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2023年6月に発売したカプコンの人気対戦格闘ゲーム最新作『ストリートファイター6』(以下、スト6)は、強さをテーマに様々な相棒のボシュを追いかける没入型ストーリーモードのワールドツアーと、プレイヤー同士の交流を据えたバトルハブ、そしてランクマッチを含めた対戦全般のバトルグラウンドを含めた3モードで構成されています。
そのなかでも「ワールドツアー」は、キャラクターのアバターを作成し装備を整え、レベルが設定されていることからある意味「ストリートファイターRPG」とも言える内容となっています。このワールドツアーモードは、プレイヤーが新人ファイターとしてシリーズに登場する様々なキャラクターから試合に望むメンタルの保ち方や戦い方などの助言を受けるのですが、話を聞いていると「前にどこかで似た経験をしたような…」と既視感があったのです。
その記憶をたどると、それは1999年にセガより発売された『シェンムー』シリーズでした。筆者が初代をプレイしたのは2019年の中頃でしたが、これまでのオープンワールドゲームを振り返ってみても『シェンムー』に似たゲームはあまり存在していないように思えず、それを考慮すると『スト6』が本当の意味で『シェンムー』のライバルと思えたのです。
本稿は、『シェンムー』がこれまでオープンワールドの始祖として扱われていながらも、その本質は当初の企画通り「格ゲーRPG」という軸は変わらなかったのではないか?ということを語ります。
『シェンムー』と似たテイストを感じた『スト6』ワールドツアー
『ストリートファイター6』のワールドツアーは、プレイヤーが作成したアバターを用いてワールドツアー主人公(以下、WT主人公)を操作し、バックラーズブートキャンプで訓練を受けるボシュと共にメトロシティなどを駆け抜けて「強さ」を探求するというものです。
ここでプレイヤーは、街で起きたトラブルの解決、街に潜むマッドギアを筆頭とした荒くれ者達との闘い、大会に出場して勝利を得ること、そして『スト6』登場キャラクター達を師匠に格闘家としてのメンタル面での心構えや修行の仕方などを学びます。
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ワールドツアーが特徴としているのはマップ上に応じた2Dバトルへの移行や、1対多でのバトル、さらに師匠を召喚し2対多との闘いも出来る事などです。他にも、師匠との交友レベルを上げれば新しい技の伝授だけでなく、身の上話もしてくれます。
ワールドツアーには、リアルタイムな時間経過が存在しないものの一般的なオープンワールドRPG的なエッセンスが入っています。街を縦横無尽に歩き回り、クエストを受けて解決し、時には荒くれ者だけでなく時には通行人にもバトルを仕掛ける/仕掛けられるという具合です。
この中で『シェンムー』と似たテイストを感じたのは、格闘家として街を駆け抜けて様々なトラブルや調査を進める、バトルがその場で展開される、1対多の闘いが起こる、そして師匠からのアドバイスや新たな技を伝授されるといった点でした。
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師匠からの助言は、「強さ」というテーマにおいて当たり前の定番とも言える話が多いのですが、実際の対戦に絡んでくると途端に活きてくるために、よく練られたセリフであると感じます。
『シェンムー』においては師匠との会話が重要で、主人公の芭月涼を通じて感情にまかせて行動する事の危うさや、武術家としての心の持ちようを語るため、ワールドツアーの師匠達が語る内容に繋がりますし、それに関して新しい話を聞けたことがとても嬉しく思ったのです。
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加えて、フォークリフトの運転こそないものの街中に様々なアルバイトが存在し、それがコマンドを入力してピザ作りや、トラックを破壊して上・中・下段の攻撃を知ること、ボールのパリィなどゲームプレイ上達への導線となっています。
また、街にアーケードゲーム筐体が設置されおり、そこで『ファイナルファイト』や『ソンソン』などのゲームが遊べる点も含めて、主題から外れながらも己を高めていくという『シェンムー』で体験した奇妙な感覚が『スト6』ワールドツアーにもあったのです。
