今回ご紹介する『Crimson Tactics: The Rise of The White Banner』は、7月26日にPC(Steam)向けに早期アクセスが開始されたターン制SRPGです。舞台は中世風のハイファンタジー世界にある王国。2年前に王が殺され、王国は各地を支配する公爵が王位をめぐって相争う泥沼の内戦状態にあります。プレイヤーはある公爵に仕える新米騎士となり、国の命運を左右する戦いに身を投じていきます。開発とパブリッシングを手がけるのはBlack March Studiosです。
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本作の特筆すべき点は、大河小説のように主人公の視点で描かれる壮大な歴史と人間ドラマです。ストーリーは重く、戦乱の時代に生きる人々の描写はファンタジー世界とはいえリアルそのもの。プレイヤーはたびたび正解のない問題に直面して決断を迫られます。キャラクターのセリフ回しやグラフィック面の演出もドラマチックでストーリーを引き立てます。
本作は『タクティクスオウガ』や『ファイナルファンタジータクティクス』など往年のSRPG作品から強い影響を受けています。ゲームシステムやストーリー性が似ているだけではありません。ゲーム内にはあえてオリジナルに似せたのではないかと感じる場面が随所に登場します。これらの作品をご存知のプレイヤーなら本作をさらに楽しめるでしょう。
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ストーリーが素晴らしい本作ですが、残念ながら早期アクセス開始時点では日本語に対応していません。しかし、早期アクセスのリリース後に日本語を含む10種類の言語にローカライズが予定されています。
本作の基本システム
ゲームは本編の前日譚にあたるチュートリアルステージから始まります。チュートリアルで操作するのは主人公とは別のキャラクターで、主人公はチュートリアル終了後に改めて作成することになります。
キャラメイクで主人公に直接設定できるのはファーストネームと誕生日だけですが、それとは別にストーリー序盤で主人公がタロット占いを受ける場面が登場します。タロット占いでは、順番に提示される5枚のタロットカードそれぞれについて質問が出され、3つの選択肢から自分が正しいと信じる答えを選んでいきます。
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例えばこのような質問です。
それに対して3つの選択肢が出されます。回答としてはどれも正解ですが、あなたが正しいと信じる答えはどれでしょうか。
戦争を避けるため暗殺者を送り込め。
王を暗殺して王位を簒奪せよ。
嘘の内戦を扇動して王の意欲を削げ。
今回プレイした範囲では、この占いの結果がゲームにどう反映されるのかを正確には確認できませんでした。しかし、この占いは『タクティクスオウガ』にも登場するシステムで、なんらかの形で主人公やストーリーに影響を与えると考えられます。
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本作の基本的なゲームシステムはオーソドックスなSRPGと同じです。キャラクターのクラスや属性、アビリティ等の概念は『タクティクスオウガ』などの作品とほとんど変わりません。逆に、それらの作品を知っている方にとっては理解しやすいシステムになっています。戦闘はターン制で、高さや向き、射線の概念が存在します。行動順はクラスと装備の重さで決まり、自由な順序で行動することはできません。
本作に特徴的なシステムとしては、ドラゴンなどの騎乗動物に乗って戦えること、難易度がプレイ中に自動調整されることが挙げられます。難易度は最初に手動で設定することも可能です。
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ドラマチックなストーリー
人間ドラマを中心に描かれるストーリーは重く、プレイヤーはたびたび正解のない問題を突きつけられます。一つ例をご紹介しましょう。ストーリーの序盤で主人公は公爵の命令を受け、反乱軍の鎮圧に向かいます。しかし、目当ての反乱軍はなかなか見つかりません。主人公の上役は反乱軍の居場所を突き止めるため、捕虜の兄妹に対して残酷な尋問を始めます。妹の首に剣を突きつけ、反乱軍のことを吐かなければ妹の命はないと兄を脅迫したのです。
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これまでも上役が行う数々の残虐行為に見て見ぬふりをしてきた主人公でしたが、ここに来て選択肢が表示されます。沈黙を守るか、止めに入るかです。主人公は兄妹となんの面識もありません。ここで止めに入れば反逆者とみなされ、上役だけでなく仲間の騎士からも追われる身となるでしょう。決断するのはプレイヤーです。
