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先日、Epic Gamesでの配信が始まったシネマティックFPS『Crime Boss: Rockay City』。80年代後半から90年代前半にかけてのハリウッドアクション映画で大活躍したスターが出演する作品として、日本でも注目を集めています。
このゲームの舞台はフロリダ州内にあるという設定の架空の都市「ロッケイシティ」。時代設定は90年代初頭で、実際に当時の空気を匂わせる描写に満ちています。今回はそんな『Crime Boss: Rockay City』をプレイしつつ、「懐かしの90年代」について筆者の偏見を加えながら解説していきたいと思います。
一括りにできない「90年代」
2021年7月、Twitterで「90年代」というワードが批判的・否定的な意味で拡散されてしまいました。
それは90年代に全盛期を迎えていた有名人の不謹慎な発言が取り沙汰されたからですが、この騒動をきっかけに「90年代はオカルトや悪趣味が流行った時代」と認識されてしまったようです。そのような流行も存在したことは確かですが、それをもって「90年代はこんな時代だった」と論じるのはあまりに短絡的ではないでしょうか(著名な論客にも、そのように断じる人がいました)。
90年代を少年として過ごしてきた筆者は、この時代を90年から94年、95年から96年、そして97年から99年までに区切ることができると考えています。それぞれ時代の雰囲気が全く異なり、しかもそれは日本だけでなくアメリカに対しても概ね当てはまる……というのが筆者の意見です。
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『Crime Boss: Rockay City』の時代設定である「90年代初頭」は、当然ながら90年から94年を指します。この時代、日本はバブル崩壊を迎えてはいましたが、そもそもバブル経済というものはその最中にいる限り自覚が起こらない現象です。日経平均株価が大幅に下落したからこそ「これはバブルの崩壊だ」と言えるわけで、さらにそれが発生したからといって国民がいきなり貧しくなるということではありません。たとえば「お立ち台ブーム」のきっかけになったディスコ、ジュリアナ東京のオープンはバブル崩壊後の出来事です。
アメリカが舞台のゲームの記事なのに、なぜ日本の話をするのか? 現代の若者に言ってもなかなか信じてもらえませんが、それだけ当時のアメリカ経済は日系企業ありきだったのです。
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日本製の半導体は、まだまだ世界を牽引していました。テレビ、腕時計、AV機器、自動車、発動機、通信機器、果ては楽器に至るまでメイド・イン・ジャパンが席巻していた頃です。日系企業がハリウッド映画に惜しみなく資金を投じますが、その一方で日本製品を否定する「ジャパン・バッシング」も巻き起こりました。
このままでは、アメリカそのものが日系企業に買収されてしまうのではないか……? アメリカ人がそう不安に感じていた最中、日本ではVHSビデオ再生機の普及と共にレンタルビデオ店が軒を並べるようになりました。人気の映画は、やはりハリウッドもの。この時代のハリウッド俳優は、ある意味でレンタルビデオ店の「看板店員」だったとも言えます。
95年以降の「迷走」
しかし、バブル崩壊はやはり日本にとっては深い傷でした。いつになっても好転しない株価、そして上がらなくなった給料。それは年々明らかになっていき、それに追い打ちをかけるかの如く日本では阪神大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生します。
大都市が自然災害によって呆気なく倒壊し、直後に今の今まで笑いと娯楽の種にしてきたオカルトが牙を向きました。これまで自分たちが絶賛してきたモノとコトは、一体何だったのか。その答えを見出すために日本人が迷走していたのが、95年と96年です。
そして97年に入ると、三洋証券や山一證券、北海道拓殖銀行といった金融機関が次々に破綻します。バブル崩壊により転落した日本経済は好転するどころか、ますます悪化してしてしまいました。ここまで来ると、かつてのようにハリウッド映画の中で日系企業が強烈な存在感を示すということはめっきり少なくなりました。経済情勢は完全にロースコアで、海外の映画どころではなくなった……ということです。
筆者は1998年を中学2年生として過ごしています。テレビや新聞で報じられるニュースも明るい内容のものが殆どなく、大人たちもみんな閉塞感に陥っていたことをよく覚えています。自分では事態を好転させる策を考えない大人は我々ティーンエイジャーに対して妙にサディスティックな印象で、このことは一生涯忘れられません。
夢を見ることができた時代
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ここで話を『Crime Boss: Rockay City』の時代設定である90年代初頭に戻します。
日本ではバブル経済が終わり、また世界情勢もソ連崩壊による冷戦終結という転換点を迎えますが、それでも80年代の残光が強く存在していました。「世の中いろいろなことが起こっているが、何だかんだでこれからも生活が上向いていくだろう」という意識(というより幻想)を多くの人が共有していた時代です。
従って、『Crime Boss: Rockay City』の世界観は1920年代の終わり頃によく似ています。個人消費が旺盛で、まさに隙あらば自分自身が業界のトップに君臨しようという雰囲気に満ちています。
考えてみれば、1920年代のアメリカでもギャングが大手を振っていました。
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『Crime Boss: Rockay City』のキャンペーンモードは、マイケル・マドセン演じるトラビス・ベイカーがロッケイシティのキングにのし上がるまでのストーリーが描かれます。銀行を襲い、ライバルの縄張りを襲撃し、チャンスがあればそれをぶん捕る……。一時的に不可侵条約を結ぶことはありますが、最終的にはシマを全て我が物にするのが目的です。
試しに、『Crime Boss: Rockay City』のキャンペーンモードをプレイしたあとにボードゲームの『モノポリー』をやってみましょう。実は「目指すもの」がかなり酷似していることが分かると思います。つまり90年代初頭は、どこまでも上昇と発展を目指すことができたハイスコアの時代だったのです。
カネ、銃、カネ、クルマ
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『Crime Boss: Rockay City』の世界観は「カネ、銃、カネ、クルマ、カネ、クスリ」です。これから間もなく終焉を迎えるギラギラの時代、しかし末期だからこそ異常なほどの盛り具合で、ゲームではそれが本当によく再現されています。ストーリーパートではスキップ機能が利用できますが、凄まじい見応えなので使う機会はほとんどないことでしょう。
ともかくこの『Crime Boss: Rockay City』は、うっかりするとこれだけで夜更かししてしまうほどの良作! 現在はEpic Gamesストアにて配信中。コンソール版についてはPS5/Xbox Series X|S向けでストアページが公開されていますが、発売時期は未定です。