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ここまで筆者が感じた様々な共通点を挙げてきましたが、これは良い悪いの話でなく、『スト6』開発側が『シェンムー』の存在をあまり意識していないと発言していたにもかかわらず、ここまで似た感触が出てきてしまうという驚きの話です。
むしろ、『シェンムー』は「オープンワールドの始祖」とされながらも、『シェンムー』と似た体験をもたらすゲームが本質的に存在せず、24年間『スト6』が登場するまでずっと孤独であり孤高の存在であったことにも気付かざるを得ませんでした。
「格ゲーRPG」としての『シェンムー』
ここで『シェンムー』シリーズのシステムやストーリーをおさらいしましょう。『シェンムー』は1986年の横須賀において、中国からやってきた謎多き人物である藍帝によって主人公の芭月涼の父が殺されてしまい、父の死の真相を知るために藍帝の後を追い、香港や中国内陸の白鹿村にまで向かうというものです。
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『シェンムー』でこれまで注目されてきたシステムとして、あらゆる物体に視線を合わせてインタラクトできるほか、QTEの搭載、そして大小様々なエピソードを交えながら進む比較的縛りが緩めな物語進行です。特にストーリーの進め方については、調査を進めずに1日をゲームセンターだけで過ごしたり、誰かを付け回ったりするなど本筋から離れる楽しみ方ができました。これらは『シェンムー』の根幹を成す独特のシステムです。
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しかし、『シェンムー』の肝はこれだけではなく、通常の行動シーンからイベントを経てバトルへと繋げる「フリーバトル」要素も大きく占めています。この「フリーバトル」は『バーチャファイター』から導入された3D格闘ゲーム要素(前後左右の空間を使って闘う)をそのままに、1対1だけでなく1対多の闘いを展開できました(『シェンムー』は元々「バーチャRPG」という企画からスタートしたものだった)。
『バーチャファイター』をプレイしてから『シェンムー』をプレイすると、パンチ・キック・ガードのシステムや技の出し方も含め多くの共通点があり、ある程度互換性があることに気付かされます。『バーチャファイター5』の基本ルールを読んでから『シェンムー』での闘いに挑んでも問題無いぐらいなのです。
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特に1作目の『シェンムー 第一章横須賀編』の終盤に繰り広げられる70人バトルはそのシステムを大々的に取り入れたシーンです。多数の人間が入り乱れドラム缶などが投げられる状況になっても、格闘ゲームとしての打撃・投げ・防御の3すくみが損なわれることなく、むしろ様々な状況下でも柔軟に適応する3D格闘ゲームの可能性を見せつけるほどでした。
また、1対多の闘いだけでなく初代『シェンムー』と『シェンムーII』において初代はチャイが、『II』では斗牛が、それぞれ1vs1となる格ゲーのボス戦として物語を締めくくります。
他にも『シェンムー』が「格ゲーRPG」として成立しているのは、道中で出会う多くの師匠から技を伝授される点や(書物からでも習得できる)、トレーニングモード的な駐車場や道場などでの組手や練習にあるでしょう。
しかし1作目では、フリーバトルが何度か発生するもののあっさりと終わってしまいますが、『シェンムーII』ではバトルが増加し格ゲーRPGとしてのバランスが取られています。
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『シェンムー』はバトルシステムが『バーチャファイター』とほぼ共通していることを意識すると、フリーバトルを遊べば遊ぶほど『バーチャ』が上手くなる(理解する)という図式は、まさに『スト6』内のワールドツアーとファイティンググラウンドの関係そのままであると思えます。
初代『シェンムー』では格ゲーRPG要素のアピールが控えめでしたが、ドリームキャスト版『シェンムーII』の限定版には、開発時の映像資料を収録した『バーチャファイターヒストリー/VF4』とネットワークサービス『バーチャファイター4パスポート VF.NET』が付属するなど繋がりを示唆するコンテンツが付属していました。