「誓って俺たちは反乱軍じゃない。妹を離せ!」と悲痛な声を上げる兄を前に、筆者は彼らを救うことを決断しました。おもむろに剣を抜いて上役に突きつける主人公。しかし、上役は「英雄気取りか、小僧」と鼻で笑い飛ばします。筆者はこのあとに続く悲劇的な結末をまだ知りませんでした。
ネタバレを避けるために詳細は伏せますが、このような形で小気味よいセリフと丁寧な演出を交えながら、ドラマチックなストーリーが展開されていきます。
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往年のSRPG作品へのオマージュ
本作は『タクティクスオウガ』などの作品から強い影響を受けています。それはストアページの作品紹介にも明記されているほどです。実際にゲームをプレイすると、ゲームシステムやストーリー性だけでなく、これらの作品へのオマージュとしてあえてオリジナルに似せたのではないかと感じる場面が随所に見つかりました。これまでに掲載した画面写真を見て同じ印象を持たれた方もいるのではないでしょうか。
筆者が序盤で気づいただけでも、城門前と玉座の間で構成されるチュートリアルステージ、タロット占い、炎上する町、ワールドマップなどにオマージュを感じました。また、本編開始時に表示されるタイトルは『XENTHANIA SAGA CHAPTER 2 The Rise of The White Banner』です。全8章とされる『オウガバトルサーガ』にどことなく似ていますね。オリジナルの作品をご存じの方はこのようなオマージュを探してみるのも面白いでしょう。
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本作の残念なところ
魅力的な本作にも惜しい点がいくつかあります。まず最初に挙げなければならないのは、早期アクセスの開始時点では日本語に対応していないことでしょう。ストーリーに力を入れている作品だけにこれは非常に残念です。しかし、最初にご紹介した通り、日本語へのローカライズは予定されているので期待して待ちましょう。
次に、操作性の悪さが気になりました。戦闘中、キャラクターに指示を出すには階層構造のコマンドメニューを何度も行ったり来たりしなければなりません。
例えば、敵に接近して剣で攻撃するとしましょう。敵に近づくには画面左上のメニューから「移動」を選択して移動先をクリックします。ここまでは問題ありません。次に、敵を攻撃するにはメニューの「アクション」を選択し、さらにその下の階層に表示される「攻撃」を選択し、さらにその下の階層にある「剣」を選択してから、攻撃対象をクリックする必要があります。このように階層を一つずつたどるのはかなり面倒な操作です。最後に、一番上の階層の「ターン終了」を選択し、キャラクターの向きを決めてようやく行動終了です。
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移動や攻撃を指示している途中で気が変わった場合は、階層を一つ一つさかのぼりながら命令を取り消さなければなりません。各コマンドには数字が割り振られているのでキーボードの数字キーで直接選択することも可能ですが、それでもテンポよくプレイするにはある程度の慣れが必要でした。命令ミスがキャラクターの生死に直結するゲームだけに、これは早期アクセス中にぜひ改善して欲しい点です。
また、個人的には敵の移動範囲がマップ上に表示されず、攻撃の予測が立てにくい点も気になりました。
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ストーリーに重点を置いた往年のスタイルのSRPG作品
本作はストーリーに重点を置いた往年の作品に近いスタイルのSRPGです。戦乱の時代を舞台に描かれる人間ドラマは重く、プレイヤーはたびたび正解のない問題を突きつけられて、難しい決断を迫られます。
『タクティクスオウガ』など往年の名作SRPGから強い影響を受けており、それらの作品へのオマージュが随所に見られるのも特徴です。こうした作品のファンなら別の意味でも楽しめるでしょう。
ストーリー重視のSRPGをプレイしたい方、往年のSRPGが好きな方にお勧めの作品です。
スパくんのひとこと
ドラマチックなセリフの応酬が熱いスパ!現時点で日本語に対応していないのはホントに残念スパ!
対応機種:PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:PC(Steam)
発売日:7月26日
著者プレイ時間:6時間
価格:3,500円(8月1日までに購入すれば2,800円)
※製品情報は記事執筆時点のもの