千葉・幕張メッセの現地とオンラインの両面で開催された国内最大級のゲーム展示会「東京ゲームショウ2023」。同会場のNetEase Gamesのビジネスブースでは、Quantic DreamがパブリッシュするRed Thread Games開発のアクションアドベンチャーゲーム『Dustborn』のメディア向けプレゼンテーションが実施されていました。そこで本記事では、Red Thread GamesのクリエイティブディレクターRagnar Tornquist氏へのインタビューの様子をお届けします。
なお本作を開発するRed Thread Gamesは、2017年発売のサイバーパンクSFと魔法ファンタジーを組み合わせたアドベンチャーゲーム『Dreamfall Chapters』や、1920年代のノルウェーが舞台となる2019年発売のサスペンスミステリー『Draugen』などを手掛けた実績を持っています。
『Dustborn』のプレゼンテーション―リズムゲーム、アドベンチャー、バトルが詰まったアメリカ横断の旅
初めに本作のプレゼンテーションです。本作の舞台は、分断されて複数の国家となってしまった近未来のアメリカ。タイトルを含めアメコミを筆頭にフランスのバンドデシネや日本の漫画を含めて影響が表れているデザインです。
直接ゲームプレイに挑むことは出来ませんでしたが、クリエイティブディレクターのRagnar Tornquist氏が解説を行いました。プレゼンテーションで披露されたのは主にアドベンチャーと戦闘、ミニゲーム(リズムゲーム)の3種類。完璧ではないものの字幕やUIの一部が日本語化されていました。
最初に映されたのはストーリー序盤における車内での会話シーン。登場キャラクター4人各々が雑多な会話を繰り広げる中で、プレイヤーは会話に介入し、話題や質問に答える/答えないで物語の流れを変化させられます(また、会話に対して答えないで時間が経つと表れる選択肢もある)。またクルーのメンバーはストーリーが進むとさらに増えていきます。
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各々特殊能力を説明する部分も入っており、運び屋で登場人物の1人であるPaxにはワード(言葉)を現実にする能力が、身体が大柄なSaiは身体を石のように硬くさせることが、銀髪で左手に義手を持ったNoamは癒やしの能力が、リーダーのTheoは超常的な能力こそ持ちませんが電子機器に長けています。また、ミニゲームの一つとしてリズムゲームパートがあります。ここでは特定ノーツに合わせてボタンを押すことで進行しました。
本作が珍しいと思わせる部分は、この音ゲーシーンで演奏してもしなくても良いこと。もちろん酷い演奏になりますが、話の流れもそれにあわせて変化していきます(登場楽曲は全てオリジナルで収録数も多いそう)。
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次のシーンはゲームがもう少し進んだあとで訪れるセーフハウスでした。今後のPaxたちの拠点となるバスの底部に潜り込んで整備していた女性がジャッキが上手く働かなくなってしまったことで、車体に押しつぶされそうとしているところを助ける場面です。ここでプレイヤーはPaxを操作して、各々に特殊能力を使うよう指示しながら彼女を救出するパズル的なパートでした。
また“アメリカ共和国”への国境越えパートも披露。ここでは必要書類を揃えて突破することになりますが、Paxたちはパンクロックバンドを仮の姿としているため、監督官を納得させるべく演奏に挑みます。前述の歌パートのように無視することも出来ますが、その分難易度も上がってしまうそう。パンクロックバンド要素はここだけでなく、西海岸から東海岸へ移動する途中に何カ所かコンサートに参加して演奏しなくてはなりません。もちろん、演奏の上手い/下手なりにストーリーも変わりますし、演奏の練習もできます。
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次は、バス車内のパートでした。このバスは基地的な役割を持っており、他のメンバーとの会話や装備や服などを整えたり、新しい曲を作ったり、移動ルートを確認したり、そしてこれまでのあらすじやプレイヤーの行動の結果が1冊のアメコミとしてまとめられていました。なお、アメコミ部分については、個々のプレイヤーごとに自分のプレイから生成されたものを広く共有できるそう。