これを考慮すると、『シェンムーII』で『バーチャ』のバトルを理解してから『バーチャ4』を遊ぶ…という流れを期待していたように思えますが、結局DC本体の関係か『バーチャ4』はDCで発売されずにPS2でリリースされてしまうため、誘導も上手く行われていないのが残念に思えてしまいます。
また『シェンムーII』がリリースされた2001年は、同時期にカードシステムに対応したアーケード版『バーチャ4』がロケテストを経て稼働しており、プレイヤー自身の強さの指針となる戦績データを保存するという、対戦ゲームの新しい時代が到来した瞬間でもありました。
ADV寄りな初代『シェンムー』と格ゲーRPG的な『シェンムーII』
ここまで『スト6』と『シェンムー』を並べて語ったことで、『シェンムー』シリーズの特徴がより理解できたように思えます。今回『スト6』ワールドツアーで既視感を感じた後に、改めて初代『シェンムー』を触れ直してみたのですが、様々な人に話を聞いてストーリーが進むフリークエストと格闘ゲームとして進んでいくフリーバトルだけでなく、脇道に逸れて遊べる要素が多い点から、格ゲーRPGである意味が薄く感じてしまうのも事実です。
筆者自身もそうでしたが、初代『シェンムー』はストーリーパートの比率が高く、フリーバトル要素があまり差し込まれていないために、武術家の話がそれなりに多くあるものの格ゲーRPGというより「オープンワールド寄りの縛りが緩い、独特な体験ができる唯一無二のゲーム」と思えてしまいますし、実際これまでもそう語られることが多いタイトルでした。
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一方で『シェンムーII』になると基本は変わらずフリークエストの面白さも健在ですが、バトルや武術家の話が増え、武術家として人と触れあいながら心と技、そして体の磨きを高める格ゲーRPG的な内容に沿うような形となったように思えます。特に主人公の芭月涼へ語られた内容の多くは、武術家同士における技の交換や「4つの武徳」など、どれも格闘家の闘いや心構えについての話でした。
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格ゲーを本格的にプレイする前なら、初代と『シェンムーII』で語られる一つ一つの事柄に意識をしていなかったのですが、『スト6』ランクマで数え切れない勝敗やフレンドなどプレイヤー同士で技術を教え合う経験をすると、山岸さんから教えて貰う武術家同士の交流についてや、紅秀瑛さんが語る明鏡止水などを思い出してしまいます。
それらの点から初代『シェンムー』は日常生活における武術とその武術家の旅立ちを、『シェンムーII』は武術家の鍛錬という旅をそれぞれ「格闘ゲームのRPG」という形で描いているように思えるのです。
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発売24年目に初めてライバルが出現し、格ゲーRPGに回帰できた『シェンムー』
『シェンムー』にとって『ストリートファイター6』のワールドツアーモードは、1999年の『シェンムー』発売から24年後に初めて登場した本当の意味でのライバルであると言えます。筆者としてはですが、まさか『ストリートファイター6』によって、『シェンムー』の見方が変わるほどとは思いもよりませんでした。
90年代の格ゲーブームは、プレイヤー同士の闘いを中心に2D/3Dとそれぞれ発展していきました。チュートリアルやアーケードモード以上の物語に格闘家(格ゲーマー)として多くの事柄や意思を伝え、1人でもしっかりと遊べる(闘える)ようになるためにRPGとADVを合体させて誕生したのが、1999年と2001年の『シェンムーI・II』という到達点なのかもしれません。
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また2023年に発売した『ストリートファイター6』も同様に、様々な困難を乗り越えて次世代となる『シェンムー』的なワールドツアーを誕生させるまでシリーズが進歩したとも言えると思います。
『シェンムー』を楽しんだプレイヤーには『スト6』ワールドツアーが楽しめると思えますし(勿論ランクマも)、『スト6』を楽しんだプレイヤーも新しい格ゲーを遊ぶつもりで『シェンムー』も楽しめると思える体験でした。