ホラーはストーリー、ストーリーは見た人の心を動かせるか否かに懸かっています。その点において、フリーゲームはシステム的に物語性を重視している作品が多く、これまで数えきれないほどの名作が商業化を果たしてきました。
本稿ではかの名作と同じ流れを辿り、2023年5月19日に配信されたホラーアドベンチャー『ポケットミラー～黄金の夢（Pocket Mirror ～ GoldenerTraum）』の気になる内容を紹介します。
『ポケットミラー～黄金の夢』とは！？
本作は、2016年のフリーゲーム『ポケットミラー』のリマスター版として、KOMODOから発売されている謎解き系ホラーアドベンチャーです。主人公の少女が美しくもおぞましい異世界を彷徨いながら、馴染みやすいアニメ的グラフィックで描かれるキャラクターたちと物語を紡ぎ、失われた記憶と隠された真相を追って冒険を繰り広げます。また、日本語をはじめとした複数言語に対応しているほか、ボタン表記を含むフルコントローラーサポートも実装しています。
本編紹介……の前にキャラ解説！
◆主人公
記憶喪失の美少女。想い出のポケットミラーだけを持ち、異世界の住人たちの辛辣な物言いに笑って相槌を打つ強靭な精神力の持ち主です。良い人すぎるのが玉にきず。
◆エリエッテ
喋るお人形さん。性別は女性。時に厳しく無慈悲に生命を奪い、時に優しく助け舟を出してくれる気まぐれなお母さんのような存在です。フレッタのマブダチ。
◆フレッタ
ドールハウスに住むお姫様（？）。ちょっとワガママで、カッとなりやすいところがあるものの、善意が空回りして独裁しているだけの寂しがり屋な女の子です。筆者の推し。
じわじわと迫りくるホラーの人間工学！
本作を形作っている二大要素のうち、いわゆるホラー部分については序盤から全く手加減のない密度と濃度でプレイヤーに襲いかかります。
有形無形の存在が直接的に主人公の少女に危害を加えようと迫る物理的恐怖だけでなく、視覚や聴覚に訴えるトラップで揺さぶられるなど、プレイすること自体がストレスになるような精神的恐怖まで、そのバリエーションは豊富です。
ゲームの進行に必要な謎解きに頭を巡らせるのも本作の魅力であり、カギとなるアイテムや手がかりを求めてステージを行き来する都合上、暗がりの中に自分から足を踏み入れて危険に立ち向かわなければなりません。そうした手間暇も全て恐怖演出に繋がっていくのは、本作がホラーゲームとして完成されている証拠でしょう。
ドット絵の歩行グラフィックや豪華な立ち絵、マップに配置された小物も含めたデザインの可愛らしさとは裏腹に、遠慮のないグロテスク展開が定期的に挟み込まれるのも狙いすましたギャップのような鋭い一撃となってプレイヤーに突き刺さります。
ストーリーも心理的な部分にフォーカスされた内容となっており、理不尽な暴力や押しつけがましい個人趣向ではなく、誰もが抱きうる心の闇を描いた謙虚な演出。いわば“ホラーの人間工学”とでも言うべき自然体の恐怖が表現され、異世界の怪異でありながらも、人間の内面を映し出したようなメッセージ性の強い作品となっていました。
孤独が人の心を変態させる悲劇のデスゲーム
前述の通り、本作のストーリーは特徴的なキャラクターたちによる剥き出しの絡みや、平然と生命が天秤にかけられるぶつかり合いなど、人間味のある感情や葛藤を軸にした物語が展開されます。
この狂気にも似た生々しさが、結果的に恐怖演出・謎解き・共感できるユーモアを構成する要素として昇華・派生していくので、ストーリーが本作の重要な土台となっていることは間違いありません。
本作を彩るメインキャラクターはどれも個性的で強い主張を持ち、彼女たちの登場により展開が加速して物語に華を添えてくれるのはもちろん、あちこちに存在するモブキャラもひねくれ曲がった感性で言いたいことを言ってきます。
ゲーム中のヒントとなる本や小話も、可愛い見た目でショッキングな内容の皮肉に満ち溢れており、ある意味ではトラップも同然です。
主人公が冒頭から記憶を喪失し、異世界が舞台という事情もあって少ない情報から読み取れる事実は少ないですが、最初は異質な印象が強かった登場人物にも人格を形成する芯のようなものがしっかりと備わっています。
ゲームの進行によって、それらの点が線となって結びつくのを実感できたのも、感情移入や自己考察も謎解きの一環として楽しめる本作ならではの面白さでしょう。
はっきり言って、主人公以下のキャラクター全員が怪しく見えることもあり、プレイを通して本作の雰囲気に慣れてくるほど、目に見える全てが伏線のように思えて疑心暗鬼の状態でした。実際、ゲームということで生命が軽く扱われがちなので、一瞬の油断が死に直結することも珍しくありません。
そんなホラーが支配する異常な世界に適応し、段々と理解を積み重ねてキャラクターの気持ちを推し量れるようになってきてからが本番……と言っても過言ではありません。謎解きには逃走などの直感操作が要求されたり、緊迫した状況で機転を働かせたり、本格的な推理を要求されたりする場合もあるので難度は割と高めです。
ゲームとしての堅実な面白さはもちろん、各々のキャラクターに愛着が湧きはじめた頃合を見計らったかのように始まる濃ゆいデスゲームの緊張感もあり、オープニングアニメをはじめとした様々な新要素が追加されている本作は初プレイにも最適な決定版となっています。
スパくんのひとこと
ホラーと謎解きと美少女、三者の絶妙な配分から繰り出される感動は名作にふさわしい仕上がりスパ！フレッタちゃんの強めな自己主張に曝されながらの謎解きは人を選ぶ可能性があるけど、それでも好きだスパ！
タイトル： ポケットミラー～黄金の夢
メーカー：AstralShift、VisuStella、KOMODO
対応機種：PC
筆者がプレイした機種：PC（Steam）
発売日：2023年5月19日
記事執筆時の著者プレイ時間：3時間
価格：1,980円