加えて、これまでに選んだ行動をPDFやQRコードという形で見せ合うことも可能なそうです。移動中には途中でキャンプファイアーや食事、睡眠などの行動も出来ます。
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移動ルートはサンフランシスコを起点に、オレゴンやアイダホなどの北側から中西部の北側を抜けて、ミネアポリスやシカゴを通り、カナダのトロントを経由してノバスコシアまで行くルートです。もちろん、進め方によってルート分岐があります。
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最後は、Paxが自分の妹を探しにいった時に始まる大きめのバトルシーンでした。ここではPaxが武器となるバットを手に入れて、仲間のSaiと共に野球場にて様々な「言葉の力」を放ちながら多数の敵と戦います(シャウト能力は人間のみに効く)。このシャウト能力は、味方側にも掛けることが可能で様々な能力を高められます。
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戦闘に参加出来る人数は、戦闘によって多少上下しますが基本敵にプレイヤー+NPC2人の合計3人です。難易度は、敵を倒しやすい「ストーリーモード」と歯応えがある「アクションモード」があるそう。ただ、本作はアクション重視のゲームで無い為に他と比べると、そこまで難しくないそうです。
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矢継ぎ早に登場する敵を倒していくと、ティルトローター機からスナイパーが出現。スナイパーを倒すためにPaxがバットでティルトローター機へボールを打ち込んで撃墜します。しかし、ここで終わらずに最後は、初めてのボス戦となるマスコット風ロボと戦います。このボスのデザインは、日本のマスコットキャラを研究したものとなっているそうです。このボスを倒してプレゼンテーションが終わりました。
クリエイティブディレクターのRagnar Tornquist氏インタビュー
――Red Thread Gamesについて教えてください
Ragnar氏 Red Thread Gamesは、ノルウェーに拠点を置く会社で、設立から現在まで11年の間に、『Dreamfall Chapters』や『Draugen』など、スカンジナビア風のテイストも入ったナラティブ重視の1人称/3人称視点のアクションアドベンチャーゲームを制作してきました。我々の強みとしては、独特な世界観や美しいグラフィックを制作するのが好きなところです。また現在の開発チームは25名ほどです。
――本作は2020年のFuture Games Showで発表されたタイトルですが、いつ頃から開発をはじめたのでしょうか?
Ragnar氏 2020年発表時はコンセプト段階で、本格開発に移れたのは2021年です。ただ発表より前に物語や設定などを詰め込むため、厳密に言えば企画を考えた2017年がスタートと言ってもいいかもしれません。
――なるほど。初発表では2021年発売とあったので、延期したものであると思っていました。
Ragnar氏 発表当初はパブリッシャーがいない状態だったので、ゲームとしても小さなものでした。その後Quantic Dreamと話し合い、パブリッシャーとなったタイミングでより壮大な物語を持つフルサイズのゲームになりました。
――パブリッシャーとなるQuantic Dreamはアドベンチャーゲームに強い会社ですが、ストーリーや演出などへ高い品質を求められることがありますか?
Ragnar氏 Quantic Dreamはパブリッシュをする段階でRed Thread Gamesの以前の作品を見てきていることから、我々の物語作りを認めてくれたのだと思います。もちろん、物語重視のゲームに定評のあるQuantic Dreamは、コンセプトの相談でもより良い意見を述べてくれる、物語の質を高める大事なパートナーです。
――Quantic Dreamと協力を進めて行くなかで変化した印象的なシーンがありましたか?
