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『ユニコーンオーバーロード』のコルニア王国は一角獣を守護神として信仰し、「コルニア」という名前もコルヌ、角に由来するものです。ユニコーンは中世ヨーロッパでは人気のシンボルで、美術の題材や紋章の守護獣によく見られます。
角一本で描かれた馬のような生き物は、古代文明の頃から装飾のモチーフにありました。実際にいる一角の動物と言えばサイですが、それ以外にもエジプトの壁画のように真横から動物を描くと、2本の角を重ねて描くようになり、あたかも一角獣のように見えるのです。ただしこれらは私達が知るユニコーンとは直接関わりはありません。
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欧州で明確にユニコーンが現れるのは、古代ギリシャのクテシアス「ペルシャ誌」においてです。クテシアスはペルシアにいたときに聞いたインドに関する話を「ペルシャ誌」の中に書いていて、ここに現在一般的なイメージのルーツ、欧州最古の一角獣の記述が見つかります。一本の角を持った大きな白いロバと描写されていて、角には解毒の力があるというのもこの時点で書かれています。
クテシアス自身はインドに行っていないため、インドサイなどの話を人づてに知ったのでしょう。サイの角は漢方でも解毒作用がある「犀角」として珍重されており、これが西へ伝わる過程で馬やロバのイメージに置き換わっていったと考えられます。
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オリエントの奇妙な生き物ユニコーンがキリスト教文化の中に組み込まれたきっかけは、旧訳聖書をヘブライ語からギリシャ語に翻訳する際、現行の聖書では二本角の野牛としている「レエム」を間違って一角獣としたことでした。
中世において実在の歴史と見なされる旧約聖書に出てきた一角獣がなぜ見つからないのか、スラブの民話では「気性が荒くてノアの方舟に乗せてもらえなかったから」「ノアに従うのを嫌がってわざと乗らなかった」という話があります。今でこそ森の奥でおとなしそうなイメージになっていますが、元々のユニコーンはとても獰猛で、普通の人間の手に負えるものではありません。純潔の乙女を好む、という点でもよく考えれば単なる女好きとも言えますし、時には不節制の象徴にされることもあります。
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これがより神聖なイメージになったのは、聖母マリアとの関連付けです。マリアはいわゆる処女懐胎でイエスを授かったので、その処女性を示す象徴としてユニコーンがセットで描かれることがあります。さらに転じてユニコーンをキリストそのものを表すモチーフとし、神秘さと無垢の面を強調した聖獣の性格を与えられました。元々の獰猛さはライオンに移され、ユニコーンとライオンは対の存在として位置づけられます。
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ユニコーンの美術で有名なのはフランスのクリュニー中世美術館所蔵「貴婦人と一角獣」です。「機動戦士ガンダムUC」のユニコーンガンダムのモチーフとして見たことがある方もいるかもしれません。絵画のようにデザインされたこの織物には、聖母マリアと重ねられた貴婦人と、両脇に獅子と一角獣が描かれており、その製作者と発注者は未だにはっきりしていません。一角獣の絵画はラファエロなどもありますが、謎めいているところにユニコーンの神秘性が重なるのがポイントでしょう。
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メトロポリタン美術館にも同じような連作タペストリーがあり、過去には両者を同じ場所で展示する機会もあったとか。壁を装飾する巨大なタペストリーが並んでいた城、あるいは屋敷は、果たしてどんなものだったのでしょうか。
薬効があるとされるユニコーンの角はアリコーンとも呼ばれ、様々な偽物が世の中に出回ってきました。ゾウの牙やサイの角、中でも極北に住むイッカクの牙は想像に近いまっすぐな螺旋状で、日本にもユニコーンとして持ち込まれた記録が残っています。薬効を信じる人ならいくら金を積んでも欲しい代物、イッカクは乱獲で大きく数を減らし、現在は絶滅寸前まで数を減らしました。
角だけで無くユニコーンの化石を発見したという話も残っています。ドイツのマクデブルク自然科学博物館には、復元された「ユニコーン」の化石標本が展示してあります。1663年に発掘されたというのですが、その姿がこちら。
作ったのは科学者でありマクデブルク市長も務めたオットー・フォン・ゲーリケ。大気圧を示した「マクデブルクの半球」で有名な人物なのですが、ケナガサイとマンモスの骨を強引にくっつけてしまいました。どう見ても無理矢理過ぎて何を考えて作ったのかがさっぱり分かりません。
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何故かいらすとやさんにもありました(ちなみに追加日は2024/3/18)。
伝聞の誤りから生み出された非実在のユニコーンは今やファンタジーのアイコンとなり、また新しいキュートな性格を得て活躍しています。これからもさらなる進化が続いていくに違いありません。