
『ファイナルファンタジーVII リメイク』(以下、『FF7 リメイク』)プロジェクトの第二作として2月29日に発売された『ファイナルファンタジーVII リバース』(以下、『FF7 リバース』)。
シリーズ待望の続編である本作は、魔晄都市ミッドガルを飛び出して本格的に動き出したクラウドたちの物語や、まさしくAAA級タイトルに相応しい壮大なゲームボリュームがユーザーの話題を呼びました。

そんな『FF7 リバース』は基本的には前作『FF7 リメイク』を踏襲しつつ、素材を集めてアイテムを作成する「アイテムクラフト」が今作から導入されています。アイテムクラフトはメニュー画面を開くと最上段に置かれるほど目立つ存在で、ここから「FF」シリーズおなじみの「ポーション」や「やまびこえんまく」といったアイテムを作成できます。

プレイ中頻繁に使うことになるアイテムクラフトですが、筆者が気になったのはその素材。フィールドで手に入る「マジョラム」「セージ」「月桂樹」といったハーブ類は、どれも「FF」とは異なる世界の私たちにとっても耳なじみのあるものばかり。そこで筆者は思いました。
「FFのポーション、もしかして自分の手で作れるのでは……?」
クラフトに必要な素材と分量はゲーム画面を見れば明らか。あとはクラウドたちと同様、素材を集めさえすればきっとポーションができあがるはず。いても立ってもいられなくなった筆者はPS5のコントローラーを置き、外の世界に飛び出しました。

ここがライフスポット……ハーブと触れあえる場所に到着

西武池袋線に揺られ、筆者が辿り着いたのは「生活の木 メディカルハーブガーデン 薬香草園」。埼玉県飯能市にあるハーブ園です。

こちらでは四季を通じ、入場無料でハーブを含めて約200種の草木を見ることができるそうです。もちろん『FF7 リバース』に登場するハーブも植えられています。
今回筆者はハーブ図鑑を持参しましたが、文字で知識を得るだけではなく、『FF7 リバース』に登場するハーブたちがいったいどのような植生をしているのか、実際に見て、触れて、感じてみようと思い立ちこのハーブ園を訪れました。

ハーブの植えられたエリア「メディカルハーブガーデン」。数々の植物が筆者の前に現れます。今回探すのは「セージ」「月桂樹」「マジョラム」「オレガノ」の4種です。

セージ

ハーブガーデンに入ってすぐ発見できたセージは、地中海北岸原産のシソ科サルビア属の多年草。
ひとくちに「セージ」といっても多くの種があるらしく、この写真にあるコモンセージが料理や薬用として用いられる代表的なものとのこと。園内ではこのコモンセージのほか、チェリーセージという種類のものもみることができました。


顔を近づけて確かめてみると、葉は白みがかって肉厚になっていることがわかります。また他の植物と比べても香りが強く、清々しい気持ちになる芳香がします。セージはソーセージといった詰め物料理を作る際、豚肉などの脂っこいものや臭みを抑えるために混ぜ合わせられるそうです。なるほどたしかにこれほどの香りなら納得ですね。

古来から広く薬効が知られ、ポピュラーなハーブとして扱われてきたセージは、脳や筋肉への効能のほか、強壮、解熱、消化促進、浄血作用があると伝えられてきました。『FF7 リバース』ではポーションの主な材料となっていますが、クラウドたちもその万能ともいえる効果の恩恵を受けていたのかもしれません。
月桂樹

月桂樹はクスノキ科ゲッケイジュ属の常緑灌木で地中海沿岸が原産とされています。「ローレル」「ローリエ」「ベイ」(料理で用いられる「ベイリーフ」はベイの葉のこと)といった名前でもおなじみですね。『FF7 リバース』では毒消しや、やまびこえんまくの素材となっています。


今回探していたハーブのなかでは唯一“草”ではなく“樹木”です。ひときわ大きいため、すぐに見つけることができました。月桂樹というと、古代ギリシアやローマの月桂冠のイメージがありますが、古来から樹木そのものが魔除けとしての効力を持つとされたり、葉のみならず根や実が生薬として用いられたりしてきたようです。

月桂樹の葉は乾燥させたものが料理用として一般に流通していますが、生の葉も料理に使用できるとのことで、こちらは苦みがあるそうです。顔を月桂樹の葉に近づけてみましたが、生の状態では香りをほとんど感じませんでした。乾燥させることによって独特の甘い香りが付くようです。シチューなどの風味付けのほか、防腐のためにピクルスといった漬け物にも用いられることがあるのだとか。

ガーデン内でハーブを探しきれなかったため、続いて筆者は苗を販売している「メディカルハーブハウス」を訪れました。
マジョラム

ポット苗も販売されていたのですが、スタッフの方に伺うと「こちらにもたくさん育ってますよ~」とハウスの外で素焼き鉢に寄せ植えされたマジョラムのもとに案内してもらえました。
マジョラムはシソ科ハナハッカ属の多年草。原産は地中海沿岸です。「マージョラム」という表記のほか、「マヨラナ」という和名があります。先ほどのセージと同様にマジョラムにも多数の種があり、他の種と区別して「スイートマジョラム」「ノッテッドマジョラム」という風に呼ばれることもあります。

