうやらバグの問題などが指摘されていますが、筆者自身が確認したもので気になったのは「不十分なローカライズ」です。日本語設定にしてゲームを進め、それを終えて後日ロードすると、それまで日本語化できていたはずの部分が英語になっています。しかし、これまで通り日本語になっている部分もあるので、結果として日英混在のややこしい表示に……。
また、その日本語ローカライズも完全とは言えません。プレイを阻害するほどではありませんが、本作はそのジャンルの特性上、円滑なプレイのために覚えなければならない項目がかなり多く、それを解説するには「分かりやすい日本語」が必須です。しかし現状は、いささか小難しい表現になってしまっているのではと思います。
余談にはなりますが、筆者がライターという悪の道に足を踏み入れてから早10年、「咀嚼のしやすい日本語」ほど文章技術を要するものはないと思い知らされています。このあたりの仕事ができる人材を探すのって、本当に大変なんですよ。
ですが、ゲームの世界設定やアイデアはピカイチで、早期アクセスということを考慮すれば十分に光るポテンシャルは備えています。各種のバグフィックスやローカライズのクオリティが向上すれば日本でも広く受け入れられるはずのタイトルであることは間違いないでしょう。