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2023年は何年かに一度しか訪れないであろう「ビデオゲーム大豊作」の一年でした。RPG系ジャンルに限っても『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』や『Starfield』、『サイバーパンク2077:仮初めの自由』などなど、錚々たる大作、期待作が発売されました。
『バルダーズ・ゲート3(以下、BG3)』はそんな大豊作の2023年を締めくくった一作と言えるでしょう。2020年のアーリーアクセス開始から数えると3年、「ようやく」となる国内版の発売ですし、The Game Awardsでのゲーム・オブ・ザ・イヤー獲得など賞レースを総なめにしてきたわけなので、国内での発売前の期待は他の大作にひけをとらないほど高まっていたのではないでしょうか。
筆者は本作の英語版を有志による自動翻訳MODでやや遊んでいたのに加え、発売事前のプレビュー取材などでわりと密に関わってきたほうだと思います。まず最初に結論じみたことを書きますが、そんな筆者にとっても本作は傑作であり、高い期待に答える非常に優れた作品でした。本作がゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞したのは納得ですし、一周のプレイ時間が長大なのにもかかわらず何周もしたくなる、非常に稀有な面白さを持った作品だと思います。
しかし、反面、本作は誰にでも薦められるかというとそうではない、かなり人を選ぶ作品だとも感じました。人によっては「何が面白いのか」という部分に到達せずくじけてしまう場合もあるのではないでしょうか。本レビューは、「本作に興味を持っているCRPGジャンルに不慣れなプレイヤー」が途中でくじけないために、誤解なくその魅力と気をつけるべき点を理解できるように……という視点で書いています。
本作は非常に長いゲームということもあって、ストーリーについてのネタバレはしないように心がけます。ただし、ロマンス対象や後半の展開にやや触れる部分もあります。ストーリー的に大きなどんでん返しがあるようなものではないので、未プレイで読んでも大丈夫だと思いますが、ネタバレに抵抗がある方はご注意ください。また、筆者はほとんどTRPGのプレイ経験がないため「TRPGと比べてどうこう」ということはあまり考えず、あくまでビデオゲームとしてのレビューというつもりでこれを書いています。
ボリュームたっぷり『バルダーズ・ゲート3』
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本作の最大の特徴、それはなんといっても「自由度の高さとそれに見合ったバリエーションの豊富さ」です。このあたりは様々な記事で言及されているでしょうし、本作の情報を追っているみなさんからすれば耳にタコかなとも思うのですが、とはいえ、言及しないわけにはいかない要素です。
今は二周目のプレイの最中ですが、序盤から「こんなことも出来たんだ……」と驚かされることばかり。プレイが習熟することによってできることの幅が大きく増えるために、リアルタイムのアクション要素がほぼないRPGとは思えないほどのリプレイ性の高さを誇ります。
奇想天外な行動もひとまず試してみることができますし、「これも想定済みなの……?」というようなゲーム側からの反応をもらうこともしばしば。会話の選択肢も非常に多く、また(事前プレイ記事でも述べましたが)「動物との会話」を用いると会話できるようになるNPCが倍増したりもします。このように、自由度の高さ、それを補完するようなバリエーションの幅広さ、ボリュームの豊富さは目まいがするほどです。
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クエストの攻略方法や、ダンジョンへの侵入経路などは自由自在。ほとんどの場合、正攻法ではないルートがいくつか用意されているように思います。戦闘も工夫次第で様々な戦術をとることができ、特にアイテム投擲や設置を用いた戦術は無限大(ローカライズを担当したスパイク・チュンソフトの『不思議のダンジョンシリーズ』をやや彷彿とさせます)。筆者は最低難度でプレイしたこともあって、戦闘についてはまだ充分に習熟しているとは言い難いのですが、上手な人のプレイ動画などを観ると本当に感心させられます。
……と、ここまで書くと「夢のようなゲームなのでは?」と考える人も多いでしょう。もちろんある意味ではそうなのですが、やや注意が必要かとも思います。先程「プレイが習熟することによってできることの幅が大きく増える」と書きましたが、本作の自由度の高さというものはゲーム的な習熟とかなり関係しています。要は、初心者のうちは「自由度が高いって、どこが?」と感じる可能性があるのです。
というか筆者自身、序盤ではそう思ってました。本作では経験値を獲得する手段がかなり限られているため、とくに序盤部ではどのようなプレイスタイルであっても結局歩き回ってしらみつぶしにクエストをプレイし、しらみつぶしに敵と戦っていかないとレベルが足りなくなるのです。習熟していればレベル的に多少不利でも工夫で戦闘はなんとかなる、というわけです。