マジョラムの生育には、日当たりがよく乾燥した水はけの良い場所が適しているとのこと。屋外で栽培されているからなのでしょうか、鉢いっぱいに緑を広げています。また、今回調査したハーブの中では唯一の半耐寒性植物のため、寒い日には屋内で管理するのがおすすめだそうです。

薬効としては不安や不眠の解消といったストレス緩和、強壮効果を高める入浴剤として使われてきた歴史があるようです。料理ではサラダとして食されるほか、肉料理によく使われることで「肉のハーブ」として知られていて、甘く繊細な風味を持っています。
近くで見てみると産毛が目立ちます。生の状態ではあまり香りを感じませんでしたが、後ほど自宅に持ち帰った苗から葉をちぎってみると、すっきりとして強すぎない、爽やかで甘い香りをしていることがわかりました。
オレガノ

ポット苗が並ぶこのハウスではオレガノのほか、これまで紹介したハーブもすべて販売されています。
オレガノはシソ科ハナハッカ属の多年草。地中海沿岸が原産です。和名は属名と同じく「ハナハッカ」。本種は「ワイルドマジョラム」とも呼ばれるようにマジョラムとは近縁で、区分上マジョラムの中に含めるか否かで議論が分かれるようです。『FF7 リバース』ではメガポーションの素材となっています。

オレガノというとバジルと並んでイタリア料理に使われるイメージがありますが、実際イタリア料理では重要な位置を占めるハーブで、肉やトマトをはじめ様々な食材に合わせられるそうです。また、古代ギリシアでは内患・外患両面で用いられ、悪寒の抑制や消化機能を高める効用があると伝えられてきました。

一見するとマジョラムと見分けがつかないオレガノですが、両種の違いはその香り。繊細で甘い香りのマジョラムに対して、オレガノはより強く刺激的な芳香を放つと言われています。マジョラムと同様、自宅で葉をちぎって確かめてみると、マジョラムよりもスパイシーで燻製を思わせる香りがあり、歴然とした違いを感じました。
旅の途中で――休憩所でひとやすみ

ハーブたちと触れあうことで知識を深め、クラフト用の苗も購入した筆者。いったん「薬香草園」にあるベーカリー併設の休憩所で、ひとやすみすることに。


約3時間ほどの滞在でハーブと打ち解けられたような気がした筆者。さてここからどうやってポーションをクラフトしていこうか……と、思いを巡らせつつ休憩所の花々をぼんやり眺めます。

「勢いづいて来てしまったけれど、はたしてポーションなんて作れるのだろうか?」――休憩所でふと冷静になってしまった筆者。そんな漠然とした筆者の不安を、温かいハーブティーが拭い去ってくれました。
想いを胸に――この手にハーブを携えて

帰り際、園内をもう一度回っていくことにしました。
「薬香草園」の周辺は閑静な住宅街で、施設の手前には小学校があります。基本的には静かな場所なので、取材中にはキジバトの鳴き声や小鳥たちのさえずりをよく耳にします。一方で昼下がりになると下校中の小学生たちの声が元気に響き渡ってきます。

ハーブガーデンの周囲は生け垣に囲まれていますが、営業時間中は各所にある柵が開いており、園の外を取り囲む歩道からも自由に出入りできるような半開放状態となっています。傾斜のある土地に面しているため、小さな庭園が段々畑のようになった作りとなっています。





筆者が今回『FF7 リバース』をきっかけに訪れたからかもしれませんが、園内を散策していると、まるでエアリスの家の周辺にいるかのような気分になってきます。ミッドガルという街の中において、彼女の家は周りは深い緑に囲まれ、段差のついた地形に草花が生い茂っていました。筆者の脳の中のそうした記憶や光景が、ハーブ園を歩くにつれて混じり合っていきます。

こちらの「薬香草園」は開園28年を迎えた今年、2024年9月29日に惜しくも閉園となってしまうそうですが、今後も感謝の気持ちを込めたイベントやワークショップが多数用意されているとのこと。読者の皆さんもゲームに登場するハーブや植物で気になることがあったら、休日の間にこうした場所に足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

さて、次回はいよいよハーブを用いてポーションといったアイテムを作成していきます。はたしてポーションは本当に作ることができるのか?こちらは近日公開となりますのでお楽しみにお待ちください!

取材協力:生活の木 メディカルハーブガーデン 薬香草園(https://www.treeoflife.co.jp/garden/)
※UPDATE(4/30):記事タイトルの誤りを修正しました(誤:Matelial→正:Material)。コメント欄でのご指摘大変ありがとうございます。