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『デイヴ・ザ・ダイバー』の最初のお題料理では、バンチョとよしえの因縁に関わるサメ料理が饗されます。ネムリブカの頭の丸焼きは、見た目こそインパクト絶大であるものの、脂がたっぷり乗っていてとても美味しいという説明がされています。
サメは海で採れる大きな食料であることから、重要な海の幸として古くから利用されてきました。日本でははんぺんやフカヒレ、肝油でもよく使いますが、祝い事で振る舞う「ハレの日」の食材で、特に正月で食べられる郷土料理に多いのです。実際に口にした人もいると思います(ちなみにキャビアが取れるチョウザメはサメの仲間ではありません)。
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サメは体内にアンモニアを多量に持つことから長い輸送でも腐らず、高価なヒレを取り除いたあとの肉を山間部へ運び、貴重な食材として扱われました。そのため海沿いだけでなく内陸部でも古くから親しまれています。農林水産省「うちの郷土料理」に7件が登録されており、実際にどんなものが食べられているかを紹介します。
ワニの刺身
まずはシンプルに刺身から。中国地方ではサメは古くから「鰐」と呼び、「因幡の白兎」のワニもサメであるとされています。名物料理になっている広島県三次市、庄原市は中国地方のほぼ真ん中に位置する山間部にあるので、漁港からは徒歩で数日はかかっていたでしょう。特に夏祭りの名物料理とされていて、高い気温に耐えて運ばれ、生のまま日持ちする数少ない魚として大切にされました。臭みを消すために生姜を添えるのが一般的です。ゲームでも頭の丸焼きに生姜を使っていましたね。
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モロの煮付
同じく内陸部の栃木県ではネズミザメをモロ、モウカザメ、アブラツノザメをサガンボと呼び、煮付けなどしっかり火を通して食べるのが一般的です。特にフライは地元の給食にも出され、鶏肉のような食感で人気だそうです。
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ふかの湯ざらし(湯引き)
西日本ではサメが捕れることからサメ食文化が多く残っています。漁港では魚が優先されるので、処理に手間がかかって売れにくいサメを地元で消費することが多かったのです。海沿いで主流の食べ方はさっと熱湯に通す湯引きです。これに酢味噌や醤油、薬味を付けます。
伊勢では湯引きを「さめなます」として味噌だれで食べますが、味を付けて干した「さめのたれ(さめだれ)」も人気です。伊勢神宮の神に捧げる神饌の中にもサメの干物が含まれていて、古来より食べられてきたことが窺えます。
サメの煮こごり
肉を取った後の皮にもコラーゲンがたくさん含まれていて、醤油や生姜を加えた煮汁ごと冷やして固めた煮こごりも作られています。上越の山間部の他、東京ではんぺんを作る店で売られていることが多く、戦前戦後頃には下町の駄菓子屋でも置いてあったそうです。上の世代に聞くと懐かしいという人もきっといるでしょう。
さめのすくめ
青森ではアブラツノザメ頭の部分を使った「さめのすくめ」が定番の正月料理です。アブラツノザメは冬が旬で、今の時期は脂が乗って美味しいのだとか。頭が並べておいてある市場の光景は風物詩になっています。頭をまるごと熱湯で茹で、削ぎ落とした身を酢味噌や大根おろしと和えて食べます。青森の縄文遺跡でもサメの骨が見つかっているほど、東北のサメ食は古い歴史があるのです。
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欧州の方ではサメはスペイン南部で多く消費されており、スペイン料理店では「カソン」という呼び方でマリネやソテーにして出しています。ゲーム中で言及した韓国でも刺身、串焼きなどがあり、日本と同様祝い事の料理にも使います。
近年は漁業資源の観点から、サメや深海魚の消費を振興する取り組みが進められています。サメの水揚げ量日本一の気仙沼では「サメまち気仙沼」と銘打って、学校給食にもフカヒレなどのサメ料理を提供。次の世代にも親しんでもらえるよう新しいサメ料理も開発しています。食材に秘められた可能性が開拓され、はんぺんやフカヒレと同様にサメの肉が一般的になる日は近いかもしれません。