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レベルが足りず敵も多い序盤の戦闘は、本作の鬼門と言ってしまっていいでしょう。特に敵が多い場合はちゃんと考えて各個撃破しないと、すぐに大変なことになってしまいます。また、戦闘は一戦一戦がかなり長いため(本作のボリューム感にも寄与しているということもあるのですが)かなり好みの分かれるところでしょう。
休憩と大休憩がどこでも簡単にとれ、物資も簡単に手に入るバランスなので、一戦一戦で死力を尽くして戦えばなんとかなりはします。また、中盤以降は使える魔法やアイテムの種類が増えていくので戦闘はどんどん楽になっていきます。
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思うに、本作の自由度の高さは、筆者が今までオープンワールド的なRPGで体験してきた「自由度の高さ」とはかなり質が異なります。メインクエストに一切触れずにサイドだけやりこんで生活っぽく遊ぶというようなことはできませんし、逆にメインだけを進めようとしても経験値が足りなくなるため、習熟していないと難しくなります。よくある「最初からいろんな場所に行けて、いきなりラスボスにも挑める」というような自由度の高さではないのです。
むしろ行ける場所に関してはむしろ常に限定されています。ゲーム進行によって「戻れなくなる地域」もあるので、「あとでやろう」というふうにサイドクエストをとっておくことができませんし、取り返しのつかない選択も数多くあります。
本作を自由かつフルに楽しんで遊ぶためには、プレイヤーがかなり柔軟に対応していく必要があり、「何ができるのか」を細かく把握しておく必要もあります。本作では一つの物事に対して取れるアプローチがかなり多いため、それをすると何が起こるのかという、初歩的な因果関係を把握するだけで一苦労なのです。
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このように「できること、取れる行動」の幅が多すぎるため、本作のゲームプレイはかなり複雑になっています。筆者も一周目を遊んでいるときは「難易度を最低にしてもまだ難しい」と感じていました。一度の戦闘が長いのと、レベリングができないことも大きな理由ですが、最大の理由が「自分が何をできるのか、よくわかっていなかった」からなんだろうと思います。カスタムモードを利用すれば難易度を更に下げるようなオプションを選択することも可能なので、不安な方は試してみるのがいいんじゃないでしょうか。
いま二周目を始めてみて、「二周目のほうが一周目より遥かに面白い」ということに驚かされています。たいていのゲームは、遊べば遊ぶほどやることがなくなっていくものですが、本作は(少なくともあるところまでは)遊べば遊ぶほどやれることが増えているように感じる瞬間があり、それはすさまじいことです。
ストーリー/キャラクター/ロマンス
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本作はストーリーもなかなか凝っており、途中に大きな分岐もあり、非常に面白いです。筆者は一周目は普通に善玉っぽく遊びました。もちろん、本作ほどいろんな遊び方がある作品ですと「普通って何?」という感じではあるのですが、筆者が常識的だと思える行動を取り続けた、ということです。
イリシッドの幼生に寄生され、取り除かなければマインド・フレイヤーになってしまう……というタイムリミットのある動機づけから、バルダーズ・ゲートの街を救うという大きな展開になっていく様子は惹きつけられましたし、終わるまで楽しく遊べたと思います。中盤でちょっとしたツイストもありますが、基本的にはそれほど意外なことが起こらない、想像できる範囲のストーリーではあります。
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他のCRPGジャンルのゲームのように、本作にはアドベンチャーゲーム的な要素もあり、推理したり、考えたり、探して歩きまわったりなどすることで進行するクエストも多くあります。
中には難しい謎解きもあり、何の手がかりもなくあたりをうろつく羽目になったりして、歯ごたえも充分。というかもうちょっとなんか教えてくれ!と思わなくもないです。前述したようにほとんどのクエストがいくつかの「答え」を持っているため、何回か繰り返し遊んでも大丈夫な強度を持っています。
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アスタリオン、レイゼル、ゲイルなどの一癖も二癖もある仲間たち(オリジンキャラクターの場合、選択すればプレイヤーキャラクターにもなりえますが)も本作の大きな魅力です。彼らと親交を深めるとロマンスに発展する場合もあり、その内容は興味深く、面白いです。本作のロマンスは作り込まれており、RPGに要素としてついているロマンスとしてはかなりリッチだと感じました。えっ!?そんなキャラとロマンスできるの!?というような意外なキャラもいましたが、ロマンスできるキャラの総量はめちゃめちゃ多い、という訳ではないです。
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オリジンキャラクターの個別ストーリーはロマンス以外の部分も多くあり、つぶさにプレイしていくとかなりのボリュームになるでしょう。キャラクターには多面性があって興味深いですし、親しくなるとそれまでとは違う態度をとってくれたりもします。
