強靱な握力だ、ちょっとやそっとでは離せないし、あとも残るだろう……。筆者が本作をプレイし終えて得た感慨は、おおむねそのようなものになります。『人形の傷跡』で著名なゲーム制作集団「Child-Dream」による本作は、きわめてストーリードリブンなADVで心を掴んで離さない。
本稿は、先んじてニンテンドースイッチ版が2023年9月28日にリリースされ、今回Steam版が2024年1月15日にリリースされた『ANGEL WHISPER~あるゲーム作家が遺したサスペンスアドベンチャー』を取り上げるプレイレポとなっています。なお、オリジナル版が1999年にリリースされており、本作はそのリメイクとなります。
『ANGEL WHISPER』ってどんなゲーム?
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本作は、24年前に消失した父「由島博昭」が残したゲーム「ANGEL WHISPER」の謎を解いてほしい、といった依頼を娘「由島美瀬」に託されたプレイヤーが、実際に「ANGEL WHISPER」をプレイするといった導入を持っており、半ばメタ構造を取っています。以降ゲーム内で描かれることは、「ANGEL WHISPER」についてのことになります。
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舞台は1998年の東京。ノストラダムスの予言が大流行しており、博昭がゲームクリエイターとして“再起”するために入社した会社では、ノストラダムスの予言を扱ったものを作ることになります。「ANGEL WHISPER」自体は、半自伝的な作風のアドベンチャーゲームなのです。
『ANGEL WHISPER』の物語に迫る!
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本作では、次のシーケンスではどうなっちゃうんだろう!?という興奮がプレイを継続させます。一例を挙げると、ミッドポイントがマーダー・ミステリーで後半がSFという体裁を取っている部分です。事件が起きるごとに物語の謎を追うのがたまらなくおもしろく、つい止め時を失ってしまうシナリオが待っています。
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第一の殺人事件が起こるまではお仕事モノとして楽しめますが、殺人事件が起こってからは誰が犯人なのかを探るミステリーが展開されます。実際に文字入力欄に答えを打ち込む必要もあるため、ストーリー理解度が求められますが、それがスパイスになっているといえるでしょう。
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ネタバレできないのが心苦しいですが、博昭がかつて作ったゲームには問題があり、作劇上の大きなフックとなっています。
謎めいたメールを送ってくる「ヨハネ」なる人物。この見えざる人物を主軸に物語は展開していき、ついに対面するその刹那、大きな驚きとともに物語はSFの色彩を帯びていきます。
リメイクは果たして成功しているか?
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総体で見ると、クリアまでに掛かった6時間強という長さは完璧なように思えます。中だるみすることのない的確なゲーム内容の長さ、こうしたシナリオのコントロールやデザインには舌を巻きます。
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なぜ博昭は消えたのか。「ANGEL WHISPER」に込められた謎とは。そういったことに思いを馳せる後半では、見事に開発陣「Child-Dream」の狙いが昇華されているといえます。24年前にこのような作品があったとは、驚きを隠せません。総じて、リメイクは大成功しているといえるでしょう。
『ANGEL WHISPER』という24年ぶりのリメイクに馳せる思い
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本作の家庭用ゲーム機でのリメイクは長年構想していましたが、2023年は特に急速に変わる地球環境問題、世界の紛争、そしてChatGPTをはじめとしたAIの大流行といった背景があります。24年前のゲームシナリオに現在を予見している描写が数多くあり、人々が現在の人類が抱える問題に対して改めて考える機会になれればという思いもリメイクを行った理由です。
※リリース本文より
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公開されたリリースからは、『ANGEL WHISPER』に願いが込められていることがわかります。その願いとは「受け継がれていくもの、人」といったところでしょうか。事実、『ANGEL WHISPER』には父から娘へと受け継がれた作品として同名のゲームが登場することになりますし、また博昭の願いも似たものでしょう。
また「今作は当時の私が“恐怖の大王”の正体として仮説を立てたものが出現します」という開発者のメッセージから、巧妙に昇華された存在としての恐怖の大王があらわれ、プレイヤーを驚かせてもくれます。
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1999年のあの頃。あの当時はどこも恐怖の大王の話で持ちきりでした。終末論に半ば支配されていた当時ですが、結局1999年には何も起こりませんでした。しかし『ANGEL WHISPER』が現れたのです。恐怖の大王ではなく、天使のささやきとして。これから「ノストラダムスの予言」という言葉を見るたびに、本作のことを思い出すことでしょう。そのくらい強烈な作品でした。
『ANGEL WHISPER~あるゲーム作家が遺したサスペンスアドベンチャー』は、PC(Steam)/ニンテンドースイッチ向けに発売中です。