■選択が連続し、決断に重みが生まれる「アウルベア討伐」
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豊富な選択肢とその分岐が分かりやすい例のひとつは、「アウルベア」に関するイベントです。アウルベアは、序盤で戦うには結構な強敵ですが、そうと知らずに住処の洞窟へ迷い込んだ人もいることでしょう。
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かなり手こずりつつも無事倒すと、その身体から「折れた槍の先端」が見つかります。誰かと戦った後なのかと、想像が膨らむ戦利品です。
この討伐だけ済ませて先に進むのもひとつの結果ですが、「折れた槍の先端」の背景が分かるサブイベントがあるので、そちらから進めるのが個人的にお勧めです。
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そのサブイベントは、洞窟からほど近い森の中で始まります。1組の男女が見守る中、致命傷を負ったひとりの男性が横たわっているのが遠目からも分かるほど。かなり切羽詰まった状態のようです。
どうやらこの3人は兄弟で、その長男がアウルベアの攻撃を食らった模様。手を尽くそうとするも、残念ながらそのまま息絶えてしまいます。残った弟や妹に話を聞くと、この3人は船から逃げ出した者たち──つまり主人公たち──を探していると明かします。
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そこで「それは自分たちだ」と答えると、一方的に敵対されて戦闘開始。降りかかる火の粉は払うしかありませんが、人助けと思って話しかけたのに、その結果が殺し合いではやりきれません。
ここの会話を上手くかわし、長男を死に追いやったアウルベアの話を中心に進めると、仇を討ちに行く方向に話が進展します。
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意気揚々と先に向かったふたりを追いかけ……る前に長男の所持品を調べると、その中に「折れた槍の柄」を発見。長男の槍がアウルベアに刺さって折れ、先端がアウルベアの体に残ったものと思われます。
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直接語られない文脈に想いを馳せつつ洞窟に向かうと、入り口には弟と妹が待機していました。今回はパーティ+2人で挑めるので、戦いが少しだけ楽になりそうです。
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アウルベアとの戦いはやはり熾烈でしたが、ターゲットの分散と妹が回復魔法をかけてくれるおかげで、強敵ながら無事撃破。単なるアウルベア撃破ではなく、長男の仇をとるという物語の重みが加わった戦いとなりました。
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これで一段落……と思いきや、アウルベアの子供が、亡くなったばかりの母親に寄り添います。長男の仇とはいえ、子供が無性に鳴く姿を見ると、自分が選んだ選択の重さを実感させられます。
しかもここで、子どもを殺すかどうか、新たな選択が立ちはだかることに。この選択自体は、3人と関わる前にアウルベアを倒した場合でも同様に起こりますが、長男の死を踏まえた後だと意味合いもやや変わってきます。
見逃したところで、子どもなのでいずれ死んでしまう。ならば、今とどめを刺すのも情けかもしれない。しかし、長男と母親、それぞれひとつずつ命を失ったのに、さらに命を奪うのはやり過ぎではないか。だが、感傷的になって見逃して、この子供が大きくなって誰かを殺したら、その責任は取れるのか? とはいえ……。
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万人が納得する、誰もが喜ぶハッピーエンドはここにありません。だからこそ、プレイヤーの決断はどれも意味があり、等しく価値があるのでしょう。
背景を全く知らずにアウルベアを討伐するもよし。人助けと思って声をかけたら敵対され、弟と妹を返り討ちにするもよし。協力し、アウルベアとその子どもを倒すもよし。仇をとるが、子どもは見逃すのもよし。サブイベントひとつで、その結末はここまで変化します。
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『バルダーズ・ゲート3』の面白さは、正直語り尽くせないほどです。それこそ全てを語ろうと思ったら、時間がいくらあっても足りないでしょう。しかし、その魅力はなんとかして伝えたい。そこで今回は、「選択肢の豊かさ」に絞ってお届けしました。
本作が持つ「選択肢の豊かさ」は全編にわたっており、これ以上の説明は楽しみを奪うだけ。もし興味が沸いたのであれば、後は『バルダーズ・ゲート3』をプレイし、魅力を直接味わってください。そしてアウルベアの子どもを倒すか助けるのか、あなたがぜひ決断してください!