『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に登場するシーカー族は巨大な機械を建造できる高度な技術を持っていて、制御不能になった機械は序盤のリンクを大いに苦戦させました。素焼きの土のような外観が特徴のデザインは、日本古代の「縄文時代」のものをモチーフとしており、ハイラルの一万年前という時代を感じさせるものになっています。

縄文時代とは、日本における新石器時代(旧石器を含む説もあり)、紀元前約14,000年前から紀元前約500年までおよそ13,000年間の狩猟採取生活が中心だった時期です(約16,000年間という説もあり)。縄で模様を付けた狭義の「縄文土器」が多く見つかっていることから縄文時代と名付けられました。
地球が氷河期から温暖化に転換した直後の時期で、海面は現在よりも数メートル高くなり、東京23区などは深く水没していました。日本では寒さに強い針葉樹から温暖に向いた広葉樹へ植生が入れ替わります。広葉樹はどんぐりを多く落とすので、狩猟で獲物を求めて移動する生活よりも安定して食糧を確保できるようになりました。内陸まで入り込んだ海岸線でも貝が豊富に取れて、採取の拠点を作って定住生活をするのが主流になります。

この生活の根幹となるものが「調理を行うための土器」であり、祠やガーディアンのモチーフになった「深鉢形土器」もその一種です。壺のように深い形で、高さは50センチほどと大きい花瓶のようです。時代によってくびれや上部の広がり、装飾などのバリエーションがあります。鍋のように使っていたとされ、これをひっくり返すとハイラルでもよく見る形状になりますね。山菜やキノコ、どんぐりなどは軽くあぶっただけでは食べられないものも、地面に掘った炉の中に置き、長時間土器の中で煮炊きすることによって、柔らかく安全に食べられるようになりました。その食生活の変化が時代を区分する重要な根拠です。

有名な「火焔型土器」は様々な深鉢形のバリエーションで、「縄文雪炎」を含む国宝14点だけでなく、関東甲信越を中心に数多くが発掘されています。ベースとなる土器の外側に紐状のパーツを貼り付けて飾っていくのですが、縄をかけるであろう取っ手以外は過剰とも言える装飾です。少なくともそれを使って煮炊きをした痕跡は見つかっていて、儀式用か日常使いか、あるいは両方を兼ねていたのか、その目的やモチーフは未だに謎に包まれています。

黒曜石の刃物で狩ってきた動物の肉を切り、山菜やキノコを加え水炊き鍋のようにして火を通す、シンプルですが今食べても美味しそうなものを食べていたようですね。ドングリや栗などを粉にして焼いたいわゆる縄文クッキーもありますが、こちらは化学分析に疑義があり、生地に何を混ぜていたのかは結局不明に。縄文研究はねつ造事件があったため、それ以前の研究の信頼性が揺らいでおり、昔習った学説がもう通らないということもあるので注意が必要です。

一方で栗、栃の栽培が行われていた、果実酒の発酵を行っていたなどの新しい可能性も示されており、稲作導入前の食生活は予想していた以上に豊かだったことが分かってきました。『ブレス オブ ザ ワイルド』ではほとんどの食材を自力で狩猟採取しなければなりませんが、肉、魚、野菜、キノコなど、何を料理しようか迷うほど種類があります。国が滅びたせいもありますが、この点を見ればリンクもなかなか縄文人的な食生活ではないでしょうか。

縄文時代は今、1万年にわたって安定した生活をしていたという点に注目が集まっています。島という環境は資源の枯渇が起こりやすく、人口増加や部族間対立で社会崩壊することも。技術革新で新時代に移行する可能性もあるなかで、地域間の交易を行いながら緩やかに暮らせていた理由は何か、争いが比較的少なかったという事からも活発な議論が出ています。


そして、縄文文化は日本現代美術に影響を与えたことでも重要です。「芸術は爆発だ」の言葉で知られる岡本太郎は、現代の芸術とは全く異なる感性で作られた火焔型土器を見て強く衝撃を受け、それまで奇妙な考古学の品でしかなかった縄文土器に、芸術的感性に満ちあふれていることを見いだしました。現在の「日本の伝統」から失われている、人間の根源的なエネルギーを縄文土器から感じ取り、強烈なインパクトを残す作風へシフトしていきます。
その金字塔と言えるのが、あの「太陽の塔」。科学の進歩を展示する万博へ、真逆の原初的な荒々しさをぶつけることに意義がありました。太陽の塔はボックリンのフォルムになんとなく似ている気がしませんか?コログの面は縄文の仮面の表情にそっくりで、ここにも縄文デザインが取り入れられています。
「国破れて山河在り」と杜甫の漢詩にありますが、ハイラル王国が滅んでも野山や山林が無くなったわけではありません。天候や季節などの「自然の息吹」を感じてみると、日常の見え方が変わるかもしれません。
¥7,920
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)