Ragnar氏 先のプレゼンテーションで披露した、ゲームプレイの結果によって内容が変化するコミックブックです。アイデアとして提案した時にQuantic Dream側の注目度が高く、協力しながら洗練させていきました。また登場キャラクターがそれぞれに抱えるものは、ゲームの進め方によって少しずつ変化し、エンディングでその結果が現れます。そこにもQuantic Dreamとの相談によって意味あるものにできたと思います。
ただ、飽くまでも本作はRed Thread Gamesが主体として開発し、Quantic Dreamがサポートする立場であるため、彼らがゲームの作り方について注文を付けるわけではありません。「アイデアを如何にゲームへ落とし込むか」を一緒に考えてくれるのが良きパートナーであるのがQuantic Dreamなのです。
――インスピレーションを受けた映画や小説、ゲームなどがあれば教えてください。
Ragnar氏 もう一人のクリエイティブディレクターが、フランスのバンドデシネ作家メビウスから大きなインスピレーションを受けていました。また、私はイギリスやアメリカの作家からの影響を受けています。ゲームプレイは『ペルソナ』や『龍が如く』シリーズにおける、ゲームの根幹を成すシステムを持ちつつも様々なミニゲームが周囲に存在する構成にインスピレーションを受けました。
――先のプレゼンテーションやトレイラーの音楽を聴いていて、何となく80年代チックな曲が多いと思いました。音楽に対してのこだわりは何ですか?
Ragnar氏 我々のチームに、コンセプト立ち上げ時の中心となる作曲家が1人います。その音楽を中心にゲームを作り上げるスタイルです。もちろん音楽には、80年代的な要素も持ちますが、90年代や70年代的なテイストのもの、シンセサイザーを用いたもの、そしてパンクロックバンド的な要素も持ち合わせています。
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――Steamストアに書かれている説明で本作の舞台設定は「分断されたアメリカ」とあります。本作が2017年に企画されたとなるとトランプ大統領誕生前後ということもあり、本作の主人公や世界設定を決めるのは難しかったのでしょうか?
Ragnar氏 難しいのはその通りで、実際トランプ大統領の誕生に影響を受けている部分があるかと思います。私自身も長年アメリカに住んでいましたし、いまだに家族が住んでいるので、トランプ政権下での2極化を見てきました。もちろん自分自身の政治的な考えはしっかりと持っているのですが、現実からの影響を無視出来ないものの、あくまで本作はゲームであり、想像のものとして制作しています。
このゲームのストーリーは私を含めて3人で制作し、内2人はアメリカ人です。彼らに現実的な部分での監修や、実際にアメリカで起きたことをチェックした上で作り上げています。もちろん分断という問題はアメリカだけではありません。また、世界中で起きている政治的な争いやソーシャルネットワーク上でのデマなど……、どちらかと言えば世界的な問題をゲームに落とし込んでいると言えます。
――コミュニケーションについての話が出てきましたが、Paxの「言葉の力(ウェポン・ナイズド・ワーズ)」というアイデアはそこから生まれたのでしょうか?
Ragnar氏 ゲームを作っている最中にも世の中に偽情報が飛び交っていますし、それらに対して声を大にして言わなくてはならないことや、ゲームの中において「言葉」を使って戦い、そして乗り越えることを表現しようとしてストーリーを書きました。
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――「言葉に力が宿る」という部分は、まるで日本における言霊を連想してしまいますね。
Ragnar氏 言霊という考えは面白いですね。このゲームで伝えたいことは、「言葉はどのように世界へ影響を与えて変化するのか」です。それを象徴するように、ゲーム後半では言葉による表現で成し遂げられる出来事があります。
――ちなみに本作で好きなキャラクターは誰ですか?
Ragnar氏 答えるのが難しい質問ですね(笑)。書いている身からすると、楽しいはSaiですね。感情的でもあるし人間的な脆さも表れているので、かなり面白く描けた魅力的なキャラクターです。ロボットのキャラクターも登場当初はあまり喋らないのですが、後半になると物語の前面に出るので書いていて楽しいキャラでした。また、今回見せられなかったキャラクターも多くいますし、それぞれがとても魅力的で書いていて楽しいので、選ぶのは難しいです。
――最後に日本のユーザーに向けてのメッセージをお願いします
Ragnar氏 インタビューをご覧頂いた通り、アメコミなどから影響を受けている西洋的なお話かと思えますが、実際には世界的な問題を取り扱っていたり、世の中に対するメッセージが込められています。是非日本のユーザーさんも新しい違った視点を持って、ゲームを楽しんで頂けると嬉しいと思っています。
――ありがとうございました!
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