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ゲーム史上屈指の豊作だったという呼び声高い2023年。AAAや自分が気になっていたタイトルはなんとかプレイをしたけど、まだまだ面白そうなゲームを掘り切れていないと感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで「新年にあわせて心機一転」と題して、深く心に響いたアドベンチャーゲームのタイトルを5本紹介します。テーマは「生と死」。実生活では直接的に意識することは少ないかもしれませんが、徐々に老いていく家族など、決して避けて通ることはできないものです。ゲームのテーマとして据えられることも多く、「メメント・モリ(死を想え)」という言葉もあるように、生と死について見つめなおすことで今後の人間関係や人生観にもプラスに働くことが多いでしょう。
……とお堅い説明はここまで、要はこの記事では「プレイすることで一回死んで生き返るくらいに面白いタイトル」を紹介するということです。年末年始プレイするゲームに迷っている人はぜひ参考にしていただければと思います。
『ヒラヒラヒヒル』
『ヒラヒラヒヒル』はアニプレックスのノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」がSteamで11月17日にリリースしたビジュアルノベル。大正時代「風爛症」と呼ばれる「死んだ人間が蘇る」事例が古来より起こっている日本が舞台です。罹患した人間は肉体が腐敗するのと同時に、認識力が衰えていきその恐ろしげな外見から「ひひる」「クサレ」と呼ばれています。
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本作の特徴はダブル主人公として、風爛症専門の医師「千種正光」と風爛症に関わりのない学生「天間武雄」を起用したこと。多様な視点と豊富な患者のバリエーションを用いて社会における風爛症の扱われ方を浮き彫りにしています。そうして提起された物語は生きている以上避けることのできない、病気や障害への関わり方という答えの出ない問題を、作品を越えてプレイヤーにまでフィードバックして考えさせる力を持つ作品でした。
『ghostpia シーズンワン』
『ghostpia シーズンワン』は幽霊と呼ばれる人間が住む、雪が降り続く夜に閉ざされた町を舞台にしたビジュアルノベル。その町に馴染めない主人公・小夜子が友人であるアーニャとパシフィカ、そして突然現れたミステリアスな少女ヨルと交流を交わすガールミーツガールです。
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幽霊は死ぬことができない存在であり、その設定を活かした可愛らしい絵柄に反したスラップスティックかつバイオレンスで悪趣味な物語が展開します。それでいて極めて内省的なシナリオであり、死ぬことができないキャラクターだからこそ描ける生への考察や、死への渇望といった感情が作品全体に横たわっているようなタイトルです。そしてストーリーのみならず、グラフィックに音楽、演出やUIなどゲームの構成要素がハイクオリティであり、現代におけるビジュアルノベルの到達点のひとつだと言って過言ではありません。
『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』
『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』は、2020年にリリースされた『コーヒートーク』の続編タイトル。舞台は2023年のアメリカ・シアトルで、前作から作中でも3年の月日が経過しています。カフェ「コーヒートーク」のバリスタとして、店を訪れる客に応じてドリンクを提供していきますが、シリーズの特徴はエルフやサキュバスなどファンタジー世界の住人を登場させることで、間接的に現実における人種問題を反映していることです。
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2作目となる本作では「トモダチル」というSNSを使い、前作よりも鮮明に現代社会を切り取ることに成功していますが、それだけに終わりません。ずばり作品を通して描かれるテーマは「死」と「記憶」です。それは開発者にとってもファンにとっても大きな衝撃を与えたシリーズの主要開発者モハメド・ファーミ氏の逝去を、代表作である『コーヒートーク』の続編のテーマとして落とし込んだことによって生まれています。エンタメとして面白いものに仕上げ、同時に彼の存在を世界に残す碑として本作は機能しており、前作を越えた傑作だと言えるでしょう。
『Space for the Unbound 心に咲く花』
『Space for the Unbound 心に咲く花』は、1990年代のインドネシアを舞台としたアドベンチャーゲーム。主人公「アトマ」とヒロイン「ラヤ」の関係を軸にした、ボーイミーツガールが展開します。『ストリートファイター』や『逆転裁判』などのパロディシーンも登場し、ノスタルジックで優しく穏やかに流れる時間を楽しめますが、それだけで終わらないのが見どころ。
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詳しい内容は読者のみなさんに自分で確かめてほしいので書きませんが、本作は心に穴が空くような喪失を思い出やフィクションの力を借りて乗り越えていく作品です。辛いときや心が折れそうなときに、ゲームによって支えられた経験というのは、多かれ少なかれあると思います。その際のあたたかな気持ちを思い出させてくれるような作品です。
『シーズン ~未来への手紙~』
『シーズン ~未来への手紙~』は終末世界を舞台に自転車に乗り、旅を通して記録していくアドベンチャーゲーム。本作では作中時代の区分をタイトルと同じく「季節」と呼んでいるのが特徴で、今までさまざまな移り変わりがあった世界が、また新たな季節のはじまりへと向かっています。主人公エステルは自分たちが生きた証を残し、未来へと伝える使命を授かって旅をしているのです。
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世紀末というには穏やかで叙情的な雰囲気が漂う本作ですが、スケッチブックになにを記録するのかは自由。写真撮影に録音、拾ったポスターやステッカーなど思うままに記録ができます。そのためリニアなゲーム体験ではありますが、見た景色や聴いた音はプレイヤーそれぞれで異なり、ゲームを終える頃にはまさしく自分だけの旅だったと思えるでしょう。
以上今年発売した名作アドベンチャーゲーム5本を紹介させていただきました。どのゲームも10時間ほどでクリアができながらも、忘れることのできない強烈な体験を味わわせてくれるでしょう。年末年始にプレイするゲームが見つからないという人は、ぜひプレイしてみてください。