特にエンディングでは、そういったプレイヤーとオリジンキャラクターの関係がさまざまな形で結実するので非常に感動的。ちょっとホロリとくるような展開もありました。
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悪役もなかなかキャラが立っていて面白いです。ストーリーでどのように関わってくるのか具体的なことはここでは伏せますが、「オーリン」はインパクトのある見た目に加え、行うこともえげつなく、また登場がいちいちびっくりさせるようなものなのでかなり印象に残りました。
ストーリーに関係しないNPCにもやけにキャラが立っている人が多く、終始飽きないでゲームを続けることができました。さまざまなキャラクターと交流し、会話テキストを読むことは本作のプレイを続ける大きな動機の一つとなっています。
『バルダーズ・ゲート3』の気になるポイント
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本作はロールプレイングゲームの元祖である「ダンジョンズ&ドラゴンズ」が元にあるもの。なので世界観はややとっつきづらく、海外のものっぽさを感じさせるものだとおもいます。筆者なりに本作の世界観を表現すると「グロい、キモい、エグい」という感じ。眼球から幼生を植え付けられる場面から始まるゲームですから、当然と言えば当然のことですが……。
起こる出来事も殺伐としていて、救いがない場合も多いため、世界観に人を選ぶ側面があるのは間違いないと思います。ただこれでも過去の『バルダーズ・ゲート』や本作開発元であるLarian Studiosの『Divinity』シリーズに比べればかなりポップになってはいます。
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本作の過去作に比べたポップさの理由は、会話シーンやムービーシーンの演出の良さからくるものでしょう。キャラクターの仕草や表情などが詳細に描かれ、生き生きと魅力的に感じられるため、外見が苦手なキャラであってもいつのまにか苦手じゃなくなっていたり、なんだったら好きになったりもするかもしれません。
前述したように「面白いのは確かだが、ややとっつきづらい」と感じられやすい形質をもった作品である本作を、ここまでの注目作に押し上げたのは、そういったポップさを底上げする優れたグラフィックの賜物ではないかと思います。
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また今回、プレイを通してほとんどの場面でコントローラー(パッド)を使用しましたが、非常に快適でした。もちろんできることが多い分やや煩雑だと感じる点もなくはないのですが、やればやるほどに「これしかない」という感覚になり、PC版であっても常時パッドを使用しています。
こういったゲームは操作が煩雑でつまづきやすいので、難しいと感じた人は、もしかしたらパッドを使用してみるとゲーム体験が良くなるかもしれません。単に操作しやすいというだけではなくパッドならリラックスした体勢で遊べるため、肩が疲れづらく、こういった大ボリュームのゲームを遊ぶのに適しているとも感じました。
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翻訳品質は、全体的に違和感なくプレイできるレベルです。ただ、大変な文章量がある作品のため、ところどころ気になる点もありました。ないものねだりかもしれませんが、画面に表示されている文章情報が非常に多い作品のため、音声ローカライズがあるともっと理解しやすくなるのになあ……と感じてしまいました。このような作品を日本向けにローカライズして出すこと自体が大変でしょうから、仕方のないことだとも思います。売れてくれ~!!!
本作は前評判に違わぬ、びっくりするような「凄いゲーム」です。打てば響くので、やればやるほど凄さがわかるタイプのゲームになっており、二周目を遊んでいる今も発見と驚きが尽きません。というか前述の通り、ゲームを開始してから今が一番面白いように感じています。
とはいえ、世界観やゲーム内容などは明らかに取っつきづらく特に序盤は困惑しやすい作品となっていることも事実。TPRGやCRPGジャンルに触れたことがないプレイヤーがいきなり遊ぶとかなり大変なのではないでしょうか。本作を本当に楽しむためには、プレイヤーの側からも歩み寄らねばなりません。
余談ですが『ディスコ エリジウム』などCRPGジャンルの作品の注目作のリリースが近年目立ち、非常に喜ばしいことです(スパイク・チュンソフトが熱心に取り組んでくれています)。本作の発売を期に、日本でもCRPGジャンルの人気が増え、ゆくゆくは音声もローカライズされるような規模になることを、筆者は切に願っています。
・自由度の高さとそれに伴いバリエーションの多彩さ
・興味を惹かれるストーリー
・魅力的なキャラクター
・会話シーンやムービーの演出のよさとグラフィックの美しさ
悪い点
・長大で厳しい序盤部の戦闘
・できることが多すぎるため、慣れないうちは大変
・経験値の入手方法が限られている
・やや人を選ぶ世界観